フィガロの結婚
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14部分:第二幕その六
第二幕その六
「スザンナは今は出て来られないので」
「何故だ?」
「ちょっと事情が」
「事情!?」
「はい、そうです」
「事情とは何だ」
「何でもありません」
「何でもない筈がないだろう」
そんな話をしているうちにスザンナが部屋に戻って来た。とりあえず何かの用事をして帰って来たのだが今の伯爵夫婦のやり取りを見て首を捻るのだった。
「一体何が?」
「あの娘は今花嫁衣裳が似合うかどうか試しているので」
「そうか。ここに」
彼は言うのだった。
「ここに情人がいるのだな」
「疑ってるわね」
二人はそれぞれお互いのことがわかってきたのだった。
「やっぱり」
「さあ、スザンナ。早く出て来るのだ」
「まだ駄目よ」
二人は衣装部屋に向かって言う。まるで言い争いだ。
「早く。ここに」
「貴女は貴女のことをしなさい」
「とりあえずは」
スザンナは様子を見る為にまずは部屋のカーテンの陰に隠れた。しかし伯爵はさらに言うのだった。
「どうしても開けないのか?」
「大変だわ」
スザンナはそのカーテンの陰から囁いた。
「破局か醜聞か両方か。大騒ぎになるわ」
「それでは開けられるか?」
伯爵は夫人がどうしても前に立ちはだかるので彼女に対して言ってきた。
「この扉を」
「この扉をですか」
「そうだ。開けられるか?」
あらためて彼女に問うのであった。
「この扉を。さもなければ私が」
「何をされるのですか?」
夫人は夫の今の言葉に眉を顰めさせた。
「貴婦人の尊厳を損ねられるおつもりですか?」
「そんなつもりはないが」
「それでは」
「私もその様なことはしない」
伯爵も貴族なのでそれはわきまえているつもりだったのだ。
「しかしだ」
「しかし?」
「道具は取って来よう。それでそなたに開けてもらおう」
「私にですか」
「私が開けなくともそなたが開ければそれでいい筈だ」
とりあえずマナーに反していないことを頭の中で考えながらの言葉だった。
「そうだ。だからだ」
こう言って部屋を出るがここで召使の部屋に通じる扉に鍵をかけた。そうしてそのうえで部屋を後にしようとする。伯爵は一人になったがそこで悲嘆に暮れてしまうことになった。
「大変なことになったわ」
「いや、待て」
伯爵はここで不意に足を止めた。
「そなたも共に」
「私もですか」
「そうだ。では奥方よ」
自分の妻の手を取っての言葉だった。
「腕を。それでは」
「わかりました」
「スザンナはそこにいるように」
一応スザンナということにして衣装部屋の方に顔を向けて述べた。
「よいな」
「参りましょう」
夫人は己を何とか奮い立たせながら部屋を後にした。こうして二人がいなくなるとすざんなが部屋の中に出て来る。それと共にケルビーノも出て来た。
「何とかしないといけないわね」
「早く逃げないと」
二人はそれぞれ言う。
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