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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第75話

麻生は右手で自分の顔を覆いしまった、と思った。
制理に危険が及ぶ可能性の事などを考えていて、相手が常盤台中学である事をすっかり忘れていた。

(やっぱり、こいつらに関わるとロクな事がない。)

横にいる二人を軽く睨みつける。
だが、二人も相手が常盤台だという事に気づくと、苦笑いを浮かべていた。

「それでどうするんだ?
 「速記原典(ショートハンド)」というものがどういった魔術で、どういった形状なのか俺にはさっぱりわからないんだが。」

周りの生徒には聞こえない声で麻生は土御門に話しかける。

「「速記原典(ショートハンド)」ってのは、あくまで方式の名前であって、実際に分厚い本がそのまんま仕掛けてあるとは思えないにゃー。
 占術円陣の反応は確かに校庭を指していたけど、パッと見で怪しいげなモンはないだろ?」

土御門の言葉通り、校庭には「魔術っぽいもの」など見当たらない。
土でできた地面の上に、玉入れに使う金属ポール状の籠が一〇本、横一列に並んでいる。
その周囲に散らばっているのは、赤と白の玉だ。
二〇〇〇人強の生徒達が参加するため、籠も大きいし、玉の数も膨大だ。

「ったく、最初っから古びた本の形をしてりゃ良いのにな。」

「それが向こうの狙いなんだよ。
 確かにオリアナの手の内は見えちゃいないが、設置型である以上は必ず魔術的な仕掛けがある。
 落書きや引っ掻き傷、染みや汚れに偽装してる可能性もあるけど、このオレに見破れないとでも思うかい、カミやん。
 オレが修めた陰陽には、景色や建物に細工を施す風水技術も含まれてんだ。
 この手の魔術的記号の「読み取り」は、オレの十八番(フィールド)なんだよ。
 それにいざって時はキョウやんもいるし心配する事はない。」

土御門は小さく笑い、麻生は少し面倒そうな顔をした。

「でもよ、ここのどこかにオリアナの「速記原典(ショートハンド)」があるって話だったけどさ。
 それって魔道書・・・しかも、原典とかってヤツなんだろ?
 読んだら人の心が壊れるって話だけど、それって玉入れに参加した人間がみんな倒れちまうって事にはなんねーだろうな?」

「いや、多分ない。
 「速記原典(ショートハンド)」ってのは、読み手に理解させようって努力ゼロの魔道書だ。
 もともと内容の読めない殴り書きの魔道書なら、汚れた知識が伝わる事もない。
 だから、その点はおそらく心配ないぜい。」

そっか、と上条は安堵した。
しかし、土御門はわずかに表情を引き締めて言った。

「むしろ重要なのは、オリアナがどういう形で魔導書を設置しているかってトコだにゃー。
 ルーンを刻んだ石板の場合は、石板そのものが魔道書とみなされる。
 どこまでの範囲が伸びるかは知らないが、馬鹿デカイ物を「速記原典(ショートハンド)」にしないで欲しいモンだぜい。
 触れる機会が増えちまう。」

上条は選手達の頭越しに校庭を見る。
あるのは、横一列に並ぶ一〇本の玉入れ用のポール付き籠と、辺り一面にばら撒かれた、赤と白の玉だけだ。

「あの籠ならともかく・・・例えばさ、あの玉が魔道書だったりしたら厄介だよな。
 選手の数は双方合わせて二五〇〇人ぐらいか?
 だったら、玉は紅白合わせて最低でも二倍は用意してそうだし。
 何より、玉は触れる機会が多い。」

「その点に関してはゼロだから安心しろ。」

さっきまで黙っていた麻生が言った。

「どうしてそんな事を言えるんだ?」

「さっきまで俺が調べていたからだ。
 玉を一つ一つ、注意深く観察したが魔術的記号や道具などは一切なかった。
 おかげで目が疲れた。」

麻生の発言に二人はギョッ、と目を見開いて驚く。
それもそうだ、さっき上条が言った通りなら玉の数は少なくとも五〇〇〇玉以上は転がっているという事になる。
それを一つ一つ観察していくなど時間がかかるし、何よりこの距離から玉を調べるなど普通は出来ない。
土御門の方もニャハハ、と苦笑いを浮かべている。

「キョウやんの調べが正しいとなると、怪しいのは籠かポールだにゃー。」

「でも、どうやって仕掛けたんだ?
 準備中だって、もう観客は集まり始めてた頃だろ。
 呑気に近づいて行ったら絶対に気づかれないか。」

「おそらくオリアナは校庭には近づいていないぜい。
 カミやん、さっきの裏門のセキュリティ見たろ?
 逃げている最中に、わざわざ無駄にアレを破っても能力の無駄ですたい。
 あの籠、よそからの借り物じゃねーかにゃー。
 敷地の外を搬入している間にオリアナが「速記原典(ショートハンド)」の小細工を施して、そのまま校庭まで運ばれて行ったと思うんだが。」

「でも、触ったら被害が出るんだろ。
 だったら搬入係が倒れないか?」

「発動と停止のタイミングはオリアナの方で計れるんだろ。
 協議の経過はカメラが中継してる。
 そこらの電光掲示板でも見れば、準備の様子だって掴めるはずだしにゃー。」

「停止?」

「オリアナだって、取引を安全に進める為には極力騒ぎを起こしたくない筈だぜい。
 おそらく競技が終わって、運営委員が片付ける段階になったら停止させる気だろ。
 もちろん、それまでには遠くに逃げ切ってなきゃおかしいけどにゃー。」

しかし、それは競技中に誰かが「速記原典(ショートハンド)」に触れたらアウトという事を示している。
麻生は左手で目元を押えていた。
どうやら、五〇〇〇以上の玉を見て目が疲れたようだ。

「とりあえずだ、キョウやん。
 目が回復したら今度はポールと籠を調べてくれないかにゃー?」

「状況が状況だ。
 回復したら調べてやるよ。」

どうせ、すぐに終わるだろうと思い麻生は能力で疲労を回復させずに、自然治癒で充分だろうと思った。
麻生が答えると同時に校内放送のスピーカーのスイッチが入る。
位置について、という声が聞こえる。





校庭の端の方にある、運営委員用のテントの中で、吹寄制理はマイクを握っていた。

「位置について」

喉の声とスピーカーの声が重なる。
運営委員の仕事は、負傷者の回収から競技開始・終了の合図にまで多岐にわたる。
実況のようなものはテレビ局の仮説スタジオなどでも行われるが、合図だけは運営委員が仕切る事になっていた。
その他に面倒なのは、玉入れの籠に入った玉の数を数える仕事だ。
これだけの人数が戦うとなると、使用される玉の量も半端ではない。
玉入れに予定されている時間も、三分の一が「カウント時間」に当たる。

「用意」

制理は合図の開始だけ。
後の合図は他の運営委員の仕事だ。
彼女はこれが終わったら、玉を数える作業の方に移らなければならない。
面倒だ、と思うが、それとは別に、制理は心の中で首を傾げる。

(あの集団の中に誰かいたような気がするんだけど。
 でも、あんな白髪は他にはいないし・・・・もしかして、本当に?
 疲労かな?
 とりあえず、確認は後でしないと。)

疑問を胸に抱えたまま、彼女は告げる。

「始め!!」






ピーッ!!と笛の音と共に玉入れの競技が始まる。
校内放送のスピーカーが、運動会で良く使われるような行進曲が流れ始める。
テンポの軽い音楽を完全に無視する形で、二つの学校の生徒達が、左右から一斉に中央へ向かう。
行き先は横一列に並んだ、高さ三メートルほどのポールと籠だが。

「お前ら、伏せろ。」

「へ?」

麻生の突然の言葉に土御門は素早く反応して地面に伏せる。
だが、上条は声を出すだけで、突っ立ているだけだ。
すると、後ろから足を払われ前に倒れてしまう。
上条は麻生に何がどうなっているのか聞こうと、前を見た時だった。
赤や青や黄色の色とりどりの閃光が三人に向かって飛んできていた。
麻生は左手を閃光に向かって突き出す。
飛んできた閃光は麻生達の目の前で何かにぶつかり、衝撃波を撒き散らすが麻生が何かしら能力で壁を作ったのか、衝撃波が麻生達を避けていくように広がっていく。
そのせいか、麻生達の周りの地面がごっそりと抉られていた。
上条はゾッとした。
もし、この場に麻生が居なければ色とりどりの閃光に被弾して吹き飛んでいたに違いない。
他の生徒達も閃光にぶつかり、吹き飛んでいるのだが防護系の能力のおかげで怪我はない。
だが、上条の右手はそんな防護系の能力も打ち消してしまう。
土御門も薙ぎ払われた衝撃で脇腹の傷口が開くかもしれない。

「土御門、作戦変更だ。
 俺は飛んでくる能力を片っ端から防いでいく。
 お前達でポールと籠を調べろ。」

「り、了解だぜい。
 キョウやんも気をつけろよ。」

土御門も麻生が居ない事を想像した結果を思い浮かべたのか、少し苦笑いを浮かべている。
二人のやり取りを聞いて上条はゆっくりと起き上がる。

「俺の右手も上手く使ったら麻生の負担も減るんじゃ・・「どけ。」・・げふぁ!!!」

上条が話している最中なのに麻生は上条の脇腹を左足で蹴り、横に飛ばす。

「何をしやが」

上条の言葉はまたしても最後まで続かなかった。
それもその筈、上条が立っていた所の後ろから真空の弾丸が飛んできたからだ。
麻生はそれを右手で掴み、握りつぶす。

「そういう事だぜい、カミやん。
 俺達が傍にいてもキョウやんの邪魔になるだけだにゃー。
 俺達は俺達の仕事をするぜい。」

そう言った土御門だが、彼も地面をほふくするような状態だった。

「俺が合図したら、ポールまで走れ。」

麻生は両手を合わせ、そのまま何かを投げた。
その投げた物は太陽の光に反射してキラキラと幾つもの光を放っていた。
だが、その次の瞬間には幾つもの閃光やら何やらが飛んできて、その光っている物質にぶつかり爆発する。

「今だ、走れ。」

その合図と共に、土煙を掻き分けるように上条と土御門は走る。
走りながら上条は土御門に言う。

「なぁ、俺達の所にばっか能力が飛んできていないか!?」

「確かに流れ弾にしてはかなり飛んできていたにゃー。
 もしかしたら相手は俺達を・・・・いや、キョウやんを狙っていたのかもしれないぜい!!」

「どうして!?」

「それが分かったら苦労しないにゃー!!」

二人は死にもの狂いで、砲撃が飛び交う中を走って行った。



麻生は上条達が走り去ってから少しして、中央に向かって走っていた。
すると、視界の端にキラリ、と光る物質が飛んでくるのが見えた。
すぐさま、空間の壁を周りに展開する。
その光る物質は空間の壁にぶつかると、爆発する。
風を巻き上げ、土煙を一瞬で吹き飛ばすと、目の前には常盤台の生徒がいた。
その生徒とは、婚后光子だ。

「他の生徒方から麻生さんがいらっしゃるとお聞きなっていましたが、まさか本当にいらっしゃるとは驚きですわ。」

周りを見回すと、数人の常盤台の生徒に囲まれていた。

「何が目的で此処にいるのかは分かりませんがちょうどいいですわ。
 相手校の中学校では物足りませんでしたので、一つ相手をしていただけますか?」

「の、割には複数で囲むんだな。」

「あなたの能力は規格外だというのはこのわたくし達が身をもって体験しています。」

取り囲んでいる生徒達にはあの時、勝負した三人の生徒達もいた。

「そういう訳です。
 不本意ですが、複数で相手をさせていただきます。
 あなたがいれば、この競技は負けてしまう可能性がありますので先にあなたを倒す事にしました。」

「よく能力が飛んでくると思ったが、あれは狙って撃っていたんだな。」

「あれで倒せれば良かったのですが、そうは簡単にいきませんでしたわ。」

婚后は自分の持っている扇子の先を突きつけて言う。

「さぁ、行きますわよ!!
 覚悟してくださいまし!!」

婚后の発言を合図に周りの生徒達の能力が一斉に麻生に集中する。
だが、そんな状況でも麻生は小さく笑みを浮かべていた。

「足りないな。」

そう麻生は言った。

「俺を足止めするつもりなら、此処にいる常盤台の生徒全員引っ張ってくるんだったな。」

意外にも麻生も麻生でこの競技を楽しんでいるのだった。 
 

 
後書き
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