ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
三十話:フルート泥棒のザイルくん
「あはははは!捕まんないわよーだ!」
私の目の前でベラが、まるでフィギュアスケートのように華麗に氷の床を滑り、魔物の攻撃を回避します。
「あはははは!捕まえてご覧なさい!悔しかったらね!」
ちょっと調子に乗り過ぎてる感はありますが、すっかり慣れましたね!
これならボス戦も、心配無いですね!
自分も動きにくい氷の上でザイルがわざわざ待ち構えてるとか無いだろうが、戦闘中にうっかり踏み込まないとも限らないからね!
ベラだしね!
「あはははは……、きゃ、きゃー!」
魔物の動きを先読みして華麗に回避してたのはいいんですが、私が倒して動かなくなった魔物の死体が積み重なってるところに、ベラが突っ込んでいきます。
相手が止まることを、逆に想定できて無かったんだね!
スカルサーペント(ホネの魔物)で良かったね!
気味悪いけど、汚れないからね!
「ベラさん、だいじょうぶですか?」
積み重なったホネがクッションになって、物理的には全く平気そうだけど、一応心配しておきます。
「うう……。怪我とかは、無いけど。……気持ち悪いわ!」
だよねえ。
私も嫌だわ、ホネに埋もれるとか。
見た目乾燥してるっぽいけど、魔物なんだし、なに触ってたかわかったもんじゃないし。
こんな時に役立ちそうな便利魔法が、チートの書、空の章に、載ってはいたのだが。
「はやく、すませて。はやくかえって、おふろに、はいりましょう!」
まだ使えないし、幼女が知ってるにはあまりにも不自然なその知識を、例え使えたとしても披露するわけにはいかないし。
「……なんで、そんなに遠巻きなの?」
とりあえずお風呂に入るまで、ベラには近付かないようにしよう!
「モモも、わたしと、いっしょにいましょうね!」
「ニャッ!」
モモも、キレイ好きなんですよね!
お風呂も好きだしね!
「モモまで……。なによ、そりゃ、私が悪かったけど。そんなに、あからさまにすることないじゃない……」
ベラが、しょんぼりしてます。
ちょっと可哀想だけど、ガミガミ言うより、こういうののほうが効きそうではあるよね!
あと少しの付き合いとは言え、あんまり調子に乗られても困るし!
この後、ボス二連戦ですからね!
「もう、いいわ!早く行って、早く済ませましょう!」
若干拗ね気味ですが、調子付いてたのは落ち着いたようです。
でも、このままというのもなんなので。
「フルートを、とられなければ。こんなことには、ならなかったですね?」
自分の非情な態度は棚に上げて、言ってみます。
「……そうよね!全部、ザイルが悪いんだわ!」
伝わりました。
部分的には、ベラが悪かったり私が悪かったり、やっぱりベラが悪かったりしないことも無いが、そもそもはそこだからね!
「よーし!やる気が出てきたわ!懲らしめてやりましょう!」
「はい!」
黒幕のことはひとまず置いといて、まずは悪ガキ(予想)、ザイルを!
生まれてきたことを後悔させる……とまではいかなくとも、安易な行動を、間違いなく後悔させる程度には!
物理的にも精神的にも、思いっきり、とっちめてやりましょう!!
落ち着いた上にやる気も復活したベラと、安定してやる気を見せる上に危なげも無いモモと一緒に、順調に魔物を蹴散らして、そこからはさほど時間もかけずに氷の館の最上階にたどり着きます。
玉座のようなもったいぶった場所に、生意気にもザイルらしきヤツがいます。
見た目の年齢的には、ベラと同じくらいでしょうか。人間でいう、ローティーンくらい。
覆面パンツの変態では無かったので、そこはひと安心。
ドワーフの年齢が見た目通りなのかは知らないが、行動と総合してみればガキと言って差し支え無いでしょう!
悪ガキ、確定!
ベラが、大声で問いかけます。
「アンタが、ザイルね!」
「なんだ、お前たちは!そうか、ポワンに頼まれてきたんだな!?」
「そうよ!今すぐ、フルートを返しなさい!」
「誰が、返すか!じいちゃんを追い出したポワンも、その手下のお前らも!みんな、悪いヤツだ!」
「だから、それはポワン様じゃないのよ!」
「うるさい、うるさい!フルートがほしけりゃ、力づくで取り返してみろ!」
「ちょっとは話を聞きなさいよ!」
「ベラさん。」
聞く耳を持たないザイルに言い募ろうとするベラを、止めます。
「おじいさんが、なんどもいったのに、きかなかったんですから。いま、わたしたちが、いっても、ダメです」
言って聞くとは、思えないこともあるけれども。
正直、ここで説得に応じられても困るんですよね!
「でも!」
「いっても、わからないこには。……おしおき、ですよね?」
「……!」
おっと一瞬、笑顔が黒くなってしまったような。
説得に成功なんかしちゃったら、悪ガキなんていう表現では納まらない悪事を働いたこの馬鹿野郎を、痛め付ける大義名分が無くなるじゃない?
「……そうね!ザイル!後悔するわよ!」
「へっ!できるもんなら、させてみろ!」
ベラの最後通告とも言える宣言にもぶれずに憎ったらしくザイルが応じ、舞台は整いました!
問答無用で殴りかかったらこっちが悪者っぽくなっちゃうし、完璧だね!
まずは物理的に、ぶっ飛ばしてやりましょう!!
「……返すよ。返せば、いいんだろ!?」
「そうよ、はじめから、素直にそうすれば」
「え?それだけ、ですか?」
私たちにぶっ飛ばされたザイルが、氷では無い床に転がったまま、謝るでも無く、悔しそうに吐き捨てます。
うん、敵じゃ無かったね!
力押ししかしてこない上に、その力すら、私より弱そうだったからね!
それでも念入りにスカラをかけて、攻撃が全く通用しない絶望感を味わわせた上に、ベラにルカナン重ねがけしてもらって、私とモモで、フルボッコにしてやりましたがね!
ブーメランで遠くからだと圧倒してる感じがあんまりしないので、途中でひのきの棒に持ち替えて!
「よわすぎて、これでも、じゅうぶんですね?」
とか言って!
口ほどにも無いとは、このことよ……!
それでも心が折れずに負け惜しみを言ってくるあたり、なかなか根性があると言ってもいいかもしれないが。
「どろぼうを、してしまったら。かえせばすむわけじゃ、ないんですよ?やったことは、なかったことには、ならないんですよ?」
「ど、ドーラ?」
ベラが、戸惑ってますが。
言っても聞かない、反骨心溢れる馬鹿野郎の心を折ることも、目的のひとつだから!
反抗されて好都合ですね!
早目に折れておけば良かったと、すぐに思うようになりますよ!
「わるいことを、したら。かえすまえに、なにかいうことが、あるんじゃないですか?」
謝ったくらいで、簡単に許さないけどね!
「……オレは、悪いことは、してねえ!悪いのは、じいちゃんを追い出した、ポワンだ!」
ぶれないねえ。
だけどね?
「ポワンさまじゃ、ないですよ?」
「は?なに、言って」
「ザイルくんの、おじいさんを、おいだしたのは。ポワンさまじゃ、ないですよ?」
自分が正しいと思い込んでるその根拠から、まずは崩してあげますよ!
「おじいさんも、なんどもいったって、ききましたし。さっき、ベラさんも、いいましたよね?」
「……そんなのは!オレを誤魔化そうとして、ウソをついてるだけだ!」
ふっと鼻で笑う、私。
「そうかも、しれませんね。」
続けて、心底不思議そうに問いかけます。
「でも、なら、わたしは?ちからづくで、とりかえせる、いまの、わたしが。なんで、ザイルくんを。ごまかさないと、いけないんですか?」
「……!」
誤魔化すための労力を払ってもらえるほど、自分に価値があるとでも思ってるの?
そんなに無様に床に転がってるのは、なんでだったかね?
「おじいさんなら、ザイルくんが、たいせつでしょうから。ウソでも、そういったかも、しれませんね?」
「……」
私からしたら、全くどうでもいいけどね!
悪ガキの度が過ぎた、馬鹿野郎とか!
「わたしが、ウソをついてると。ほんとうに、おもうんですか?」
私に騙してもらえる価値が、自分にあるとか。
本気で、思ってるんですか?
「……それが、ホントでも!妖精のヤツらがやったのには、変わりねえだろ!」
逃げたね。
論点の、すり替えですね。
逃がしませんけどね?
「ようせいなのが、おなじだけで。ようせいさんたち、みんなが、わるいんですか?」
「そうだよ!」
「なら、ドワーフのひとで、わるいことをしたひとが、いたら。ザイルくんも、わるいんですか?」
「なんで、そうなるんだよ!」
「ザイルくんが、いうのは。そういう、ことですよ?」
「……」
いちいち言わないとわからないあたりが、馬鹿野郎の馬鹿野郎たる所以だよね!
ようやく理解したのか、言い返すことも無く、すっかり黙ってしまいましたが。
だがしかし、まだだ!
まだ、終わらんよ!
「それに、ポワンさまでは、なかったけど。おじいさんは、わるいことをされたなんて、おもってませんよ?」
「……!そんなわけ!」
「ほんとうに、ただしいか、わからないけど。そのひとなりに、かんがえてやったことだって。そう、いってました」
「……」
「それも、おじいさんに、いわれたこと。あるんじゃ、ないですか?」
「……」
「おじいさんも、ようせいさんたちも。ただしいかどうか、ちゃんと、かんがえて、やってます。ザイルくんは、ちゃんと。かんがえましたか?」
「……」
「フルート。なににつかうものか、わかってますか?」
「……知らねえ」
やれやれ、これだから馬鹿野郎は!
仕方が無い、愛も情も無い相手に説教するとか、本来は趣味じゃ無いんだけど!
ポワン様とベラのためだからね、理解するまで、きっちり説明してあげるとしましょう!
邪魔が、入るまで!
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