ファルスタッフ
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第二幕その八
第二幕その八
二人が必死にファルスタッフを隠しているとそこにナンネッタとフェントンが来る。二人はファルスタッフのことは気付きもせずに二人の世界の中で話していた。
「何か騒がしいけれど」
「かえって好都合よ」
ナンネッタはこうフェントンに告げる。
「だって私達に目が行かないでしょう?」
「それもそうだね」
「だからいいのよ」
にこりと笑っての言葉だった。
「好都合よ。それでね」
「何処に行くんだい?」
「二人きりになれる場所よ」
こう言いながらさっきまでファルスタッフがいた衝立のところを指差す。勿論二人は不良の老騎士のことなぞ知りもしない。実に気楽だ。
「そこでじっくりお話しましょう」
「そうだね。それじゃあ」
「二人で」
衝立の中に隠れる。それと入れ替わりにフォードがカイウス、ピストラ、バルドルフォを連れて広間に戻って来る。やはりファルスタッフを探している。
「女たらしめ、許さんぞ」
フォードは血走った目で周囲を見回しながら言う。
「八つ裂きにしてくれる」
「フォードさん」
その彼にカイウスが声をかける。ピストラとバルドルフォは周囲を見回している。四人は完全に一体になって血走った目になってしまっていた。
「何か?」
「家の中が滅茶苦茶ですが」
「しかしあの男がここにいるのは確かなのです」
今のフォードにとってはそんなことはもうどうでもいいのだった。
「ですから」
「構わないのですね」
「そうです」
はっきりと言い切る。
「一体何処に。タンスの中は」
今度は洋服ダンスを見る。すぐにピストラとバルドルフォがタンスに急行しそこを開けて調べる。フォードはその二人に対して問うた。
「いましたか?」
「いません」
二人はフォードに顔を向けて答えた。
「何処にも」
「そこにもいないか」
「道具箱の中にもいません」
カイウスが今度は部屋の端にあった道具箱の中を調べる。しかしそこにもいない。大きな葛篭を忌々しげにかなり乱暴な動作で閉じる。
「何処に隠れた、あの大飯食らいの飲んだくれ」
「ほら吹きの盗人の大嘘吐きが」
フォードも忌々しげに言う。
「何処に行った。待てよ」
「どうされました?」
「そこだ」
彼は遂に衝立に気付いた。
「そこにいるのだ、あの破廉恥漢は」
「あそこにですか」
「そうだ、衝立の中」
その時メグとクイックリーはやっとファルスタッフを籠の中に完全に隠したところだった。服を全部被せたのだ。額の汗を拭いてやれやれといった顔をしている。
「そこに違いないぞ」
「ではあそこを調べますか」
「うむ」
カイウスに対して答える。
「木っ端微塵にして犬みたいに喰らいついてやる」
「犬みたいにですか」
「鼻先を叩きのめしてやる」
もう半分自分が何を言っているのかわからなくなっている。
「神様に祈れ。精々な」
「やっと収めたけれど」
「大変なことになっていますわね」
「ええ」
クイックリーはメグの言葉に頷いている。
「何とか隠しましたけれど」
「どうなるか」
「フォードさん!」
「抑えましたよ、至るところを」
「こちらも見つけました」
広間に戻ってきた男達に対して肩で息をしながら言うフォードだった。
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