ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
三十二話:どこの世界でもいるものです
「……ずびばぜん、でじだ!!ごどざだいで、ぐだざい!!」
「……ドーラ。……どうしよう?」
目の前には、大泣きしながら土下座して命乞いする、魔物。
困りきった顔の、ベラ。
魔物を威嚇しつつ私の指示を待つ、モモ。
視界の端に、まだ呆けてブツブツ呟いてる、ザイル。
……どうしてこうなった。
いかにもボス戦らしい、緊張感溢れる戦いだったんですよ。
凍りつく息がある以上どうやっても無傷とはいかないから、まずは物理ダメージだけでも軽くできるように、私が全員にスカラをかけて。
その間も待ってくれるわけないから、スカラが間に合わなくて受けたダメージは、ベラがすぐにホイミで回復してくれて。
防御を固めるまではモモには身を守らせて、固まってからはひたすら攻撃。
回復役のメインは、私がスカラを唱えてる間はベラ、その後ベラがルカナンを重ねがけする間は私。態勢が整ってからは、ベラ。
セオリー通りにガッチリ固めて挑んだけど、全体攻撃がやっぱり強力で、何度か危ない場面があった。
私がべホイミを使えるし、体力も多いはずだから、私のほうが見た目キツそうでも、ベラには自分とモモの回復を優先してもらって。
私のほうは手が空けば早めに回復するけど、無理ならギリギリまで我慢することで、なんとか凌いだ。
ゲームと違って、数字だけの話じゃないから。
痛みを堪えて動き続けるのも相当辛かったけど、やらないと死ぬから。
パパンに過保護に守られてきて、こんなに痛い思いをするのも、それに耐えて戦うのも初めてだったけど。
歯を食い縛って、耐えた。
だけど相手がいくら強くても、こちらは回復できる三人パーティーで、あちらは回復ができない一人。
瞬殺されるほど力の差があるわけでは無い以上、判断さえ間違わなければ、こちらの勝ちは時間の問題で。
とうとう相手を打ち倒して、止めを刺そうと、したんだけれども。
それまではボスらしく、強者の余裕のようなものを醸し出してたオカマが急に取り乱して、冒頭の有り様に。
「わだじが、わどぅがっだでず!!びどがじで、ぐだざい!!」
……どうして、こうなった。
……やっぱり、アレかね?
初めて人型のものを殺す、一瞬の躊躇いのようなものが、存在して?
ヤツに、取り乱す隙を与えてしまったのかね?
すぐに止めを刺せば、余計な恐怖も与えなかったものを。
いかに悪者とは言え、可哀想なことをした。
よし、すぐに楽にしてやるからね!
「……あなたは、わたしたちに、しねって、いいました。わたしは、しぬわけには、いきませんから。わたしを、ころすひとを、このままには、できません。……わるく、おもわないで、ください」
せめて、ひと思いに殺ってあげるから!!
と、ひのきの棒で撲殺よりはマシだろうと、ブーメランを勢い良く振り上げる私。
「ひいいいーー……!!」
「ちょ!!ドーラ!待って!」
の腕を、ベラが慌てて抑えます。
何故、止める!?
「ベラさん!はなして、ください!」
「ダメよ、ドーラ!殺しちゃ、ダメ!!」
「でも、そうしないと、わたしたちが」
「大丈夫だから!コイツにもうそんな力も、気力も無いから!」
そりゃ、今はそうだろうけど。
逃がして回復したら、復讐に来るかもしれないじゃん!
「いまは、そうでも。ひとを、ころそうとした、まものです。にがして、だれかがころされるのは。わたしは、いやです。」
私はこの後、もっと強くなる予定だし。
それまではパパンがいるから、寝首をかかれることも無いだろうけど。
ベラは、そうもいかないでしょ?
「このひとの、いのちよりも。わたしは、ほかのひとのいのちが、たいせつです。だから……わるく、おもわないで、ください」
再びブーメランを振り上げようと、構える私。
が、振り上げる前にオカマが叫びます。
「ごどじばぜんがら!!ごどじだごど、あでぃばでんがら!!」
何度も恐怖を与えて済まない、今度こそ……!!
……ん?
なんて、言った?
「……もういっかい、いって、ください」
「びどを、ごどじだごど、あでぃばでん!!」
人を、殺したこと、ありません?
「……くわしく、ききましょうか」
場合によっては、命を拾えるかもしれないね?
泣きながら喋られると聞きづらくてしょうがないので、とりあえずオカマが落ち着くのを待ち。
正座して身を縮めるオカマから、弁解を聞きます。
「……ころすつもりは、なかったんですか?」
「……はい」
「なら、どうして、あんなこと、いったんですか?」
生かしては帰さんとか、死ねとか。
「……そのほうが、雰囲気が出るかと思い……」
どんな雰囲気だよ。
「……なにが、したかったんですか?」
「……雪の、女王を……」
「なんですか?」
ぼそぼそ喋るな。
「……そういうのが、雪の女王っぽいかと……」
「……なんですか?」
雪の女王っぽいって、なにさ?
言いにくそうにぼそぼそ話すオカマの証言を、要約すると。
自分は最近、故郷の村(同種族の魔物が集まる場所)を出てきたばかりだった。
故郷では、オカマ呼ばわりで気持ち悪がられ、力も弱いほうなので、いじめられていた。
故郷を遠く離れ、自分を知っている者もいないので、これを機会に魔法で姿を変えて、女として生きていこうと思った。
周りは弱い魔物ばかりで、相対的に強くなり、オカマ扱いからも解放されて、気が大きくなっていた。
女性としての過去の設定を作るうちに、調子に乗ってしまった。
ちなみにその設定は、人並み外れた美貌と強い力を持つ故に高嶺の花として扱われ、周囲から孤立してしまった孤高の美女。
人に避けられているうちに、やがて人そのものが煩わしくなり、生命の気配が薄く、全てを雪で埋めつくしてくれる静かで美しい季節、冬を愛するようになる。
氷の美貌と心を持つ、そんな彼女の二つ名は。
誰が呼んだか、雪の女王。
……えーと。
つまり、厨二病ですか?
あの禍々しさは、邪気ですか??
「まものに、しねって、いわれたら。にんげんは、ほんきに、しますよ?」
「すみませんでした……」
「ころすつもりがないのに、どうして、こうげきしたんですか?」
「痛め付けて、口止めしようかと……」
「さいしょから、みせなければ、よかったですよね?」
「役作りで、つい……勢いで」
そんなノリであんな苛烈な攻撃加えられたら、笑えないんですが。
「ころしは、しませんけど。おはなしが、ひつようですね?」
「本当に、すみません……」
そんなわけで本日二度目のお説教を開始する、私。
愛は無いことはザイルと変わりありませんが、過去の話には同情すべきところもあり。
かと言ってやったことは、簡単に許されるようなことでは無く。
自分が散々痛い目にも遭ったので、熱も入ります。
が、まあ妙に細かい設定とか考えつくだけあってザイルほどのお馬鹿さんでは無いため、理解が早く。
不可抗力で与えてしまった死の恐怖のせいもあって、十分に反省もしており。
必要なお話は割と早く済んだので、あまり必要では無いことを聞いてみます。
「ザイルくんは、どうして、あんなふうに、なってるんですか?」
いまだになにかの衝撃から立ち直れずに、ブツブツ言ってるんだけど。
単に唆されて盗みを働かされただけにしては、おかしくね?
「そ、……それは……」
ポッと頬を赤らめる、オカマさん。
……ああ。
わかったかも。
後書き
一度、殺す方向で書き始めてみたら必要以上に重くなったので、やめた結果。
どうして、こうなった。
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