激突部活動!! バトルク☆LOVE
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一章 希望と絶望のセレモニー
全ての発端は一週間前の如月学園に遡る。
如月学園は第三次世界大戦後に日本政府が創設した『世界トップ』の教育機関であり、初等部から高等部までが一貫となったマンモスエリート校である。そこには文武様々な分野に特化した生徒が日本国中から集められており、ゆくゆくは世界を牽引していく人材となっていくことになる。
教育水準もかなりのものなのだが、もっとも驚かされるのはその規模である。この如月学園は大戦に勝利し、日本が勝ち取ったある島に建てられたものであるため、その島丸々一つを学校の為に開拓整備したのだ。そうした結果、本州の都道府県並の大規模なものとなってしまったのである。なのでその島は如月学園本校を中心とした中央区とA地区からF地区の計七つのブロック分けがされている。さらに生徒には一人一軒の住居が支給され、島には生徒達のために作られた設備が充実している。如月学園への入学希望者の多くはこのリッチな学園生活を送りたいからという者が大多数なのだ。
もちろん勉学方面だけが充実しているわけではない。部活動にも最新鋭の技術が使われており、様々な分野の大会において優勝を総嘗めにしている。しかし部活動の多くは顧問と呼ばれるような教師はおらず、生徒達が自ら統制、管理している部がほとんどで、日々仲間同士で切磋琢磨し練習に励んでいるのだ。
そしてこのB地区にある『剣刀館』を活動場所としている剣道部も例外ではなく、生徒主導で活動している。しかしその活動内容は統制や管理とは縁のないような悠々自適で自堕落なものであった・・・
「おーい!ミナト!茶菓子まだかー?」
剣刀館の、簡素だがどこか趣きのある道場内になんとも気の抜けた声が響き渡る。道場と言っても普通の道場とは違い、その広さは普通の道場と比べると軽く三倍はあるように思う。そのうえ冷暖房完備で床暖房まで完備しているのだから、かつての電気のなかった時代の先人達が見たら怒られそうなものである。
その無駄にだだっ広い道場の角で剣道着に身を包み、一人あぐらを組みんでズルズルと茶をすする一人の少年、彼がどうやらさきほどの声の主のようだ。
「すいませ~ん!すぐにお持ちしま~っす!・・・ってうわぁ!!」
ガシャーン!という陶器が地面に激しく叩きつけられたような豪快な音が道場入口付近の給湯室から聞こえた。しかし少年はまるで聞きなれた慣れたものというように相変わらず茶をすすり続けている。
「あら、大丈夫ミナト君怪我はない?」
『あわわわ、だ、大丈夫っす部長・・・・・・あー!!琴雪堂の芋ようかんが帰らぬ人にぃ!!』
おしとやかで品のある声が気遣いを見せているようなのだが、事故の張本人はそれどころではないかのように盛大に取り乱していた。どうやら、ここらでかなり人気の高い和菓子屋『琴雪堂』の一番人気の商品である高級芋ようかんを全て床に食わしてしまったようだ。
「ちょっと京ちゃん!またミナト君こんなことさせて!たまには自分でしなさい!」
給湯室からまるで母親が子供を叱るような口調の言葉が道場内にいる少年に向かって飛んでくる。が、彼は構わず黙々と茶をすすり続けている。
ビューン!!
「グバラッ!!」
そんな彼をめがけて一閃の『何か』がすごいスピードで向かっていき見事少年の額を直撃、意識が軽く飛ぶ。先ほどの陶器とは全く違った、『何か』がぶつかった際の鈍く重い音と彼の奇声が道場に響いた。
「もう!聞いてるの京ちゃん!」
道場入口に一人の剣道着を身につけたスラッと背の高い女性が不機嫌そうな様子でこちらを見ている。怒っているのだろうが、その姿はすごく可憐で大和撫子を感じさせるオーラがある。
「・・・バッカか貴様ァ!!」
少年はガバッと活きよい良く立ち上がりその女性を睨みながら叫ぶ。
「竹刀投げんなって散々言ってんじゃねーか!てか何でその位置から届くんだよ!」
そう、先ほど彼の額を直撃したのは剣道ではお馴染みのこの竹刀である。その衝撃は彼の額の赤みでいくらか想像が可能だろう。
「だって木刀は危ないかなって竹刀にしてあげたのに・・・」
『竹刀も充分に凶器になり得るわ!!』
「でも割りと大丈夫そう!」
『じゃあ次はお前が味わってみるか?』
「無理よ、京ちゃんには竹刀を狙って投げられる領域に達してないわ!」
『顔面狙ってたのかよ!!』
テンポの良い夫婦漫才のような会話を繰り広げつつ、少年はその女性の方へズカズカと近づいて行く。右手は痛みを押さえ込むかのように額に当てられ、左手には先ほどの湯呑みを強く握ってる。先程から黙々と飲んでいたおかげか、どうやら全て飲み終わった後に強襲にあったようだ。もしまだ中身が残っていたら悲惨で恐ろしい二次災害を被っていたかもしれない・・・
「だいたいお前は部長なんだからもっと――」
『わわわ~先輩落ち着いて!』
少年が女性のすぐ近くまで攻め寄った時、二人の間の小さな人影が全身を使い必死に仲裁に割って入った。その挙動の一つ一つからは愛嬌のような愛くるしさを醸し出している。
「邪魔をするなミナト!こいつの天然さが人を殺める前になんとかしねぇと!」
『なによ!京ちゃんのグータラっぷりこそお説教しなきゃだわ!』
「なんだと~!むぐぐぐ!・・・」
二人の視線と視線は火花が弾けるかのようにぶつかり合う。最初は制止しようとしていた小さな少年も次第にその圧に当てられ怯えるかのように萎縮し、元の身長よりも随分小さく見えてしまっている。その第三者を中央に残したまま対立する両者の距離はジリジリと狭まっていき、互いの額と額とがぶつかりそうな位置まできた時、この空気は大きく一変させられることとなる。
「ハァアア!!チェストォオ!!」
『ぬはぁぁあ!』
威勢のよい掛け声と共に額を赤くした少年はサイドに激しくぶっ飛ばされた。と同時に彼の持っていた湯呑みもその手を離れ宙を舞いそしてパリンと澄んだ音を鳴らして床にその残骸を散りばめた。こう短時間にいくつも物を破壊するなんてエコノミーの欠片も感じられない部活動である。
そんなことはともかく、少年を突き飛ばしたものはというと、これがまたしても竹刀。しかし今回は遠距離からの投放されたものではなく、ちゃんとある少女に握られている竹刀であった。
「また京介さんは小春さんに言い寄って・・・なんて破廉恥なんでしょう!」
その少女は苦痛に悶える少年をまるで汚らしいゴミでも見るかのように蔑んだ目をしていた。
「・・・だ、誰もそんなことしてねぇ・・・ッウ!・・・ッガク」
そう最後の言葉を残し、少年はまさにこと切れるといった表現が的確であるかのように気絶してしまった。
さて、道場も普段通りの賑やかさをみせてきたところでこの如月学園B地区剣道部のメンバーを紹介しよう。
まず、この床で白目を剥き倒れている少年なのだが、彼は高等部2年、名前は天道京介(テンドウキョウスケ)といい、お茶や将棋などのジジくさい趣味を持つ。しかしそのような平穏な趣味とは相反して昔から何かと面倒事に巻き込まれやすいという可哀想な性質の持ち主だ。
次に京介のそばでオロオロしているこの美人は、女性でありながらこの剣道部の主将を勤めている日向小春(ヒナタコハル)である。京介とは幼い時に通っていた剣道教室で出会い、以降は彼の姉のように接してきている。学業もにおいても優秀でこの広すぎる校内でもかなりの知名度を誇っている。
そして一見小学生にしか見えないこの少年は海上ミナト(ウミカミミナト)。これでも一端の高校一年生である。ミナトは入学して間もないころ不良に絡まれていたところを助けてもらって以来、彼に付きまとうようになった。
最後に小春に引っ付いて離れないこの女の子は一年生の神崎サラ(カンザキサラ)。周囲には自称小春の付き人と言っており彼女の身の周りの世話はしたがる自己中心的な性格の持ち主である。その愛しの小春と親しい京介にはいつも嫉妬の矛先が向かうが当のサラは京介に対する罪の意識を感じることは皆無である。
長々となってしまったが以上がこのB地区の剣道部のメンバーである。彼らは毎日毎日剣道の稽古後はこのような茶番を繰り返す独自の青春の形を謳歌しているのであった。
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