出会えた奇跡
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第三章
それでロシアに相応しい三重の扉と窓の厚い壁の家に入ると。
親父さんがまず出て来た、背が高い赤ら顔のゴルバチョフみたいな髪型のおじさんだ。何故赤いかはロシアならば言うまでもないことだ。髪型はあれだがすらっとしている。
「ああ、いらっしゃい」
「はい」
「話は聞いてるよ」
おじさんは上機嫌にコルチェンコ、娘と共にいる彼に声をかける。
「エカテリーナからね」
「それじゃあ」
「さあ中に入った入った」
話はとんとん拍子に進む。
「もう色々と用意は出来てるよ」
「わかりました」
コルチェンコは勧められるまま家の中に入りそうしてだった。
家のリビングに案内された、そこには。
エカテリーナの祖母に母親、それに姉がいた。その誰もが。
エカテリーナと同じ顔だった、そして同じ声で言ったのだ。
「ようこそ我が家に」
「貴方のことは聞いてますよ」
「それじゃあ今からね」
話をしようというのだ、ご馳走を食べながら。
ご馳走はロシアのボリュームのあるサラダに牛肉を焼いたもの、ボルシチに黒パンだった。勿論ウォッカもある。
ロシアの家庭料理だ、素朴だが美味い料理に酒も楽しんだ。
家族は皆コルチェンコと話をしてその人柄を見て言ってくれた。
「じゃあこれからもね」
「うちの娘を宜しくね」
「何時でも来ていいから」
家族からお墨付きまでもらった、このこともよかったが。
彼女の遺伝のこともわかった、皆痩せている。
ロシアではいささか困ったことかも知れないがコルチェンコにとってはよかった、それで彼は同僚達に仕事帰りの居酒屋で笑顔で話した。
「決めたよ」
「結婚か」
「そうするんだな」
「ああ、奇跡だよ」
こうまで言うのだった、この日もウォッカを飲みつつ。
「あれだけ綺麗で優しくてな」
「しかも痩せている」
「遺伝的にもな」
「もう結婚しないでいられるか」
コルチェンコ的にはそうなることだった。
「今度プロポーズするからな」
「まあな。痩せてる人がいいんならな」
「それでいいよな」
「ああ、もう迷わないさ」
コルチェンコはエカテリーナと出会え結婚出来る奇跡に感謝した、そうしてプロポーズをして結婚したのだった。
エカテリーナは結婚して子供が出来てからも痩せていた、このことはよかった。
だが結婚して三十年後、もういい歳になっているコルチェンコは今もウォッカを愛しておりそれを仕事jの休憩中にちびりとやりながら古い付き合いの同僚達にぼやいた。
「俺もだけれどな」
「御前も?」
「御前もっていうと?」
「いや、うちの息子な」
今話すのは彼のことだった。
「まだ二十八だけれどな」
「息子さんもう結婚したよな」
「子供出来たのか?」
「孫が出来たら明るく言うだろ」
こう返すコルチェンコだった。
「その場合はな」
「まあそうだな」
「普通はな」
「孫はまだだよ。別のことだよ」
その浮かない顔になる話だというのだ。
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