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ドラゴンクエストⅤ~リュカとサトチー~

作者:桃色デブ
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第2話 はじめてのせんとう及びブラジリアン柔術

「パパスさん! パパスさんじゃないかっ!? 無事に帰ってきたんだね!」

「わっはっはっ。やせても枯れてもこのパパス、おいそれとは死ぬものか!」

 おとうさんは友達がたくさんいる。色んなところにいる。今もぼくの知らないおじさんと、楽しそうに笑っている。
 
「フローラ! フローラはどこだっ!! デボラでもええでっ!!!」

 サトチーにいさんは誰かの名前を叫びながら、走っていってしまった。
 おとうさんはまだ話している。話し込むと長いんだ、おとうさんは。待っているのもおもしろくないので、ぼくは港を探検することにした。
 だけど、小さな建物があるだけで、すぐに行く場所もなくなってしまった。いつもはサトチーにいさんと一緒だから、もっと色々楽しいのに。
 気が付けば、橋の近くまで来ていた。向こう側に原っぱが見える。おとうさんにはいつも、一人で出歩いちゃ行けないって言われているけれど……少しぐらいなら良いよね?
 わくわく、どきどきしながら橋を渡る。ぎしぎしって鳴る音がすごく大きい気がした。こんなに大きな音だと、誰かに気付いちゃうかな? 怒られないかな?
 考えているうちに、ぼくの靴が土に触れた。
 普段ならおとうさんや、サトチーにいさんが必ず一緒にいるけれど、今はいない。
 不思議な別世界に行ってしまったような気さえする。
 自然とぼくの足は進む。

 どんどん進む。
 気が付けば港からだいぶ離れてしまった。
 …………。
 少しだけ、怖くなった。
 まるで地面がなくなったようにさえ思えた。
 ぼくは港へ走って戻ろうとした、その時だった。

「ピギー!」

 後ろからした声に振り返ると小さな水色のモンスター「スライム」が僕を睨み付けていた。おとうさんが一緒なら全然平気だけど、今ぼくはひとりだ。
 逃げよう、と港の方へ再度走ろうと思ったけれど、そこにはもう一匹スライムがいた。前と後ろ、横にも1匹いる。逃げられない!
 どうしよう、どうしよう。ぼくはどうすればいいのか、全然分からなくなった。
 そんなぼくに向かって目の前のスライムが飛び跳ねてきた。
 ぼくは思わず腰に下げていた木の棒で叩いた。とっさの行動だったけれど、うまくいった。スライムは目を回しているのか、動かない。
 やった! そう思った瞬間背中に強い痛みが走った。ぼくは地面に顔から突っ伏した。
 いたい、いたい、いたい! 泣きそうなほど、いたい!
 忘れていた。一匹じゃなかったんだ。

「ピギャーッ!」

 後ろから聞こえたスライムの叫び声にぼくは木の棒を放り出して、頭を抱えた。
 けれど、いつまでたっても痛みはやってこない。そうっと目を開けると、そこには見知った背中があった。

「サトチーにいさん!」

「おうよ。頼れるスーパー兄貴サトチー様のおでましよ」

 サトチーにいさんが来てくれた!
 ぼくはうれしくてうれしくて、ほっとして、涙が出そうになった。本当に怖かったんだ。スライム相手に戦っているサトチーにいさんの姿がじんわり滲む。
 良かった。来てくれて本当に良かった。木の棒でスライムをやっつけようとするその姿は、とってもかっこいい。
 本当に、本当にかっこいいんだけど……かっこよかったんだけど……あっさりやられてなければ本当にかっこよかったんだけど……。

「ち、ちくしょう。スライムのくせにやるじゃねえか」

 やっぱりかっこわるい。
 気が付けばサトチーにいさんは、ボロボロで泣きそうになっている。ぼくも泣きそうだよ。
 あ、でも蹴ったり殴ったりしてる。棒で殴っている時より、何だかよく戦っている気がする。
 あ、スライムが逃げてった。

「み、見たか。見よう見まねブラジリアン柔術の強さを……。スライムにどうやって関節技をかけたのか自分でも分からんが……」

 なんかもうボロボロの格好でサトチーにいさんが言う。勝ったから本当ならすごいかっこいいのだけれど、何だかすっきりしない。

「お、親父がこっちに走ってきてるぞ。おーい、親父ー」

 サトチーにいさんが言う方を見ると、本当だ。おとうさんがこっちに向かってきてる。

「はぁはぁ、おまえたち大丈夫か」

「おう、親父。俺の初戦闘初勝利だ」

 おとうさんは溜息を一つ吐いて、ぼくとサトチーにいさんに魔法をかけてくれる。

「ベホイミっと……一人で、いやお前達二人でも勝手に外に出ないようにするんだぞ、まだまだ外は危険だ。これからは気をつけるんだぞ」

「うん、ごめんなさい」

「へーい。まぁイベント的に無理なんだけどな」

「また、おまえは訳の分からんことを……」

 おとうさんが何度目かの大きな息を吐く。

「まぁいい、そろそろ行くぞ」

 歩き出したおとうさんの背中に着いて行く。すごい大きくて、なんだかすごい強い背中だ。
 きっとさっきのスライムなんかも、おとうさんならすぐにやっつけてしまうんだろうな。すごいなって、うれしくなる。

 隣のサトチーにいさんは「ちくしょう……種系統は横取りしてでも食ってやるんだ……俺つえーするんだ……」とか呟いている。
 サトチーにいさんの背は、ぼくより少し大きいだけだ。それでもぼくが勝てなかったスライムにボロボロになりながら勝っていた。
 きっとぼくよりも強いんだろうな。おとうさんはそれよりも、ずっと、もっと。

 さっきおとうさんに一人で外に出ないように言われたけれど、おとうさんみたいになるには、おとうさんが出来ることぐらい出来なくちゃいけないんじゃないかってそう思った。おとうさんと一緒じゃあきっと戦わせてもらえない。
 あとでサトチーにいさんに相談しよう。
 はやくおとうさんみたいになりたいって。ぼくもつよくなれるかな。

 あと、ぶらじりあん……なんとかってぼくにも使えるのかな?



 



 
  
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