ドラゴンクエストⅤ~リュカとサトチー~
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第3話 マイホーム
「だ、旦那様! お帰りなさいませ! このサンチョ旦那様のお帰りをどれだけ待ちわびたことか……。さあ、ともかく中へ! 坊ちゃん方も!」
大きなおじさんがふんわりした笑顔で、ぼくたちを出迎えてくれた。この人がサンチョって人みたいだ。
この家に来るまでに村中の人たちが僕らを、というよりは父さんを迎えてくれた。おとうさんは色んな所に友達がいるけれど、このサンタクローズ村っていう所には凄くいっぱい、いるみたいだ。
家の中には金髪の女の子がいた。僕より少しだけ大きくて、サトチー兄さんと同じくらいの背。
「おじさま、お帰りなさい」
「? サンチョ、この女の子は?」
おとうさんが困った顔で言うと、階段から大きなおばさんが降りてきた。
「あたしの娘だよ、パパス!」
笑いながら、久しぶりだねぇ、なんて言う。
「やあ! 隣町に住むダンカンのおかみさんじゃないか! 来ていたのか」
今日会う人はみんな、おとうさんの友達だ。おとうさんはおばさんと楽しそうに笑いあっている。
ぼくがじっとしているとサトチーにいさんが1歩、歩み出る。その先には女の子。ダンカンのおかみさんっていうおばさんのこども。
「よう、ビアンカ久しぶりだな」
「あなたも元気だったサトチー?」
2人が笑う。サトチーにいさんは、にんまりと。ビアンカって呼ばれたお姉さんはやんわりと。2人も友達?
「親父達は色々話すことが有るみたいだから、2階に行こうぜリュカ、ビアンカ」
サトチーにいさんに手を引かれて、ぼくは上の部屋に連れてこられた。その後ろをお姉さんがついてくる。
「それじゃあ改めて、久しぶりねリュカ、それとサトチー」
「おいおい、俺はオマケか?」
ぼくはこのお姉さんと会ったことが有るのかな?
答えることの出来ない僕を見てサトチーにいさんが苦笑いを浮かべる。
「あー、リュカは多分オマエのこと覚えてないんじゃないか? コイツまだ小さかったし。今も小さいけど」
「……そうよね。あなたまだ小さかったものね」
そう言ってお姉さんが僕ににっこり笑って言う。
「リュカ。私の名前はビアンカ。よろしくね」
差し出された手を握り返すと、お姉さんはもっと笑ってくれた。嬉しくて、僕も笑ってた。サトチーにいさんは、なんだかニヤニヤしてた。
「わたしは8才だから、あなたの2つおねえさんね」
「そして俺と同い年だな」
「でも、ビアンカお姉ちゃんの方が背が大きいよ?」
僕が言うとお姉さんは小さく声を上げて笑った。サトチーにいさんは、お、俺は大器晩成だし……く、悔しくなんかねーし……将来はダル○ッシュを超えるイケメン高身長になってやるし……とぶつぶつ言いながら部屋の隅で座り込んでしまった。何かいけないこと言ってしまったのかな?
「あらら、お兄さんは拗ねちゃったみたいね。それじゃあリュカ私が本を読んであげようかしら」
そんなサトチーにいさんを無視して、お姉さんが棚から取り出したのは古い一冊の本。いつも、おとうさんやサトチーにいさんに読んでもらっているから、本は大好きだ。
「じゃあ読んであげるね! えーと……そ……ら……に……えーと、く……せし……ありきしか……」
よく分からない。そんなに難しい本なのかな?
「………………これはだめだわ。だって難しい字が多すぎるんですもの!」
そう言ってお姉さんは頬を膨らませてしまった。その背からいつのまにか立ち直っていたサトチーにいさんの手が伸びる。
「なんだー、こんなもんも読めないのかビアンカはー。んー何々ー」
ひょいっとお姉さんから本を掴み取り、何時もの調子で読み上げる。そんなサトチーにいさんを口をあけて見るお姉さん。ぼくも早く本が読めるようになりたい。
「な、なによちょっと調子が悪かっただけよ……というか、あなたいつの間にそんなに読めるようになっているのよ。前は全然だったじゃない」
「はっはっは。旅の間、親父に習った」
ぼくもサトチーにいさんが習っているのを見ていたこともあったけれど、夜遅くにやっているんだもの。いつも途中で寝ちゃうんだ。
それから、しばらくはビアンカお姉さんにどんなところを旅してきたか、たくさん喋った。うまく話せたか分からないけれど、お姉さんは優しくひとつひとつ聞いてくれた。たくさん、楽しかった。因みにサトチーにいさんは飽きたと言って途中でどこかに行ってしまった。
「ビアンカ、そろそろ宿に戻りますよ!」
ビアンカお姉さんのお母さんが呼びに来た頃には窓の外も赤くなっていた。いつの間にそんなに時間が立っちゃったんだろう。
「それじゃあね、リュカ。今日は私も楽しかったわ、またお話聞かせてね」
ぼくが返事をするとビアンカお姉さんは笑って手を振ってくれた。
入れ替わりでサトチーにいさんが帰ってくる。泥で汚れた服も気にせずにんまりと、よくする口の形を見せて言う。
「おい、リュカ。明日面白い所に連れてってやるよ」
村の外れに洞窟が有るそうだ。明日は探検だ。サトチーにいさんと一緒に。
すっかり暗くなった部屋でぼくとにいさんはふかふかのベッドにくるまっていた。外で寝ることもたくさんあったから、こういうのは嬉しい。
「ねえにいさん、サンチョさんって良い人だね。この村には、いつまでいるのかなあ?」
夜のご飯はすごかった。たくさんのごちそうがいっぱい。全部は食べきれないぐらいだった。サンチョさんはあれもこれもって、どんどんぼく達に食べさせようとするから大変だった。全部、サンチョさんが作ったらしい。すごいって思う。
隣のベッドの上で身体をこちらに向けてサトチーにいさんが言う。
「……ああ、おまえ分かってなかったのか。そりゃあずっと旅してたんだし、しょうがないか」
いいか? と前置きして教えてくれる。この村がぼくたちの帰る村なんだと。これまでは色んな場所に行ってきたが、これからはこの村に「住む」のだと。
……正直よくわからなかった。
「根無し草の旅ばかりしてきたオマエには分かりにくいかもしれないけどな」
サトチーにいさんには分かることらしい。
「まぁ、この村にずっといられるかは……なんでもね」
と小さく言ってサトチーにいさんはこの話は終わりとばかりに、布団をかぶった。
もう、眠ろうということなのだろう。しんっと静まり返る部屋で、揺れる蝋燭の灯が何だか寂しかった。
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