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真剣で覇王に恋しなさい!

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第20話




 6月26日の模擬戦復活告知から数日後。
 その頃には各軍の人数もだいたい固まり、ある程度完成された形となっていた。
 以下、九鬼の調べによる各軍の情報まとめである。


 九鬼英雄を大将とする九鬼軍。
 九鬼英雄、九鬼紋白のカリスマの元に集った生徒は各軍の中でも最も多く、最大の勢力と言っていいだろう。
 統率も取れており、葵冬馬という軍師の存在もある。
 強いて弱点を挙げるなら、粒ぞろいではあっても他を圧倒する個人戦力の存在が無い事だろうか。
 助っ人枠には、九鬼の従者部隊からステイシー、桐山鯉、そして九鬼揚羽の専属従者である武田小十郎。


 源義経を大将とする源氏軍。
 源氏の三人組の魅力は高く、全軍で二位の生徒数を誇る軍である。
 軍師の存在は無いが、義経たちが武力と知力の両方に長けている為、そこまでの弱点にはなり得ないだろう。
 ただ、集まった生徒にも義経と似た真っ直ぐ気質の者が多いため、他の軍の軍師が考えるような策謀はしないと思われる。


 松永燕を大将とする松永軍。
 自由な気質を売りにした軍であり、その生徒数はなかなか。特に一匹狼気質の生徒が多く、一人一人の質は各軍の中でもトップだろう。
 しかしその分だけ統率が取れていないようにも見えるが、智に長ける松永燕がそれを見て手をこまねいている事はないと思われる。
 助っ人枠には、川神で有名な板垣三姉妹が登用されている。


 武蔵小杉を大将とする武蔵軍。
 一年生が大将ということもあり、その軍に集った生徒には一年生が多い。例外としては2-Sの不死川心、3-Fの弓道部主将の矢場弓子などが挙げられる。
 一年生は川神学園に入学して比較的日が浅いこともあり、その実力は未知数であるが、確かな実力の持ち主である剣聖の娘である黛由紀江を抱えている事もあり、大きな可能性を秘めた軍である。


 葉桜清楚こと項羽を大将とする覇王軍。
 項羽の持つ圧倒的な強さと、その軍師を務める直江大和の人脈によって構成された軍。
 個人的武力では最強クラスの項羽に、軍師として優秀な直江大和、そして天下五弓の椎名京や兵の指揮に長けるクリスティアーネ・フリードリヒなどを部下に持つ。
 集まった生徒の数も多く、布陣としてはかなりのものだが、大将である覇王の暴走を止められるかどうかが問題である。


 赤戸柳司こと劉邦を大将とする劉邦軍。
 『項羽に勝った劉邦』という売り文句に釣られた者、副将である福本育郎に恩を持つ者、そして他の軍には相容れないアウトローな生徒たちが集った軍である。
 兵の質もそこまで高いとは言えず、単騎で強い将も多いわけではなく、統率もそこまで取れているわけではない。
 しかし士気だけは高く、おまけに情報をひた隠しにしている助っ人枠にかなりの自信があるらしい。
 また、劉邦がどの程度の能力を持っているかも未知数であるため、暫定的には下位ながらも油断はできない存在だ。


 こうして形となってきた各軍だが、模擬戦の第一戦が開始されるのは7月20日。
 まだ準備期間は二十日近く残っている。
 兵となった生徒を鍛錬し、また勝利するための策を用意する時間としては十分な時間だ。
 それによっては、戦力の差に大きな変化が現れる事も考えられるだろう……



***



「ふふふ、まぁ各軍の情報といったらこのくらいだろうな」

「大将、誰に言ってんすか?」

「お約束という奴だ島津。それより、集まった生徒たちはどうなってる?」

「おぅ! みんなやる気だぜ。もちろん俺もな!」

 校舎裏、日のあたらない場所で劉邦軍は鍛錬を行っていた。
 主な内容は筋トレ。そこに加え、持久力アップと称して川神一周マラソンを行っていた。
 それらが終わったら食堂に集まり、好きなものを好きなだけ食ってもいいという豪勢な振る舞いだった。
 ちなみに資金の出所は、劉邦と育郎のコンビである。

「やはり美味い飯と良き睡眠、適度な運動が最強だな。悪いな育郎、金を出してくれた事には感謝するぞ」

「へっ、先行投資ってやつさ」

 100人を越える人数に食事を振舞うとなれば、それには相当の金が必要だ。
 それを連日行うとなれば、金を工面するのも簡単にはいかない。
 だが福本が私物のエログッズなどを売りさばき、それを食券に変えて劉邦が賭場で荒稼ぎする。
 普通は成功しないやり方だが、そんな幸運頼みの滅茶苦茶なやり方でも上手くいくのが劉邦である。
 伊達に庶民から王様に成り上がった男のクローンではないというわけだ。

「それはそうと、助っ人の勧誘はどうなった? 自信があるみたいだったが」

「もちろんバッチリよ! 確かな実力があるって裏は取れてるからな! ちゃんと勧誘にも成功したぜ」

「うむ。それならいい。残る助っ人二名も早い所決めたい所だが……」

 劉邦は腕組みをして目を瞑った。
 育郎から聞いて誘おうと思っていた忍者がいたのだが、彼は任務中だかで連絡が取れないらしい。謀略ができる人材が一人くらいは欲しかったようだが、連絡が取れなければどうしようもないだろう。
 そして空いてしまった助っ人一枠。
 元から最後の一枠は自分の幸運任せで決めようと思っていた劉邦だったが……

「……よし、ならあいつにするか」

「大将、心当たりでもあるんすか?」

「まぁ一応な」

 育郎にそう応えると、劉邦は携帯電話を取り出していずこかへと掛け始めた。

「あ、もしもし。劉邦ですけど。ああ間違えた、赤戸柳司ですけど。はい。はいそうです。津軽海経さんいます?」

 その電話先は、九鬼のとある開発班へとつながっていた。
 ……十分後、交渉の果てに一人の(見た目)少女が助っ人になった。
 翌日挨拶に現れたその助っ人のあまりの美少女ぶりに、劉邦軍の士気が3ポイントくらいアップしたのは言うまでも無い。



 その三日後、劉邦は川神の町をぶらぶらと歩き回っていた。
 もちろん助っ人枠最後の一人を決めるためであるが、さすがに無計画すぎたのか、彼が求めるような人材にはまだ一度もめぐり合えていなかった。

「やべぇな……ちょっと自分の幸運が信じられなくなりそうだぜ」

 早起きすれば三文どころか500円玉を拾い、アイスを買えば当たり棒が出る。
 この三日間に発揮されてたのは、そんなしょうもない幸運ばっかりだった。
 それでは流石に落ち込むのも無理は無いだろう。

「つーか、めぼしい人材は全部採用済みなんだろうなぁ……今更か」

 しかもいくら皆からの信頼を得たとはいえ、丸三日ぶらついて何の収穫もなしでは流石に問題がある。
 今まで築いてきたものが壊れてしまう可能性もあった。
 そういう意味では、彼は今日誰かに出会う事に賭けていた。



 しかし、そうして街を歩いていたらいつの間にか夕方になっていた。
 そろそろ結果を報告するべき時間だった。
 重い溜息を吐きながら、劉邦がポケットから携帯電話を取り出そうとしたその時である。

「あぁ……どうしてなんだ……」

 劉邦の耳に、やたらと落ち込んだ声が聞こえてきた。
 彼はかなり近くで聞こえてきたその声のした方向へと目を向けた。
 どうやら彼の第六感が何かを感じ取ったらしい。
 小走りでそちらへ向かい角を曲がると、銀髪の女性が自動販売機の前で立ち尽くす光景が劉邦の目に飛び込んできた。

「そんな所でどうしたんだ?」

「……え? 私か?」

「他に誰がいるんだ。その自動販売機に何かあったのか?」

「実は……お金を飲み込まれてしまって」

「は?」

 なんでも彼女の言うことには、模擬戦の話を聞いて体が疼いたから川神に来たのだが、ちょっと喉が渇いたからと近くの自動販売機に小銭を入れた途端、その自動販売機が全く反応しなくなったらしい。それが500円玉だったから地味にショックも大きいんだとか。
 なんとかしようと小突いても蹴っても反応を返さず、途方にくれてついつい呟いてしまったようだ。

「そいつはまた、不幸だったな」

「あぁ。私はいつもこうなんだ……あの時も……フフ……」

 その女性は昔を思い出したのか、負のオーラを漂わせ出した。
 正直言ってとても見ていられない様子だったので、劉邦は助け舟を出してやる事にした。
 こと自動販売機については、不幸な事が起こった試しの無い劉邦である。

「ふむ……」

 とりあえず自分も試してみようと財布を取り出した劉邦は、同じように500円玉を自動販売機に投入した。
 そしてボタンを押すと普通にコーヒーが出てきた。
 380円分の小銭を回収しながら劉邦は女性に話しかける。

「別に壊れてないぞ」

「何……だと……!?」

 驚愕の表情で立ち直ったその女性は、すぐに自動販売機に張り付いた。
 かといってその女性が投入した500円玉が戻ってくるわけでもなく、彼女は打ちひしがれて今度はその場に膝を着いてしまった。

「あぁ……私だからなのか……やっぱりな……」

「おい、妙に納得して膝を突くな。しっかりしろ」

「仕方が無いだろう……だって……」

「ジュースが飲みたいなら自動販売機を見ろ。スロット付きだろ? どうせ『当たり』が出る」

 まるで当たる事が確定しているかのような発言に、自動販売機の方を見る女性。
 そして、自動販売機についているスロットに三つの7が揃っているのを見て目を見開いた。
 急いでその場から立ち上がると、女性は劉邦に話しかけた。

「ど、どどどど、どうやった!?」

「落ち着け、単純に俺がツイてるからとしか言えんぞ。あと、俺はこれで十分だから飲んでくれて構わないぞ」

「あぁ、すまない……本当にいいのか?」

「別にいいさ。気にするな」

 劉邦は銀髪の女性に軽く手を振り、さっさと選ぶように催促をした。
 それに従うようにしてボタンを押し、出てきた缶ジュースを見て喜んでいる女性。
 それを見て、劉邦は笑いながら話しかけた。

「本当に苦労してきたみたいだな。その様子を見ると」

「まぁ、な。君が羨ましいな、私はこんなもの当たった事がない。今日のようにトラブルばかりが起きるんだ」

「……そうか」

 そこで会話が途切れた。
 それでもその場を去らない理由に、劉邦が基本他人を放っておけないタイプだからというのがある。
 彼は銀髪の女性を見て、こういうのを放っておくのはどうなんだろうと思ったのだ。
 それに気になる所もある。
 女性の手足から普通と異なる感じがする事や、現在の川神に居て体が疼くという発言をした事など。
 劉邦から見て、とても面白く興味の引かれる女性だった。

「ところで、俺は赤戸柳司という。あんたが川神に来た原因である模擬戦では劉邦軍の大将を勤めてるんだ」

「……え?」

 呆気にとられた顔で劉邦を見るその女性に手を差し伸べながら、劉邦は笑顔で語りかける。

「もしよければ助っ人枠で参加してみないか? もし参加してくれるなら……その不幸体質をなんとかしてみようと思うんだが」

 返答は如何に?
 そう問うた劉邦に銀髪の女性が返したのは、力強い首肯と喜びの声だったという。



 
 

 
後書き
スーパーソルジャー計画? なんじゃそら?
有望な戦力を集めてもまだ源氏に総合力で負けてる気がするんだが大丈夫か?

 
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