変人だらけの武偵高
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6話
前書き
うわ、一ヶ月振り投稿……
すいません、ほんとすいません。
昼休み。キンジは狙撃科棟屋上で朗らかな陽気に目を細めながら、菓子パンとコーヒー牛乳という慎ましい昼食をとっていた。
四限の授業が終わった瞬間、キンジは教室からダッシュして逃げ去り、追いすがるクラスメートたちを置き去りにしてここに来たのだった。
理由はまあ、質問責めが嫌だったからである。
「くくく……質問に答えるとは言ったが、そもそも質問されなければそんなものは無効だ」
そんな屁理屈を振りかざして、キンジはお天道様の下で大手振るって昼食を食らう。
パンを食べてパッサパサになった口内をコーヒー牛乳で潤していると、屋上のドアが開いた。
(アブねっ)
屋上に出る扉の反対側にいたためか、どうにか見つかるのは避けられた。
「あー、キンジいないなあー」
クラスメートの女子だ。確か狙撃科だったな。
まずったな、と息を吐く。
キンジは狙撃科にはほとんど接点ないから、ここには探しにこないと踏んだのだが、捜索を中断してお昼にするのだろう。足音から察するに、三人の女生徒が屋上に上がってきた。
「キンジ、アリアと付き合ってんのかな?」
「ええー、んな訳ないでしょ。付き合うとしたらかいちょーとじゃないの?」
「確かに、今朝もかいちょーキンジの部屋行くって言ってたしね。ありゃ妻だよ妻。罪な男だねぇ」
(そんな良いもんじゃねーよ)
今朝のヤンデレストーカーを思い出して身震いする。あれがなければ確かに大和撫子的で将来は正しく良妻となろうものだが、どうしてだろうか、キンジは身の危険を感じずにはいられない。
気を紛らわそうと、菓子パンに噛り付く。甘いクリームが舌の上でうねった。
「あーあ。キンジ狙ってたのになー」
舌を噛んだ。
(〜〜〜〜っ⁉‼⁉)
「あー、キンジよくよく見れば結構顔良いしねー、私は断然不知火君だけど」
「まあ不知火の方が顔はいいかもね。あ、性格も。でもなんてーか、不知火はウチらには高嶺の花過ぎんじゃん?その点、キンジは親しみやすいし」
「それはあんねー。でも、キンジも結構競争率高いらしいよ」
「マジ?」
「マジマジ。まあ強襲Sランクだし、名も通ってるから当然っちゃ当然だよね」
(なんつー話してやがる……!)
例えば誰ー?
なんて声が聞こえたところで、キンジは耳を塞いだ。青春するのは結構だが、巻き込まれるのは御免だ。
はあ、と溜息を吐く。
まさかクラスメートの評価がこんなに高かったとは。Sランクだからって目立ち過ぎただろうか。
あまり人前に出るのが得意でないキンジにとって、かなり憂鬱である。
(……そういえば、Sランクって知り合いにもう一人居たな)
あいつはどうなんだ、とキンジが考え始めたところで。
ツンツン、と肩辺りを突かれる感触。
「うぶもっ⁉」
うおっ、と叫び声を挙げそうになったところで口を抑えられた。
女生徒三人の喧騒はまだ止んでいない。彼女らには気づかれていないようだ。
「……もう平気だ。何かようか、レキ」
小声で、傍らに座る少女に、そう語り掛けた。
レキーーキンジの脳内で今まさに挙げられていた、狙撃科Sランクの同級生である。
薄緑のショートヘアに、琥珀色の眼。常にヘッドホンを着けて、ドラグノフと呼ばれる銃を担いだ彼女は、キンジの膝を数回、奇妙なリズムで叩いた。
「指信号(タッピング)はいい。別に見つかっても大したことじゃないからな。見つからないにこしたことはないが」
「了解しました」
指信号。武偵がよく使う暗号の一つだ。
ちなみにさっきのは、会話はバレやすいので指信号を使おう、といった内容だった。
真面目なレキらしいな、とキンジは笑った。
「何をしているのですか」
「ちょっとした隠れんぼだ。見つかったら罰ゲームなんだ」
「やはり指信号を」
「いや遊びだから。そこまでマジにならなくてもいいから」
「ジョークです」
「そうか」
ストン、とレキは微妙に空いた距離を詰めた。
ふわ、とミントの香りが鼻腔をつく。
小柄なレキのそんな仕草はなんとも可愛らしく、近づかれる男は誰でも嬉しいはずだ。
が、キンジは眉を寄せた。
「なあレキさんや」
「なんですかキンジさん」
「ドラグノフの銃口がね、俺の頬っぺたを突き破ろうとしているんだ。なんとか言ってやってくれないか」
「ダメじゃないですかドラちゃん。おイタはメッ、ですよ」
無表情から繰り出されるお茶目な発言は、そのギャップも合間ってかなり可愛い。が。
「いやいやレキ、ドラグノフだからってドラちゃんって略すのは、色々ヤバいからやめて欲しいな」
「参りました、ドラちゃんの返事がありません。キンジさん、至急売店でどら焼きを買ってきていただけませんか。勿論キンジさんの奢りで」
「もうお前分かってやってるだろ!ていうか何ちゃっかり俺をパシらせた上で毟り取ろうとしてるんだ⁉某ジャイアンだってもう少し良心的だぞ!」
「ちっ……じゃあ割り勘で良いので、早く行って来てください」
「舌打ち⁉舌打ちしたよな今⁉ていうかなんで上から目線なんだ、普通お前が金を払うべきだろ!」
「えっ……キンジさん、女の子に食事代払わせるんですか?モテないですよ、そういう気遣い出来ない系男子」
「余計なお世話だ。ていうか、それは見当違いってもんだ」
レキの頭のピヨッとした毛の一房が、ピク、と跳ねた。
「……と言いますと?」
「どうやら俺は割とモテるらしいぞ。さっき裏の女子の話を立ち聞きしたんだが、俺狙いのヤツは結構多いらしい。事実その三人の内一人は俺を狙ってたらしい」
「……キンジさん『狙い』の?」
「そう、俺狙いの」
ふふ、これでさしものレキも反論できまい、とキンジはしたり顏をしてやった。
なんだか頬に突き刺さるドラグノフが天元突破しそうな勢いになっている気がするが、恐らく気のせいだろう。
もしかしたら、キンジがモテるという事実をどうにか論破してやろうと必死で思考を巡らせてるのかも知れない。
「キンジさんキンジさん。その女子は『キンジさんを狙っている』と言っていた。それに一文字も違いはありませんね?」
「うーん。一文字もかは分からんが、多分そうだな」
「……キンジさん。ここがどこだか忘れたのですか?」
「ん?狙撃科棟だろ?」
「まだ分からないんですか?……はあ」
珍しくレキが嘆息した。まるで、察しの悪いキンジを責めるようだ。
「な、なんだよ」
「ここは狙撃科なんですよ。そして彼女はあなたを『狙って』いる……」
意味深な言葉に、キンジはしばし考え、そして、ようやく理解した。
「え、ま、まさか……」
「そう、あなたは狙撃のターゲットにされているのです。それも沢山の女子から」
「な、なんだってぇー⁉」
衝撃の事実。驚天動地。前代未聞。そんな言葉がキンジの脳内を過った。
「おかしいと思いませんか?今まで全くそんな素振りは無かったのに、恋愛感情を持っていたなんて」
「言われてみれば、確かに」
「つまり、狙っているというのは恋愛的な意味ではなく、あなたを撃ち抜こうとしていますよという意味です」
「そ、そんな……俺の勘違いだったのか。なんて恥ずかしい勘違いだ、これじゃあまるでナルシストだ」
「気を落とさないで下さい、キンジさん。間違いは誰にでもあります。それにキンジさんは実際かっこいいですよ」
にこ、とレキの無表情だった口元が僅かに笑みの形になった。
傷心のキンジには、何より美しい天使の微笑みに見えたとかなんとか。
「れ、レキー!そう言ってくれるのはお前だけだ!(白雪は除く)」
がし、とキンジが喜びをハグという形で表し、レキは、
(計画通り)
にや、と小悪魔的な笑みを浮かべていた。
武偵高の昼休み。本日は割と平和である。
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