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万華鏡

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第三十六話 浴衣を着てその十二

「だからなのよ」
「そういうことなのね」
「浴衣っていってもそれぞれだから」
 下にはくもの、着けるものも違ってくるというのだ。
「そういうことで、後ね」
「まだ何かあるの?」
「すりには気をつけてね」
 今度言うのはこのことだった。
「くれぐれもね」
「そうね、すりいるわね」
「ちゃんとお財布は持っていてね」
「何処に入れればいいの?」
「胸の中よ」
 そこにだというのだ。
「そこにちゃんと入れておきなさい」
「胸の中なの」
「浴衣はそこが一番安全だからね」
「浴衣と帯の間とかは?」
「落ちたりするから駄目よ」
「そうなの」
「だから胸の中にね」
 債務や貴重品を入れろというのだ。
「さもないと落とす場合もあるから」
「すりもあるし」
「胸の中、いいわね」
「うん、わかったわ」
 琴乃は浴衣の自分の胸を見て言った。
「じゃあここにね」
「入れておきなさい」
「何かいやらしい感じもするけれど」
「そういうものでもないのよ」
「違うの?」
「安全よ」
 この場合はこれが問題だというのだ。
「物事は安全第一なのよ」
「特にお金と身体のことはよね」
「そう、だからお祭りに行ってもね」
「お金のことには気をつけて」
「それで変な場所には行かないこと、一人にならないこと」
 身の危険の話もする母だった。
「いいわね」
「それもなのね」
「そうよ、女の子だから」
 それ故にだというのだ。
「年頃の女の子はいつも狙われてるって思うことよ」
「地元でも?」
「その油断が一番危ないのよ」
 地元でよく知っているからと安心する、それこそがだというのだ。
「地元だって悪い男は多いから」
「そういうことなのね」
「わかったらいいわね」
 母は琴乃にあらためて言った。
「まずは真っ直ぐに皆のところに行くところ」
「景子ちゃんの神社ね」
「そこに真っ直ぐに行って」
「後は五人で、よね」
「そうよ、大勢いたら危険も減るから」
 だからだというのだ。
「気をつけて行きなさい、いいわね」
「ええ、じゃあね」
 琴乃は母のその言葉に頷きそのうえで夏祭りに向かった、まずは胸のところに財布を入れてそれからだった。


第三十六話   完


                          2013・5・30 
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