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SAO――とある奇術師は閉ざされた世界にて――

作者:亜流科那
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一章 九話 とある決闘は道を提示する

10・・・9・・・・・・
視界中央で光る数字が刻一刻と減っていく。

8・・・7・・・
十メートルさきのジゼルの得物は、刀。
くすんだ茶色の目立たない甲冑を纏って、落武者度が増している。

6・・・5・・・
俺たちの周りでは、”アベンジャーズ”の構成員が、円形のフィールドを作っている。

4・・・3・・・
ジゼルの後方に、蒼い少女が見える。真剣なその表情からは、このデュエルをけしかけた意図は読み取れない。

2・・・・・・・
二人同時に、構える。
ジゼルは上段。ヒョロッとした長身と相まって、どこぞの高層ビルのようだ。
気負いは、全くない。

1・・・・・・・
対する俺は、腰だめの構え。
右手の剣は半身にした体に隠すように、前に出した左手はジゼルとの中心点に向ける。

俺と、ジゼルの視線がかち合った。

・・・・・・・・・・・・0

デュエル開幕と同時に敏捷全開で飛び出す。
速さを追求、奇抜さは必要ない。

奴まで、残り二歩。
もう上段の間合いのはずなのに、高層ビルはまだ動かない。

残り一歩。
半身だった体をジゼルと正対させる。
少々形は崩れているが、システムはモーションを検知してくれた。

「最初っから全開だァ!」
片手剣六連撃”バーチカルタクティカル”
俺の十八番。

六芒星の剣技の初太刀、右腰からの切り上げ。
そこで、やっとジゼルが動いた。
「ほいっ」
気の入った、とはとても言えない気迫と共に、圧倒的頭上からの切り下ろし。
剣と剣の交わる衝撃音と共に、俺の腕にズシリとした重み。
ソードスキルすら使っていないジゼルの打ち込みだが、そもそもの筋力差と、上を取られていることもあって、俺はグイグイ押し返されていく。
モーションの誤動で、俺のスキルが解除される。
更に押し返される。
余裕の表情のジゼルの後ろに、どこか苛ついたような蒼い少女が見える。

タイミングをみて、何とか後ろにとびすさる。
と、今度はジゼルが仕掛けてきた。
再び上段で、俺から4メートルは離れた圧倒的間合いから、全身のバネを使って跳躍。
袈裟斬りの要領で切りかかってくる。
剣でうける。
またもや膠着状態になる。そう思われたのだが。

「甘いね」
ジゼルの刀が、左に切り返される。
そのまま連撃へ。
刀五連撃”斬華”。

「くっ・・・」
二発食らってしまった。
HPは残り70%ほど。後20%削られれば、このデュエルは俺の敗けとなる。

ジゼルのスキル後の硬直。
その間に俺はギリギリまで下がって態勢を立て直す。



「斬華の初太刀、先輩なら避けられたんじゃないですか?」
背後で声。蒼い少女のものだ。
「何で受けたんです?」
「・・・うっせえよ」
休憩時間じゃねえんだっつうの。

再び突撃。
剣は腰だめ。
「そんなんじゃ創意工夫の評価がCになってしまうよ?」
おどけた顔を崩さないジゼルに苛つく。
代わり映えのしない俺の斬り込みに、ジゼルも代わり映えのない降り下ろしで対応。

かかった。

「世の中に全く変化のない物なんて存在しないんだぜ、ジゼルさん」
”バーチカルタクティカル”の発動する直前に、膝を曲げて前傾。

片手剣三連撃”ジオ・アマンティ”
速さだけを追求した稲妻のごとき剣先が命中する。
クリティカルヒットの恩恵で、奴の体がのけ反る。
奴のHPが、合計で四割ほど削れる。

・・・おもっきしクリティカルだったのに、たった四割・・・・
俺、筋力無さすぎだろ・・・・

スキル後の硬直中、げんなりする俺の目の前で、のけ反りから回復したジゼルの剣が、反撃のために煌めく。
「うおっ」
ギリギリ硬直の解けた俺は、全力で後ろへ。
初撃を食らってしまった。
残HP55%。



「強引ですね」
再び蒼い少女の声。
一体どうしたというのでしょう。
「まるでパワータイプみたいな戦いかた。・・・・本気、出してないですよね?」

・・・・・・・・・・・・・
「・・・・とっくに本気だよ」
「本気じゃないですよ」
即刻返された。
声しか判断材料がないが、どうも不満そうに聞こえる。

「たとえ先輩が本気のつもりだとしても、そんな戦いかたじゃ、勝てませんよ。”奇術師”先輩」
その言い方に違和感を覚え、後ろを振り返る。
「・・・・昔の俺のこと、しってんのか?」
「はい」

なるほど。

納得し、反芻して、反発する。

俺は、ジゼルの方へ振り返る。
遠目に見える、おどけた顔にはニヤニヤ笑い。ムカツク。
顔だけはそちらに向けたまま、背後の妖精に呟く。

「昔の俺がどうであろうと、今の俺は違えーんだよ。もう弱っちかったあの頃とは違げーんだ」

蒼い少女が口を開くまえに、少し前進。
ジゼルが、のんびりした声で話かけてくる。
「作戦タイムは終わりかい?」
「どーも、お待たせしたよーで」
なんつーか、余裕だな。

「ま、次で終わらせる。みたいな?」
宣戦布告。
体を半身に、左手を前。いつもの構え。
「君、構えを全く変えないよねぇ」
落武者が呆れたように言うが、気にしない。
つか、
「お互い様だろ?」
奴もこのデュエル中に上段以外の構えを見せていない。
それだけ上段からの切り下ろしに自信があるのだろう。

何となく、二人同時にニヤッとわらう。
そして、それが引き金となった。

俺は、みたび突撃。
今度は、鼻が地面に着きそうな勢いで、前傾。
垂らした右手の剣が、地面に擦れて火花をちらす。

今度は、ジゼルも動いていた。
奴は初めて上段を崩し、刀を肩に担ぐようにして突っ込んでくる。

「最後まで突撃とは、芸がないねえ」
「そーゆーのは、勝ってから言え!」
言うと同時、体を引き上げる。左足で、急ブレーキ。

そこから一歩下がって、落武者の剣をかわすーーつもりだったのだが。

クッソ、思ったより早え!

ジゼルのソードスキルは、もう始まっていた。
上からの、背後を経由しての胴への真一文字。
速さ、リーチ、重さ、全ての揃った一撃。
下がっていては間に合わない。なにしろ、まだ体が完全に止まりきっていない。
受けるのも、むりだ。今からじゃ、遅すぎる。


ーーーーーあった。

その時俺が見つけた道は、ーーいや、言い方が違うな。
最初から、選択肢にはあったのだ。ただ、見て見ぬふりをしてただけで。

ブレーキの為に後ろに乗せていた体重を、前に引き戻す。
左足に力をため、体を小さくかがめる。


ーーーー蒼の妖精! テメエに乗せられたんじゃ、ねぇかんな!

おそらく後方で笑っているのだろう少女に心の中で叫ぶ。

そして、俺はーーーーーー



ーーーーーーーーーー跳んだ。ーーーーー飛んだ。

ゲームの世界ってすげえよなあ。
そんなことを考えながら、190センチ近いジゼルの、更に1メートル以上、高度3メートル程ーー洞窟の天井ギリギリから、下界を見下ろす。
ジゼルのスキルが終わったのが見える。
即座、下降運動に入る直前に、クルリと前転。赤茶の天井を蹴る。
さながら流星のように、ジゼルの背後目掛けてダイブ。
途中で体を捻らせて、足から着地。俺の、とあるスキルの成せる技だ。

大技に多い、長い硬直のまだ解けないジゼルに、最後の一撃。

「おおおおおっ!」
片手剣重単発技”ザ・チャリオット”
俺のもつ単発技で、最高火力のスキル。
多分、奴のHPバーをギリギリイエローに落とし込めるはずだ。

轟音とともに剛の突きが、奴の鎧を突き破る。
奴のHPバーがガクンと減る。



・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・マジっすか」

呆然と呟いたのは、俺だった。
ジゼルのHPは、イエローには入っていなかった。
0.1割程。
後一撃かすれば削り切れる。たったそれだけの差。

「いやー、危なかった」
硬直の解けたジゼルが、体から剣を引き抜きながら言う。
ちなみにゲームの中なので、痛みはない。
精神的に痛いだろうが。

「残念だったね」
ニヤッと笑って、奴は大きく刀を振りかぶる。
「切り捨て御免!」
刀は凄いスピードで・・・
「いやっ、ちょっとまて、死ぬってオイ!」

俺の肩にチョンッと触れた。
その、納得のいかない一撃・・・ひとさわりは、俺のHPをきっちりイエローへ。

「なんじゃそりゃ」
winnerジゼル
の表示を見て、俺は大きくため息をついた。
 
 

 
後書き
作者「というわけで、一応シリアス回だったつもりなんですが、どうでしょうか。」
ラーク「最後のとことか、めっちゃギャグじゃねえの?」
「・・・・気にしないで。だってあそこでお前を勝たせたら物語が成り立たなくなるから。」
「なんでだよ」
「ま、その辺はおいおい書くとして」

「というわけで、」「ご愛読、ご感想」「宜しくです!」 
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