とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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武装無能力者集団
Trick27_スキルアウトの『ビックスパイダー』
それはとある一室での話。
窓から学園都市の全景が見える高いビルの部屋。
そこにいるのは2人だけだった。
「信乃、朗報よ」
「なんでしょうか、クロムさん」
部屋の内装が社長室のような場所。そこの社長イスにスーツの女性、
学園都市統括理事会の一人である≪氏神クロム≫が座っている。
そして机の向こう側に信乃が立って話を聞いていた。
「プロのプレーヤーがスキルアウトと手を組んでいることが分かったわ」
クロムの発言に信乃は眉間に皴を寄せた。
プロのプレーヤー。それはスポーツ選手というわけではない。
表の世界ではない人間で殺人をする者のことだ
しかも相手を殺して喜ぶ猟奇人、または銃を使って暗殺するような一般的なイメージの
存在ではない。
素手でコンクリートをぶち破る、人の意識を支配する。
クロムが言う『プロのプレーヤー』とは、表の人には知られることのない
人外魔境たちを指していた。
「・・・朗報ですか?」
もちろん信乃もそのことを知っている。何度か戦ったこともある、それどころか
その一族を潰したこともある。
だから『朗報』という言葉に引っかかった。
「朗報でしょ、君がこの学園都市に来た理由じゃない。私の方でもスキルアウトに
調査を向けているわ。君の探していた奴かもしれないわよ?」
「そうだといいですね、いや、それだとダメですね。スキルアウトが危険です。
あいつに関わると周りの人間に被害が出ますから」
信乃が学園都市に来た理由は『ある人物を消すため』だ。
『御坂と美雪に二度と会わない』という考えを覆して、この学園都市に来るほどの理由。
「まぁ、なんにしても情報が出るのは悪いことじゃないと思うわ」
「否定できないですね。情報ありがとうございます。スキルアウトを相手にするときは
奴が裏で手を弾いていないか気をつけますよ」
その数日にスキルアウトに深くかかわる事件が起こるとは信乃は思っていなかった。
「ああ、それと神理楽から君に貸し出す奴を決まったよ」
「意外と速かったですね。誰ですか?」
常盤台中学襲撃事件を受けて、信乃は警備を自主的に行うことを決めた。
そして一人では危険だと判断してクロムに補助要員を頼んでいた。
「近々顔合わせするだろうから、その時をお楽しみに。でも君の知ってる奴で
うちの生徒だから実力も大丈夫よ、安心して」
「わかりました」
―――――――――――――――――――――――――――――――
ドンッ!
「婚后さんが襲われた!?」
「まあまあ、お姉様落ち着いて」
喫茶店で御坂、白井、初春、佐天が話をしていた。
目的もなく雑談をしていたのだが、先日のスキルアウトの事件について話していたら
御坂がテーブルを叩いて怒りだしたのだ。
最近頻発しているスキルアウトの能力者狩り。
先日は同じ常盤台中学の婚后光子が襲われた事を
風紀委員の白井が御坂に教えたのだ。
「幸い、婚后光子は手を出される前に原因不明の頭痛で意識を失って、その間に
スキルアウト共が全員倒れていたみたいでしたので怪我はかすり傷一つありませんの」
「え、頭痛? それに全員倒れていたって・・・」
佐天がアイスティーをストローで飲みながら聞く。
「はい。婚后さんにも話を聞いたのですが、急に頭が痛くなったと言ってました。
ただ、気を失う前に皮ジャンを来た、背中にクモの刺青がある男が現れたので
その人がスキルアウトを倒したと思います」
パフェを食べながら初春が答えた。ほっぺたには生クリームが付いているが気付かない。
「へー、通りすがりの正義の味方か「とんでもない!!」」
佐天に白井の叫びがかぶる。
「アンチスキルでも風紀委員でもないのに力を行使するなんて言語道断!!」
れっきとした犯罪者ですわ!!」
「ははは・・・」
白井の熱弁に御坂は明後日の方角を見ながら苦笑いしている。どうやら自分に重なる事を自覚しているらしい。
「それにしても・・」
「ん? どうしたの初春?」
「いえ、固法先輩が少し気になって。スキルアウトの『ビックスパイダー』が今回の
能力者狩りに関わっているみたいなんですが、固法先輩の元気がないんです。
いつもだったら率先して解決にあたるはずなのに」
「どうしたんだろ、固法先輩」
********************************************
「心配掛けて申しあわけありません。
西折信乃、本日から復帰しますので宜しくお願いします。
って皆さん、どうしたんです? 深刻な顔をして」
幻想御手事件から初めて風紀委員第177支部に足を運んだ信乃だが、支部の雰囲気は
暗かったので少々驚いた。
入り口に一番近い固法が気付いたが、白井と初春、風紀委員でもないのにこの場にいる
御坂はパソコンの画面に集中したままだ。
「あ、西折くん。怪我は大丈夫?」
「はい。完治して、(美雪からの)ドクターストップも解除されました。
ところで固法先輩、どうしたんですか? なんだか暗いような気がするんですが」
「最近、頻発してる能力者狩りでちょっとね」
固法が御坂達に視線を向ける。まだ信乃が来ているのに気付いていない。
「またビックスパイダーが?」
「今週だけでもう3件目。連中、ピッチを上げてきてますわ」
御坂と白井の言葉に固法の表情が曇ったのを信乃は見たが、わざと気付かないふりをした。
「やっぱここは一発ドカンと!」
「お姉様・・・お姉様のドカンは被害が大きくなりすぎますの」
「同感です。もっと大人しくしておいてください」
「ビックスパイダーが勢力を伸ばしてきたのは2年前、武器を手に入れてから
みたいですね」
初春が携帯型デバイスを見ながら答える。
「なるほど、武器を手に入れて調子づいたってわけね。
よくもまぁ、学園都市に武器を持ち込んだものだわ。非合法な物はシャットアウト
しているはずなのに」
「蛇の道は蛇、と言いますの」
「連中にその道を作った奴が他にいるのかもね」
「もしくは武器を作る人間、武器職人が学園都市に侵入している可能性もあります」
「武器を作る人間・・・そんな人が入ってくることなんてありえますの、信乃さん?
って信乃さん!?」
「うぉ!? ほんとだ、信乃にーちゃんいつの間に!」
「信乃さん、いつ来たんですか? 気付きませんでしたよ」
「はははは・・」
本当に全く気付いていなかったらしい。
さっき挨拶をしたはずなのに、と思って信乃は苦笑いした。
「少し前からです。しかも『同感です』を言ったのも私ですよ」
「気付きませんでした。ごめんなさい」
「いえ初春さん、そんな風に謝られても困りますよ。気にしないでください」
「今日から来たってことは怪我は完治したの?」
「美雪からのドクターストップも解除されました。1分前にも同じこと言いましたよ」
「あの、信乃さん・・・この前は」
「白井さん、常盤台での事なら気にしないでください。侵入者への警告は
風紀委員としては当然の行動です。ただ、怪我がひどいものではなくて幸いでした」
「・・はい、ご迷惑をかけて申し訳ありませんの」
常盤台襲撃事件のあとに信乃と白井、両者とも学校には来ていたが(信乃は修理の為)
白井が信乃を避けていたようで会うのは今日が久しぶりになる。
「あれ以来、会うのは初めてですからね。変に落ち込まないでくださいよ。
ところで、ビックスパイダーまたは幻影旅団と言ってましたけど、どうかしたんですか?」
「幻影旅団とは言っていないですよ。
ビックスパイダーは最近頻発している能力者狩りをしている、
スキルアウトのグループです。
2年前から武器を入手し始めて勢力を伸ばしているみたいです。
あと、ビックスパイダーのリーダーがわかりました。
名前は"黒妻 綿流"(くろづま わたる)。かなり悪どい男のようです」
初春が代表して分かっていることを簡潔に答えた。
「スキルアウトですか。・・・・しかもビックスパイダーで黒妻」
「ん? 最後の方が聞き取れなかったんだけど」
「いえ、御坂さん気にしないでください。それよりも他に情報は?」
「彼らは第10学区、通称ストレンジと呼ばれる場所を根城にしているみたいです」
―――――――――――――――――――――――――
「ということで来てみました!」
「お姉様、ノリノリですの」
初春の情報を頼りに、ストレンジに来たのは御坂、白井、信乃の3人。
戦闘能力が皆無の初春は来ていない。
本当であれば、固法も参加するはずだったが今日中に提出する書類をまとめるためと
言ってここには来ていない。
そう言っていたときの固法の様子はおかしかった。
ここに来たくなかったから嘘をついたのだと信乃は勘づいていた。
(それじゃ、あのとき言っていた“みい”はもしかして・・・)
信乃はそこで考えるのをやめた。面倒臭いし、今は目の前の事に集中することを
優先した。
「さて、白井さん、御坂さん。彼らの根城の場所を調べに・・・」
自分の世界から戻って白井たちを見るといなかった。
「あれ?」
「おい、そこのガキ。金持ってねえか?」
追い打ちをかけるようにスキルアウトに絡まれる。
確かにここはスキルアウトの巣窟だが、来た早々に絡まれるとは・・・
「・・・自分のキャラの弱さがここで発揮されたな」
一見すると弱い男である信乃は、ここではただのカモだ。
「お姉様よろしいですの?」
「大丈夫よちょっとぐらい。たまには信乃にーちゃんよりもすごいことして見返して
みたいじゃない?」
「・・・・そうですわね。わたくしも常盤台での事件、
早々に気絶して何もお役に立てませんでしたもの。
今回いい機会かもしれませんわ」
「そうと決まれば急ぐわよ!」
御坂と白井は信乃が考えに集中している間に、気付かれないようにストレンジの奥へと
走っていた。
数時間後
「って手掛かりなし!? 普通なら私達で相手を全滅させて、タイミング良く来た
信乃にーちゃんに『お前達もこんなにすごくなったんだな』とか言われるのが
王道でしょ!?」
「いえお姉様、そのような王道は聞いたことがありませんの」
信乃を出し抜いて解決するつもりが手掛かりすら無し。
信乃に『先に帰る』とメールをしてから(メールの後に電話がきたが恐くて無視した)
2人はストレンジから出るところだった。
「うぁ!!」
「なに今の声?」
「そこの路地から聞こえましたの」
声のした方へ急いで走る。
そこには1人の学生を数人のスキルアウトが囲んでいた。
まさに能力者狩りの現場。
「ちょうどいいわ。あんたらのアジト教えてもらうわよ」
捕まえたスキルアウトの1人を連れて(他は警備員に引き渡した)御坂と白井は
再びストレンジへと向かった。
そしてビックスパイダーがアジトにしている廃墟へと着いた。
「なんだお前ら?」
「風紀委員ですの!
能力者狩りについてお話があって参りましたの!」
「あぁ!? 風紀委員だ?」
建物の奥からリーゼントの男が出てきた。左頬には縦に走る傷跡がある。
おそらくビックスパイダーのボスだろう。
「黒妻綿流ですわね? 能力者を対処とした暴行事件の首謀者として拘束します」
「オママゴトに付き合っている暇はねぇんだ。とっとと帰りな」
「言ってくれるわね」
御坂の頭の先から少し電気が出る。
「親切で言ってやってんのに、分からねえなら体で分からせてやるよ」
黒妻の合図でスキルアウトが御坂達を囲う。
「お姉様は手出しをしないでくださいの。この程度の連中、わたくし一人で
充分ですの」
「十分かどうか俺らの実力見てからにしろよな?」
キィィィィィィィン
「ッ! なにこの音!?」
「頭に・・直接響くみたいですの!」
辺りに流れた音で御坂と白井は頭を抱えた。
突然の頭痛。婚后がスキルアウトに襲われたときにも頭痛で気絶したらしい。
白井が辺りを見ると、大型のスピーカーを乗せたワゴン車があった。
「どうした? 頭でも痛いのか?」
「くっ!」
余裕の表情の黒妻に白井は能力で反撃しようとしたが
能力が発動しなかった。
「跳べない!?」
「どうした嬢ちゃん? 1人で充分じゃなかったの、か!?」
能力が使えずに茫然としている白井に、黒妻は蹴り飛ばした。
「黒子!? あんた!!」
御坂が電撃を出す。
しかし威力が弱い上にコントロールが効かず、誰一人として電撃が当らなかった。
「そんな・・」
「へ、コントロールできねえか。お前はもちろん知らねぇだろうが
こいつはキャパシティダウンってシステムでな、詳しいことは知らねぇが、
ようするに音が脳の演算能力を混乱させるんだってよ。
まあ、俺たちレベル0(スキルアウト)にとってはただの甲高い音にしか
聞こえないけどな」
「こんなもの、いったいどうやって・・・」
白井が蹴られた腹を抱えながら立ち上がる。
「『黒妻さん許してください』って言うなら考えてやってもいいけどな」
「へ~、今は黒妻って言うのか」
「な!?」
突然の声の方を見ると一人の男がいた。
赤茶色の癖がかかった肩までの長髪、黒い革、右手には牛乳パックを持っている。
風貌はスキルアウトだが、周りの反応を見ると
ビックスパイダーのメンバーではないようだ。
「黒妻さん! こいつです! 俺たちの邪魔をしたのは!」
「く、黒妻さん・・・」
「え?」
ビックスパイダーのリーダー、黒妻。彼の口から、赤髪の男へ向けて『黒妻』と呼んだ。
御坂と白井には確かにそう聞こえた。
「え~と、これでいいか、よっと」
赤髪の男はスピーカーの配線を一つ抜いた。
それによって御坂達を苦しめていた音が消えた。
「大丈夫か? そっちも」
「え、ええ」「あ、はぁ」
御坂のすぐそばに来て赤髪の男が聞いてくる。
スキルアウトに助けられると思わなかった二人は間の抜けたような返事だった。
「これ持っていてくれる?」
「え、あの」
差し出された持っていた牛乳。御坂は思わず預かってしまい、何かを言う前に
男はリーゼントの黒妻の方へと歩いて行った。
「蛇谷、久しぶりだな」
「嘘だ・・・あんた死んだはずだ」
リーゼントの男は恐怖で後ろへと下がっていく。
「お、おまえら! やっちまえ! 相手はたかが1人だ!
こっちには武器もあるだろうが!」
「・・・蛇谷、お前変わったな」
赤髪の男は悲しそうな顔でつぶやき、そして敵の集団の中へ飛び込んだ。
武器を持った多人数 対 素手の男一人
これだけを考えると勝負にはならない。
だが赤髪の男は強かった。圧倒的に強かった。
銃を持っている奴に真っ先に突っ込んで発砲される前に右ストレート
直後、右から鉄パイプで殴りかかってきた男の腹に蹴りを入れて肘で顎を打ち上げる。
鉄パイプを振り回していた男の攻撃を2度空振りさせて隙を見て鼻っ柱を右で叩く。
蹴り飛ばし壁にぶつけ、起き上がった瞬間に別の奴を飛ばして一緒に気絶させる。
ビックスパイダーのメンバーが次々と倒れていった。
「う、うあぁあああぁぁ!!」
リーゼントの黒妻、いや蛇谷は殴られる部下を置いて走って逃げて行った。
「どうだ、少しは楽になったか?」
「まだ力が入らない感じなんだけど、なんとか」
御坂は肩を回しながら自分の調子を確かめ、黒妻に返事した。
「あの男、黒妻じゃないの?」
「昔は蛇谷っていったんだけどな。今は黒妻って呼ばれているらしい」
「で、本物の黒妻はあなたですのね」
「そう呼ばれたこともあったかな。よっと」
御坂に預けていた牛乳パックを取り、戦いで渇いたのどを潤う。
「ぷはぁ。やっぱ牛乳は「ムサシノ牛乳」 ん?」
「「へ?」」
後ろからの突然の声で遮られた。
そこにいたのはストレンジに来ることを拒み、白井の風紀委員の先輩。
「「固法先輩?」」
「・・・久しぶりだな、美偉」
「「へ? ・・・・へええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!??」」
白井と御坂の叫び声が夕暮れの空に響いた。
「やっぱり、2人は知り合いでしたか」
ビックスパイダーのアジトの建物の陰。
信乃はそこで3人、今加わった固法を含めて4人の見ていた。
信乃は御坂達に逃げられた後、すぐにスキルアウトを倒して通報。
そして魂の感知能力ですぐに2人に追いついていた。
追いつくまでに10分もかからなかった。
ただ信乃を見返すとの会話を聞いたのでまずは放っておこうと考えて
気付かれないように追跡をしていた。
黒妻(仮)に殴られたときも助けられる距離にいたが、本当に危なくなるまで
助けないつもりでいた。
そこで黒妻(真)が登場、そして黒妻(仮)の退場。
信乃が助けにでる必要がなかったので今も隠れている。
信乃が蛇谷を追わずに、ここにいる理由は簡単。御坂達を守るためだ。
信乃が離れている間に“奴”が襲ってきたら助からないだろう。
あのプロのプレーヤーがいたら"超能力者"(レベル5)だろうと関係ない。
「あのとき助けた黒妻さん、黒妻さんのチーム、
そして黒妻の話していた“みい”が固法先輩。いやはや、運命は面白いね。
それにしても能力を無効化させるなんて、能力を作る学園都市の発想じゃない。
・・・これは間違いなく“呪い名”(まじないな)が関わっている。
武器職人が入っているって言ったのも冗談じゃなくなってきたな。
笑えねぇ傑作だよ、まったく」
つづく
後書き
さて、ようやくアニメオリジナルを使った話に入りました。
これからは戯言成分も増やしていく予定なのであしからず。
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
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