ゲルググSEED DESTINY
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第二十九話 運命と可能性
何時からだろう、こんな大望を懐いたのは――――――デスティニープラン。遺伝子によって人生を定め、己の運命を振り回されることなく、総ての人間の人生に幸福を与える計画。
ラウやレイのようにこれ以上苦しむ人間を生み出さず、ありえない幸福を望むこともなくなる。そして、それによって貧困が、不平等が、人の不幸と呼べるものがなくなり、戦争の火種も消え去る。十年単位でも短いだろう。生涯をかけたところで、それが完成するところはこの目では見られないのかもしれない。しかし、それが平和への一歩となるのだ。
悪平等と呼ばれるかもしれない。道筋が一つしかない故に人類は衰退するのかもしれない。だが、例えそうだとしても世界が平和になるということの何が悪いのか?
人類の唯一平和への希望を見出した私の策。だが、たった一つの歯車の狂いがあった。いや、元々歯車などという表現が間違っていたのだろう。人は己の可能性を持って、その形作られた枠すら超える。
それを初めて知ったのは何時だっただろうか?
『それは君が本当にそれを望んでいたことなのかね?』
「フッ、そうだな、私にとって人類の救済となるべき道はそれしかないと思っていた。しかし、現実は私が想像した以上に可能性に満ち溢れ、様々な道が存在したと言うことなのだろうさ」
今になって思うが、何故可能性が一つしかないなどと思っていたのだろうか?遺伝子というものを知ることによって自ら視野を狭め、可能性を潰していたのかもしれない。
クラウ・ハーケン―――遺伝子を見る限りでは何一つ特徴らしい特徴のないコーディネーターだ。おそらく彼の両親はデザイナーベビーとしてではなく、病気などの不幸のない人間になって欲しかっただけなのだろう。
故に、彼の可能性は遺伝子で見れば平坦な人生を歩むべき才だと思っていた。しかし、現実は違った。開発者としても、科学者としても彼は悪魔にも神にもなれるような存在だ。蓋を開けてみればありとあらゆる技術を持ちえていた。何せ連合の強化人間に対して処置を施したのだから。無論、何らかの要因があるはずだと調べた。
だが、遺伝子にはそのような才能は映し出されなかった。キラ・ヤマトのようなあらかじめ才能あふれた人間でもない。SEEDの因子もなかった。
つまり、デスティニープランは完璧ではなかった。そもそも、人をそうやって物差しのように計ることなど出来なかったのだろう。
「だからこそ、新たな可能性を知った中で、私が取るべき道はどうするべきなのかな、ラウよ……」
今はなき、友の幻想を前にして私、ギルバート・デュランダルは問いかける。
『好きにすればいいさ。私の目的は人類に裁きの滅びを与えることだった。君は人を導くことだった。そして、それは果たせるのか?』
「本当に、果たす必要があるのかね?」
『何?』
今までの自分を覆すかのような発言。しかし、一度人の可能性を見てしまったら、その可能性を信じてしまいたくなるのだ。
「彼だけではない。可能性を殺さず新たな可能性の元に己の格を超えた人間は多数いる。サハクを、そして多くの他者を変えていったロウ・ギュール、一族にすら認めさせたジェス・リブル、遺伝子に逆らい成功させたマーシャン――――――私は見ていないだけで、多くの可能性を見逃してきたのだ。君は、ジョージ・グレンがコーディネーターのことを提唱した本当の理由を知っているかね?」
『人の今と未来の間に立つ者、調整者、コーディネイター―――しかし、多くの人はそれを理解せぬまま生きていく。故に私のようなものが産まれ、世界を憎み、戦争が起こることとなった』
「そういうことだ。そして人の今と未来―――これが何を指すかわかるか?」
遺伝子に変化は見られなかった。しかし、明確な変化を齎された存在。かつてクラウが冗談まじりに呟いた一言、ニュータイプ。
「ジョージ・グレンは実に半世紀近くも前からこれを予期していたと言うことだ」
『ならばどうする?原初のコーディネーターの使命に従って可能性に賭けるのか?』
どのような行いをするのが最も正しいのか?ニュータイプの存在を予期していたジョージ・グレンの彼の使命に従うのが、最も信頼できるのかもしれない。しかし、果たしてジョージ・グレンの描いた未来が正しき道だと誰が言える?自らがその生涯を賭けてまで得たデスティニープランこそが自らの目的の為に考えたこれこそが己にとってはある意味正しいのかもしれない。
「やはり、決まっているか……」
『そうだろうさ、結局人は己しか信じられず、己しか知りえない』
「ああ、そうなのだろうな。故に私はデスティニープランを実現させる。これを止める事すら出来ないのなら、それこそニュータイプに意味などないだろう?」
『そうか、君がそれを選ぶと言うなら――――――』
そこで目が覚める。ガラスのチェスを眺めながら情報を整理していたら、いつの間にか転寝をしていたようだ。
「ラウ……君と私の運命を終わらせるときが来たのかもしれないな……」
最後まで彼に味方はいなかった。レイは彼と同一人物であり、私はあくまでも共犯者に過ぎない。彼が、私よりも先にクラウ・ハーケン―――君に出会っていたなら彼の運命は変わっていたのだろうか?
ありえもしないIFに考えをよぎらせる。そうなれば私も彼もこんな壮大な夢を持たず、平凡に生きていたのかもしれない。或いは今以上に大きな大望を懐いたままに溺死したかもしれない。
「本当に、君はどういう駒になるのだろうな……」
盤面のチェスを眺める。普通の盤面とは違い、三種の駒が争いあう。白のナイトにはルークとビジョップが、とクィーンにはポーンが付き従い、透明な駒にはキングが最も後ろに引き下がり、離れたところに倒れたナイトに程近い場所に幾つかの駒が、自らの陣営を現しているのであろう黒には異様に際立つポーンが一つ存在している。
「君だけではないのだろう?他の彼等にもプロモーションの可能性は存在する。故に私の計画は初めから破綻しているのかもしれない。だが、構いはしないのだよ……」
破綻していたのならそれまで、結局その程度で失敗するなら戦争をなくすことなど出来ないと言うことなのだ。だが、人はいつか総てを超えれる時が来る筈だ。
「そう感じるのは―――私もまた、その可能性に目覚め始めているからなのだろうか……?」
黒のキング―――自分の事を表す駒を指で倒し、転がり行くその駒は地面にまで落ちていった。
◇
「スウェン・カル・バヤン―――君の経歴を少しばかり調べさせてもらったよ」
そう言ってスウェンが居た部屋に入ってきたのは彼を捕虜にした張本人、クラウ・ハーケンその人である。少し時間は遡るが、今現在の時間軸は彼がMS修理の為にミネルバへと乗艦する少し前の話だ。
デストロイによる虐殺が止められ、悲惨な町並みの様子が見られる戦闘が終わった直後の状況である。
「―――俺に何のようだ?」
手錠こそつけられているが彼の待遇は捕虜の扱いとは思えないものだ。あり余っている艦の部屋の一室に外側からロックを掛けているだけ。その気になればこの部屋から出る事位なら不可能ではない。結局やらない理由は相手の意図が分からない事と、目の前の彼が余りにも親しげに接してきたことからだ。
「そうだね、単刀直入に言っておこう。こちらの味方にならない?」
「断る」
当然だな、と言ってクラウはそのまま反対側の席に腰掛ける。明らかに油断している様子であり、その気になればあっさりと倒せるだろう。それをしないのはしたところで脱出の手段がないからに過ぎない。
「一応聞いておこう、何故?」
「俺はナチュラルのファントムペインで、多くのコーディネーターを浄化と言う名の下に殺してきた……」
今は戦時下であり、そんなことは当たり前だ。故にナチュラルの軍人はコーディネーターの敵を殺すし、コーディネーターとてナチュラルの敵を殺す。当たり前の事なのだ。
「そうだな―――だけど、もうじきそんな小さな枠組みなんてなくなる。宇宙は広い。そして時代は流れる。明日にでもその常識は変わり、ナチュラルとコーディネーターが腕を組む日が来るかもしれない」
「馬鹿な…そんなこと……」
「ありえないって?いいや、今にそんなこと言えなくなる日が来るのさ。そんな中で君は何をしたいと思っている?何処を目指す?何を目指す?世界は、そして宇宙には無限の可能性が広がっている―――」
何を根拠に彼がそう言っているのかはわからない。しかし、何か確信めいたものがあるのだろう。その言葉は断定的だ。俺は、それを受け入れて良いのか?
「気長に待つさ。君は大きな可能性を持っているはずだ。己の夢を追って星を目指すといい。その気があれば受け入れよう。こちらにつかないと言うなら、君の望む世界を案内しよう。道はいくらでもあるだろうさ」
そう言って渡されたのは幾つかの紹介状と様々な仕事の種類が書かれたタブレット端末だ。
「これは?」
「ファントムペインはじきに崩壊するさ。君はその後の道をどう歩むか考えておけばいいよ」
DSSD、ジャンク屋、傭兵、モルゲンレーテ―――もちろんその他にも様々な職種が存在している。どれだけの伝手があるのかは知らないが、少なくともこちらの生活を本気で保障する気なのだろう。
それらを机において、彼はそのまま部屋から出て行った。
「星を目指す、か……」
◇
「単純な心理学を突いたものだけど、割とあっさり引っかかってくれたな」
心理的なハードルを下げる条件に軟禁する環境によって変化が起こり易い。そうした上で会話などを適度に行うことで相手の心理を揺さぶると言うものだ。
例えば、親しい仲になった後に「こんなことを言うと君は私の事を嫌うかもしれないが―――」などの発言をすると殆どの人間は「そんなわけがない」と思いやすい。そして心理的抵抗が極端に低くなる。
俺がやったことはそれと似たような事に過ぎない。初めに自分の要求を言って、その後に選択肢を多く与える。そうすると人間は初めに出された要求に惹かれやすい。詐欺の手口でも常套手段だろう。初めは安い金額の要求で、後の選択肢に面倒なものを含めたものを出すことで最初の要求をそのまま呑むようになる―――ってこれは違うか?
「まあ、どれを選んでも結局は構わないんだけどさ……」
こちらに来てくれるのが一番良いに違いないが、だからと言って別に強要する気もない。面倒だし。
「さて、ミネルバに向かうか……MSの修理と改造ね……正直、間に合うかね?」
修理ならともかく、改造が間に合うとは思わない。そもそも修理に関してもハイネのグフやショーンのゲルググは出来ないだろう。億劫になりながらもミネルバの方まで荷物を用意して移動を開始した。
◇
「アウル、無事か?」
ネオ・ロアノークは撃墜されたアビスのパイロットであるアウルを回収してデストロイを収納していた大型の母艦ボナパルトに帰還していた。
「畜生ッ、アイツ等―――スティングの奴を!」
ネオの胸倉を掴みかかりながらスティングを殺したザフトやアークエンジェルに対して怒りを顕にする。
「俺が、俺がアイツ等を殺してやる!ネオ、MSをくれよ!何でもいいから!?」
「アウル……」
涙を流しながらアウルはネオに訴える。ただでさえステラの存在を記憶から抹消されたせいで不自然な空白が生まれている中で、戦友のスティングが目の前で殺されたのだ。
「あのガンダムを絶対殺してやる!ネオ、頼むよ!!」
おそらくこのままだと情緒不安定と断定されて再び調整されるのだろう。ネオはそれが正しいことなのかがわからない。いや、間違っているのだろう。それでも止めてこなかった。これまでも、そしておそらくはこれからも……。
(だが、それは本当にやってもいいことなのか?)
彼等にとっては幸福だと研究者は言っていた。だが、戦争の道具にされ、こうやって仲間の死すらも邪魔だと判断されるのは間違いじゃないのか?
「わかった……だが今は休め。アレを追うにも準備が必要だろう?何、気にするな。すぐに機会は巡ってくるさ」
「本当なんだよな―――」
「ああ、信じろ」
そう言って彼はいつものラボに戻っていく。ネオもすぐにそのラボを管理する部屋まで訪れる。
「調整の際に記憶処理に修正ですか?」
「ああ、スティングの事は忘れさせなくていい」
ネオ自身のささやかな抵抗。現場にいる人間だからこそ出来る抵抗。ネオは大佐であり、部隊指揮官としては最高位の人間だ。もちろん、ジブリールはそれ以上に権限を持つが、現場にまで一々口出しするような人間ではない。そこが前ロゴスの当主、アズラエルと違うところなのだろう。故に、こういった行動で口出しが可能となる。
「しかし、兵器として不安定な要素は出来るだけ避けるべきでは?」
「個人的なちょっとした要望だ。頼むよ、礼はするからさ」
何の意味もないことなのかもしれない。寧ろ自分の首を絞めることとなるかもしれない。しかし、今更そんなこと気にしない。せめて、生き残ったアウルにだけでも自身の偽善とも言える様な行為で自己満足に浸りたいだけなのかもしれない。
「ああ、背負ってやるよ。恨んでくれて、いや寧ろ恨んで欲しいのかもな……スティング、ステラ」
一人そう呟きながら、欠けた二つのラボを見つめていた。
後書き
話の内容的には閑話と言ってもいいかも。さして重要な話でもないですし。スウェン加入フラグ?作者としては実際どっちでもいいって感じですね。このままDSSDに加入させてもザフト(というかクラウの私兵?)に加入させてもいいと思ってますし。
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