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戦国異伝

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第百三十三話 小豆袋その八

「この度は追うのが心情じゃが追ってはならなかった」
「ではもとより戦わぬ方がよかった」
「そうなりますか」
「やはりこの度は」
「追うこともですか」
「降るのが一番じゃ」
 宗滴の考えは変わらない、織田家との力の差を考えればどうしても戦う訳にはいかず降るのが一番だというのだ。
「それが妥当じゃが」
「しかし殿は戦われることを選ばれました」
 ここでの殿とは義景のことだ、宗滴とは違う。
「そうされましたから」
「殿の決められたことじゃ」
 宗滴も義景を殿と呼ぶ。血縁としては彼は宗滴の大叔父であるがそれでも主への敬意は忘れていないのだ。
 むしろ彼は朝倉家随一の忠臣である、その彼が言うのだ。
「だから従うべきじゃ」
「ですな、しかし殿ご自身は出陣されませぬ」
「やはり城内で能や茶ばかりです」
「今は田楽を観ておられますが」
「ご出陣は」
 それはというのだ。
「為されませぬ」
「ここでご出陣されねば」
「うむ、残念じゃ」
 病の床の中で無念の言葉を出す。
「この戦はな」
「ですな、せめて殿がご出陣されれば」
「兵の士気も上がるのですが」
 家の主が出陣すればそれだけで士気は違う、それが兵の動きや速さにも大きく影響するのは言うまでもない。
 だが義景は一乗谷で都の遊びにうつつを抜かすだけだ、それではだった。
「今はこの病を癒す他ないわ」
「では今から」
「薬を持って参ります」
 家臣達は頭を垂れて宗滴に述べた。
「暫くお待ち下さい」
「粥も持って来ますので」
「済まぬな」
 己をいたわってくれる家臣達に優しい笑みも見せる。
「それでは粥と薬を貰おう」
「そしてご健康を取り戻され」
「そのうえで、ですな」
「次の戦までに戦の場に立てるまでになる」
 決意の顔も見せる。
「ではじゃ」
「はい、それでは」
「今より」
 家臣達も応え宗滴に粥と薬を持って来るのだった、朝倉家の中では見るべきものを見ている者がいた。そして浅井家では。
 長政は越前に兵を進める、急いでいるつもりだが。
「殿、夜道での進軍はどうも」
「兵も疲れておりますし」
 急に小谷城に集めそこから慌ただしく出陣した。それではだ。
「このまま勧めましても戦の場で兵が動きませぬ」
「ですからここは」
「仕方ないのう」
 長政も難しい顔で応える、そしてこう言うのだった。
「では今からじゃ」
「はい、それでは」
 浅井の軍勢は休みに入る、それは長政もだ。
 長政は休みに入ってからこう家臣達に言った。
「こうして兵を進めてもじゃ」
「右大臣殿はですか」
「討てませぬか」
「義兄上、いや右大臣殿を甘く見てはならぬ」
 義理の兄であるというだけではない、長政は信長と何度も会いそのうえで信長という男をよくわかっているのだ。 
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