銀色の魔法少女
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第三十三話 困惑
side シャマル
私は闇の書の真実を仲間には打ち明けなかった。
これを知ったらシグナムやザフィーラはともかく、ヴィータの蒐集に影響が出かねないと考えたから。
それに事実確認が取れない以上、彼女の言葉を鵜呑みにするわけにもいかなかった。
だから、彼女たちにはある程度ぼかして伝えた。
はやてのことをマスターと知っている人がいること。
それは私たちの知っている人ということ。
私たちを監視してはいるが、邪魔はしないということ。
彼女が自分のリンカーコアを引き抜き、渡したこと。
大まかに言うとこんな感じ。
皆とても驚いたが、自分たちの障害ならないのならと様子見することにした。
けど、私は不安でいっぱいだった。
もし、本当に闇の書の完成がはやてちゃんの死に直結するとしたら。
止める手段がないとしたら。
私は、どうすればいいの?
side ALL in 無限書庫
「アリシア、そっちはどう?」
「もうちょっとー」
二人、アリシアとユーノが無限に近くある本を探る。
「まったく、クロノも厄介事を押し付けてくれたもんだ」
ユーノはそうぼやく。
「あはは、仕方ないよ、クロノも忙しいんだから」
アリシアは苦笑いを浮かべながら、作業を続ける。
「でもさ、『闇の書』と『ブリュンヒルデ』の情報収集って、片方だけでも相当時間がかかるのに、すぐ調べろなんて無茶だよ」
闇の書は一人で飛んでる姿を見られ、ブリュンヒルデはクロノが調べ上げた末に行き着いた名称だった。
「はい、そこ無駄口たたかない! だから私がブリュンヒルデ、ユーノが闇の書って分担して調べてるでしょう」
話し合い、のんびりしているように見える二人だが、その処理速度は常軌を逸していた。
ユーノはスクライア一族の特性で、アリシアは死体兵士の力で目的の文献を探し出し、情報を集めている。
「よし、おーわりっと!」
「早! もう終わったの!?」
「うん、意外と情報が少なかったけど、多分これ以上出ないし、今からユーノの方の手伝い始めるね」
「ああ、助かるよ……、で何がわかったの?」
「んーとね、まずお姉ちゃんがまだブリュンヒルデを扱いきれてないのと、覚醒したら大変なことになること」
side ALL in 時空管理局本局
「なのはさん、思ったよりも症状も軽くて良かったわね」
「は、はい……」
リンディに恥ずかしそうにそう返すフェイト。
彼女には一つ気になることがあった。
そう、半年前にすごく世話になったシグルドのことだった。
(彼女、今回は来なかった、来れないわけがあったのか、それとも来れなかったのか、……会いたかったなぁ)
また、すぐそばにいるリンディにも悩みがあった。
(フェイトさん、一瞬養子にしようかとも思ったけど、プレシアさんは生き返っちゃったのよねぇ、まあ子供に本当の母親?がいることは喜ばしいことだけど、残念なような嬉しいような)
そんな悩む二人の前にとある少年が現れる。
彼に気がついたのはリンディだった。
「あら? あなたは……」
「はい! 本日付でアースラに着任することになりました、ショウ・ミナセ特別捜査官であります」
side 遼
「八十三、八十四、八十五」
剣の素振りをしながら、私は闇の書について考えていた。
正式名称は『夜天の魔道書』。
クリムより後に造られた研究用のロストロギア。
しかし、とある女魔道士により改変され、闇の書と呼ばれる最悪なモノへと変化。
歴代のブリュンヒルデの戦闘記録によると、暴走が始まる数分間に強力な凍結魔法を与えることで封印出来る可能性が高い。
けれど、それでははやても巻き込んでしまう。
「九十七、九十八、九十九」
しかも、はやては蒐集については何も知らない。
これはフィリーネの監視から明らかになったことだ。
最悪、全てをはやてに打ち明けるという手もあるにはあるが、完成前の闇の書がマスターを飲み込んで転生という厄介な機能がある以上、荒事は避けたい。
それに、全てを打ち明けたならはやてはすぐに蒐集をやめさせ、死を選ぶかもしれない。
彼女はすごく優しいから。
「百十、百十一、百十二」
じゃあ、どうする?
一応仕掛けはしたが、あれが発動するのはもう後がないことを意味する。
一か八かの綱渡りなんて、したくない。
「百二十五、百二十六、百……、ん?」
ポケットの中の携帯がブルブルと震えている。
開いてみるとなのはからメールが来ていた。
(よかった、元気そう)
次にメールの内容を確認する。
そこには住所と階数、部屋番号が記されていて、そこにフェイトとアリシアが引っ越してくるらしい。
「へぇ、それはそれは……」
あの状態で暴れまわった記憶が脳裏をよぎる。
変な口調(気に入ってはいる)でフェイトと戦ったり、フェイトの家にお邪魔したり、ユーノを抱いて飛び回ったり。
そんなことをしたのが私だとバレたら、天岩戸に引きこもって一生出てこないかもしれない。
「絶対に、死守しないと!」
そう意気込み、さっきの五割増しで振った木刀は手から抜け、林の奥へと消えていった。
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