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戦国異伝

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第百三十三話 小豆袋その五

「わしはもう退く、御主達もそれぞれ都まで下がれ」
「はい、それでは」
「都で会いましょうぞ」
 家臣達も頭を下げる、そしてだった。
 信長は池田、森、毛利、、服部の四人だけを連れて己の馬に乗りいち早く金ヶ崎を後にした。その後に諸将がそれぞれの兵を率いて退きに入る。
 織田家の者達はまるで風の様に金ヶ崎を後にした、徳川家の者達はその彼等を見て目を丸くさせて言い合った。
「いや、早いのう」
「まさに疾風じゃ」
「右大臣殿が仰ってまだ然程時が経っておらぬというのに」
「もう陣は伽藍となっておるわ」
「この退きの速さは何じゃ」
「いや、驚いたわ」
「退くのも戦においては大事なことじゃが」
 家康も闇夜の中駆ける様に去っていく織田の軍勢を見ながら呟く。青の者達だけでなく長宗我部の紫の者達も去っている。
「これはまた凄いのう」
「このまま朝倉を押し潰し返す刀で浅井を倒すことも充分出来ますが」
 本多がその家康に言って来た。
「いや、しかしこれは」
「信長殿はより確かに勝ちたいと仰ったからのう」
「兵糧等のことも考え」
「思いきって退かれるのじゃ」
「驚くべき速さの断ですな」
 今度は石川が言う。
「織田家の軍勢はもうかなり去っていますし右大臣殿は」
「もう金ヶ崎をかなり離れておるであろうな」
「そうでありますな。まことに速いでござる」
「わしにはここまでの断の速さはない」
 三河の麒麟とさえ呼ばれている彼ですらというのだ。
「これは凄いわ、しかしここであれこれ言っても何もはじまらぬ」
「はい、それではですな」
「我々もですな」
「うむ、去ろうぞ」
 家康もこう言ってだった、そのうえで。
 徳川の黄色の軍勢も都にまで退きにかかった、羽柴がその家康に言って来た。
「徳川殿、急がれなければ浅井の軍勢に追われます」
「はい、我等も今から下がります」
 家康も微笑んで答える。
「では羽柴殿、後は」
「お任せ下され、それでは」
「都でお会いしましょうぞ」
 こう言葉を交わしてだった、家康徳川の軍勢もまた金ヶ崎を後にした。そうしてだった。
 羽柴もまた下がる、彼は己の軍勢に告げた。
「よいか、金ヶ崎には出来るだけ多く旗を残しておけ」
「このままですか」
「旗はですか」
「そのうえで下がる、よいな」
「旗の下に軍勢がおる様に見せるのですな」
 秀長がその訳を問う。
「だからですな」
「そうじゃ、気付くまで朝倉が来る時間を稼げる」
「ですな、それでは」
「我等も金ヶ崎から下がる、朝倉の軍勢はよいがな」
「問題は浅井家の軍勢ですな」
「うむ、あの家じゃ」
 そこが問題だというのだ。
「早く越前と近江の境まで向かうぞ」
「そこが一番厄介になりますな」
「そうじゃ、そこで踏ん張るぞ」
 こう秀長に言う。
「皆が逃げるまでな」
「ではまずはそこまでですな」
「逃げるぞ」 
 後詰といっても逃げない訳でjはない、逃げながら戦うのだ。それ故に後詰は困難な役目とされているのである。 
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