八条学園怪異譚
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第三十七話 テケテケその九
「エスエルより電車なのよ」
「そうなるの」
「そうなの、ただこのエスエルは普通のエスエルじゃないから」
その石炭で動き煙を出す現実のものではないというのだ。
「だからね」
「今乗ってもなのね」
「電車と変わらないのね」
「そうよ。じゃあ乗るわね」
「ええ、それじゃあ」
「今から」
二人はテケテケの言葉に頷いた、そうしてだった。
まずは二人がエスエルの運転席に入った、続いてテケテケが車椅子で。
そして口裂け女と花子さんも乗った、五人が乗るとだった。
何処からか笛の音が聞こえてきた、その笛の音を合図として。
五人を乗せたエスエルはまずはゆっくりと動き出した、車両が置かれている線路を超えて。
後は宙を走る、学園の中をまるで線路の上を走るかの様に進んでいく。
愛実は夜の学園をそのエスエルの中から見る、そのうえで目をしばたかせて聖花に言った。
「前に博士の自転車お借りして学園の中回ったわね」
「あの時ね」
聖花も愛実と同じくエスエルの中から夜の学園を見ながら応える。
「あの時も学園中を回ったけれど」
「自転車とエスエルでまた違うわね」
「そうね」
愛実の言葉に応える。
「同じ学園の中を回ってるのに」
「何か全く違うけれど」
「自転車と列車が違うわね」
「そうよね、全くね」
「見ているものはすぐに向こうに行っていくけれど」
「すぐに新しいものが見えてきて」
また去りまた来る、これの繰り返しである。
「消えて出て来て」
「その流れがね」
速い、それがなのだ。
「独特の風情があって」
「いいわよね」
「そうでしょ、いいでしょ」
二人の横からテケテケも言う。
「あんた達も電車乗るでしょ」
「通学はバスか自転車だけれどね」
「やっぱりね」
乗るというのだ、鉄道に。
「その時はいつも外見るけれど」
「その時と同じね」
「歩いて見るのと自転車に乗って見るのとね」
「それぞれ違うわね」
「車と鉄道も」
「そうよ、それぞれの趣があるのよ」
テケテケも外を見ている、灯りに照らされた一瞬で去り一瞬で現れる夜の学園の風景を見ながら二人に話す。
「それはこの学園の中でも同じなのよ」
「こうしてよね」
「同じなのね」
「そうなの、まあ私はその列車に轢かれて死んだって話になってるけれど」
そうした言い伝えから生まれている、だがそれでもだというのだ。
「こうして列車の外から見るのはね」
「好きなのね」
「そうなのよ」
「いつも見てるわよ」
今の様にだというのだ。
「楽しいからね」
「成程ね」
「そうしてるのね」
「そうよ、エスエルはロマンよ」
電車派から見てもだというのだ。
「やっぱりいいものよ」
「けれどあんた電車派よね」
「さっきも私達にブルートレイン勧めたし」
「まあね、あっちの方がずっと便利なのは確かよ」
テケテケは二人の問いに落ち着いて答える、既に彼女の中では答えが出ていてそれを述べている感じだ。
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