万華鏡の連鎖
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夢幻界の断片
蜃気楼の彼方
「ふうん、こんなに綺麗だったんだ」
鈴の音を思わせる声が響き、沁みる。
ナリスの瞼が動き、開いた。
上から覗く顔の輪郭、長い髪が霞む。
「辛いでしょう?
今は、喋らないで。
手術すれば、良くなるんだから。
お話は後で、ゆっくり楽しめるわ」
(君は、誰?
何処かで、逢っているのかな?)
「《私》の《姿》を、思念波で送るわ。
貴方には、どんな風に見えるのかしら?」
ナリスの視野を闇が覆い、光の渦を映す。
猫族の丸い瞳が輝き、純白の翼が優雅に舞う。
(グインの《義妹》、ランドックの女神アウラ・シャー!?)
精神接触の《記憶》、映像が蘇る。
「古代機械を使って、異世界に運んであげる。
貴方、きっと喜ぶわよ」
小さな手が頬に触れ、意識が霞む。
パロ聖王国首都守護者の象徴、『クリスタルの炎』が瞬いた。
(第2銀河系へ、ようこそ。
私は惑星クロヴィアの銀河系調整官、クリストファー・キニスンです)
ナリスの意識が戻ると同時に、暖かな感触が思い通りにならぬ身体を撫でた。
精神的視野に映る青年の瞳は鷹の様に鋭く、高度な知性と強い意志力を秘める。
紅玉の様に艶やかな真紅の髪が舞い、虹色の鏡が輝いた。
横の壁は超3次元立体映像の銀河系、宇宙空間を模した星図が瞬き無数の星が煌く。
銀河文明の擁護者が立ち去った太古の惑星、アリシア星系の第3惑星ランドック。
第2銀河系ランドマーク星雲、人類発祥の惑星が青と赤と緑の星輪に包まれた。
水晶の様に煌きを発し光り輝く透明な湧泉の心象《イメージ》、力強い思考が閃く。
(神経封鎖を施し、苦痛を遮断しました。
フィリップ式再生手術、身体機能回復をお勧めします)
知覚力駆使の鮮明な動画、心象《イメージ》
痺れた儘の頭脳、感情に賛嘆の念が渦巻く。
(…お願いします)
(QX《クリア・エーテル》。
友人が歓談、思考交換を望んでいます。
心話の要領で通じますが、如何でしょう?)
(QX《クリア・エーテル》)
意味不明だが承諾、了解を意味するらしい常套句《フレーズ》を使う。
(私は惑星ヴェランシア評議会第一発言者、ヴォーゼル。
幻覚を愛する者と異世界の夢想家は話が弾む、と期待している)
脳裏に映ったのは鰐の頭、、大蛇の様に長い胴、蝙蝠の数十倍に及ぶ雄渾な翼。
全長9タール前後の竜が親愛の情を表し、2タール程の尾を軽々と振る。
(レムス憑依《ウロボロス》、蜥蜴も連想する種族より強そうだ!
ヤンダル・ゾック、インガルスの竜人族と関係は無いのか?)
好奇心、戦慄、歓喜、驚愕。
感情の嵐は無意識の緊張と動悸を呼び、呼吸が乱れる。
(歓談再開の前に再生手術、身体機能回復をお勧めします)
第三段階の思考が閃き、無念の感情を宥めた。
抗議の前に意識が薄れ、思考回路も停まる。
白い砂漠に微風が舞い、異世界の魔境を映す蜃気楼の囁き声を運ぶ。
(手術は無事、済んだみたいね。
私は第一銀河帝国の戦闘王子セイ、ファイアーブラス宇宙伯と逢ってくるから。
また、後で、ね)
儚い印象の少女、白髪の老医学研究者を匿う部屋で目覚めた。
調整者一族の絶対君主、天帝に叛いた者の眼前で潰えし夢の領域が甦る。
(東海公子、銀河帝国、沖田総司、夢を統べる者?)
不可思議な異世界の遍歴を眺め、黒幕の痕跡を追う。
無意識の推理、記憶の探索が滞った。
悪夢を統べる者の焦り、不満と憎悪の渦が暴露を阻む。
眼を開くと異世界の竜、《第二段階レンズマン》が舞い降りた。
(さて君の想像通り銀河宇宙には数多の知的生命体、非人類種族が満ち溢れている。
無数の恒星~太陽と言った方が良いかな?~、周囲の軌道を巡る惑星も数多い。
銀河文明の知的生命体は数百万単位、人類と異なる種族が過半数だよ)
(インガルスの竜人族、ヤンダル・ゾック、アモン等に関する情報は無いでしょうか?
従兄弟は種族の遺伝記憶を備える精神体、集合意識と推測していました。
私の第1印象は進化した蜥蜴、浮かんだ名は『ウロボロス』。
伝説では竜と蛇の合いの子、大洪水時代以前の怪物です)
パロ聖王冠を載く爬虫類、レムス憑依時《竜王》ヤンダル・ゾック。
馬を御し鎧を纏い長槍を掲げる竜の門、民衆を虐殺した眷属の姿を映す。
思考が閃き、幻覚を見せる。
高度に洗練された催眠術、犠牲者を精神制御の《自由意志》で罠に導く竜族。
生命力を貪り喰らう《デルゴン貴族》、凄惨な拷問、虐殺の情景が鮮明に描写された。
潜在意識の奥に蓄積された種族の遺伝記憶、天文学的《恐怖》と表裏一体の《憤怒》。
人類の理解を絶する凄絶な感情、心理的衝撃に意識が震える。
闇が集い、記憶が途切れた。
(身体機能回復促進の為120時間、無意識を維持しました。
カイサールの転送装置が届き、座標は調整厳禁の警告を尊重しています。
出発前に短時間、ヴォーゼルと思考交換していただけませんか?)
第三段階の思考が閃き、心話で呟く。
(QX)
飛行可能な竜が翼を翻し、強靭な尾を軽快に振る。
『やあ、蛇陛下、ごきげんよう!』
若い男の声が脳裏に響き、鷹の眼差し、燃える様に輝き脈動する鏡も映す。
(残念だな、人類は脆弱に過ぎる)
(こちらこそ、迂闊な思考でした。
お許しください、ヴォーゼル殿)
パロ民衆を蹂躙の映像が銀河文明史上最低、最悪の虐殺者と重なった。
深層心理と潜在意識の闇に潜む禁忌、本能的激昂に直結の思考を詫びる。
(地球西洋文明の竜《ドラゴン》は魔獣、神に挑む敵だが実に迷惑だよ。
或る精神文明中興の祖、ブータン国王家は竜の食事を美しい思考と説く。
子供達は竜を感謝の念、幸福な感情、他者への善意が糧の精霊と認識している。
レムール星間帝国潰滅の後、秘密組織ルナ=クラブ後継者は精神の浄化に努めた。
記憶の神殿を創った彼等は夢クリスタル、幻影結晶体と親和性が高い。
私も逢ってみたいものだが、話を戻そう。
レムリア大陸の冒険譚、《悪竜の王》に関する情報を提供しよう。
東岸の爬虫類種族は《星の霊剣》が斃し、生き残った魔法使い達の野望も潰えた。
鍵を握る魔術師シャライシャ、西岸制覇の黒鷹族出身者は興味深いね。
ルーンの杖に仕える男の仮面は黄金と黒玉、豹の模様を連想させる。
脈動し脳髄を喰い荒らす《黒い宝石》、異世界の微生物と云う《魔の胞子》。
両者と第一帝国王子の額に輝く《グランヴァルスの血》、赤い宝石は無関係かな?
水晶の指輪が新大陸に瞬間移動を実施の後、水晶の機械は城塞を異次元空間に隠した。
古代機械で瞬間移動可能な君達の世界と親和性が高い、遠くない気がするよ)
硬質の《声》が響き、思考交換に割り込む。
(時が来た
転送先座標は惑星アスタシア地表、タジール魔法陣中心
第二銀河帝国首都の神官、巫女達を統べる猫神族の長に連絡完了)
不意に意識が薄れ、水晶の壁に吸い込まれる感覚。
一瞬の後、目覚めた。
眼の前には猫の顔と脚、鳥の翼、孔雀の羽、蜂の胴を兼備の異種族が佇む。
驚愕に意識が震え、記憶の扉を開く。
「あなた、待って」
鎚で壁を壊す男、柴竜一郎が腕を停めた。
妻は絵具を携え、鬼獄界と連動する壁の前に進む。
白鳥勇介、無双力、相撲部主将、梶工作、大山直次郎。
手天童子郎を護り、喪われた者達を描く。
赤子が喰い殺される直前に誕生、出現した護鬼の様に。
鬼獄界の創造主、暗黒邪神教本尊の前に勇者達が現れる。
柴京子の唇が震え、慰謝の言葉を紡ぐ。
白鳥美雪と無双力、5人の男が現実界に帰還を遂げた。
猫と鳥と蜂の要素を備える異種族 合成生物《キマイラ》の透明度が増す。
第二銀河帝国王女、最高指導者の映像が霞む。
セイヤ・アスタシア自我が憑依、形を為す。
特S級ヒューマノイド、精神周波数共通者セイヤ・リー。
大自然の精霊が棲む美少女、、安西雄介の《娘》が唇を開く。
(禍津神の信頼する見者、人剣・加賀四郎と逢って下さい。
第一銀河帝国首都ラクラジル、銀河王宮に送ります)
魔法円陣の真央点に闇が集い、遠距離転移力場の門と化した。
「蛇君!
ありがたい、また逢えるとは思わなかったよ!!」
ひょろりと痩せた男から驚愕、感激、安堵を秘めた声が迸る。
薄紫色の瞳が輝き、居室内部で実体化直後の訪問者に駆け寄った。
訪問者の掌を握り、幾度も肩を叩く。
(我輩の思考を読み、返事を送り込んでくれ。
雄介、風太と逢ったかね?)
返事は、無い。
北斗多一郎は黙して語らず、謎めいた表情で見返すのみ。
「おや、君は蛇君ではないのか?」
えい、ままよ。
握手を外し、破れかぶれで名乗りをあげる。
「我が名は、アルド・ナリス。
夢か現実か私自身にも解りませんが、以後お見知り置きを願います」
(闇と炎の王子、アルド・ナリス!
未公認の世界最長小説、某サーガの登場人物ではないか!?
言われてみれば描写の通り容姿端麗、世界生成の秘密を極める志を抱く野心家だったな)
「大変失礼した、御無礼の段は平に御勘弁を願いたい。
旧知に良く似た魂をしておるので、間違えてしまった。
私は加賀四郎、20世紀の日本に生を誕け時空を超えし一介の天才だよ。
数多の異次元空間を巡り5千年後の未来、銀河帝国の首都惑星に漂着した所さ」
奇妙な言い回しだが滑らかな口調、冷静沈着な物腰にも高い知性が窺える。
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