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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第十六話 折り鶴

 
前書き
長らくお待たせして申し訳ないですm(__)m

予定が長引き一拍多く北海道に滞在し、帰って来てみればPCがぶっ壊れておりました。
そのため一旦初期化する必要があり、更新に手間取りました。
今後はボチボチ更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
 

 
「えっと、ここをこうして、こうやって……できた!!」

 よく晴れた日の午後、ロマーニャ基地の食堂には、何やら小さな紙切れと格闘する和音がいた。机の上には色とりどりの紙切れがぶちまけられ、和音はそれらを相手に悪戦苦闘している。

「む、沖田少尉か。何をやっているんだ?」
「お疲れ様です、バルクホルン大尉」

 あーでもない、こーでもないと苦戦する和音に声をかけたのはバルクホルンだった。訓練を終えたばかりのようで、彼女の頬が赤く上気している。非番の時でさえ訓練を怠らないその生真面目さは驚嘆に値しよう。

「先日、ロマーニャへ買い出しに行ったときに偶然見つけたんです。見たことありませんか?」
「いや、カールスラントでは見かけないな……なにかの包み紙か?」

 机に所狭しと並べられた色紙を、不思議そうな表情で見るバルクホルン。

「おかえりトゥルーデ。はい、お茶」
「すまんなハルトマン」

 訓練から上がるのを待っていたらしいエーリカもやって来て、同様に机の上の紙に目を留めた。

「うわ、なんかいっぱいある……どうしたの、これ」
「この間の買い出しで見つけたんです。中尉もやってみますか?」
「うぇ~わたしはいいよ。なんかすごく難しそうだし」

 べーっと舌を出して苦笑いするエーリカ。するとバルクホルンは不思議そうに、

「難しい? サインの練習か何かか?」

 と訊いた。まあ、〝これ〟は見慣れない人間にはさぞや不思議に見えるだろう。

「サインじゃないですよ。これは〝折り紙〟といって、扶桑ではとてもポピュラーな遊びなんです」
「折り紙……? なんだそれは?」
「あー……そうですね、ブリタニア語で言うところのペーパー・クラフトでしょうか?」

 そう、先ほどから和音が熱中していたのは〝折り紙〟であった。
 この間の買い出しの際、海外人向けの雑貨を取り扱う店にふらりと入った和音は、そこで折り紙が売っているのを見つけたのだ。が、あくまでも買い出しは買い出し。任務を優先すべきと店を出ようとした和音だったのだが、それを店主が呼び止め、「持って行きなさい、ウィッチのお嬢さん。いつもご苦労さん」とお土産に持たせてくれたのだ。

「ほう、扶桑のペーパー・クラフトか。わたしも初めて見たな……」
「これ凄いよ、トゥルーデ。ほら、なんか今にも動き出しそう」

 興味津々といった風に見入るエーリカとバルクホルン。どうやら海外では折り紙なる文化はどうやら扶桑ほどポピュラーではないようである。

「みなさ~ん、お茶が入りましたよ~!!」
「今日はスコーンを焼いてみました。どうぞ食べてみてください」

 と、そこへお茶の準備を整えていたリーネと宮藤がやってくる。最初はリーネの趣味で始まったティータイムも、いまやすっかり501の日常に溶け込んでいる。おまけに部隊長のミーナ公認で、隊員たちのリフレッシュに役立てられているのだからすごい。お菓子やお茶の出来栄えも、喫茶店顔負けのレベルである。

「あ、もしかしてこれ折り紙? すごーい! 上手だね和音ちゃん」
「宮藤さんは折り紙得意ではないのですか?」
「あはは……あんまり手先が器用じゃないんだよね」

 真っ先に折り紙であると気がついたのは宮藤だ。同じ扶桑出身だけあって、何をしているのかは一目でわかったらしい。対するリーネは不思議そうにそれを眺めているが、ペーパー・クラフトのようなものだといわれて大凡のところは理解したようである。

「そうですね……まだまだ折り紙はいっぱいありますから、みんなでやってみませんか?」

 作りかけの作品を脇に退けると、和音はそう提案した。
 たまにはお茶を飲みながらこういう遊びに興じてみるのも悪くないと思ったのである。

「ふむ、なかなか難しそうだが、やってみるのも悪くないな」
「えー、トゥルーデ不器用じゃん……」
「そ、そんなことはない! わたしにだってこれくらいは……!」

 ジト目で見られて向きになるバルクホルン。そんな彼女に和音は何枚か色紙を渡す。

「じゃあ、とりあずこれが大尉の分です。どうぞ」
「よし、早速やってみるとしよう」
「芳佳ちゃん、これってハサミとかは使わないの?」
「そうだよ。全部手だけで折って作るんだ。おばあちゃんは上手だったんだけどなぁ」

 そうこうしているうちに、食堂にはリーネの焼き菓子とお茶を目当てにした面々が集まって来た。

「お、なんか面白そうなことやってんな沖田」
「わぁい! 見せて見せてー!!」

 と、こちらはいつも通り賑やかなシャーリー&ルッキーニの二人組。
 机の上の折り紙に気付いたようで、ルッキーニは初めて見る折り紙に興味津々である。

「なんだコレ? 扶桑人ってこういう遊びが好きなのカ?」
「……すごい、生きてるみたい」

 珍しく午前中に食堂へ降りてきたのはエイラとサーニャだ。普段は夜間哨戒の後寝てしまうが、非番の時くらいはこうして一緒におやつや食事をとったりもする。

「なんだお前たち。いったい何を騒いでいるんだ?」
「あらあら、珍しくみんな揃っているのね。どうしたのかしら?」

 話し声が廊下まで漏れていたのか、書類仕事の休憩にやって来た坂本とミーナにも聞こえていたらしい。テーブルの周りに出来た人だかりに寄って来る。

「まあ、綺麗な包み紙ね。贈り物かしら?」
「あ、ミーナ隊長。これは包装紙ではなくて、折り紙という扶桑の伝統的な遊びなんです」

 扶桑ではなんてことの無い只の紙遊びだが、なかなかどうして海外組には珍しかったらしい。
 みなしげしげと手のひら大の色紙を眺めている。

「少佐もこの〝折り紙〟というのをご存じなのですか?」
「ああ、リバウに居た頃はたまに作っていたぞ。ペリーヌには見せたことはなかったか?」
「い、いえ! 拝見したことはありませんわ」

 和音は机の上に広げた折り紙をいったん集めると、リーネの焼き菓子を並べていく。
 それぞれが席に着くのを待って、和音は口を開いた。

「せっかくですから、みんなでやってみませんか? 意外と楽しいですよ、折り紙」

 初めのうちはなかなかコツがつかめず苦労するが、コツさえつかんでしまえば楽しくなる。
 シンプルでいて奥深い、紙さえあればどこでも手軽に楽しめる遊びである。

「いいわね。たまにはこういうお国柄の見える遊びも楽しいわ」
「むぅ、わたしはあまり得意な方ではないんだが……そういえば醇子は得意だったな」

 醇子、というのは504JFWの戦闘隊長を務める竹井醇子の事だ。
 坂本とは訓練生時代からの付き合いであり、〝リバウの貴婦人〟とも評されるエースである。

「へぇ、リベリオンでもたまにこういうペーパー・クラフトやってるヤツがいたなぁ」
「シャーリー、あたしやってみたい!!」

 ついさきほど完成した作品をつまみ上げながら言うシャーリーとルッキーニ。
 ルッキーニの方は俄然興味が湧いたとみえて、早くも紙を弄り回している。

「これが扶桑の遊びですのね……なかなか興味深いですわ。ガリアにはありませんもの」
「ブリタニアでも見たことないなぁ。和音ちゃん、わたし達もやってみていい?」
「もちろんです。じゃ、今から折り紙を配りますね」

 こうして、今日のティータイムは一風変わった折り紙大会となったのであった。






「沖田、谷折りというのはこれでいいのか?」
「はい。文字通り谷を作るイメージで――」
「おお! コイツはよく飛びそうだな。ちょっと飛ばしてくる!」
「あ、シャーリーさん! それだとあんまり飛距離が――ってもういない!?」
「芳佳ちゃん上手だね~」
「えへへ、ちっちゃい頃おばあちゃんに教えてもらったんだ」

 配り終えてから十数分。たかが紙遊びと見くびるなかれ、はじめのうちこそ戸惑っていた彼女らも、いつしか目の前の小さな色紙に真剣な面持ちで向き合っていた。生憎と折り方などを記載した解説書の類はないため、和音が知っている範囲で教えてあげる格好になっている。

「くっ……! カールスラント軍人たる者、これしきの事で挫けるわけには……!!」
「うわぁ、トゥルーデって本当に不器用だね……」
「い、言うなァ!! まだだ、まだ終わったわけではないぞ!!」

 意固地になるあまり魔法力さえ発現しているバルクホルン。すっかり折り紙はぐちゃぐちゃになっているのだが、生来の負けず嫌い故なかなかあきらめようとはしない。
片や対照的なのがエーリカで、普段の茫洋とした立ち居振る舞いからは想像できない器用さで以て、すでに折り鶴を完成させている。

「すごいじゃないエーリカ。……ねぇ美緒、ここはどう折ればいいのかしら?」
「ああ、そこは折るんじゃなくて膨らませるんだ。で、それを潰して折り目をつけてやるとだな……」

 今折っているのは、扶桑でもかなり定番な部類に入る「折り鶴」だった。
 基本的な形ではあるが、意外と難しいところも多い。若干二名、早くも折り紙の難しさに挫折し、最速の紙飛行機を作ることに逃避しているウィッチがいるが、出来るようになると面白くなってくる。

「すごいぞサーニャ!! キレイに完成してるじゃないカ!!」
「エイラも上手よ。誰かに教わったの?」
「ほら、ちょっと前にカウハバに居た時、そこの扶桑人に教わったんダ。なんて言ったっけ? たしか、ナントカ・ハルカとかいうヤツだった気がするゾ」

 カウハバ――かつては統合戦闘航空団の先駆けとなるスオムス義勇独立飛行中隊(またの名を「いらん子中隊」)が存在し、現在は第507統合戦闘航空団、通称〝サイレントウィッチーズ〟が存在する場所。
 一時的にではあるが、エイラはそこに間借りしていたことがあり、その時暇つぶしにと教わったのだ。……もっとも、教わったのは「百合」の花の折り方だけであったのだが。

「宮藤さんもお上手ですね」
「そんなことないよ。和音ちゃんの方がすごくきれいに折れてると思うな」

 そういう和音の手元には、鶴だけではなく蛙や手裏剣、燕といった完成品が並んでいる。
 どれもこれもピシッと出来上がっており、他の皆とは完成の度合いが突き抜けている。

「もともと折り紙が趣味なんです。前の部隊でもよく折ってましたよ」
「……そっか、だから上手なんだね!」

 前の部隊、という単語に一瞬宮藤の表情が陰った。言った本人もおもわず口元を抑えてしまったが、お互い笑って流す。

「ほ、ほかには何が折れるの?」
「えっ? そうですね……あんまりレパートリーは多くないですけど、ちょっとした特技ならありますよ」

 話題を変えようと声を上げた宮藤に、和音はしばし考え込んでから口を開いた。
 積み上げた折り紙の中から比較的小さいサイズのものを選び出すと、それを左手に握る。

「……宮藤さんは、鶴を折れますか? それも左手だけで」
「え、左手だけ? それは絶対無理だよ。やっぱりちゃんと両手じゃないと」

 基本的にほぼすべての折り紙は両手を使う。がしかし、中には稀有な〝例外〟というものもある。

「和音ちゃんは折れるの? 左手だけで」

 にやり、と不敵に笑う和音。
 こう言っては何だが、和音は自分の折り紙の腕にそこそこの自信を持っている。
 ――例えば、左手だけで鶴が折れてしまう程度には。

「まあ見ていてください。――いきますよ」
「…………?」

 小さく深呼吸して集中を高めると、和音は左手だけを机に置いて紙を折り始めた。
 まず対角同時を折り合わせ、さらにその状態からもう一度対角を折り合わせる。そこから角を膨らませて正方形にして、開いてある方を下にして折っていく。

「おお……!!」
「鮮やかなものだな……」
「やっぱり扶桑人って器用なのね」

 いつの間にか、みんな自分の手をとめて和音の特技に見入っていた。片手だけで鶴を折る和音は、しかしその手つきに迷いはなく、鼻歌を歌いながら口元にうっすらと笑みを浮かべているほどである。

「まだまだここからです」

 寸分のズレもなく、完璧に折っていく。基本形を完成させると、そこから器用に翼になる部分を膨らませて折り返す。頭の部分を折り曲げて、指を巧く使って両の翼を広げてやると――

「――これで完成です!」
「「「おおー!!」」」

 綺麗に出来上がった鶴を見て思わず歓声が上がる。その出来栄えは、片手だけで折ったといわれても信じられないレベルだ。

「さすがですわね……見直しましたわ」
「くっ! 沖田に出来てなぜわたしには……!!」

 目に涙をためて崩れ落ちるバルクホルン。どうやら根本的に向いていないらしい。

「ずいぶんと器用なものだな。片手で鶴を折れる奴なんて聞いたことがないぞ」
「いやぁ、訓練でしょっちゅう怪我をしては医務室に担ぎ込まれて……暇つぶしに折っていたら、いつの間にかできるようになったんですよ」

 照れ笑いしながら言う和音。しかし、持ち前の器用さは中々のものである。

「あら、もうこんな時間だわ」

 ふとミーナが壁の時計に目を向けると、時計の針はすっかり動いて、あと少しで夕食というところまで来ていた。窓の外を見ると、穏やかなロマーニャの海が茜色に染まっている。どうやら随分と熱中していたらしい。

「じゃあ、折り紙片付けますね。余った分はこっちに戻しておいてください」

 出来上がった作品は食堂の出窓へ飾り、余った紙は和音が回収していく。
 夕食時も、話題は専ら折り紙についてだった。窓に飾ったそれぞれに作品を鑑賞しつつ、リーネたちの料理に舌鼓を打つ。
 非番の夜は、こうして平穏のうちに過ぎて行った――






「あと12羽か。今日はここまでにしてもう寝ようっと……」

 夕食後の夜。和音は自室に引き上げた後、机の上で無心に折り鶴を折っていた。
 部屋の床には折あげられた無数の鶴が散らばっている。その数はおそらく数百は下らないだろう。赤、黄、青、様々な色で折られたそれらは、やがて千羽鶴に成る筈の物だ。

「明日一日あれば完成かな」

 ちょうどおり上がった鶴を机の上に置くと、和音はそのままベッドに倒れ込む。

「はぁ……」

 雑貨屋で折り紙を見つけた時、和音の胸に湧きあがって来たのは懐かしさだった。
 ここへ来てからもうずいぶん経つのに、あまりにも居心地が良すぎた所為で、不思議と未来へ帰りたいという切実な衝動は襲ってこなかった。
 だというのに、なんてことの無い折り紙を見ただけで、もう自分ではどうしようもないほどの懐かしさと、本来の自分の時代へ戻りたいという衝動が湧きあがって来てしまったのだ。

「どうか、未来へ帰れますように――」

 そっと、和音はまだ完成していない千羽鶴達に向けて呟いた。
 いつになるかは分からない。そもそも帰れる保証などどこにもない。
 だけど、一度湧きあがってしまった衝動はなかなか静まってはくれなかった。

「もう寝よう。明日また、ちゃんと鶴を折るんだ……」

 明かりを消して、枕に顔を埋めて目を閉じる。
 いつも以上に寝付けない夜が、和音の心を締め付けるのだった――
 
 

 
後書き
左手で鶴を折る名シーンがある某アニメ。
元ネタがわかる人は果たして何人くらいいるかしら・・・? 
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