SAO-銀ノ月-
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第五十八話
サラマンダーの《エンドフレイム》を身体に浴びつつ、次に狙う目標として魔法を使ったサラマンダーに狙いをつけようとする。だが、思っていた以上に夜の森の闇は暗く、サラマンダーの赤い服は見つけられない。
仕方なく一旦飛翔すると、リーファとレコンも俺がいるところに集まって来た。見えない魔法使いを警戒してのことだろう。
「ナイス、ショウキくん。……後はコントロールが出来れば良いんだけど……」
「そのコツを聞くのはまた後でにするよ。今は、どうする?」
敵の戦力は空中を飛んでいる重装備のサラマンダー二体と、未だ地上にいる筈の、俺を魔法で撃ち落としたサラマンダーの魔法使い。重装備の方はリーファとレコンにしてやらていて、あまり脅威ではないものの、魔法使いはそれを補って余りある脅威度だ。
掠っただけで俺の左手を何も持てなくさせる火力の魔法が、見えない場所から放たれるとは厄介この上なく、放っておく訳にはいかない。しかし脅威ではないとはいえ、目の前のサラマンダーを放っておく訳にもいかない……
「ま、そこは私たちにお任せよ? レコン、たまには役にたってよね」
「……酷いよ、リーファちゃん」
レコンはそこはかとなく涙目になりながら、何やら魔法の呪文の詠唱を始めると、レコンの右手に鏡のような物が出来上がっていく。そしてその鏡には、SAOの《索敵》スキルのように光点が表示されていた。
「……なんだ、それ?」
「僕が上げてるスキル《闇魔法》。レベルが上がれば、遠くの人と会話出来たりするんだけど……これはプレイヤーの位置を表示してるんだ」
要はSAOの《索敵》スキルと同じらしく、まずは固まっているプレイヤーが三人。これは確実に俺、リーファ、レコンだろう。
更にその俺たちの前に二人のプレイヤーがいて、残り一人の魔法使いの位置は……ない。レコンの闇魔法によるレーダーには、魔法使いを示すサラマンダーの反応はどこにもなかった。
「……レコン、これはどういうことだ?」
「……多分、僕の《闇魔法》スキルより、あのプレイヤーの《隠蔽》スキルが高いんじゃないかなーって……」
つまり見つけられないらしい。俺にはレコンのレベルが低いのか、サラマンダーの《隠蔽》スキルが高いのかは判断がつかないが、敵はなかなかの強敵ということにしておこう。
「でも、攻撃をして来るタイミングで《隠蔽》スキルは解除される筈だから……リーファちゃん、真下だ!」
俺たちの真下にいきなりプレイヤーの光点が表示され、俺が真下を見ると確かに、リーファに叩き落とされたサラマンダーが一人立っていた。急降下して攻撃しようとも思ったものの、その前にサラマンダーから炎の渦が放たれていた。
「みんな、避けて!」
リーファの号令でバラバラに避けると、炎の渦は散開した俺たちの中心を通り抜けていく。だがその隙を突いて、サラマンダーが突撃槍を振りかざし、俺とレコンの前に立ちはだかった。
「レコン、ショウキくん! ……くっ!?」
天へと駆け抜けていった炎の渦は消え去ったが、その残滓が数匹の炎の蛇となってリーファを襲った。リーファにとってその程度は、足止めにしかならないようだが、その足止めが彼らの目的だろう。
三人のシルフの中で一番戦力があるリーファを魔法で足止めし、戦力で劣るレコンと俺を重装備のサラマンダーが倒す。そして地上にいるサラマンダーは再び姿を隠し、リーファを足止めしつつ、魔法を叩き込むチャンスを伺っているのだろう。
これ以上考えている暇などなく、重装備サラマンダーの突撃槍が俺に迫り来ることになり、俺は大きく翼を瞬かせて回避する。細かいコントロールに慣れていない分、スピードはあるため回避は容易なものの、俺には重装備サラマンダーを倒す方法がない。
俺に残された武器は、消滅寸前の耐久値しかない片手剣と、俺の持ち得る『技術』として使い慣れている蹴り程度。蹴りはまだ使えるが、重装備サラマンダーのHPを削りきる威力はなく、もはや初期装備の片手剣は論外だ。
相手が油断してくれていればその限りではないのだが、サラマンダーを二人倒した俺に対し、サラマンダーは油断なく突撃槍を構えている。強いて言えば、攻撃が当たらないことに業を煮やしているようだが、そこを突けるかどうか。
しかしこのままでは、地上にいるサラマンダーからの炎の渦に巻き込まれることは必須。覚悟を決めて片手剣を振りかざし、サラマンダーの攻撃に備えた。
「さあ、来い……!」
狙うべきはサラマンダーが突撃して来た時のカウンター。突撃槍はその特性上、突撃する時は強力なものの、それ以外に用いることは出来ない武器。
……だが俺が『待ち』の態勢をとっているからか、サラマンダーはなかなか攻撃して来ない。かといってこちらも待つしかなく、しばしの時が流れると、サラマンダーの背後から幾つかのモンスターが現れた。
一つ目の翼が生えた化物で、サラマンダーを無視してこちらに突っ込んでくると、俺のそばでじっと滞空し始めた。サラマンダーの背後から現れたにもかかわらず、俺の方を襲ってくるということは、まさかこのサラマンダーの使い魔か……?
「せぇい!」
片手剣でモンスターに攻撃すると、予想に反してあっさりと倒れたが、まだまだ数は俺の回りにいた。しかし、モンスターは俺を襲ってくる様子はなく、ただそばを滞空しているだけだった。
「ショウキくん、それは追跡用の《サーチャー》って言って……今は無害よ! それより敵を……このっ、邪魔っ!」
――追跡用?
数を増やし続ける炎の蛇に、未だ足止めされているリーファの助言に納得したが、その無害のサーチャーとやらが集まって俺に突っ込んで来た。それでも攻撃はして来ないようで、一点に集まってくれた為に切り裂くのは容易になったが……俺の視界はサーチャーで覆われた。
無害なのだとはとんでもない、これは俺からしてみれば最高の目潰しだ。そう気づいた時には、サラマンダーの突撃槍が近距離まで迫っていた。
「こういう使い方もあるんだよニュービー!」
自慢気に叫ぶサラマンダーの声を無視し、軽々と翼を使ってサラマンダーの攻撃を回避するとともに、サラマンダーの背後へと回り込んだ。
「……正面だけしか目潰ししなかったら、『正面から来る』って言ってるようなものじゃないか」
例え視界が効いていなくとも、敵がどこから攻撃してくるか解るのであれば、回避することは容易である。瞬間的に加速出来る、この翼があるならば、なおさらだ。
「くらえっ!」
勢い余って突撃するサラマンダーに対し、背後から後頭部へと蹴りを入れると、今のうちにリーファかレコンと合流を……ッ!
「まだまだぁ!」
勢い良く後頭部を強打した程度では効かないらしく――ただのバカかも知れないが――持ち直したサラマンダーが再び突撃して来て、合流を断念して回避に専念する他なくなった。
リーファは相変わらず足止めを食らっているようだったが、予想に反してレコンは短剣でサラマンダーを倒せないながらも圧倒していたが、絶対的に火力が足りずに重装備を突破出来ないようだ。
そして、俺も目の前に控えるサラマンダーを突破出来る火力はなく、日本刀《銀ノ月》が恋しくなってアイテムフォルダを開く。もちろんその中には、バグって文字化けした数字の羅列しかなかったが。
「行くぞオラぁ!」
目の前のサラマンダーは、やかましい雄叫びを上げながら突撃して来る……かと思いきや、俺と同じくシステムメニューを操作し始めた。普通ならば、操作している隙をついて攻撃するところだが、あの重装備には隙をついたところで意味はない。
何が来るかと身構えていると、予想に反して俺に何も向かってくることはなく、何故かサラマンダーの重装備が解除された。重装備からハーブメイルと呼ばれる軽装備となり、サラマンダーは意気揚々と語りだした。
「コレで俺もスピードアップだぁ!」
……解ったこいつ馬鹿だ。
重装備を外したサラマンダー……もう馬鹿で良いか……は雄叫びを上げながら突撃槍を構え、そのスピードを上げて突撃して来る。だが補助コントローラーであることに加え、スピードアップと言ってもたかが知れているので、特に奇をてらわずとも回避が出来た。
補助コントローラーと随意飛行では、エアライドでの自由度・速度が違う。……俺のように、慣れていないと細かいコントロールが出来ないが。
要するにあの馬鹿は、少しのスピードアップと引き換えに、自分たちのアドバンテージだった重装備を取り外したのだ。
そして、回避しながらこちらもメニューを操作して――装備を解除したりはしないが――アイテムを取り出す。そのアイテムとはサラマンダーの使っている突撃槍であり、先程アイテムフォルダを確認した時に中に入り込んでいた武器だ。
どうやら倒した敵のアイテムの何割かを、手に入れることが出来るらしく、幾つか見覚えのないアイテムが紛れ込んでいた。そして幸運なことに、サラマンダーの突撃槍があったため、使い慣れないが片手剣よりはマシだと装備した。
「使い方は……このまま突っ込むのみ!」
……あまりあのサラマンダーのことを、馬鹿とは言えない使い方だが、事実そうなのだから仕方がない。俺とサラマンダー、二つの突撃槍が交差することになり――
――俺の突撃槍は、敵のサラマンダーの胸を貫いていた。
重装備であったならば耐えられただろうに、わざわざ装備を解除するものだから、サラマンダーはそのまま墜落していった。地上でエンドフレイムに焼かれ、リメインライトになることだろう。
「うわぁぁぁっ!」
馬鹿の末路を見届ける暇もなく、大空に響いた悲鳴の方向を見ると、レコンが例の炎の渦に巻き込まれていた。クリティカルヒットではないらしいのは幸いだが、翼が狙われたらしくその翼は焼き焦げとしまい、羽ばたけずにそのまま大地に墜落する運命となる。
「レコン!」
リーファの悲痛な叫びとともに、レコンは墜落していく。彼女はレコンと戦っていたサラマンダーと戦っているため、彼を助けに行くことは出来ない。
「こなくそっ!」
戦利品の突撃槍を地上にいるサラマンダーに牽制に投げつけ、俺はレコンの墜落地点へと飛翔していく。重力が乗ったレコンは流石に重く、地面スレスレでキャッチをすることに成功した。
「あ、ありがとう……」
小柄なレコンを抱きかかえるようにキャッチして少し飛び立ち、投げ槍の要領で放った突撃槍が、魔法使いのサラマンダーに当たっていることを確認する。確かに牽制とはいえ当てるつもりだったが、思いの外良い当たりだったらしく、魔法使いは隠れずにダメージを受けていた。
こうなればやるべきことはただ一つ。
「リーファ、魔法使いがダメージを受けてる間に二手に別れて逃げよう!」
「……分かった、レコンを頼んだわよ!」
リーファと俺は同時にその翼を展開し、弦楽器のような音を鳴らしながら、逆方向に飛び去っていく。リーファと戦っていたサラマンダーは、木に隠れて俺たちが見えなかったのだろう、そのままリーファを追っていく。
「レコン、大丈夫か?」
「……何とか……」
翼を持たないレコンを抱えて飛んでいるため、俺たちの方に追っ手が来ないのはありがたい……と、思っていたのだが。俺たちと併走して飛ぶ、サラマンダーの《サーチャー》が俺の視界の端に移った。
「ショウキさん、サラマンダーが新たに三人! 多分、ぼくたちとは別のシルフを追ってたサラマンダーだ……」
「別働隊か……」
サラマンダーが一人ならば何とかなったかも知れないが、三人ともなれば今の状態で勝ち目はない。一刻も早く、シルフの首都《スイルベーン》へと戻らなくては、プレイ初日に殺されてしまうだろう。
たかがゲームとはいえ殺されてしまうのはゴメンだし、このバグアイテムが他のプレイヤーに渡れば、このアカウントがどうなるか解らない。ネットゲームという性質上、バグとプレイヤーは即刻削除され、アスナの手がかりを失ってしまう。
――そうなれば、キリトとアスナに顔向け出来ない。
「レコン、スイルベーンってどっちだ?」
サーチャーを斬りながら少しばかり飛んできたが、どこもかしこも木ばかり。スイルベーンはどこかと聞くと、レコンは少し考えた後に答えた。
「……正反対、かな」
「…………」
これで馬鹿正直にスイルベーンの方角へ向かえば、サーチャーの存在もあって、確実にサラマンダー三人に接敵することになるだろう。しかし、このまま直進しても永遠に《スイルベーン》につくことはない。
「……どっか他に《圏内》……じゃなくて、中立の場所はないか?」
「……確か、もう少し行けば海に出て、そこには中立地点でログアウト出来る船が……」
レコンが頭の奥から引っ張り出して来たような記憶を頼りに進むと、サラマンダーには見つからずその船を見つけることが出来た。ダンジョンで疲れた人用の、船型の宿泊施設ということだろう。
「明日、スイルベーンに戻ることになるか……ワープみたいなの無いのか?」
船に着地して一息ついた後、抱えていたレコンを降ろしながら聞いてみた。まあ、そんなものがあるなら最初から使っていると思うので、そんなものは無いのだろうけど。
「ワープみたいなのは無いかな。リーファちゃんに、今日は帰れないからサラマンダーがいなくなってから帰る、ってメールしとかないと……」
レコンはメニューを開いてメールを打ち始めると、驚くほど速い速度でメールを打っていき、驚いている内にもう打ち終わっていた。……そのメールが来たことを知らす音声で、サラマンダーが放ったサーチャーに見つかったというのは、今のレコンに知る由もない。
「じゃ、今日はここで泊まるかな。ショウキさん、ニュービーなんでしょ? 助けてくれたお礼に宿泊費奢るよ」
人の良さそうな笑顔を見せるレコンの提案に、確認こそしていないが恐らく金がない俺には、特に断る必要性は感じられなかった。
「それは助かる。……ああそれと、フレンド登録してもらって構わないか?」
この人の良い小柄な少年――の姿をしているだけかも知れないが――に、この世界の情報を教えてもらう為には、やはりフレンド登録するのが一番手っ取り早いだろう。レコンもリーファも戦いを見る限りベテランなようだし、この世界のことを良く知っていることだろう……戦友たる彼女らに、秘密を抱えながらフレンド登録するのも気が引けるが。
「うん、こっちから頼みたいぐらいだよ」
レコンは俺とフレンド登録の申請をしつつ、この船型宿泊施設の申請も済ましたようで、NPCに連れられて部屋へと案内された。割り当てられた別々の部屋の前につき、部屋の中へ入ってみようとすると、隣のレコンから声をかけられた。
「明日はインするの?」
「……解らないな。だから、気にせずスイルベーンに帰っても大丈夫さ」
俺のその答えに、レコンはやや不満げな表情を浮かべていたものの、別れの挨拶を告げてお互いに部屋へと入っていった。部屋はいかにも船室といった様子で、特にこだわっているような点はない。
「ふぅ……」
一度ベッドに座って落ち着いた後、メニューから《ログアウト》ボタンを押すことにより、俺は人生で二度目となる『ログアウト』を体感したのだった。……一度目では、そんなものを味わっている暇も無かったが、どことなく不愉快な感覚だった。
後書き
祝、2000pt!
企画とか考える頭などありませんが、これからもよろしくお願いします。
感想・アドバイス待ってます。
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