遊戯王GX ~水と氷の交響曲~
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ターン25 捨てられたモノと見捨てられた者
前書き
よくネタにされてるから今更だけど、マジであの井戸はなんなんだろう。モノマネ幻想師とかサクリファイスとか捨てるぐらいなら譲ってほしい。それとFAランサーさん登場おめでとう。当てたら無印と取り換えよっと。
「狭い、狭い、狭すぎる!この寮は何をやるにも狭ーい!」
「うるさーい!」
のんびり昼寝していたとある日の昼下がり、いきなり隣の部屋で万丈目がわめく声が聞こえた。とりあえず安眠妨害の罰としてドア一枚開けて万丈目の部屋に入り込み、そのまま蹴りの一つでも喰らわせようとして………何か部屋そのものに違和感を感じた。おかしいな、僕や十代の部屋も狭いっちゃその通りだけど、床が見えなくなるほどひどくはなかったはず。というかなんだこれ。………ふむ。
「おお、フカフカだ」
「あ、こら!人のベッドで勝手に飛び跳ねるな!」
そこにおいてあったのは、どう見てもダブルサイズはある馬鹿でっかいベッドと部屋の端から端までいきわたるほど大きなソファー。ふと玄関を見ると、このバカデカグッズを運び込むためか扉が取り外されていた。でもこれ、扉を外しただけで通るようなサイズとは思えないんだけど。わざわざバラしてから入れたんだろうか。言えば手伝ってあげるのに、まったく意固地というかなんというか。と、そこに騒ぎを聞きつけたのか十代と翔がやって来た。
「おーい万丈目!お、なんか楽しそうだな!俺もやるぜ、それっ!」
「あ、僕にもスペース分けてくださいよアニキ~」
「おい十代、どうせ言ったところで止めないのはわかっているからせめて靴を脱げ!」
ベッドでポンポンと飛び跳ねる僕がそんなに楽しそうに見えたのか、すぐに二人とも真似して飛び跳ねる。うわ、ちょ、いくらでっかいベッドでも4人は狭いって!
「そんな無理に入ってきたら……うわああっ!?」
無理矢理入ってきたせいでバランスが崩れ、3人そろってベッドから転がり落ちる。なぜか僕が一番下になったせいで2人分の体重がダイレクトにきて痛い。
「十代、一体何しに来たのさ…………」
「そうそう、忘れるとこだった。万丈目、校長先生が呼んでるぜ。大事な話があるんだってよ」
「はあ?」
はて、なんだろう。まさか万丈目がこんなでっかいベッド運んだせいで壁ぶち抜いたことが今度こそばれたかな?……………とりあえずついてこう!下手に逃げると後でどーなるか分かったもんじゃない!
「………で、万丈目グループが来るわけかぁ」
『そーだな』
ありがたいことにって素直に喜んでいいのかどうかわからないけど、とりあえずまだ改築の件はばれてないようでよかったよかった。いやよくないけど。なんでも、この学校を『財界、政界、そしてカードゲーム界』が合言葉の万丈目グループが買収しようとしているらしい。このあいだ十代が万丈目に勝ったのがよっぽど悔しかったんだろうか。当然鮫島校長は抵抗。そこにこの学校のオーナーからの鶴の一声がかかり、万丈目グループ側が出した『お互いに代表者を選びデュエル、ただしアカデミア側は万丈目準を出してデッキのモンスターはすべて攻撃力500以下』という言ってて情けなくなってこないのが不思議でしょうがないぐらいの条件を快諾。まあ、それだけこの学校のことを評価してるってことなんだろう。というか、そうとでも思わないとやってられん。
「でもさ、万丈目」
「なんだ」
「………正直に答えて。攻撃力500以下のモンスター、何枚持ってる?」
「……2枚」
わお。VWXYZといいアームド・ドラゴンといいどうもパワーデッキばっかりだから嫌な予感はしてたんだけど、まさか2枚ですか。
「ち、ちなみに何と何?」
「貴様とのデュエルで使ったミンゲイドラゴンと、何回抜いても勝手にデッキに入ってくるこの雑魚だけだな」
『もー、そんなにオイラのことを雑魚雑魚言わないでよ~。確かにオイラは攻撃力0だけど、オイラの兄弟と力を合わせればきっと強くなれるから、だからお願い万丈目のアニキ、オイラの兄弟を探してよぅ』
「おいーっす、おジャマ・イエロー」
『あらこんにちわ。ねえ清明のアニキにシャーク・サッカーの旦那も、オイラの兄弟のこと何か知らない?』
そう言ってこっちにすり寄ってくるおジャマ・イエロー。だけど、この会話ももう8回目ぐらいなんだよなあ。万丈目がいつまでたっても探し出さないから見てらんなくなって結構いろいろと探してはいるんだけど、なにせ情報が少なすぎるんだよね。
「万丈目君、お困りかニャー?」
「大徳寺先生?」
そこに声をかけてきたのが、我らが大徳寺先生。この人、いつも突然何の脈絡もなく出てくるんだもんなあ。
「いい話を教えてあげるのニャ。実は、この学校の裏に………」
「ねえ万丈目、その井戸ってどこにあるんだろうね」
さっきから30分は歩いているのに、いつまでたっても森しか見えない。つくづく学校1つ立ってるだけにしちゃ広い敷地だよなあ、この学校。島一つ分あるんだから当たり前か。
「知らん!というかなぜお前たちがついてくるんだ!」
『説明しよう!俺らはついさっき、大徳寺先生からこの学校の涸れ井戸に弱小カードを捨てた馬鹿が何人もいる、という情報を手に入れた。万丈目は今、その場所を最後の可能性として歩いているのだ!そして俺らは、そこにさも当然のような顔をして面白そうなのでついていくのであった!』
「……ユーノ、誰と喋ってんのそんなハイテンションで」
「あ、私はもしワイトとかチュウボーンとかのカードが落ちてたら回収しようかと思って、だってさ」
「相変わらずこっちはこっちで全然ぶれないのね。だがそれがいい……おっと、なんでもないよ」
『お前もお前で最近変態度が入学当初に比べて増してきたな。まあ寮に男しかいないんだからそんなもんなのかもしれんが』
暇なときはひたすら途切れないように会話をつなげる。いつの間にか確立していた僕らの暇つぶしの黄金パターンです。お、なんか浮いてる。
『浮いてるな』
「飛んでますな」
そこにいたのは、白くて半透明でふわふわ飛び回ってて、といかにもと言った感じの幽霊、のような何か。でも、特に緊張はない。何かあるならとっくの昔に霧の王やチャクチャルさんが黙ってないだろうし、特に害はないんだろう。多分。あ、気づかれた。
「突っ込んできた!?うわ、や~ら~れ~た~………ってアレ?」
なんとこの幽霊、よほどしつけがなってないのかいきなり突っ込んできた。反射的にギュッと目をつぶって痛みに耐えようとしたけど、いつまでたっても痛くない。体を通り抜けた時にちょっとひんやりした感じがしたけど、ただそれだけ。
「痛みはない、な。恐らく、こいつらは攻撃力0のカードの亡霊なんだろう。目的地は近そうだ」
隣を見ると、万丈目も同じような幽霊にたかられてた。うーん、成仏させてあげたほうがいいんだろうか。まあでもやり方もわからないし、とりあえず放っておいて夏場に暑くてたまらなくなったら体を通り抜けてもらおう。きっと涼しくなる。
「さっきから、いったい何が見えてるの?だってさ」
精霊が見えないせいでいまひとつ状況が呑み込めてないらしい夢想にたいして肩をすくめて見せ、僕たちはもう少し歩いてみることにした。
………そこから道を間違えて30分ほど無駄に歩き回り、結局井戸が見つかったのはこの地点から徒歩1分の場所だったのは密に、密に。
「む、辛気臭い井戸だな」
「まあまあ。よし、降りるぞー!」
「おー!」
万一水がたまってたらえらい事になるので、わざわざ持ってきた懐中電灯で照らしてみる。あ、カードがあっちにもこっちにも落ちてる。やっぱり本当のネタだったんだ、カードを捨てる井戸。正直なところ、本当にカードを捨てる人がいるなんてまだ半信半疑だったんだよね。
そして三人とも降りて、とりあえず足元のカードを物色する。あ、これ攻撃力600あるや。もったいないから回収はするけど。そうやって拾い集めていくと、なにやら隅のほうで動く気配がした。
「ん?」
あれから一日。万丈目兄と万丈目の学園を賭けたデュエルとあって、全校生徒のほとんどが早いうちから詰めかけてきていた。ちょっと万丈目に用があったせいで場所取りに遅れちゃったけど、立見席でいいから空いてる場所があるだろうか。
「お、清明。こっちだこっち!」
「ほら、こっちっスよ!三沢君が僕たちの分の席も確保しておいてくれたんだ!」
ラッキー。やっぱ、持つべきものは友達だね。感謝しながら席に着くと、十代に三沢に翔に隼人に夢想と、ブルー生特別席に座っている明日香とカイザーを除くいつものメンバーが揃っていた。昨日はあれだけ落ちてたカードの中にワイトが一枚もなくて結構へこんでた夢想も、もうすっかり元気そうだ。
「ってあれ?夢想、あっちの席じゃなくていいの?僕が言うのもなんだけど男ばっかだよここ」
『ホントにお前が言うのもなんだな。というか空気読んでさっさと爆発しろ』
「………ん。いいの、だってさ」
「そ」
やった嬉しい。普段は寮が違うからどうしてもレッドの皆より会う頻度は低くなっちゃうから、こういうチャンスは無駄にしないようにしないと。………まあどうせ僕のことだから座ってるだけしかできないだろうけどな!
『ヘタレ。ムッツリスケベ』
るっさいわ。
「お、始まるみたいだぜ!」
十代の言葉通り、ゆっくりとデュエル場の両脇の入場口からそれぞれ万丈目兄弟上から二人と我らがサンダーのほうの万丈目が出てきた。やったれー、万丈目ーっ!
「兄さん、デュエルの前に一つだけ言わせてもらう。兄さんは俺にハンデとして、デッキのモンスターを全て攻撃力500以下のものにするよう言ったな」
「ああ、言ったとも。それがどうした?今更条件を変えろとでも?」
落ち着いた雰囲気の万丈目にいらだちを感じたのか、どこかムキになったように突っかかる万丈目兄………えーと、正司のほうだったっけ。
『長作の方だぞ』
あ、ごめん万丈目兄。間違えた長作だった。
「フッ、まさか。俺が言いたいのは、俺が組んだこのデッキのモンスターの攻撃力はすべて0だということだ!」
「何!?貴様、私のことを馬鹿にしているのか!もういい、始めるぞ!」
「「デュエル!」」
「先攻は私だ、ドロー!サファイアドラゴンを通常召喚する!」
当然サファイアの青いドラゴンが出てくる………と思ったのもつかの間、なんかやたらとキラキラして虹色のオーラっぽい物が全身から立ち上ってる、サファイアというよりもプリズムサファイアドラゴンとでもいうべき何かが出てきた。とりあえず、僕の知ってるサファイアドラゴンと違う。というか長作さん、自分から攻撃力500以下って言いだしておいて万丈目が全部0宣言した瞬間怒るとかあんまりじゃないですかね。
『パラレルレアだな』
さっすが金の力で作ったって本人も認めるだけのことはある。いくらしたんだろう、あれ。
サファイアドラゴン 攻1900
「私はターンエンドだ。さあ準、お前の雑魚モンスターを見せてみろ!」
「ドロー!俺の場にモンスターが存在せず相手の場にモンスターがいる時、このカードは手札から特殊召喚できる!来い、アンノウン・シンクロン!」
万丈目が出したのは、丸まった銀色のダンゴ虫に触角を付けたような見た目のモンスター。でもなんで攻撃表示?アドバンス召喚するから表示形式はどっちでもよかったとか?
アンノウン・シンクロン 攻0
「さらに手札から、ガンバラナイトを通常召喚!これも攻撃表示だ!」
ガッチガチの鎧で全身を包み、さらに両腕に盾を装備した騎士が颯爽と地面に降り立つ。万丈目、いったい何を狙ってるんだろう。
ガンバラナイト 攻0
「カードを4枚セットし、ターンエンドだ」
そして攻撃力0のモンスター2体を特に何かすることなく、カードだけ伏せてターンを終える万丈目。1ターンで手札全部使い切っちゃったけど、あんなハイペースでいいんだろうか。まあ、こっちとしては万丈目を信じてるぐらいしかやることないんだけど。それに、あのデッキにはあのカードたちが入ってるんだ。きっと大丈夫。
長作 LP4000 手札:5 モンスター:サファイアドラゴン(攻) 魔法・罠:なし
万丈目 LP4000 手札:0 モンスター:アンノウン・シンクロン(攻)、ガンバラナイト(攻) 魔法・罠:4(伏せ)
「私のターン、ドロー!手札の融合を発動、同じく手札のロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-と神竜ラグナロクを融合!来い、竜魔人 キングドラグーン!」
案の定というかなんというか、パラレルレア仕様のキラキラした竜人がその巨体を見せる。
竜魔人 キングドラグーン
融合・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守1100
「ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-」+「神竜 ラグナロク」
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手はドラゴン族モンスターを魔法・罠・モンスターの効果の対象にする事はできない。
1ターンに1度だけ、手札からドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「さらにキングドラグーンの効果発動、ワンターンに一度手札のドラゴンを特殊召喚する!来い、ダイヤモンド・ドラゴン!」
当然パラレルレアの以下略。
ダイヤモンド・ドラゴン 攻2100
「さらにこのターン、私は通常召喚をしていない!ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者を召喚!」
当然パラ以下略の、竜のオーラを纏った女性魔法使いが長作のドラゴンたちの前に半透明の壁を張る。ねえ、この人本当に初心者なわけ?
ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1500/守1100
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分フィールド上のドラゴン族モンスターを相手は攻撃対象に選択できない。
フィールド上のこのカードが戦闘またはカードの効果によって破壊される場合、
代わりに手札からドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
『キングドラグーンである程度の効果耐性、ドラゴン・ウィッチで戦闘破壊耐性………まるでお手本みたいにいいコンボだな』
「バトルだ、キングドラグーンで……」
「待った、その前に伏せカードのうち3枚を発動、すべて捨て身の宝札だ!俺の場のアンノウン・シンクロンとガンバラナイトの攻撃力合計は0で、兄さんのドラゴン・ウィッチより低い!従ってカードを6枚ドロー!」
捨て身の宝札
通常罠
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター2体以上の攻撃力の合計が、
相手フィールド上に表側表示で存在する攻撃力が一番低いモンスターよりも低い場合、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードを発動するターン、
自分はモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができず、
表示形式を変更する事もできない。
万丈目が発動した3枚の同カード。条件が満たせるモンスターが手札にいたからよかったけど、これ一歩間違えれば手札事故って言うレベルじゃないね。
「小癪なマネを!キングドラグーンでアンノウン・シンクロンを攻撃、トワイライト・バーン!」
キングドラグーンが杖から出した光線が、アンノウン・シンクロンのボディを一瞬で焼き尽くした。
竜魔人 キングドラグーン 攻2400→アンノウン・シンクロン 攻0(破壊)
万丈目 LP4000→1600
「さらに、サファイアドラゴンでガンバラナイトに攻撃!サファイア・スパーク!」
「ガンバラナイトの特殊効果!このカードが攻撃対象になった時、守備表示にすることができる!」
サファイアドラゴン 攻1900→ガンバラナイト 攻0→守1800(破壊)
「おのれ、無駄な抵抗を!ダイヤモンド・ドラゴンでとどめだ、ダイヤモンド・ブレス!」
「手札から速攻のかかしを捨てる!これで兄さんのバトルフェイズは終了だ!」
帽子を被ったかかしが万丈目の手札から飛び出し、ダイヤモンド・ドラゴンのブレスを黒こげになりながらもなんとか防ぎ切った。ふー、危なかった。
速攻のかかし
効果モンスター
星1/地属性/機械族/攻 0/守 0
相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。
その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
「ええい、これでターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!………ほう、このカードか。モンスターをセットして、カードを2枚伏せる。ターンエンドだ」
長作 LP4000 手札:1 モンスター:竜魔人 キングドラグーン(攻)、サファイアドラゴン(攻)、ダイヤモンド・ドラゴン(攻)、ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-(攻) 魔法・罠:なし
万丈目 LP1600 手札:3 モンスター:??? 魔法・罠:3(伏せ)
「ならば私のターン!ちっ、いいモンスターがいない。キングドラグーンの効果で、ラブラドライドラゴンを守備表示で特殊召喚だ」
やっぱりパ以下略。幸いにも攻撃力は0のため守備表示での登場だったけど、万丈目のピンチには変わりない。
ラブラドライドラゴン
チューナー(通常モンスター)
星6/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守2400
ラブラドレッセンスと呼ばれる特有の美しい輝きを放つウロコを持ったドラゴン。
そのウロコから生まれる眩い輝きは、見た者の魂を導き、
感情を開放させる力を持つ。
――その光は前世の記憶を辿り、人々を巡り合わせると伝えられる。
「バトル!キングドラグーンでセットモンスターに攻撃、トワイライト・バーン!」
竜魔人 キングドラグーン 攻2100→??? 守1900(破壊)
「ふはは、これでお前を守るモンスターはいなくなった!」
「まだだ!今破壊されたモンスター、スノーマンイーターの効果発動!ドラゴン族モンスターはキングドラグーンの効果で対象にできないが、魔法使い族のドラゴン・ウィッチは別!ドラゴン・ウィッチを破壊する!」
スノーマンイーター
効果モンスター
星3/水属性/水族/攻 0/守1900
このカードがリバースした時、
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
「やった、僕のモンスターだ!」
思わず叫んでしまう。そう、あれこそが僕が今朝万丈目に渡したもの。ふと、今朝の会話を思いだした。
(回想)
『万丈目ー、いるー?』
『清明!お前、何をしに来た!ここは選手控え室、立ち入り禁止のはずだ!』
『ゴメンゴメン、思ったより届くのが遅れちゃって。おかげで風邪ひくかと思ったよ』
『届く?遅れる?一体何の話だ』
『はいこれ。どういうことかは言わなくてもわかるよね?』
『このカードたちは……』
『じゃ、場所取りいかなくちゃ。頑張れよー、万丈目』
『万丈目サンダーだ!…………だがまあ、すまないな。礼を言うぞ』
『なーに、気にすんなって。じゃあねー』
(終了)
という訳で今の万丈目のデッキには、ある5枚のカードが追加で入っている。そのうちの1枚が僕のスノーマンイーターなのだ。なにせゲイル入れたらデッキ枚数がオーバーしちゃって、使わないのにずっと持ってるよりはいっそちゃんと使ってくれる人にあげたほうがいいのかな、と。
「まだ私の場には攻撃宣言していない2体のドラゴンがいる!サファイアドラゴンで攻撃、サファイア・スパーク!」
「相手の直接攻撃宣言時、このカードは手札から特殊召喚できる!BF-熱風のギブリ、召喚!」
そしてあれが、僕が昨夜ノース校の鎧田に頼んで届けてもらった、サンダー四天王のカードの一枚。さすが鎧田、攻撃力500以下で使いやすいのをちょうだい、なんて無茶なお願いにもちゃんと答えてくれた。あとで『ギブリ使われたよー』って電話しとかなきゃな。
BF-熱風のギブリ
効果モンスター
星3/闇属性/鳥獣族/攻 0/守1600
相手が直接攻撃を宣言した時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、このカードの元々の攻撃力・守備力を
エンドフェイズ時まで入れ替える事ができる。
「かまわん、サファイアドラゴン!そのまま攻撃だ!」
サファイアドラゴン 攻1900→BF-熱風のギブリ 守1600(破壊)
「今度こそとどめだ!ダイヤモンド・ブレス!」
「トラップ発動、ヒーロー見参!俺の手札は2枚………さあ兄さん、右か左か選んでもらおう!」
「おお、俺のカードだ!」
そう言ってはしゃぐ十代。あれ、十代も僕と同じことしてたんだ。気づかなかった。
ヒーロー見参
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の手札から相手はカードをランダムに1枚選択する。
選択したカードがモンスターカードだった場合、自分フィールド上に特殊召喚する。
違う場合は墓地へ送る。
「選ぶのは、右のカードだ!」
「右だな?ならば俺はこのカード、おもちゃ箱を特殊召喚!」
おもちゃ箱、か。あれは飯田のカードだ。飯田もきっと喜ぶだろうし、デュエルが終わったらちゃんと伝えておこう。
おもちゃ箱 守0
「守備力0のモンスターに何ができる!ダイヤモンド・ドラゴンで破壊だ!」
ダイヤモンド・ドラゴン 攻2100→おもちゃ箱 守0(破壊)
「この瞬間、おもちゃ箱の効果発動!このカードが破壊された時、デッキから攻撃力または守備力0の通常モンスターを2体表側守備表示で特殊召喚する!もっとも、俺のエンドフェイズには破壊されてしまうがな。来い、魂虎!千眼の邪教神!」
ブレスを浴びて黒こげになったおもちゃ箱のリボンが解かれ、中から青白く燃える虎と体中に目がいっぱいついた変な奴が無傷で出てきた。
魂虎 守2100
千眼の邪教神 守0
「まだ粘るか!カードを伏せてターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!トラップ発動、闇霊術-欲!俺の場の闇属性、千眼の邪教神をリリースすることで発動し、カードを2枚ドローする。ただし、兄さんの手札からトラップカードを見せればこの効果は無効になるがな。もっとも、手札がない今の状況で止めることはできない!」
「くっ!」
「2枚ドロー。そして手札のジェスター・コンフィを特殊召喚する」
怪しげな小太りのピエロが、玉乗りとジャグリングを同時にこなしながらゆらゆらと不気味なリズムで万丈目の手札から飛び出してくる。なんかちょっと不気味。
ジェスター・コンフィ
効果モンスター
星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0
このカードは手札から表側攻撃表示で特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚した場合、次の相手のエンドフェイズ時に
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと表側表示のこのカードを持ち主の手札に戻す。
「ジェスター・コンフィ」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
「さらにジェスター・コンフィと魂虎をリリースし、破壊竜ガンドラを召喚!」
禍々しい黒と赤の竜が、万丈目兄のドラゴン軍団相手に一歩もひるまず咆哮をあげる。よし、これなら一発逆転だ!
破壊竜ガンドラ
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0
このカードは特殊召喚できない。
自分のメインフェイズ時にライフポイントを半分払う事で、
このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊しゲームから除外する。
さらに、この効果で破壊したカード1枚につき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
このカードが召喚・反転召喚したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地へ送る。
「ガンドラの効果発動、デストロイ・ギガ・レイズ!」
万丈目 LP1600→800
「残念だったな、準!トラップ発動、ブレイクスルー・スキル!これでガンドラの効果は無効、攻撃力0のでくの坊だ!」
「何!?」
ブレイクスルー・スキル
通常罠
相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、
相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、
その効果をターン終了時まで無効にする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、
自分のターンにのみ発動できる。
それにしても、このタイミングでブレイクスルー・スキルか………状況はだいぶキツイ。頼むよ、万丈目。僕らの生活もかかってるんだ。
「くっ………強欲なカケラを発動、ターンエンドだ。そしてエンドフェイズ時、ガンドラは自身の効果で墓地に送られるはずだがそれもできないな」
強欲なカケラ
永続魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
長作 LP4000 手札:0 モンスター:竜魔人 キングドラグーン(攻)、サファイアドラゴン(攻)、ダイヤモンド・ドラゴン(攻)、ラブラドライドラゴン(守) 魔法・罠:なし
万丈目 LP800 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:強欲なカケラ(0)、1(伏せ)
「私のターン、ドロー!アレキサンドライドラゴンを通常召喚する」
アレキサンドライドラゴン 攻2000
当然以下略。だから全員プリズム加工するのは止めてくださいモンスターのカラーリングが変わんないからいい加減わけわかんなくなってきたぞ。
「そして全モンスターで一斉攻撃!準のライフをゼロにしろ!」
「攻撃宣言時にトラップカード、攻撃の無敵化を発動!ふたつ目の効果を選択し、このターン俺の受けるダメージは0になる!ただしガンドラは破壊されるがな」
攻撃の無敵化
通常罠
バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、
戦闘及びカードの効果では破壊されない。
●このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる。
竜魔人 キングドラグーン 攻2400→破壊竜ガンドラ 攻0(破壊)
「いい加減にしろ、見苦しいぞ準!ターンエンドだ!」
「なんとでも言ってくれ、兄さん!ドロー、ゼロ・ガードナーを攻撃表示で召喚、さらに永続魔法ゼロゼロックを発動!」
ゼロ・ガードナー 攻0
ゼロゼロック
永続魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手は表側攻撃表示で存在する攻撃力0のモンスターを攻撃対象に選択できない。
ゼロ・ガードナーは天田のカードで、ゼロゼロックは酒田のカード。なんでも天田いわく、ゼロ・ガードナーは見てるうちに料理を乗っけるプレートに見えてきたから投入とのこと。そんなこと言い出したらもうなんでもありな気がする。受け取った時にふと気になってなんで酒田のカードがファントム・オブ・カオスじゃなくてゼロゼロックなのかと聞いてみると、ファンカスはきっかり3枚しか持ってないから送れない、すいませんサンダー決して恩義を忘れたわけじゃありません俺のことを許してくださいって言っておいてくれって電話の向こうで本気で泣いてた。でも酒田、ファンカスのせめてもの代わりにって送ってくれたカードのおかげで万丈目はもうちょっと戦えそうだ。人生、何が幸いするかわかんないもんだねー。
長作 LP4000 手札:0 モンスター:竜魔人 キングドラグーン(攻)、サファイアドラゴン(攻)、ダイヤモンド・ドラゴン(攻)、ラブラドライドラゴン(守)、アレキサンドライドラゴン(攻) 魔法・罠:なし
万丈目 LP950 手札:0 モンスター:ゼロ・ガードナー(攻) 魔法・罠:強欲なカケラ(1)、ゼロゼロック
「まあいい、ゼロゼロックを破壊するカードを引くまでのことだ。ドローして成金ゴブリンを発動、私がカードを引く代わりにお前のライフを1000回復させる。ラブラドライドラゴンをリリースしてエメラルド・ドラゴンを召喚、ターンエンドだ」
万丈目 LP800→1800
エメラルド・ドラゴン 攻2400
当然以下略。これまでの宝石竜にも言えるけど、こんなプリズム加工されてたらエメラルドでも何でもないと思う。
「ドロー、強欲カウンターが2つのったカケラの効果によりもう2枚ドローする。ターンエンドだ」
長作 LP4000 手札:0 モンスター:竜魔人 キングドラグーン(攻)、サファイアドラゴン(攻)、ダイヤモンド・ドラゴン(攻)、エメラルド・ドラゴン(攻)、アレキサンドライドラゴン(攻) 魔法・罠:なし
万丈目 LP1800 手札:3 モンスター:ゼロ・ガードナー(攻) 魔法・罠:ゼロゼロック
「私のターン、ドロー!ついに来たぞ、魔法カード大嵐を発動!わざわざゼロゼロック1枚のためにこれを使うのも贅沢な話だが、これで私の勝ちだ!」
ゼロ・ガードナーの前にできていた半透明のブロックが組み合わさった壁が吹き飛ばされていき、万丈目の場は実質がら空きになってしまった。………なんてね。
「ゼロ・ガードナーの効果発動!このカードをリリースし、このターンの戦闘ダメージを0にする!」
ゼロ・ガードナー
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻 0/守 0
このカードをリリースして発動する。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されず、
相手モンスターとの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
ふっふっふ、なんてったってあのカードを万丈目に渡したのは僕だからね、当然ゼロ・ガードナーの効果だってわかってるわけさ。
「ブレイクスルー・スキルの効果を発動!墓地のこのカードを除外し、ゼロ・ガードナーの効果を無効に………!」
「その行動は俺の読み通りだぜ兄さん。だが、自分のデュエルディスクを確認してみな!」
そう言われた万丈目兄が素直に自分のデュエルディスクに目を落とすと、そこには赤いバツ印……つまりはエラーが示されていた。
「馬鹿な、今は私のターンだから問題なく発動できるはずでは……!」
「ゼロ・ガードナーは兄さんがブレイクスルー・スキルを使ったタイミングではもうとっくにリリース済みでフィールド上にはいない、つまりゼロ・ガードナーの効果は有効になる!」
「何ぃ!?」
あ、出た。いまだに何言ってんのか今一つよくわかんない細かいとこのルール。これホントややこしいんだよなぁ……。
「さあ、ターンエンドか兄さん」
「そうだ。だが、これで今度こそお前を守るカードは無くなった。次のターンが最後だ!」
「それはどうかな?ドロー!魔の試着部屋を発動、800のライフを払ってデッキのカードを4枚めくり、レベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する!一枚目、おジャマ・イエロー!二枚目、おジャマ・グリーン!三枚目、おジャマ・ブラック!四枚目、キャッスル・ゲート………はレベル6の効果モンスターだからデッキに戻す。来い、雑魚ども!」
万丈目 LP1800→1000
魔の試着部屋のカーテンが開き、そこからイエロー、グリーン、ブラックの昨日井戸の中でついに再会を果たしたおジャマ3兄弟が飛び出してきた。
『『『どうも~』』』
おジャマ・イエロー 攻0
おジャマ・グリーン 攻0
おジャマ・ブラック 攻0
「何かと思えば、そんな雑魚モンスターか。3体のモンスターを出したのは褒めてやるが、攻撃表示の壁にもならん雑魚モンスターに私の光り輝くモンスターの攻撃を止められるものか!」
「こいつらを馬鹿にすることは、俺が許さん!確かにこいつらは攻撃力0で、見てくれも性格も間違いなく最悪!だが、俺はこいつらに教えてもらった!」
はて、なにかあの4人(?)で喋ってたっけ。ゆうべはこっちの部屋にも入ってきた、大量につれてきたカードの精霊とちょっと寝た後でサンダー四天王のカードを乗せた船が到着するまでトランプやったりして遊んでたから、万丈目の部屋で何があったかはよくわかんないけど。
『兄弟のきずなをさ!』
『力を合わせれば!』
『なんだってできるってことを!』
おお、ずいぶんいい話。そうか、ずいぶん深いことを………
「下には下がいるということを!!こいつらに比べたら俺なんて、全然マシだ!見せてやるぞ、落ちこぼれの意地を!マジックカード発動、おジャマ・デルタハリケーン!!」
うん、まあ、それで元気になったんならそれでいいと思うんだけどさあ…………なんかなあ。それはともかくとして、一度はずっこけた3体のおジャマが気を取り直して輪になって飛び上がり、ものすごい勢いで回転しながら万丈目兄のドラゴン軍団の周りを取り囲む。するとなぜかドラゴン軍団が苦しみだし、なぜか全員爆発した。どーなってんのこれ。ただ、最後に見せたすっごく嫌そうな顔が印象的だった。
おジャマ・デルタハリケーン!!
通常魔法
自分フィールド上に「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」
「おジャマ・ブラック」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。
「馬鹿な!」
「攻撃力0の役目は終わりだ!魔法カード、サンダー・クラッシュ!」
フィールドに現れたソリッドビジョンのサンダー・クラッシュのカードを見て、おジャマ三兄弟が丁寧に効果の音読を始めた。それによると、自分の場のモンスターを全破壊してその数×300ポイントのダメージを与えるらしい。
『『『そ、そんな~!』』』
………かわいそうな奴ら。
長作 LP4000→3100
「だが、まだ俺の有利に変わりはない!」
「忘れたのか兄さん、俺はこのターン、まだ通常召喚をしていないことを!カオス・ネクロマンサー召喚!このカードの攻撃力も元々は0だが、自身の効果により俺の墓地のモンスター1体につき300ポイントずつアップする!」
確かこのデュエルで万丈目が使ったカードはアンノウン・シンクロンにガンバラナイトに速攻のかかし、スノーマンイーターに熱風のギブリにおもちゃ箱とそこから出てきた魂虎に千眼の邪教神、ジェスター・コンフィに破壊竜ガンドラとゼロ・ガードナー、そしておジャマ三兄弟の計14体。ってことはつまり………えーと?
『遅い。4200だな』
カオス・ネクロマンサー 攻0→4200
「攻撃力4200だと!?」
「これで終わりだ、兄さん!カオス・ネクロマンサーで攻撃、ネクロ・パペットショー!」
カオス・ネクロマンサー 攻4200→長作(直接攻撃)
長作 LP3100→0
「万丈目が勝った!」
そう言って皆で騒いでいると、万丈目がビシッ!と天を指した。
「俺の名は……一!」
なるほど、例のアレね!いいよ、もちろん呼ぶよ!
「「十!!」」
「「「百!!!」」」
「「「「千!!!!」」」」
ここでぐっ、と一呼吸おいてから、大きく息を吸い込んで万丈目は声を上げた。
「万丈目……サンダー!!」
そしてサンダー!サンダー!とその場にいた全員でコールする中、どこか満足げな顔をして万丈目兄弟は静かに立ち去って行った。後日アカデミア買収計画は白紙になり、またほんの少しの間だけ日常生活が戻ってきた。めでたしめでたし。
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