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扇言葉

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第四章

「私はそう思いますが」
「そういうものでしょうか」
「はい、それでなのですが」
 美女は今度は扇を開いてその頬を隠した、その意味は」
「私のことをよりよく知りたい」
「そう思っています」
 扇でその考えを告げたのである。
「宜しいでしょうか」
「私でよければ」
 アイルマンは美女のその言葉に応えた。
「そうさせて頂きます」
「有り難うございます、それでは」
「はい、それでなのですが」
 今度はアイルマンからだった、美女に対して問うた。
 彼は扇を持ってはいない、その口で直接問うたのである。
「貴女のお名前は」
「リーザと申します」
 まずはその名から名乗るのだった。
「リーザ=ゴルチャコワと申します」
「ゴルチャコワといいますと」
 アイルマンはこの名前を聞いてすぐにこう言った。
「ゴルチャコワ子爵の」
「父を御存知なのですね」
「近衛師団の方ですね」
「はい、そこにいます」
「ゴルチャコワ少将のご息女でしたか」
 つまり将軍閣下の娘だ、目の前にいる彼女はそうした女性だったのだ。
「そうでしたか」
「あの、それでなのですが」
「はい、何でしょうか」
「父の爵位や階級のことは置いておきまして」
 それは今は余計なものだというのだ。
「それでなのですが」
「はい、では」
「二人で色々とお話をしませんか?」
 扇で頬を隠したままアイルマンに言う。
「そうしたいのですが」
「では」
「はい、それでは」
 これがアイルマンとリーザの出会いだった、この宴の時に出会いそれから宴の度に話をした、そのうえでだった。
 リーザは何度目かの出会いの時に扇を開いた、そしてだった.。
 その扇で目を隠す素振りを見せた、それはというと。
「私のことがですか」
「一度、父とお話をしてくれませんか」
 こう彼に言ったのである。
「貴方は伯爵家の方ですね」
「はい、次男です」
 家は兄が継いでいる、そのこともあって彼は軍人になっているのだ。
「そして貴女は」
「私は長女ですが」
 それでもだというのだ。
「兄がいまして」
「その兄上がですね」
「家を継ぎます」
「では貴女は」
「はい、おそらくですが」
 こう前置きしてからアイルマンに対して己の身の上を話した。
「嫁ぐことになります」
「そうですね」
「ただ、相手のことはまだ言われていませんので」
「今はですね」
「はい」
 アイルマンに対して微笑みを向けて述べた。
「ご一緒させて頂いて宜しいですね」
「喜んで、それでは」
「今から何をされますか?」
「ダンスはどうでしょうか」
 リーザの方から微笑んでの提案だった。
「それは」
「そうですね、またはじまるところですし」
 それならと、アイルマンも乗ることにした。 
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