ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
歩き出す者達
「もう来たみたいだから」
その声とともに、顔色をさっと変えたのはキリトだった。
にわかに双眸を鋭くし、辺りに視線を巡らせる。
それに釣られるように、リーファは辺りに視線を彷徨わせ、やっとそれらに気が付く。
辺りは草原、しかも昼なので相当に見晴らしが良い。レン達と抜けてきた山脈も、地平線の彼方におぼろげに見えるほどだ。
それほどだから万一でも近付くものがいれば、誰かの視界に入らないはずはないのだ。
それなのに────
「う、うわあぁぁあっ!」
シルフ属の側近の一人がやっと気付いたらしく、悲鳴を上げる。
気が付いた時には、囲まれていた。
目と鼻の先、それほどの距離。むしろ今までよく気付かなかったな、と呆れるくらい近距離に身の丈二メートルほどもある漆黒の狼達が音もなく、気配もなく出現していた。その数は軽く三十匹を越えている。
「こ、これって…………!」
「………フェンリル、隊……」
リーファととサクヤが呆然と呟いた横で、レンが能天気にのんびりと言った。
「そ。これが僕の率いる部隊。ケットシーが誇る陸軍、《フェンリル隊》だよ」
呆然と声もなく見つめる一同の前で、漆黒の巨狼の中で一回りほどその巨躯が大きい狼の背から一人の女性プレイヤーがするりと地に足をつけた。
空中にふぁさりと広がる長い綺麗な赤髪。
そのケットシーにしては秀でた長身の身体には、バランスよく整えられたスタイルを誇張するかのようなピッチリと身体に密着するタイプの戦闘スーツを着ている。その色は巨狼の体毛と同じく漆黒だ。
肌は色白と言うより、血液を強引に抜いたくらいに白いを通り越して青白い。
武器はと見れば、腰の所に長めの短刀が差している。その色もやっぱりと言うか、ツヤ消しの黒だ。
頭と尻から飛び出るネコミミと尻尾がかなりシュールに見える。
沈黙の中で降り立ったその女性は、辺りを軽く見回して口を開いた。
「おやまぁ、こりゃちょっと出遅れたってとこかぃな?」
それに力なく笑い返しながら、レンは応える。
「あはは、まぁね」
「………少し無茶しはったみたいやなぁ、隊長。ま、ええわ。その事については言及せんときます」
「助かるよー」
間延びしたレンの答えに満足したのか、その女性はくすりと笑った。
その後、リーファとキリトにくるりと向き直る。
「こちらはお初にお目にかかりますなぁ。どうもぉ~、ヒスイと申します」
「あっ、リーファ………です」
「キリトです」
慌てて自己紹介する二人を交互に見やって、ヒスイと名乗った女性はふぅ~ん、と意味ありげな笑みを浮かべた。
最後にへらへら笑うレンを見
「三角関係やね」
「違う」
即答したレンの頭をぽんぽんと叩き、ヒスイはやっと自らの領主アリシャ・ルーに向き直った。
「まぁったく、アリシャちゃん。あんたはホントに巻き込まれ体質やねぇ。あんさんの失敗でウチらが動くのは、これで何回目なん?」
「悪かったヨー。堪忍して、ヒスイちゃん」
ぱん!と両手を合わせて平伏するアリシャ。こう言っちゃ何だが、全く反省と言うものが感じられない。その証拠に、尻尾がフリフリ動いている。
同じことを思ったのか、ヒスイもふぅ~、とため息をつく。
そして、あごを背後に控える己の巨狼にしゃくる。
「ほら、乗りぃ。送ってったるさかい」
何の気負いもなく言ったその後に、ヒスイは隣のシルフたちにも視線を向ける。数秒後に、再びのため息を挟みながら無言で再度あごをしゃくる。
「しかし、いいのか?」
「しゃーないやろ。これも助け合い、や。同盟結ぶ時に、この事でイチャモン付けられたら叶わんからなぁ」
「……感謝する」
サクヤは再び、深々と腰を折る。それを見ていたアリシャがぱちんと指を鳴らして、部下達に合図した。たちまち大テーブルと十四脚の椅子がてきぱきと片付けられていく。
片付けが終わったのを見届けた時には、もうリーファ達以外の全員は巨狼の背につかまっていた。シルフ族のプレイヤー達は全員、おっかなびっくりという風だったが。
「何から何まで世話になったな。きみの希望に極力添えるように努力することを約束するよ、キリト君、リーファ、レン君、カグラさん」
「役に立てたなら嬉しいよ」
「連絡、待ってるわ」
「まったねー」
「よろしくお願いいたします」
サクヤは一つ、力強く頷いた。
「アリガト!また会おうネ!」
アリシャは悪戯っぽく笑うと、リーファに向かって───どういう意味なのか───ぱちりとウインクした。その隣で、ヒスイが口を開く。
「はーいはい、別れの挨拶はそこまでにしときぃ。しっかり掴まっとかんと、振り落とされるで」
かなり恐ろしい警告を聞き、全員が慌てて体毛を引っこ抜かんばかりに身を伏せる。巨狼達が苛立たしげに、唸り声を上げた。
全員が最後に頷き会って、レン達は三歩ほど下がる。一瞬の刹那の後────
ッッッッバシュッ!!
幾千の小石が地面を叩くような凄まじい音とともに、ぶわっと土煙が顔を叩いた。
思わず目を細める一同。
目を開けた時には、三十を越える漆黒の巨狼の姿は幻だったかのように跡形もなく掻き消えていた。
「す、すげぇ………」
「あれが、フェンリル隊……」
呆然と呟く二人に、どこかドヤ顔でレンは言った。
「あそこまで育てるのは大変だったよー。あの数のフェンリル・ラウンダーをテイムするのは、相当にテイムスキルを上げなきゃだからね」
「どれくらい……いるの?」
「構成員は全部で五十人。数の上ではドラグーン隊を上回るんだけど、やっぱり飛竜には翼があるからねー。優先度はどうしてもあっちに傾いちゃうんだよ」
ふーん、と解かったのか解かってないのか微妙なリーファの返事の横で、キリトはふっと表情を鋭くさせる。
しかし、それ以上何も言うことなく、手を伸ばしてクーを撫でていた。
四人の頬を、微風が柔らかく撫でていった。
それに少しだけ目を細め。リーファは周りに視線をゆっくりと巡らせる。
周囲は、あの激闘と、二種族の命運をかけた駆け引きが幻だったかのように静まり返っていた。吹き渡る風鳴りと葉擦れの音が静かに耳朶を打つ。
それを見ながら、レンは静かに、ゆっくりと口を開いた。
「………終わっちゃったね」
「…………うん」
「はい……」
「ああ………、終わったな」
三者三様の答えを聞き、うん、とレンは頷く。
一気に人がいなくなったアルン高原は、妙に寂しく感じられた。遥か遠くの空に、大きな鳥のようなMobがゆっくりと旋回しているのが見えた。
「なんか……一気に寂しくなっちゃったね」
「………はい」
さぁっ、と再びの風が吹き、リーファの髪をなびかせた。
レンが皆を見回すと、全員が全員、一様に穏やかな顔をしていた。笑うでも、感動して泣くでもない。ただ、穏やかな顔を。
そんな穏やかな時を唐突に破ったのは、リーファだった。
「………行こっか、みんな」
「………うん」
「はい」
「……あぁ」
皆の返事をしっかりと聞いて、リーファは天空へと飛び立つために翅を震わせた。
空の頂に張りついたまま微動だにしないと思われた太陽も、やがてゆっくりと傾き、弧を描く地平線を赤々と染め上げた。
その写真集にでも載っていそうな圧巻の景色の中で、アスナとマイはそっと身体を起こした。監視の眼がないことを祈りながら、タイルの上に降り立つ。
十歩も進むと、すぐに黄金の扉の前に到達した。こんな狭い場所に二ヶ月もいたのだと思うと、唖然とせざるを得ない。
───でも、それも今日で終わり………。
心の中で静かに呟き、傍らに立つマイの純白の頭にぽんと右手を置いた。
「マイちゃん……。本当に大丈夫?」
最後の最終確認のつもりで聞いたのだが、真っ白な少女は真っ直ぐこちらを見て、力強くこくりと頷いた。
それに無言で頷き返し、アスナはゆっくりと右手をマイの頭から離し、ゆっくりと何もない虚空にある何かを掴むように掲げる。
頭に思い浮かべるのは、一本の剣の姿。
今はなきあの鋼鉄の魔城で、数少ない大親友が鍛え上げ、命を預けた一振りの相棒。
紅色の鞘に収まる細い刀身。武器カテゴリは《レイピア》、固有名《ランベントライト》と呼ばれたあの姿を。陽光を浴びると、恒星のごとく光り輝くそのクリアシルバーの刀身の形状を。
そして、なかば衝動的に脳裏に閃いたワンフレーズを叫ぶ。
「バースト………リンクッ!!」
途端、ビギィッ!!と脳の芯が全てぶち壊れるような激痛が貫いた。
堪らず、口元から漏れ出る苦痛の声。しかし、それに屈するわけにはいかない。
なぜなら、傍らにいるマイを襲っている苦痛はこの比ではないはずなのだ。
ミシ、ミシ、と何かが脳髄の中を這いずり回っているかのような奇妙な拍動が身体の中に響く。しかし、その中でも必死にランベントライトの姿を思い浮かべる。
やがて掲げていた右手の先に、変化があった。
眩かんばかりの光が手の中から溢れ出し、それが徐々に形を取っていく。
最初は柄。
次に鍔。
最後に─────
「あぁ………」
激痛に耐えながらも、アスナはそんな声を上げてしまった。
涙を浮かべるほどに懐かしい重さが手の中に納まり、しっかりとした輝きが目を焼いた。
ランベントライトが、そこに出現した。
「おかえり…………」
視界がたちまちぼやけ、涙という名の液体が止めどなく溢れ出してきた。
それを振り切るように、いまだ続いている凄まじい痛みに抗うようにゆっくりと立ち上がった。
涙を振り切り、高らかに叫ぶ。
「バーストアウトッ!!」
ブゥン……、と広がっていた世界が減衰するように小さくなった。
同時に、糸が切れたようにマイの小柄すぎる身体から、ふっと力が抜けた。それを見ずに、アスナは左手で受け止めた。
ごめんね、と言いそうになったが、寸前のところで飲み込む。
「ありがとう、マイちゃん」
小さく呟く。小柄な身体はぞっとするほど軽かった。
それでも真っ白な髪を持つ少女は、力なく笑った。
「うう……ん。だい…………じょうぶ、だよ」
壮絶なまでの頭痛に苛まれているはずの少女は、そんな状況でも真っ白な笑みを浮かべた。
心の中でもう一度礼を言い、手の中にしっくり来る相棒を力一杯振り抜いた。軽い手応えとともに、複数の金属音が響いた。あっさりと檻の金属棒は切断された。
思わず細剣を持った右手を小さく曲げてぐっ!とこぶしを握り、それが良くキリトが見せていた仕草だと気づいて笑いを浮かべる。
「キリト君………、わたし、がんばるからね」
小声でそう呟くと、アスナは左腰にいつの間にか出現していた鞘に勢いよく剣を納刀し、左手だけで支えていたマイの体を抱く。その手足からは力というものがごっそり抜けているような気がした。
切り取った扉の向こうには、細い道が刻まれた太い枝が曲がりくねりながら伸び、遥か彼方の巨木の幹まで続いている。
肩にかかった髪を払い、決然と胸を反らすと、アスナはかつて別の世界でそうしていたように確かな歩調で進み始めた。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「随分とAskaさんとの意見交流やっとったな」
なべさん「うん、だけどほんとに最初誰のこといってたかわかんなかったんだって!冗談とかじゃなくって!信じて!」
レン「いや、あそこまでなるとねぇ………」
なべさん「くっ!作者なのになぜここまで信用度ゼロなんだ………!」
レン「作者だからだろ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued──
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