MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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022
ベット・オレイユ近海の宇宙空間に、一隻のベット・オレイユ軍所属の戦艦がパトロール航路を航行していた。
「ねぇ、聞きましたか? 例の話?」
戦艦のブリッジで若い男のオペレーターが隣の席に座る、男のオペレーターよりも少し年上の女のオペレーターに話しかける。
「例の話?」
「ほら、最近よく噂になっているじゃないですか? 突然現れては単機でゴーレムを撃退する謎の機体」
「ああ、その話ね」
そこまで言われて女のオペレーターは理解したと頷く。確かに今軍ではその話でもちきりだ。そしてそれはマスコミでも同じで、二日くらい前に非番で実家に帰った彼女は、謎の機体の正体を議論する特別番組を見た記憶がある。
「それがどうかしたの? その話だったらもう誰もが知っているでしょう?」
「いや、それがですね、俺の友人にその謎の機体に助けられたっていう奴がいるんですけどね。そいつが言うにはどうやら謎の機体って、俺達と同じベット・オレイユ軍に所属しているらしいですよ?」
「私達と同じベット・オレイユ軍? どういうこと?」
興味を覚えたのか女のオペレーターが男のオペレーターを見ると、男のオペレーターは勿体ぶるように続きを話す。
「話によると謎の機体、戦場に現れてすぐに友人が乗っていた戦艦に通信を送ってこう言ったらしいんですよ。『自分の名はイレブン・ブレット少将だ』って……」
「ちょっと止めてよ」
女のオペレーターは悪い冗談を聞いたといいたげに首を横にふる。
「イレブン・ブレット少将ってニ百年も前の人間でしょう? それがどうして戦場に現れるのよ? 怪談のつもり?」
「おい、お前達。無駄話はそれくらいにしておけ」
それまで無言で艦長席に座っていた艦長が二人のオペレーターの会話を止める。
「も、申し訳ありません。……え?」
ビー! ビー!
艦長に注意されて二人のオペレーターが自分達の仕事に戻ろうとした時、ブリッジに警報が鳴り響いた。
「何事だ!?」
「艦の前方に空間歪曲反応! ゴーレムの出現です!」
「ゴーレムのクラスはスティール! サイズは……こ、この艦と同クラスです!」
男のオペレーターと女のオペレーターが観測結果を報告すると、ブリッジのモニターに突然現れたゴーレムの姿が映し出され、それを見た艦長が驚愕に目を見開く。
「この巨大なゴーレムは……まさか、『マザー……」
艦長がそこまで言ったところでベット・オレイユの遥か上空に花火が一つ咲いた。
「おはよう」
「おはようございます」
ハジメが士官学校ソヴァール・イコールに入学してから一ヶ月が経った。少しだけ肌に馴染んできた制服を着たハジメとその付き添いであるファムが教室に入ると、二人の姿をいち早く見つけたリヴァーレが声をかける。
「よう。ハジメ、ファム先輩、久しぶり。……えっと、今日で何回目の登校だっけ?」
「転入した日を含めたら今日で六回目だね?」
リヴァーレの質問にハジメは苦笑を浮かべて答える。
六回。それはハジメがソヴァール・イコールに入学してから今日までに彼が登校した回数だった。
ハジメが学生兼軍人という何かと忙しい立場となっても、そんなのは相手にとっては知ったことではない。ゴーレムは規模の大小はあるものの世界各地で現れ、そしてゴーレムが現れてはハジメは「イレブン・ブレット少将」となってゴーレム撃退のために世界各地を飛び回り、気がつけば一ヶ月の登校回数六回という状態になったのだ。
「ハジメも大変だな。それで? 今回はどこで軍の作戦に参加したんだ?」
「それは……」
ハジメが前回ゴーレムと戦った地域を話すと、それを聞いたリヴァーレが目を丸くして驚く。
「はあっ!? 惑星の反対側じゃねぇか? ……なんて言うか本当に大変だな。でもさ、今からそんなに軍の作戦に参加しているんだったら、卒業後はいきなり中尉か大尉になれるんじゃないか? いや、上手くしたら左官待遇かも……」
「ははっ。そんなまさか……」
もうすでに現役の軍人で少将なのだが、それを言うわけにはいかないハジメは笑って誤魔化した。
「そうか? ハジメだったらそれぐらいはいけると思うんだが?」
「うんうん。リヴァーレさん、貴方今いいことを言いましたよ。そうです。ハジメさんだったらそれぐらい当然です。ってゆーか? 将来私の旦那様になるんでしたら、それぐらいなってもらわないと困るってゆーか……」
「はいはい。冗談はそこまでにして、それよりリヴァーレ、『おみやげ』持ってきたよ」
リヴァーレの言葉に賛同するファムに最後まで言わさず、ハジメは鞄から出した数枚の写真をリヴァーレに渡す。
「おおおっ!? これは!? ハジメ、ありがとな!」
ハジメから写真を受け取ったリヴァーレは食い入るように写真を見る。写真にはゴーレムと戦う軍のアンダーギアの姿が写っていた。これらはハジメが作戦時に撮影をして、ファム達が「見せても問題はない」と判断したもので、ロボットマニアのリヴァーレにとってはこれ以上ないおみやげであった。
「………そういやハジメ? お前、例の謎の機体の噂を聞いたか? ほら、お前が転入してきた日に俺が聞いたあの機体だよ。覚えてるよな?」
しばらく写真を見つめていたリヴァーレが、写真から顔をあげてハジメに声をかける。ハジメはリヴァーレが言っているのが自分の愛機サイクロプスであることにすぐに気づくと小さく頷く。
「ああ、覚えてるよ」
「何でもあの謎の機体、最近やたらと軍とゴーレムの戦いに現れて、単機でゴーレムを撃退しているらしいぜ?」
「……うん。作戦時に僕もよくその噂を聞いたよ。まだ実際には見たことはないけどね」
どうやら最近になって上層部は情報規制の手を緩めたようで、軍だけでなく一般のマスコミにも、まだ噂段階であるがハジメのことが知られはじめているらしい。自分の存在が世間に公表されるのもそんなに遠い未来ではないかもしれないと思いながら、ハジメはリヴァーレに対して嘘をついた。
「それにしてもあの機体って、カッコいいよな。ハジメもそう思うだろ?」
「……………………………………………………そう?」
ハジメの内心の葛藤も知らずに噂の機体、サイクロプスを誉め称えるリヴァーレに、そのパイロットであるハジメは物凄く複雑な表情をする。
「だってそうだろ? 軍が苦戦している時に颯爽と現れて、単機でゴーレムを撃退するとすぐに立ち去っていく。まるでロボットアニメに登場するヒーローみたいじゃないか?」
「……………………………………………………かもね」
面白そうに噂で聞いたことを話すリヴァーレに対してハジメの表情は渋い。
確かに外から見ている人間にはそう見えるかもしれないが、当事者からすると「もっと早く救援にこれたらよかったのに」とか「戦闘の後始末を押し付けてスミマセン」という後悔の念のほうが強かった。
更に言えば、この一ヶ月の任務で軍の上層部が下した指示にもハジメは色々と言いたいことがあった。相変わらず軍の上層部はハジメとサイクロプスに前に出て戦えと言うし、それだけだったらまだしもサイクロプスのパーツを近距離戦闘用のパーツに取り換えようとすると「今はサイクロプスの存在と姿を知らせている段階だからパーツ構成を変えないでほしい」と、コロネル大佐経由でストップをかけてくる始末。
もはや悪意どころか殺意すら感じられる上層部からの指示にハジメは何度も「やってられるか!」と叫びそうになり、ファムは「現場を知らない上層部のジジイ共め、自分達の事情を優先した無茶な命令ばかりよこしやがって……」と体から黒い霧を漂わせながら呟いていた。
正直なところ、己の罪を悔やむ罪人のような表情をしたコロネル大佐の心からの謝罪がなければ、とっくの昔に別の惑星国家に亡命をしていたとハジメは思う。
(ヒーローっていうよりは、無茶な注文ばかり受けていいように使われてる何でも屋だよね、僕)
「ハジメ? どうしたんだ?」
「え!? ううん、何でもないよ」
リヴァーレに向けてハジメは努力して作り笑顔を浮かべ、その横では事情を知っているファムが同情の眼差しを彼に向けていた。
(……とにかく! 今日は久々の学校なんだから、軍でのことは忘れて学校生活に集中しよう)
すでに士官学校の授業が休暇のような感覚の哀れすぎるハジメ。だがそんな彼の願いは時間にしてニ時間後、脆くも崩れ去ることになる。
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