フィガロの結婚
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39部分:第四幕その三
第四幕その三
庭の茂みではまだバルバリーナがうろうろとしていた。スザンナかケルビーノに貰ったのかお菓子と果物を入れたバスケットを持っている。そのうえで夜の中を見回っている。
「左のあずまや。ここね」
小屋の一つを見つけて呟く。
「若しあの人が来なかったらどうしようかしら。いえ」
言った側から考えを変える。
「伯爵様はケルビーノは嫌っておられるけれど私はお気に入りだから。とりあえず言われたようにしましょう」
そんなことを言いながら見回っているとそこに誰かが来た。バルバリーナはそれを見て急いでそのあずまやに隠れる。見るとそれはフィガロだった。後にはどんどんついて来ている。
「それでフィガロ」
「ああ」
フィガロの横にはバルトロがいる。バジーリオやアントーニオ、クルツィオもいる。彼等はぞろぞろとフィガロの後ろについてきているのだ。
「ここに来たのはいいが」
「うん」
「御前の今の顔は随分と酷いな」
「そうかい?」
「何かを必死に警戒している顔で」
こう息子に言うのだった。
「きょろきょろして。どうしたんだ?」
「どうしたっていうのかい?」
「そうだ。なあ」
「はい。全くです」
バジーリオも言うのだった。
「今のフィガロはおかしいです」
「全くだ」
「その通りだ」
アントーニオとクルツィオもバジーリオの意見に賛成して頷いてみせてきた。
「さっきの式の時の顔は何処に行ったのか」
「まるで別人だ」
「今すぐにでもここで見られるよ」
フィガロはそんないぶかしむ一同に対して話した。
「そう、すぐにね」
「すぐに?」
「何がだ?」
「わしの花嫁と本当の御亭主を」
実に嫌味たっぷりな言葉だった。
「すぐにね。見られるよ」
「すぐにか」
「それを皆で御祝いしようとね」
「そこから先は言わなくていいぞ」
バジーリオが右手でフィガロを制止する動作を見せながら告げた。
「そこからはな」
「だからここにいて欲しいんだ」
バジーリオに止められても言わずにはいられなかった。
「是非ね。じゃあ様子を見て来るから」
「そうか」
「すぐ戻るよ」
父に対して述べた言葉だ。
「口笛を吹いたら皆一斉にね。そういうことで」
こう言い残して一旦場から消えた。皆それぞれ散開するがその時バルトロは眉を顰めさせてバジーリオに対して問うのだった。
「どう思う?」
「悪魔に心を乗っ取られていますな」
バジーリオの言葉は見極めてはいるがそれだけに容赦がない。
「あれは」
「ううむ、予想はついていたが困っていることだ」
「スザンナは伯爵様のお気に入りですから」
バジーリオはあえて言った。
「ですから。やはり」
「そうだな。こういうふうになってしまうか」
「世の中こうしたことはあるもので」
達観を見せるバジーリオだった。
「まあ結婚すれば女は恋愛できないかというと」
「できると」
「相手は誰かわかりません」
ぼかしもしないのだった。
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