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フィガロの結婚

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43部分:第四幕その七


第四幕その七

「このままでは私の楽しみがなくなってしまうわ」
「困ったわ。本当にあの人が来たわ」
 夫人も夫人で困っている。
「このままでは策略どころではないわ」
「全く。何でこんなところに」
 スザンナにとっても彼は想定の範囲外であった。
「おかげで話が台無しになるわ」
「とんでもない小僧だ」
 フィガロも苦々しく思っているのだった。
「伯爵様だけではないのだな、敵は」
「何処か遊びに行かない?ねえ」
 相変わらず夫人だとは気付いていない。
「何処かに」
「こらっ」
 伯爵はここでわざと声をあげた。
「そこにいるのは誰だっ」
「わしか?」
「私!?」
 フィガロと夫人がその言葉にどきりとなる。
「見つかったか?」
「見つかったらもうそれで終わりだわ」
 二人は肝を冷やす。しかし二人にとってそれは杞憂だった。
「そこにいる小僧っ、止まれっ」
 ケルビーノに対する声だった。
「止まれと言っておる」
「まずいっ」
「どうなるのかしら」
 夫人は伯爵の声にさらに不安になる。
「これから。困ったわ」
「さて、あのでしゃばり」
 フィガロは今の様子をかなり冷静に見だしていた。
「どう懲らしめられるかな?」
「全くあの子ったら」
 スザンナは腰に手を当てて頬を膨らませていた。
「いつもいつも勝手に動き回って話をややこしくするんだから」
「止まらなければ斬るぞ」
「斬る!?」
「そう、斬るぞ」
 わざと腰の剣に手をかける真似をする。しかし実は伯爵は今剣なぞ持ってはいない。あくまで脅しであったのだ。実は彼は手打ちやそういったことはしないのだ。
「止まらなければな」
「ご、御免なさい」
 斬ると言われて慌てて逃げ出すケルビーノだった。
「もうしません、許して下さい」
「待て、不届き者」
 待てとは言うが追いかけはしない。
「許さんぞ」
「御免なさい御免なさい」 
 慌てて逃げ出して姿を消すケルビーノだった。伯爵は彼を軽く脅しただけでその目的を達してしまったのであった。この辺りは見事であった。
「さて、消えたな」
「相変わらず逃げ足の速いこと」
 フィガロとスザンナはそれぞれ言った。
「とにかくこれで邪魔者は消えた」
「何よりだわ」
「さて」
 伯爵は彼の姿が消えてからスザンナの格好をしている夫人に優しい声をかけた。当然ながら彼女が自分の妻であることには全く気付いてはいない。
「もっと近くに」
「伯爵様」
 夫人もここは芝居をすることにしたのだった。
「貴方様がお望みなら私は」
「何という女だ」
 フィガロは夫人をスザンナと完全に思い込んで立腹していた。
「こうなってはもう許してはおけん」
「さあ」
 伯爵はその間にもスザンナの姿の夫人に優しい声をかける。
「その手を」
「はい」
 スザンナの声色を使ってその手をそっと差し出した。
 
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