MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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021
「つ、疲れた……」
ソヴァール・イコールに入学して最初の授業を終えたハジメは、学生寮の自室で椅子に座りながら力なく呟いた。椅子に座るハジメは疲れきった様子で、少しでも気を抜けばそのまま眠ってしまいそうに見えた。
「軍の仕事って、敵と戦うだけじゃなかったんだな……。報告書なんて初めて書いたよ……」
ハジメはつい先程終わったばかりの作業の大変さに思わずぼやいた。その作業とは、先日のゴーレムとの戦闘の報告書を作成して提出するという作戦の後処理だった。
戦闘の詳細な情報を報告書にまとめるという作業は、ほんの数日前までただの学生だったハジメにとって全くの初体験の上、ハジメの周囲の状況は非常に複雑であったため報告書の作成は困難を極めた。
まさか馬鹿正直に、
『最初は安全な距離からゴーレムを狙撃していたが、途中から上層部の命令でゴーレムに反撃される距離まで近づいた。ゴーレムに近づいた後は十秒くらいでゴーレムを全滅させたが、自分より先に来ていたロックバード部隊は全く活躍していなかった』
と書けるはずがなく、コロネル大佐のアドバイスのもとでもっともらしい理由をつけた報告書を作成したが、その頃には時刻は午前零時を回って日付が変わっていた。
「お腹……空いたな……」
「は~い。お待たせしました。お夜食の時間ですよ♪」
「え? ファムさん?」
ハジメが自分の腹に手を当てて呟くと、まるで彼の言葉を待っていたかのようにファムが手に皿を持ってブリッジにやって来た。皿には大きめのサンドイッチが乗ってあり、恐らくはハジメのためにファムが作った手料理なのだろう。
「お口にあうか分かりませんが、どうぞ食べてください」
「あ、ありがとうございます」
絶妙のタイミングで差し出された夜食を思わず夢中になって食べるハジメ。そんな彼をファムは、我が子の食事を見守る母親のような瞳で見つめる。
「美味しいですか?」
「はい、美味しいです。ファムさん、本当にありがとうございます」
「いえいえ、これくらいなんでもないですよ。それよりも明日も学校があるんですから、それを食べたら早めに休んでくださいね」
夜食を食べながら簡単な話をするハジメとファム。この時ファムの尻尾が小さく嬉しそうに揺れていたのだが、ハジメも彼女本人もその事に気づいていなかった。
「……以上でハジメさんの学園生活初日は無事終わりました」
食事を終えてハジメが眠ったのを確認したファムは、自室に備え付けられた秘匿回線を用いた通信装置に今日の出来事を報告していた。
『そうか。報告ご苦労だった。ルナール少尉』
通信装置のモニターに映るコロネル大佐はファムの報告に小さく頷く。
『それで? イレブン少将……いや、ここではニノマエ・ハジメと呼ぶべきか。彼の様子はどうだった?』
「私が見た限り特に問題はないかと。本人に気づかれないよう、会話に混ぜて略式のカウンセリングをしてみましたが、精神状態は極めて安定。やはり同年代の学生達と行動を共にしているのが大きいかと」
『なるほど。……「イレブン少将」は確かに我が国の英雄だが、今の彼「ニノマエ・ハジメ」は記憶を失った十五の少年だ。できることならしばらくの間、こうして学生の生活を送らせてやりたいものだ。……世間に「イレブン・ブレット少将」の名前が公表されれば、命を懸けたゴーレム撃退の任務が絶え間なく彼の元に舞い込んでくるだろうからな。せめて今だけは……』
モニターの中のコロネル大佐が悔いるような表情で言葉を漏らす。
ベット・オレイユでは十五歳は立派な成人と認められているのだが、それでもコロネル大佐から見ればハジメはまだ少年だ。いくらマスターギアという強力な力を持っているとはいえ、たった一人の少年にゴーレムとの戦いを全て任せるというのは、幼少の頃から軍人であった祖父に「正しい軍人の矜持」を教えられたコロネル大佐にとって認め難いものだった。
「コロネル大佐。それで、イレブン少将が正式に公表されるのはいつ頃になるのですか?」
『分からん。上層部は大体的にイレブン少将を公表したいらしいからな。上位のゴーレムを撃退した時、それが叶わないなら先日のような戦いをいくつかこなした後に公表する予定だそうだ』
「………………イレブン・ブレット少将だと認められてもそうでなくても結局ハジメさんは戦うのですね」
コロネル大佐の言葉にファムは、普段の彼女には似つかわしくない悲痛な表情を浮かべる。
『そうだ。……軍人とはそういうものだ。そしてこれは彼自身が選んだ道でもある。……ルナール少尉。貴官には専門医としてだけでなく先輩、友人としてもニノマエ・ハジメの支えとなってほしい。これは命令であると同時に私個人の頼みでもある』
「はっ!」
コロネル大佐からの命令にファムはベット・オレイユ流の敬礼をして答えた。
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