武で語るがよい!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
決着
Side 恭也
神田君は父さんの攻撃を受けても尚、立ち上がった。
だが、立ち上がったといってもダメージは受けているはずだ。
そうなれば必然的に痛みで動きが幾分か鈍り、最善の動きが出来なくなる。
「どぉうりゃあぁー!!」
「クゥ!?」
出来なくなる筈だ……。筈なのだが……。
神田君は父さんの攻撃に的確にカウンターを仕掛けてくる。
今の状況は何だ……神田君が父さんの動きについて――いや。
明らかに父さんの動きの上をいっている。
その動きはさっきまでとは別格だ。
現に父さんは神田君の急な変化に対応できずにいる。
一体何が? 何が神田君の動きを変えたのかは分からない。
だが、これだけは言える。
「気負つけてくれよ、父さん……。
一瞬でも集中力を欠いたら、瞬く間にやられるぞ」
俺は誰にも聞こえる事ないほどの小さな声で呟くのだった。
Side out 恭也
Side なのは
私とユーノ君は、お父さん達とは少し離れたところで観戦しています。
「凄いね……なのはのお父さんも神田も……本当に凄い」
肩に乗っているユーノ君の言葉に私は頷く。
二人の動きはすごく速い……それこそ、目で追えなくなる事が沢山ある位に。
なので正直、今お父さんと神田君のどちらが有利かとかは分からないです。
でも、そんな私でも分かる事はあります。
「二人とも、楽しんでる」
二人の顔の表情はここからじゃよくわからない。
でも、雰囲気というか……空気というか。そういうのが伝わってくる。
「うん、僕もそう感じるよなのは。
言葉は聞こえなくても、表情は見えなくても……伝わってくる。
たぶん、僕の世界でもここまで人を魅了する勝負はそうそうないと思うよ」
私だけじゃなくてユーノ君にも伝わってる。
そしてユーノ君の言うとおり、二人の戦いは魅力的だ。
なぜなら、武術や剣術を知らない私ですら、今はジッと食い入るように観戦しているのだから……。
本当の事を言えば、お父さんが怪我するのが怖かった。
神田君が最初に嵐脚と呼ばれる攻撃した時は……この勝負を中止にしてほしかった。
―――でも、今は違う。
二人の戦う姿に魅了され、もっと続きが見たくなる。
二人に精一杯、悔いの無いように全力で戦ってほしいと思ってしまう……。
そして『あの場に立ちたい』そう自然に思えてしまう。
しかし、今の自分にはあの二人ほどの実力はない。
なら今できる事を……
「がんばってぇー! 二人共ぉー!」
そう、応援をしよう。
今度はお父さんだけでなく、神田君も応援しよう。
私はこの日、いえ……ひょっとしたら生まれて一番の大きな声で応援するのだした。
Side out なのは
Side 士郎
神田君の実力は本物だった。
そして何より、彼の技には驚かせれてばかりだった。
蹴りで斬撃を発生させ、防御時には肉体が鉄の様に硬くなったりする。
さらに、速度面においては僕の神速と同速に動いてくる。
強い……まさにこの一言だろう。
僕は仕事で色々な場所に、国に行って来た……色んな戦闘を経験してきた。
そんな世界を見てきた僕にだから言える……恐らく、彼は同世代においてもはや最強だ。
恐らく、地の力量では僕は彼に及ばない。
だが、彼に勝っているものは僕にも有る……それは経験。
数多の戦闘経験と実戦を繰り返した僕と対人戦が始めての神田君……。
そこに付け入る隙が有った。
それが、神速の2段重ねからの徹……。
通常の神速を重ねて速度を上昇させ、内部に衝撃を与える徹での攻撃。
流石の神田君でも神速2段重ねの速度にはついて来れず、徹は決まった。
―――勝った。
そう思った。
でも、彼は立ち上がった……徹で体の内部が痛いはずなのに
僕に出来て、自分に出来ない道理は無いと言って立ったのだ。
その時の彼の目……あれは勝つこと信じて疑わない目だった。
『自分はまだやれる』そんな闘気が、彼からは溢れ出ているのだ。
そんな彼を見て僕は恭也に再戦させ事を促し、再戦する事となった。
『俺が何か攻撃を食らえば……その時は俺の負けでいいです』……彼の言葉だ。
つまり、一度でも有効な攻撃を与えれば僕の勝ちとなる。
そして、彼はダメージを受けている……先ほどまでの動きは出来ないはずだ。
そう思い、短期で決めようとこころみたが―――
「どぉうりゃあぁー!!」
「クゥ!!」
神田君はこちらの攻撃に合わせ、アッパーや回し蹴りなどの攻撃を放ってくる。
そして、そのどれもがこちらの攻撃タイミングに合わせてくる……。
その攻撃にギリギリで反応し、彼の攻撃をかわし続ける事で今の交戦は成り立ってる。
はっきり言おう……神田君の動きが変った。
先ほどまでは、直線的な攻撃しかしてこなかった。
(まぁ、幾分かトリッキーな技があったが、それは一先ず置いておく)
しかし、再戦から今までの神田君の攻撃を見るに剛から柔になったといえる。
直線的な力比べではなく、隙を徹底的につく柔の攻撃に……。
―――本当に面白い子だ。
この歳でこの技量そして格闘センス……天賦の才とはまさにこの事だろう。
とても将来が楽しみだ。……そして、それと同時に残念に思ってしまう。
『もし、彼が僕の世代に生まれていれば……』そう思うと残念で仕方ない。
世代が一緒なら僕と彼は切磋琢磨し、己の技量を高め合っていたことだろう。
そして、全盛期に振るっていた自分の力を彼にぶつけれた。
しかし、今の僕の体は怪我と歳のせいで全盛期ほどの力は出せない。
今や神速の2段重ねを一回使うだけでも、体に凄い負担が掛かる。
「(まったく。引退してもう後悔することはないと思っていたが……大はずれだったな)」
全盛期に出せてた力が使えないのは、もう仕方がない。
でも。だからこそ、今自分の全力を使わせてもらうよ? 神田君。
「神速2段重ね―――」
Side out 士郎
再戦から数合……。
俺は見聞色が戦闘時にどのように活用できるのかを確かめていた。
なので六式の使用を一時的にやめ、純粋格闘で士郎さんの攻撃にカウンターを入れようと色々と攻撃したが、なにぶん普通の攻撃では攻撃速度が速くないので士郎さんに攻撃は入っていない。
そんな接近戦による攻防が終り、お互いに距離を空けた時だ。
士郎さんからの声が聞こえてくる。
「神速2段重ね―――」
そして、それと同時に士郎さんは消える。
状況は以前と同じ、俺と士郎さんの距離は8メートル。
俺が士郎さんの徹をくらった展開に良く似てる。
《今度は背後から―――》
そう、似てるだけだ。
俺は以前の状態とは違う。今は見聞色を発動させている。
なので士郎さんの思考は読めている……そして、今この瞬間俺がとるアクショは――。
「飛ぶ指銃―――」
《徹で終りだよ、神田君!》
右手を後ろに向け、構えた指を士郎さんの思考に合わせ……放つ!
「撥」
「グゥ!?」
《右腕に掛かるこの衝撃は一体!?》
そして後ろを振り向き、怯んだであろう士郎さんの正面へと即座に移動する。
移動の際に見えた士郎さんの顔は、右腕の痛みによって顔を歪ませていた。
撥をあれだけの至近距離で受けたのだ、当然といえる。
多分、しばらくは右腕が使えなくなる筈だ。
「獣厳!」
士郎さんの正面に行き次第、俺は次の攻撃を放つ。
狙う場所はお返しも兼ねて腹部だ。
「チィ!」
《二段重ねの後に神速は続けて使えない……仕方ない》
士郎さんは焦りの表情をしながらも、腹部を庇うかのように左腕を動かす。
《このまま左腕で防御し、後ろに飛ぶ!》
そして、士郎さんの左腕が腹部へと到着する。
思考を読んだ俺は腹部の腕を殴―――らず、右手に拳を作った状態で添える。
「なぁ!?」
《殴らない!? 一体何を》
ごめん、士郎さん。
俺、負けず嫌いだからさ……やられた事はそっくりそのまま返す事にするよ。
拳に込めるのは己の運動エネルギー。そして、それを爆発させ相手にそのままに放つ
「六式奥義―――六王銃」
放ったものはそのまま衝撃となって士郎さんの左腕、そして腹部を貫通し痛みを与える。
この技は防御を越え、相手にダメージを与える。いわば士郎さんの徹の超強化版。
六式奥義って呼ばれるぐらいだ、威力も相当なものになる。
だがご安心を、今の六王銃は最小威力で放った。
さらに本来の六王銃の構えは両手を使うのに対し、今回は右手だけで放った。
よって。士郎さんが致命傷を負うとかは無い……。が、くらった箇所の内部がかなり痛む。
それこそ、俺が士郎さんの徹をくらったのと同じぐらいに。
「グクゥ!?」
士郎さんは痛みのあまり、その場で膝を着く。
主に左腕と腹部の内部に激痛が走っているのが原因だ。
さらにさっき右腕を撥で打った痛みも残っているのも原因かな?
「父さん、大丈夫か!」
と、恭也さんが駆け寄る。
少し遠くだが、高町さん達も駆け寄っているのが見える。
「クゥ……はぁはぁ…恭也か?」
「あぁ、そうだ。
父さん、大丈夫なのか?」
士郎さんは恭也さんの言葉に小さく頷く。
どうやら、今は喋る事も少し酷なようだ。
「お父さん! 大丈夫!?」
「キュキュー!」
が、高町さんの声を聞き、顔の歪みを必死に和らげようとしている。
あれかな? 父親の意地というやつかな?
「あ、あぁ……だいじょうぶだ、なのは」
顔をいつもの表情へと戻し、高町さんに返事を返す士郎さん。
その額には大粒の汗が出てい事を察すると、まだ体が痛むのだろう。
そして、そんな状態の士郎さんを見て、恭也さんは深く頷いた……。
「この勝負……神田君の勝ちだ!」
恭也さんから下される判定に、俺は小さくガッツポーズを取る。
そして、その後。恭也さんに支えられて立つ士郎さんへと近づく。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ……ありがとう、神田君。
また、都合のつく時にでも相手をしてくれるかい?」
まだ体が痛む中で、士郎さんはにこやかに微笑む。
そんな士郎さんへの返答はもう決まっている。
「俺で良ければ、いつでも!」
俺は士郎さんと同様に微笑みながら返答する。
そして、このやり取りをして思う……あぁ、終ったんだな―――と。
:
:
:
:
:
あの後は解散……とはならず。今俺が居る所は高町家だ。
何でまたこの家に居るかと言うと……体や服がな? 土汚れとかで汚れてたんだよ。
そんで、その状態を見た士郎さんが『家に来なさい』と言ったので行く事に。
正直、士郎さんの誘いは助かった。あの状態で帰ってたら母さんに何言われるかわからんからなぁ。
そして、今居るのは高町家の風呂場だ。
―――ザザー。
「かぁ~生き返るぅ~」
浴槽に張ったお湯の中に入り、言葉が漏れる。
今なら世間のお父さま方の気持ちが分かる気がするわ。
「ははは、神田君の歳でそのセリフは速いと思うよ?」
そう言って、言葉を返しながら浴槽に入って来るのは士郎さん。
そう、俺と士郎さんは今一緒に風呂に入ってる。
ちと、二人で浴槽に入ると狭く感じるが……まぁ、足を曲げれば気にならない程度だ。
「そうですか?
まぁ、反射的に出てしまうものですし~気にしないって事にしてください」
てか、俺の精神年齢は二十歳を超えている。
そう考えると普通だと俺は思う……うん、普通だ。
「反射的にねぇ……まぁ、その気持ちは分かるよ。
特に今回みたいに、体を動かした日には特にね」
士郎さんは体を”コキコキ”と鳴らしながら答える。
顔もどこか苦笑いをしている。どうやら今日の事で色々とお疲れのご様子。
「あ、あはは……そうですね。
そうだ、士郎さん! 僕、背中洗いますよ。手合わせしてもらったり
お風呂使わせてもらったりとしてるんで、背中洗わせてくださいよ」
「おッ! そうかい。
じゃあ……お言葉に甘えるとするよ」
士郎さんは浴槽から出て、たらいに腰掛ける。
表情やテンションが何か……ウキウキとしてるように感じられるが、気にしない事にする。
と、俺も出なくちゃあ始まらないよな。そう思い俺も浴槽から出る事に。
「それじゃあー洗いますよ?」
「あぁ、お願いするよ」
士郎さんに了解をとり、さっそく手に持つ手ぬぐいで”ゴシゴシ”と洗う。
背中を洗いながら、士郎さんの体を良く見ると傷跡が結構ある。
その傷の種類は切り傷やら火傷など色々だ。よっぽどの修羅場を潜ってきたと思われる。
「この傷が気になるかい?」
不意に士郎さんから声が掛けられる。この傷が気になるか……か。
気にならなくもないが、プライベートな事なので詮索は野暮だと思う。
「いえ、カッコイイなぁ~と思ってました。
だってほら、よく言うじゃないですか? 傷は男の勲章だって」
俺は子供らしく、あどけた表情と声で言う。
そして、それから数秒経った辺りだろうか?
目の前の背中が小刻みに揺れている……どうしたのだ?
「くーははは! やっぱり君は面白い子だな、まったく!」
士郎さんは大笑いしながら、こちらに振り向く。
そして”ワシャワシャ”と俺の頭を撫で回す……何か、とっても嬉しそうだ。
「えっと……どうしたんですか?」
「ん? あぁ、いやね。
大抵の子供はこの傷を怖がって逃げ出すんだよ。
なのはなんて、初めてこの傷を見たときは泣き出した位だ」
『もう、何年も前の話だがね』と、士郎さんは思い出に浸りながら話す。
そして、数秒後に頭を左右に振り、士郎さんはたらいから立ち上がる。
「さぁ、今度は僕が神田君の背中を流す番だ」
「えっと……はい、お願いします」
手ぬぐいを手渡し、今度は俺がたらいに座る。
そして始まる士郎さんの背中流し……あ、やべこの人上手い。
「上手ですね、士郎さん」
「ははは、伊達に3人も子を育ててないよ。
まぁ、今やなのははユーノと一緒にお風呂入ると言って僕と入ってくれないんだけどねぇ」
最初の方は兎も角として……後半の声のトーンは明らかに落ちてる。
恐らく、高町さんがお父さんと一緒にお風呂に入っていないのが原因とみられる。
「高町さん位の歳になれば、自然と一緒に入浴する機会は減りますよ。
士郎さん的には寂しい事かもしれないですが……喜ばしい事じゃないですか?
高町さんが健全に、スクスクと成長してる証拠なんですから」
「んー。確かに神田君の言う事にも一理あるが……。
はぁ、それでも悲しいなぁ。子供が段々と親から離れていくのは……」
何か……どんどんと士郎さんが気落ちしてる。
自然と手は止まり、顔も下を向いてため息までつき始めている。
「ま、まぁ。元気出してくださいよ、士郎さん
それにほら? 今僕が一緒にお風呂に入ってるんですから、元気だしてくださいよ」
後ろに居る士郎さんへと振り向く。
そして子供らしく、あどけない満面の笑みで士郎さんを励ます。
「あぁ……ありがとう、神田君。
御かげで少し、元気が出てきたよ」
「それは何よりです。
じゃあ~泡落したら、もう一回お風呂に入りましょうか」
「そうだね。僕も君とはもう少し話していたいしね」
そうして、俺と士郎さんは浴槽にまた入る事に…。
ふぅ……やっぱり、風呂は何回は入ってもいいものだ。
そんな事を思いながら、俺はこの気持ちよさに浸るのだった―――
ページ上へ戻る