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星の輝き

作者:霊亀
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第14局

 扇子はその後も現れ続けた。
間違いなく、碁盤の上で次の手を指し示していた。
―これっていったい何なの?扇子のお化け?扇子が碁を打つの?
 奈瀬の疑問は深まるばかりだった。
―ヒカル君は間違いなく、扇子が示す場所に石を打っている。ヒカル君には扇子が見えている…。違和感はこのせい?ヒカル君は自分で打っていない?前はこんなの見えなかったのに…。
 
 奈瀬が気がついたときには、盤上の差は大きく広がっていた。
「ありません。」
 奈瀬は投了した。


 投了の後、じっと考え込む奈瀬。
どうも途中から、碁に集中できていなかったようにも見えた。
「あの、奈瀬さん、大丈夫?なんか、集中できなかったみたいだけど…。」
 ヒカルの言葉に、奈瀬はあわてて手を振る。
「あ、ごめん、いや、その、そうじゃなくてね…。」
 ヒカルとあかりは目を合わせて、お互いに首をかしげた。
どうも様子がおかしい。

「あの、変なこと聞いていいかな?」
「変なこと?」
「うん…、あのね。今打ってくれたの、…ヒカル君なの?」
 奈瀬のおずおずとした問いかけに、目を見開く三人。

「え!?いったいどういう意味!?」
 奈瀬は目をぎゅっとつぶって小さくうなずいた。
そして目を開き、ヒカルの目をまっすぐ見ると、はっきりとした口調で聞いた。
「扇子が見えたの。扇子が指し示した場所に、ヒカル君が石を打っていたの。ヒカル君にも見えてたんだよね?」
 その言葉は、ヒカル、あかり、佐為の三人に大きな衝撃をもたらした。
「…佐為が見えるの?」
―ヒカル!?
 思わず口をついてしまったヒカルを、佐為があわてて止める。
しかし、奈瀬は聞き逃さなかった。
「さい?それはあの扇子のこと?」



 結局、ヒカルは話すことに決めた。

 ヒカルが、なぜか以前の記憶があることに気がついたこと。
以前の自分と佐為のこと。
あかりと一緒にじいちゃん家の蔵に行ったら、今回も佐為と出会えたこと。
そして、今回はなぜかあかりも佐為が見えていること。
一緒にいるうちにあかりも囲碁を覚えたので、あかりがヒカルの弟子となったこと。

 そして、今回は佐為に消えてほしくないと思っていること。

 全て無理やりごまかすという方法も一瞬考えたが、ヒカルはやめた。
佐為は、打つ必要がある気がするといった。
そうしたら、奈瀬には佐為の扇子が見えた。
 
 ならば、それには何か意味があるのではないかと思ったのだ。

 
 奈瀬は腕を組んで考え込んでしまった。
予想以上にとんでもない話だった。
 扇子のお化けだけでも十分に信じられない出来事なのに、さらにとんでもない事実が隠れていた。
―扇子のお化けは本因坊秀策についていたお化けで、ヒカル君には前世の記憶がある!?いったいなんなのそれ!?でも、ヒカル君もあかりちゃんも本気だ。とても嘘や冗談を言っているようには見えない。…それに、それがホントなら、ヒカル君のありえない強さも納得できる…。

「…ヒカル君は前世でプロ棋士だった記憶があって、佐為さんは秀策についてたお化けかぁ…。碁打ちじゃなきゃ到底信じられない話よね…。」
「オレの話、信じる?」
「不思議と納得できちゃうのよね。不思議は不思議なんだけどさ。前に打ってくれたのがヒカル君。今日が佐為さん。二人とも明らかにプロレベルの強さだった。それも並じゃないレベルの。子供が一人で覚えたってより、前世の記憶があって、しかも秀策並みの人が教えてたってほうが納得できる。…しかも、扇子も見えちゃったしね。」
「それでさ、佐為のことは秘密にしてほしいんだ。」
「んーまー話したところで誰が信じるとも思えないんだけど…。むしろ怪しい人に思われる?む、でも秘密、そうか、秘密か…。」
 
 そういって、いたずらっぽくニンマリと笑う奈瀬。
「な、なんだよ。」
「ね、秘密にするからさぁ、その代わり私とも碁を打ってくれないかなぁ。ヒカル君でも、佐為さんでもいいからさぁ。」
「えっ、それは…。」

「ふざけないでっ!!」
 あかりが立ち上がって、奈瀬を睨みつけた。
「あ、あかり、どうしたんだよ。」
「あれっ、えっと、その。」
 あかりは小さく体を震わせながら、うつむいた。
 
 そして、奈瀬に向かって、土下座をした。
「お願いします、ヒカルと佐為のこと、誰にも話さないでください。秘密にしてください。お願いします。」

 あかりの突然の土下座に、奈瀬はもちろん、ヒカルと佐為も慌てふためいた。
そんなあわてる周囲をよそに、あかりは言葉を続けた。
「私が昔ヒカルから話を聞いたとき、私はまだ小さかったから、それがどれだけの重みを持つことなのかよくわかっていなかったの。でも、最近分かるようになったの。ずっと考えていたから。ヒカルがどれだけの覚悟で私に話をしてくれたのか。」

 あかりは軽く顔だけを上げて、奈瀬を見つめる。
「もしも佐為のことを知られたら、ヒカルはこの先一生、碁打ちとしてやっていけなくなります。誰もヒカルの碁を見なくなる。後ろにいる佐為だけを見るようになってしまうの。」

 あかりの言葉に、奈瀬は息を呑んだ。
確かに佐為の存在はそう簡単に信じられるものではない。
だが、もし佐為の存在が認められたら?
佐為が見えず、佐為の言葉が聞こえない周囲には、ヒカルが打つ碁は佐為の碁としか見られなくなるだろう。
常識的には信じられる話ではない。
だが、碁打ちなら?

 奈瀬が納得してしまったように、信じる人間は多いのではないか?

「…でも、何でヒカル君はそんな大事なことを私に教えてくれたの?」
「…今のヒカルは、自分のことよりも佐為が大事なの。あなたには佐為の扇子が見えた。ヒカルと私以外には見えないのに。だからだと思う。でも、私にはヒカルも大事なのっ!」

 そう言いながら、あかりは涙をこぼし、再び頭を下げた。
「だからお願いします。他の人には秘密にしてくださいっ!お願いしますっ!」
「あかり…。」

「あかりちゃん…。ごめん、ごめんね、そんなことしないで頭を上げて。」
 そういいながら、奈瀬はあかりの体を起こす。

「ごめん、とても大事なことなのに、おちゃらけちゃって。私が悪かった。もちろん秘密にする。無条件に。絶対誰にもしゃべらない。」
「奈瀬さん…。」

「あかり、ありがとな、オレなんかのためにそこまでしてくれて。」
 そう言ってヒカルもあかりの頭をなでる。

 正直ヒカルは、あかりが自分のことをここまで考えてくれているとは思ってもいなかった。
あかりの真摯な言葉に心を打たれていた。

 あかりは急に恥ずかしくなったのだろう、顔を真っ赤にしたまま、うつむいてしまった。




「ごめんね、色々お騒がせしちゃって。」
「私こそすいません、生意気なこと言っちゃって…。」
「いーのよ、私が悪かったんだから。気にしないで。」
―ほら、ヒカル!
―ああ、分かってる。
「時々だったら構わないよ、奈瀬さん。」
「えっ!」
「だからさ、時々だったら打つよ。オレでも佐為でも。それに、あかりとも打ってやってよ。」
「えっ、でも、いいの?」
 ヒカルの言葉に驚きながら、あかりにお伺いを立てる奈瀬。
「…うん。奈瀬さんなら信じられる。よかったらたまに打ってください。」
「うわっ!ありがとーっ!あかりちゃんかわいーっ!大好きっ!」
 そう言って満面の笑顔であかりに抱きつく奈瀬。
「うわっ、えっと、あの。」
 あわてるあかりの耳元で、奈瀬は小さくささやいた。
「ヒカル君との邪魔はしないようにするから安心してねっ!」

 その言葉で耳の先まで真っ赤になるあかりだった 
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