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戦国異伝

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第百三十三話 小豆袋その十一

「それを見ることにもなるか」
「ううむ、大きな戦なのですな」
「退きでもな。しかしそれを見るのもじゃ」
「我等が生きてこそですな」
「生きる為には都まで退くことじゃ」
 それが彼等が今為すべきことだというのだ。
「では退くとしよう」
「それでは」
 村井は原田の言葉に頷く、そのうえで都にひたすら向かう。彼等もまたまずは生きることが大事であった。
 織田家が金ヶ崎から都に向かってただひたすら逃げていることはまだ殆どの者が知らなかった、しかし彼等はその話をすぐに聞いた。
 そのうえでだ、闇の中で驚きを隠せずに言うのだった。
「馬鹿な、逃げただと」
「そんな筈がない」
「この状況で逃げるとは」
「気付くだけでも有り得ぬわ」
 まず信長が浅井の裏切りに気付いたことが「信じられなかった、彼等にしても。
 それで闇の中で唖然としつつそのうえで話をするのだった。
「どうもあ奴の妹、浅井家に嫁いだ女が袋を贈ったそうじゃがな」
「袋?」
「袋とな」
「そうじゃ、袋じゃ」
 このことは彼等にしても今知ったことだ、闇の中から光の世界を見ている彼等だ。闇から光はよく見える。しかしそれでもなのだ。
 彼等でも知らないものがある、それで驚きと共に言うのである。
「中に小豆を入れて前後を縛った袋じゃ」
「?それがどうしたのじゃ?」
「その袋に何があるのじゃ」
「よくわからぬが」
「それは何じゃ」
「わしもわからぬ」
 彼等にしてもこれが何かはわからなかった、それで闇の中で首を傾げさせる。
 どうしてもわからない、だがここでだった。
 一人がふと気付いた感じでこう言ったのだった。
「若しや」
「若しや?」
「若しやというと」
「うむ、袋の鼠か?」
 それではないかというのだ。
「違うであろうな」
「ううむ、言われてみればな」
「考えてみればそれか」
「前後、つまり朝倉と浅井か」
「それぞれに攻められておるじゃな」
「そうした意味になるのう、確かに」
「そうじゃな」
 他の者もここで気付いた、それでだった。 
 信長が自分達が袋の鼠であることを察して退きに入ったことを理解した。しかしそのことを理解してもだったのだ。
「だが決断が早いのう」
「まさに袋を見てすぐだった様じゃな」
「すぐに退きを決めて金ヶ崎から逃げたか」
「そうしたのか」
「その様じゃな」
「そういえば真っ先に逃げた様じゃな」
 このこともわかった、信長が一目散に逃げたことをだ。
「周りに四人程連れてそれで逃げておる様じゃな」
「己が真っ先に逃げたか」
「また随分思い切っておるわ」
「織田信長、恐ろしい男じゃな」
「そうじゃな、最初から思い切った男だと思っていたが」
「それでも予想以上じゃな」
 彼等も信長は侮ってはいなかった、しかし。 
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