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ファルスタッフ

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第一幕その二


第一幕その二

「貴方の従者のピストルさん」
「ピストラじゃ」
「そう、ピストラさん。彼と一緒にわしの財布を」
「ピストラ」
「何でしょうか」
 酔った顔を主に向けてきた。
「この医者殿が言っていることはまことか?」
「間違いない!」
 カイウスはまだ怒鳴る。
「ほら、ここにあるものがない」
「出るのは埃だけだな」
 上着のポケットをひっくり返して見せると出て来るのは確かに埃だけだった。
「エドワード銀貨で二シリングと六グロード半分あったのにそれがない」
「これは侮辱だ」
 ピストラはわざとむっとした顔で椅子から起き出て側に箒を掴んだ。
「旦那様、この愚か者をこの木の武器でやっつけたいのですが」
「無礼な!私は紳士だぞ」
 こう言われてさらに怒る。
「話し合いに来た紳士に何を言うか!」
「紳士が酔い潰れるものか」
「何を!」
 今のピストラの言葉は完全に急所だった。怒りが頂点に達してさらに叫ぶ。
「この馬鹿!間抜け!ボロ纏い!人でなし!犬!卑怯者!化け物!地中の精!毒茄子のつぼみ!」
「よし、紳士ならそんな罵倒はしないな!」
 ピストラも本気になって向かうことにした。
「覚悟しろ、この藪医者!」
「おのれ、よくも言ってはならんことを!」
「まあ待て」
 ここで話の元凶が仲裁に入った。
「それでこの医師殿の財布を空にしたのは誰だ」
「どっちかだ」
 少しだけ冷静になったカイウスはこう言う。
「親父か貴方の従者か」
「酔い潰れて夢を見ておられたのでしょう」
 バルドルフォはしれっとして言った。
「お酒はあらゆる悪事、過失、迂闊の父であり母でありますからな」
「まあそうだろうな」
 ファルスタッフは強引にそういうことにした。
「酒を飲み過ぎるのがいけない。だからそうなる」
「飲ましたのは貴方ではないですか」
「飲んだのはあんただ」
「うっ・・・・・・」
 こう言われるともう反論できなかった。その通りだった。
「あんたの言い分が正しいとしても真実はかくの如し。そういうことじゃ」
「訴えてやる!」
「では証拠を。ありますから」
「うう・・・・・・」
「ではお引取りを」
「これから飲む時は正直で静かで上品で信心深い方と飲もう」
 嫌味だったがそれはファルスタッフの脂肪どころか面の皮にも届かず跳ね返されてしまい逆にこう言われた。
「そんな奴は酒場にはおらんな」
「ふん!」
 怒りに任せて踵を返し退場する。扉を荒々しく閉め音が響いたのが最後だった。ファルスタッフは彼が去るとそのままイスに戻りバルドルフォが持って来たシェリーを手に取った。それを瓶ごとラッパ飲みしながらまた言うのだた。
「かっぱらいは優雅に、首尾よく」
「優雅に首尾よくですか」
「調子っ外れた馬鹿騒ぎではないのだ」
 こうピストラ達に説教するのだった。
「それはよいな」
「左様ですか」
「騒がれるうちはまだ安芸人」
 こうも言ってみせる。
「そういうことじゃ」
「わかりました、旦那様」
「それでですね」
「何じゃ?」
「お勘定です」
 宿で飲んでいる分だ。
「今日の分ですが」
「ふむ、どれだけじゃ」
「これです」
 バルドルフォが勘定を店の奥から持って来た。何か親父が寝ているのが見える。
 
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