魔王の友を持つ魔王
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§49 終焉の刻
前書き
お疲れ様でした、ようやっと、終幕です!
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赤い塔。血潮のこびりついた赤い塔。鉄の錆びたような薫りを漂わせる、赤い塔。ドラゴンを串刺しにした鉄塔の最上階にて、事態を眺めるは魔女の王。
「ここまで、ですね……」
決断するのは、地獄からの撤退。ドラゴンの死骸が光子となって果てゆく姿を流し見て。ドラゴンはまた数分の後にここへと襲来してくるだろう。迎撃しても迎撃してもキリがない。その上長引かせれば"黒王子"や"冥王"に察知されないとも限らない。これ以上は危険だと確信する。
「これが、破魔の主の真の鬼札……」
苦渋にまみれた表情は、眼下の惨状を直視出来なくて。首都圏を飲み込み、ゆっくりと拡大していくのは闇よりも薄暗い、死色の世界。現世を塗り替えて広がるのは冥界。
「神刀を持たぬ以上、叔父上達では不利、か……」
救世の神刀さえあれば、また結果は変わったかもしれない。神刀での特攻ならば、あるいはこの馬鹿馬鹿しい大群を突破することも。だが、現実は無い。無い物ねだりなど無意味。
「狂乱の神の権能がある以上、叔父上は"鎧"を外して攻撃に転化させられない。そして現状では大聖様をもってしても決定打になりえない」
決定打になる攻撃が無い以上、こちらが何をやろうとも相手から主導権は握れない。ならば守りか。あれほどの能力ならば制限も厳しいはず。耐えれば勝ちだ。だが、激化する攻めは耐え凌ぐ事すら許さない領域に入りつつある。
「機会は失われましたね。あの方を倒す絶好の機会は」
乱戦に乗じて不確定要素を取り除くのはもはや不可能。ここから先は負け戦だ。動揺を押し殺し、グィネヴィアは冷静に戦局を分析する。
「――叔父上!」
今は、雌伏の時だ。機は必ず来る。来るべき日に勝てば良いのだ。
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「……やむを得ないか」
鋼の軍神は、魔女王との念話数秒で、あっさりと撤退を決意する。理由は二つだ。勝ち目は存在するが、ここに無い神刀があれば打倒出来る可能性は更に高まる。無理にここで決戦を挑む必要はない。もう一つは、この場の数々の存在者。黎斗を首尾良く葬っても、その後、無事に離脱出来る保証が無い。魔教教主は間違いなく敵対するだろう。神殺しとの連戦は分が悪い。他の神殺しも傍観するとは考えにくい。
「さらばだ、破魔の主よ。この勝負預ける!!」
「何?」
訝しげな顔をする黎斗。そして、それは致命的な隙となる。
「破滅の呪鎖よ!!」
一瞬の隙に、破滅の鎖が撃ち込まれる。彼が踵を返すのと、腕を黎斗に変化させた二郎真君が滅びの鎖で黎斗を拘束するのは、同時だった。彼らにとっては、ランスロットなどどうでもよく、重要なのは眼前の魔王を打倒すること。
「……ほう」
束縛された事実にも、黎斗には微塵の動揺も存在しない。自分の権能なのだ。対処法など、百も承知。
「無駄な事を。……まずは逃亡者に土産をやるとしようか」
黎斗の額が、光る。迸るのは世界を焼き尽くす超々高熱の熱線だ。大国主とシャマシュの権能で共有化したことにより、大国主のあらゆる権能が今の黎斗には使用可能となっている。だからこその、芸当。
「ぐっ……!!」
寸分違わず熱線は騎士の左肩を抉るように直撃した。それでも、軍神の速度に陰りは見られない。死地からの脱出を最優先にしているかのごとく。
「……逃げ切ったか。まぁ良い。私の目的は貴様らだ」
まんまと逃げおおせたランスロットはあっさり諦め、黎斗は対峙する神々を眺め渡す。破滅の呪鎖で束縛されているにもかかわらず、自分の優位を微塵も疑ってなどいないその姿勢に、流石の真君も冷汗を流す。これが、この場での最悪手だったことに果たしてどれだけ気が付いたのだろう。
「目には目を、歯には歯を」
「しまっ!!」
シャマシュの神託が、下る。其れはあらゆる事象を拘束する。斉天大聖が、二郎真君が、生き残った他の大聖達が、全員が破滅の呪鎖に囚われたかのごとく全身が拘束され身動きを封じられてしまう。
「天より降り注げ奈落の星々」
黎斗の声に合わせて、巨大化した不死鳥が雨霰と、熔解した鉄塊を投下する。無差別な一撃は黎斗をも一瞬で葬るが、彼は即座に再生を遂げる。連続で死に続けながら魔王は笑う。
「さぁ、どちらが先に逝くか根競べだ」
これは、不味い。確信した真君は残りの呪力を振り絞り拘束に抗う。シャマシュによる束縛は本家に劣る為、全力で抵抗すればある程度は身体の自由を得ることが出来る。だから、彼は仕切り直しを視野に入れ、この地獄から撤退をしようと試みる。
「残念だが無駄だな」
しかし、それも致命的に遅かった。黎斗の失笑が響き、彼は自分のミスを悟る。
「お前たちは逃がさない、と言っただろう」
冥界は、その強度を増していた。現世に死の気配が漂っている段階ではもはやない。世界を呑み込み、現世との繋がりを断ち切った空間と化していた。いわば、平行世界。幽世のように、生と死の境界のように、もはや彼らの居た場所は現世でも、現世に出現した冥府でも無く。
「ここは完全な冥界だ。逃げる場所など、どこにもない」
存在全てを呑み込んで。冥府は現世との繋がりを断ち切った。予想以上の最悪に、二郎真君は絶叫する。
「き、さまぁあああああああああああああああ!!!!!!!!」
「さぁ、終幕だ」
黎斗が、雁字搦めにされながらも手を向けてくる。掌に収束するのは、太陽の輝き。
「爆ぜろ」
破壊光線が、真君もろとも冥界を抉り消し飛ばす。
「さぁ、あとは貴様だけだ」
義兄弟たちは全て焼き滅ぼしたぞ、と暗に語る。
「くっ……」
斉天大聖は苦痛に顔を歪ませる。既に呪力は底をつき、満身創痍で得物も無い。唯一あるのは、不滅不朽の闘志だけ。
「まだ、抗うか」
黎斗の声に呼応して、彼の使役する神々が斉天大聖を標的に据える。
「……素晴らしい」
従属神の中で鬼神だけは感心したように鉄鞭を収め。
「天界総軍を相手にした孫さまを、舐めるな…!!」
そうだ。たかが二桁の神が何だ。命を預けられる義兄弟達は居ないけれど。幾重もの試練を勝ち抜いた如意棒は無いけれど。
「破魔の主、水羽黎斗。貴様の命を以て、我が英雄伝の終幕とせん!!」
高らかに叫び、疾走する。足下に転がっていた好敵手の得物を蹴り上げ、掴み取る。三尖刀を振り上げて。
「我が元に集え、死せる意志達」
その言葉を引き金に、黎斗の呪力が激増する。彼が生み出した存在が全て、呪力に変わり親に集う。
「ぬぅ!」
眼前で、何かイヤなモノが創られた気がした。逃げなければ、と喚く直感を意志で押さえつける。逃げ場など無く、距離にして一ミリ未満の場所にいる黎斗を倒すしか道は無いと悟っているから。
「星の生き様、その眼にしかと焼き付けよ」
黎斗の首に三尖刀が触れる直前、彼の声が脳裏に響く。彼の両腕に抱かれているのは、髑髏位の大きさの、暗く暗い渦巻く球体。急速にそれが大きくなっていく――
「爆ぜろ」
刹那、世界が弾けた。空間が歪む。冥界が軋む。破壊光線など歯牙にもかけない、破滅すらも粉砕していく崩壊に、あらゆる事物は消滅する。
●●●
「……ふぅ」
無、と言ってよい空間に、黒髪の一人の男が現れた。否、再生した。
「まぁ、こんなもんか」
敵の消滅を確認して、彼は切札たる世界の顕現化を解除する。瞬間、世界が鮮やかな色彩を取り戻す。不純物、廃棄物、あらゆるゴミを飲み込んで、冥界は縮小し消え去った。
「もしかして、やりすぎた?」
時間加速と過去への跳躍を駆使して時間を創り出す。それらの時間を全て、金属塊作成に費やす。膨れ上がる体積を圧縮、圧縮、圧縮。巨大な球体を縮小、縮小、縮小。巨大な鉄塊が形成されていく。球体の、途方もない質量をもつソレはやがて星を凌駕する質量を得る。そして、いずれその球体は己の質量に敗北する。すると、どうなるか。質量に負けた球体は自壊――重力崩壊――を始める。これを引き金として、猛烈な核融合反応が起こる。――即ち超新星爆発が、始まる。
「ぶっつけ本番だけど、意外となんとかなるもんだ」
形成しなければならない質量は膨大で。個人で瞬時にできる量ではとても無い。周囲の呪力をかき集め、冥府の呪力を総動員して出来るかどうか、と言ったところではないだろうか。そんなもの、一度放出してしまえば呪力が残る余地など介在しない。
「呪力たりねぇ身体が動かない……」
肩を竦める黎斗だが、それが限界だった。次の瞬間、視界が暗転する。もんどりうって、倒れ込む。死者に近い黎斗の身体は、呪力が切れてしまえば動かせる筈もなく。
「あ、結構マジでヤバいかも」
「お義兄様!!」
どーすんべー、などと思ってたところに現れるのは羅濠教主。黎斗の肩を抱き、膝の下に腕を潜らせ。
「……恥ずかしいんでお姫様抱っこは勘弁してください」
色々酷い。有り得ない程の美少女にお姫様抱っこされるのだ。何もかもが台無しで泣けてくる。せめて立場が逆なら良かったのに。
「今のお義兄様は雑魚同然なんですから駄目です」
流石にこの妹様の目は誤魔化せないらしい、などと思ったが自分の今の惨状を見て考え直した。一人で満足に立てない、こんな有様だと雑魚同然であることくらい誰でもわかるか、と考え直して苦笑する。
「げっふぅ…」
現実逃避に見上げた空は晴れ渡り。破壊の痕跡を微塵も感じさせはしない。
「あ゛ー…」
最善手はこれだった筈だ。チマチマ戦っていたらまず間違いなく被害は更に拡大していた。それはわかる、わかるのだが。
「周り、見たくねぇ…」
鬱屈とした気分で顔を動かせば、冥王が踵を返す姿が視界に入る。ここで黙って帰る気か。魔術を駆使して念話を仕掛ければ。
――――何、ここは密かに帰るべきだ。そちらの方が趣があるだろう?
そんな声が聞こえてきて。目立ちたがり屋と聞いていた割には……などと彼の評価が黎斗の中で若干の変動を見せる。
「主よ、遅れてすまんな。排除完遂につき戻ってきたが……この分だと問題は特に無いようだな」
「れ、れーとさん……?」
「あ」
唖然とする恵那と頭を下げるジュワユーズ。おそらく頑張って走ってこちらまで来てくれたのだろう。それに対してこちらはお姫様抱っこをされている。なんか気まずい、どうしよう。
「!? 誰です!!」
頭を回転させようとした矢先、羅濠教主の叱責が飛ぶ。瞬間、不可視の空圧がビルの残骸を粉微塵に粉砕した。
「けほっ、けほっ……」
現れたのは、褐色の肌の黒髪の女性。例によって美少女だ。
「貴女は……」
意外過ぎる人物の登場にアレクが、羅濠教主が、ドニが驚きに目を見開く。
「なんで……なんでこの時代に貴女がいるんだ?」
そしてジュワユーズの口から洩れた言葉。これを理解できるのは、おそらくこの場に数人も存在しないだろう。
「とりあえず戻ってこれましたので。ご挨拶を、と。最後にお会いしたのはフリードリヒ大王の時でしたっけ?」
そして周囲の混乱などどこ吹く風で、聖女とでも呼ぶべき気品を纏った少女は黎斗に対し微笑みかける。その仕草は、初対面の人間にするようなものとはまるで違う。
「……なる、ほど」
黎斗の中で全てが繋がった。世界を旅する最中に会ってきた謎の美少女。まさか”同胞”だとは夢にも思わなかったけど。数百年に振りにあって容姿が変わっていない時点で怪しむべきだった。
「成程。つまり真の意味で会うのはここが初めて、だね」
今までは偽名やら地方での通称やらばっかりでロクに自己紹介をしてこなかったな、などとこのタイミングで思い出す。
「初めまして、アイーシャ夫人。水羽黎斗です、ヨロシク」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたしますね」
――歴史の改竄者達は、幾百年の時を経て、真の意味で邂逅した
後書き
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オマケ
甘粕「……馨さん馨さん」
馨「どうしたんだい? 今首都壊滅の隠蔽工作をやってるから連絡は後にしてくれ」
甘粕「魔王の皆様、全員日本にいるんですが、どうしましょう」
馨「!?」
ってなワケで。
カンピ全員出せたどー!!(嬉
ぶっちゃけ夫人の能力が黎斗に絡ませやすいという便利仕様すぎてもう……
おかげで結末までの道のり大幅短縮ですよもう(何
何はともあれ果てしなく長かった大聖編でしたね。お疲れ様でした&お付き合いありがとうございました
m(_ _)m
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