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ファルスタッフ

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第一幕その六


第一幕その六

「そして笑いものにして」
「それはいいわね」
 ナンネッタが母の言葉に相槌を打つ。
「あの酒樽親父だけれど」
「ええ」
 四人の女達が話しに入る。
「今でも男前の若い人とおなじような足取りらしいわ」
「まるで大砲みたいな身体なのに」
 クイックリーも容赦がない。
「何とまあ」
「嵐の時に大波が打ち上げた鯨そっくりなのに」
 メグも言う。
「私も仲間に入れて」
「貴女もなのねナンネッタ」
「ええお母様。そのかわり」
「わかってるわ。それにしても」
 またファスタッフのことを言うのだった。
「こんな破廉恥な手紙を送ってくるなんて」
「大砲みたいに破裂させてやりましょう。女の微笑みとウィンクと足取りで」
「その通りですわ」
 メグとクイックリーもまた話す。
「あの鯨を懲らしめて街中で笑ってやりましょう。陽気な女房達の笑いで」
「これに上手くいけば私は彼と」
 ナンネッタはあることを考えていた。
「幸福になれるわね。二人で」
「とにかく結構よ」
「女房達の陽気な復讐は今はじまりますわ」
 そんなことを言い合っている。見れば庭の離れたところでは男達も話をしている。あのカイウスとピストラ、バルドルフォが二人の初老と青年の男にそれぞれ話をしている。初老の男は茶色がかった金髪に黒い目の額の広いブラウンの服とダークブラウンのズボンの男で青年は立派な眉目に黒い目、鮮やかなまでに光り輝く金髪に高い鼻を持つ美しい男だ。服も青い上着と黒いズボンに赤いマントと立派である。三人は彼等に言っていたのだ。
「あの男は無頼漢でいかさまが得意で盗人で悪党で分からず屋で壊し屋なのです」
 カイウスが忌々しげな顔でまくしたてている。
「先日も私の家を滅茶苦茶にしてくれまして。この二人ですが」
「そのファルスタッフ卿の従者達ではないか」
「左様です、フォードさん」
 初老の男に対して答える。
「だからこそ信用できます」
「ふむ」
「まずはですね」
 バルドルフォが話す。
「旦那様は不埒なことを考えています。慎重過ぎると貴方は助かりません」
「やけに物騒だな」
「それを防ぐ為に、貴方を泥沼に入れない為に私は来ました」
「私もです」
 ピストラも名乗り出る。
「まず我々は馬に乗る身分です」
「うむ」
「その誇りにかけて言いましょう」
 つまり真実というわけだ。誇りにかけて。
「旦那様は貴方に対して仕掛けるつもりです。詐欺師、いえならず者に狙われています」
「フォードさん、どうされますか」
 青年がフォードに対して問う。
「どうというとフェントンさん」
「あの男を懲らしめてやりましょう」
 フェントンの提案はこうだった。
「あのふてぶてしい太っちょを。凝らしめて地獄に送ってやりましょう」
「地獄にそうです」
「さあフォードさん」
「今こそ」
「旦那様に天罰を」
「少し待ってくれ」
 そのフォードは困惑した顔で四人に言うのだった。
「何か?」
「頭が混乱する。雀蜂が飛び回ってしかも熊蜂まで喚いていてしかも大風をはらんだ雨雲が暴れているようだ。全く何が何だかわからない」
 それだけ混乱しているのだ。
「そもそもだ。ファルスタッフ卿は何を企んでいるのだ?」
「貴方の家に押し入り」
「ふむ」
 まずはピストラの話を聞く。
「貴方の奥さんとねんごろになって金庫のお金を拝借しようとしているのです」
「何と」
「それはとんでもない」
 それを聞いたカイウスとフェントンが思わず声をあげる。
 
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