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真剣で覇王に恋しなさい!

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第6話




 場所が決まったと言うクリスに誘われてついていくと、そこは第2グラウンドだった。
 今は放課後で、たぶん部活動とかがある時間帯だと思うんだが……どうせ義経との決闘の方が重要事項なんだろうな。みんなそっちに行っちゃってて部活なんて休みになっているんだろう。
 しかし、いくらなんでもこんなに早く決闘の場所が用意できるのはおかしいだろう。俺が武士道プランで生まれたクローンだからなんだろうか。
 ……そう思って聞いてみたら、学長特権でOKなんだとか。
 しかも決闘場は本来第1グラウンドだけなんだけど、それも気にしないでいいらしい。
 あの爺さん、滅茶苦茶だな。



 第1グラウンドよりはいくらか小さい第2グラウンド、そこには義経の決闘を見ていた観客のいくらかが見物に来ている。
 その中央で向かい合い、いよいよ決闘を開始するという時、クリスが笑顔で口を開いた。

「実は昨日見た時から先輩の事が気になっていたんだ。清楚先輩の前に立つ姿はすごくかっこよくて、前に見た時代劇そっくりだった!」

 時代劇という単語が引っかかったが、俺に決闘を申し込んできた理由には間違いなくこれも入っているだろう。
 どうやら、ただ単に腕試ししたかっただけじゃないらしい。

「先輩はどんな武器を使うんだ? 自分はレイピアだ!」

 既にクリス自身は学園に用意された模造品(レプリカ)のレイピアを持っている。
 対する俺は、何も持っていなかった。

「武器はいらない。俺は基本的に素手だ」

「そうなのか……どんな事をしてくるのか楽しみだ」

 俺の言葉に応じる時のクリスの顔は、凛とした戦意に満ちていた。
 どうやらちゃんと切り替えができる奴らしい。
 手強そうだ。

「それでは、二人とも無理をしないようにネ」

 そう言ったのは川神院の師範代でもあり川神学園の教師でもあるルー・リー。
 彼ともう一人、名前も知らない教員がこの決闘を監督してくれるらしい。

「友達相手に無茶などしない」

「む……手加減は必要ないぞ」

「別に手加減するつもりはないが」

 というか、そんな余裕など持てるかどうか。
 俺の第六感は、戦いが近づくにつれて高まっていくクリスの気を感じ取っていた。
 この決闘でどこまで本気になるかは知らないが、下手すればヤバイかもしれない。

「それでは二人ともいいネ? レーーッツ! ファイト!!」

 互いに名乗りを上げた俺達は、ルーの合図と同時に戦闘を開始した。
 クリスはかなりの速度で真っ直ぐに突っ込んできて、俺は守りを固めるべく両腕を軽く上げて構えを取る。
 そうしてクリスが突き出したレイピアを、俺はなんとかギリギリでかわすことに成功した。

「……速いな」

 予想以上の速度の刺突を続けて放たれ、俺は防戦一方になる事を強いられていた。しかもクリスは軽い動きで動き回るため、猛攻の合間を縫って攻撃しようにもなかなか当たりそうにはない。
 20cm以上ある身長差からのリーチを生かそうにも、クリスの武器の分を考えれば逆にこちらが不利だろう。
 今の所は急所以外の場所で受けるか勘で避けるかをして凌いでいるが、クリーンヒットを受けるのも時間の問題か。

「手を出してこないと自分には勝てないぞ!」

 手を出すのが難しい程の猛攻をしておきながらよく言ったものだが、正論には違いない。守ってばかりでは勝てはしないのだ。
 だがそろそろ一分だ、クリスの攻撃にも慣れてきた。
 大方、義経と他の生徒たちの戦いを見てヒートアップし、かなり攻撃的になっているのだと思うが、それが仇になったな。
 俺は、胸より少し下あたりで防御の為に構えていた腕を肩の高さまで上げていく。
 すると攻撃の手が止まり、クリスは少しだけ距離を取った。

「やっと動くのか?」

「あぁ。俺はここから反撃するが、それを受ける覚悟はあるか?」

「当然だ。騎士は真っ向から迎え撃つ!」

 再び距離を詰めたクリスは、俺に向かって鋭い一撃を放った。
 しかし、散々に体で受け止めた攻撃だ。
 既にタイミングもスピードも、今からやる行動が失敗した時のリスクも想像が付いている。
 だから迷わず冷静に行動した。

「何っ!?」

 クリスが驚愕の声を漏らした。
 多数の経験と無限の耐久と最高の第六感を全て有効に活用し、俺はクリスがレイピアを引き戻すよりも早く、その刀身を右手で握り締めていた。
 細い刀身だが、俺が普段扱っている物に比べればそうでもない。クリスの力では絶対に取り返せない力で、俺はレイピアの刀身を握り締める。
 掴み取る際、一瞬無防備になった左肩に一撃を受けたが、予想できていた上にこのダメージなら何も問題ない。
 もしクリスに次の手が無いのなら、ここから俺が攻撃して決闘も終わるだろうが――

「まだだ!」

 そう叫んだクリスは、俺が掴んでいるレイピアに更なる力を込めた。
 しかも引き戻す方向への力ではなく、更に前方へと全体重を乗せて。

「零距離刺突!」

 俺がレイピアを掴むと同時に、体を捻って力を貯めていたのか。
 先ほどまでのクリスとは打って変わって、かなり力任せで強力な一撃が放たれた。
 ……もしもっと冷静になる事ができていればとは思うが、一応はそれも狙い通りだ。勝てる時に勝たせてもらおう。
 だいたい、いくら至近距離からの強力な一撃だといっても、それで俺が好機を逃すはずがない。ちゃんと自身を制御する事ができる俺なら、攻撃を受けたくらいで掴んだ好機を逃す事は在りえない。
 体を制し、心を制す。
 俺が習った不倒不屈の戦闘スタイルの心得はそれだけだ。

「痛くはあったが、これで終わりだ」

 既にクリスの顔に手が届く位置だが、直接殴る事はしない。
 そういう事をしないようにと、昔に散々教え込まれた。だいたい、そんな事をしたら嫌われ者になるのは間違いない。清楚にまで嫌われるのはごめんだ。
 だから俺は右手でレイピアの刀身を掴んだまま、左手を使ってクリスから無理矢理レイピアを奪い取った。

「まだ……まだっ!」

 それでも諦めないクリスが、軽くジャンプして俺の頭部へ向かって蹴りを繰り出した。
 かなり鋭く、速く、威力も高い攻撃だったが、俺は普段手加減されているとはいえヒュームさんの蹴りを受けているのだ。
 この攻撃には、鋭さも力強さも気品も優雅さも速さも足りない。
 俺はその蹴りを、首に力をいれて頭部を固定する事で受けた。それによって蹴りを弾かれたクリスが驚愕している間に、そのスラリとした足を右手で掴んだ。
 そして俺はクリスに対して、グラウンドに背中から落ちるように優しく投げを決めた。
 本来なら思い切り叩き付ける所だが……力試しで、何よりも女性にそんな事をするわけにはいかない。

「さぁどうだ。まだやるか?」

「……自分の、完敗だ」

 仰向けに転がるクリスの傍でそう聞くと、彼女は少し悔しそうに、それでも笑顔で負けを認めた。
 まだ動ける体力はあるみたいだが、武器を取られては戦えないだろう。
 そしてそれを聞いたルーが決闘の決着を宣言する。

「決着ーッ! 勝者は赤戸柳司!」

 途端に、いつの間にか増えていた観客から歓声が沸いた。
 それを浴びながら、俺はクリスに手を貸して助け起こした。

「気遣いまでされてしまうなんてな」

「いや、これくらいは当然だろ」

「最後に投げられた時もだ……やっぱり先輩は騎士に向いていると自分は思うぞ」

「さすがにそれはどうかと思うが」

 まさか守備が高いから騎士とか言わないよな、ゲームじゃあるまいし。
 昔与一とやったゲームにそんな役割の騎士がいた気がするが、思い出せない。

「いつかまた挑戦する。その時はまたよろしく、先輩!」

「あぁ。その時はお手柔らかに頼むよ」

 俺はクリスと握手しながら、また戦う約束を取り付けてしまった。
 今日は実力をちゃんと発揮できていなかったからなんとかなったが、次回はそれが修正されている事を思うとかなりキツそうだ。
 百代の事もあるし、俺ももっと修行をつけないとな。

「自分は犬がいる第1グラウンドに戻るつもりだが……」

「俺はそろそろ帰る時間だ。清楚と待ち合わせをしている」

「そうか、じゃあまた今度!」

 すぐさま散って義経を見に行った観客の後をついていくように、クリスは腕を振って第2グラウンドから去っていった。
 ……だんだん体の各所が痛くなってきた。
 俺も早く清楚と合流して、家に戻ってシャワーでも浴びよう。



 その後、住居である極東支部に戻り、廊下を歩いている時の事だ。

「ねぇ、柳司くん」

「なんだ?」

「ちょっと怖い顔してるけど、大丈夫?」

「何!? まずい、平常心平常心……」

 体に感じる痛みのせいで悪人顔に影響が出ていたようで、清楚を怖がらせてしまった。
 そうして焦る俺を心配したのか、清楚が近づいて手を伸ばしてくる。
 その手が触れたのは、俺の左肩だ。

「いづっ!?」

「えっ……怪我したの!?」

「いやまぁ、明日になれば自然と――」

「何言ってるの! 早く手当てしないと!」

「うおっと」

 予想外の力で怪我をしていない右腕を引かれ、俺は転びそうになりながら清楚の後について歩き始めた。
 そこまで大したものではなく、たぶん体中にちょっとした痣ができてるくらいだと思うが、清楚に心配をかけてしまったのは事実だ。
 今日この後はずっと清楚に看病という名目で見張られることになるかもしれないが……それもまたよしだろう。


 
 

 
後書き

気のせいかな。
クリスが原作よりもアホの子になってる気がするんだが。

主人公の身長は相当高いです。
でもハゲ(井上準)と2,3cmしか変わらないと思えばそうでもないです。

 
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