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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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外伝
外伝1:フェイト編
  第5話:救出作戦


レーベンを手にしてからというもの、ゲオルグは新しいデバイスを使った戦闘に
慣れるべく、連日訓練を重ねた。
最初は一人で訓練スペースの訓練プログラムが出現させるターゲットを相手に、
ついでフェイトやクリーグとの模擬戦で。

当初、AIを介して魔法を発動することによるタイムラグと、魔法発動効率の
向上に戸惑っていたゲオルグではあったが、2週間もするとレーベンとの
コンビネーションもスムーズになり、ゲオルグのイメージ通りの動きが
できるようになった。

とはいえ、フェイトとの力の差がそう簡単に埋まるはずもなく、
何度となく行われた模擬戦でもゲオルグはただの1度もフェイトから勝利を
あげることはできていない。
この日もゲオルグはフェイトに模擬戦を挑んでいた。

「行くよ、レーベン」

《はい、マスター》

ゲオルグはレーベンの柄をグッと握りしめると、フェイトの方に向けて振るう。
刹那、レーベンの刀身を包み込んでいた暗い青色の魔力光が、
無数の小さな刃となってフェイトへと向かって飛んでいく。

フェイトはそれを見ると床を蹴って宙に浮かび、そのスピードを生かして
ゲオルグの飛ばした魔力の刃を悉く避けていく。

一方ゲオルグは、フェイトへ魔力の刃を飛ばした直後に駆けだし、
フェイトとの距離を詰めにかかっていた。
そして、フェイトが空中へと飛び上がるとそのあとを追うようにして、
訓練スペースの無機質な床を蹴り飛ばす。

「でぇええええいっ!」

気合いをこめてゲオルグはレーベンを一閃する。
その渾身の一撃をフェイトはバルディッシュで防御すると
逆に、フェイトはバルディッシュを振るってゲオルグを弾き飛ばす。
ゲオルグは訓練スペースの壁に向かって勢いよく飛ばされて行くが、
空中で姿勢を立て直すと壁に着地するようにその両足で衝撃を吸収する。

(ぐっ・・・)

殺しきれなかった衝撃によって両足にわずかに痛みが走り、
ゲオルグは少し顔をゆがめる。
ゲオルグが目線を上げると、高速で接近してくるフェイトが目に入った。

(やっぱりそうくるか・・・。ならっ!)

ゲオルグはこの戦術で何度もフェイトに敗北を喫している。
そのたびに対策を考え次に挑むのだが、フェイトの機動は毎回ゲオルグの予測を
上回ってくるのである。
今回もゲオルグは対策を練っていた。 レーベンとともに。

「レーベン、いいね」

《もちろんです、マスター》

レーベンとの短いやりとりを終えると、ゲオルグは折りたたんだ両足に貯め込んだ
エネルギーを解放して壁を蹴ると、フェイトに向かって飛ぶ。
ゲオルグとフェイト、2人ともがお互いに向かって進むことで
2人の間の距離が急速に失われる。

フェイトはゲオルグの動きに戸惑いつつもバルディッシュを振りかぶり、
振りおろさんと構える。
一方ゲオルグは、みるみる近づいてくるフェイトの動きをただ見つめていた。

(さあ、フェイトさん。どうくる・・・)

攻撃レンジが近づきフェイトの腕がピクリと動く。

(きたっ!)

そして、フェイトの腰が回転を始め、バルディッシュの先端にある黄色に輝く
刃がゲオルグへと向かう。
ゲオルグは刃から目をそらすことなく、その動きを予測し、回避するべく
身をよじる。
わずかにゲオルグのプロテクションとバルディッシュの刃が接触し、
バチっという音を立てるが、突き破るには至らない。

「レーベン!」

《はいっ!》

フェイトの攻撃を避けきったゲオルグは、フェイトの背後に回ると
身体を回転させてフェイトの方へ向き直りながら、空中で急ブレーキをかける。
そして、フェイトの背中に向かってレーベンを振りおろした。

しかし・・・。

「ぐっ・・・くそっ」

ゲオルグは小さくそうつぶやき歯噛みする。
ゲオルグが渾身の力で振りぬいた一撃は、バルディッシュによって阻まれ
フェイトのもとへ届くことなくその勢いを失った。

ゲオルグが腕をたたんでレーベンを引き寄せると同時に
フェイトの腕が動き、バルディッシュがゲオルグに迫る。
ゲオルグが気を失う前に見た光景は、眼前に迫る黄金色の刃だった。





「ゲオルグ、大丈夫?」

「う・・・」

フェイトの声で目を覚ましたゲオルグは、小さくうめき声を上げて身を起した。
そこは医務室のベッドの上で、フェイトはベッドの脇に置かれた椅子に座っていた。

「あら、もう起きたのね。 平気かしら?」

奥から出てきた医務官の女性に尋ねられ、ゲオルグは頷く。

「大丈夫ですよ。身体ダメージはないはずですし」

「そうね。でも、気絶するほどの魔力ダメージはリンカーコアにダメージを
 与えることもあるんだから、気をつけなさい」

「そうします」

ゲオルグはそう言ってベッドから降りると、医務官に向かって頭を下げた。

「ゲオルグ。本当に大丈夫? もう少し休んでた方が・・・」

医務室を出たところで、後から追いかけてきたフェイトがゲオルグに話しかけた。

「大丈夫だよ。 それよりごめん、迷惑かけて」

「ううん。 私もついムキになっちゃって・・・ごめんね」

「いいって。本気で戦ってくれた方が僕にとってもいい訓練になるし。
 またやろうよ」

「いいの?」

「もちろん!」

「うん。じゃあ、またやろうね」

話しながら通路を歩いてきた2人は、B分隊の待機室の前までやってきた。

「じゃあ、ここで」

「うん。またね、ゲオルグ」

手を振りあってフェイトと別れたゲオルグは、分隊の待機室へのドアを開ける。

「あ、分隊長。おはようございます」

待機室に入ったゲオルグをルッツ曹長が出迎える。

「おはようございます。 すいません、遅くなって」

「事情はクリーグから聞いていますよ。 朝からずいぶん派手にやったようですね」

「クリーグ士長から?」

「はい。 分隊長とハラオウン執務官の模擬戦を観戦していたようで」

「そうだったんですか。 なんだか恥ずかしいですね」

ゲオルグはそう言うと、照れくさそうに頬をかく。

「そんなことないです。 すごかったですよ、分隊長とフェイトちゃんの模擬戦」

分隊員たちの輪の中にいたクリーグが2人の方に近づいてきて興奮した様子で
声を上げる。

「こら、クリーグ。ハラオウン執務官は上官だ。ちゃん付けで呼ぶなど言語道断だ」

「そんなカタいこと言いっこなしですよ、ルッツ曹長」

「やかましい!!」

ルッツはクリーグを怒鳴りつけると、その頭上に拳骨を落とす。

「痛てっ! すいません、もうしませんから!」

ゲオルグは2人のやりとりを微笑ましく思いながら、自分の席へと向かう。
事務仕事を始めようとしたところで、ゲオルグの目の前に通信ウィンドウが開いた。

『おはよう、シュミット』

「おはようございます、ミュンツァー隊長」

ゲオルグが画面の中のミュンツァーに向かって挨拶をすると、ミュンツァーは
小さく頷いてから話し始める。

『朝からすまんが、今すぐ会議室に来てくれ』

「今すぐ・・・ですか? 何かあったんですか?」

『来てから話す。以上だ』

ミュンツァーは硬い表情でそう言うと通信を切った。
ウィンドウが消えるとゲオルグは机に手をついて立ちあがる。

「ルッツ曹長。 隊長に呼ばれましたので行ってきます。
 戦術シミュレーションをやっておいてください。 状況は任せます」

「はい、了解しました」

待機室から通路に出ると、A分隊の待機室から出てきたヒルベルトと出くわし、
ゲオルグはヒルベルトの側に駆け寄る。

「ヒルベルトさんも隊長に呼ばれたんですか?」

「ああ。ずいぶん焦ってるようだったけど、なんなんだろうな?」

「僕とヒルベルトさんが揃って呼ばれるということは、地上戦が必要な事態が
 発生したと見るべきでしょうね。 しかも、緊急に対応が必要な」

「同感だな。 まあ、あとは隊長から直接聞くことにしようか」

「そうですね」

2人は艦橋近くにある会議室の前まで来ると、扉を開けて中に入る。
そこには、ミュンツァーが一人でぽつんと座っていた。

「来たか。まあ、座れ」

ゲオルグとヒルベルトの2人はミュンツァーに向かって頷くと、
適当な席に腰を下ろす。

「あとはハラオウンを呼んでいるから、来るまでもう少し待て」

ミュンツァーの言葉にゲオルグとヒルベルトは顔を見合わせる。

「フェイトさんを呼んでるってことは、犯罪の可能性があるってことですかね?」

「だろうな。 ま、隊長が話してくれるのを待とうや」

「ですね」

部屋のドアが開き、黒い執務官の制服を着たフェイトが入ってくると
ゲオルグの隣の席に座る。

「揃ったな。では話を始めるとするか」

ミュンツァーはそう言うと、会議テーブルの上にウィンドウを出現させた。

「今から1時間前のことだ。 管理局管理下のとある研究所で爆発事故が発生した。
 原因は今のところ不明だが、研究員らが多数取り残されていることが判明した。
 今回の我々の任務は取り残された研究員たちの救出だ。
 ここまでのところで何か質問は?」

「本来、レスキューは我々の任務ではないはずですが」

ヒルベルトが顎をさすりながら尋ねる。

「確かにヒルベルトの言うとおりだが、今回は研究所のある世界が無人世界でな。
 ゆえにレスキュー部隊も配備されていない。 それで近くにいた我々が
 急きょ救出任務を負うこととなった。これは本局上層部からの命によるものだ」
 
ミュンツァーの言葉にヒルベルトは納得したように頷く。

「他になければ具体的な作戦の話に移る」

会議テーブルの上にあるウィンドウに研究所の平面図が表示される。

「この研究所は山の斜面に掘られたトンネルの中にある。
 情報によれば、研究員たちが取り残されているのはこの地点。
 爆発による落盤と火災で身動きが取れなくなっているらしい」
 
ウィンドウの中の平面図にいくつかの光点が出現する。

「で、突入経路だがA分隊はメインゲートから、B分隊は第2ゲートから突入し
 このルートで研究員が取り残されているポイントへ向かう」

ミュンツァーの言葉に合わせるように、ウィンドウの中にある研究所の図面に
2本のラインが引かれる。
ゲオルグのB分隊の突入ルートは荷物搬入用の第2ゲートから研究員が
立ち往生しているポイントまでほぼ一直線となっていた。

「それと、A分隊には俺が、B分隊にはハラオウン執務官が同行する」

ミュンツァーがそう言うと、ゲオルグが手を上げる。

「ハラオウン執務官が同行されるのは犯罪の可能性を考えてのことですか?」

「それもある、可能性は極めて低いと思うがな。それよりも、ハラオウン執務官の
 戦闘能力は今回の作戦でも役に立つと考えてのことだ。不服か?」

ミュンツァーの言葉を聞いたフェイトがゲオルグの方を見る。

「いえ、不服ではありませんよ。 むしろ助かると思っています」

ゲオルグがそう言うと、フェイトはホッとしたように息を吐く。

「ならいいな。 他になければ終わりにしたいが構わんか?」

ミュンツァーは3人の顔を順番に見る。
全員が頷くのを見てミュンツァーは立ちあがった。

「では、30分後に転送装置の前に全員を集合させるように。以上だ」

その言葉を合図に3人は椅子から立ち上がった。
通路へと出るとゲオルグはフェイトに声をかける。

「フェイトさん。 これからB分隊のみんなに説明するけど、一緒に来てくれる?」

「うん、もちろん」

フェイトはゲオルグの言葉に神妙な表情で頷く。

「ん、どうした? 緊張してるのか?」

ヒルベルトがフェイトの肩に手を置いて声をかけると、フェイトは小さく頷く。

「私がシャングリラに来てから初めての実戦ですから」

「無理もないな。 が、ゲオルグはそう言う意味じゃフェイトよりも経験豊富だ。
 今回はコイツの指揮に従って動けば間違いはないだろうさ」

ヒルベルトはそう言ってフェイトの肩をポンと叩く。
フェイトは少し安心したのか、微笑を浮かべて頷いた。

3人で並んで通路をA・B両分隊の待機室に向かって歩く間、
それぞれがこれからの作戦について思いを巡らし、無言で歩く。

分隊の待機室の前に着くと、ヒルベルトが口を開いた。

「それじゃ、またあとでな」

ヒルベルトの言葉にゲオルグとフェイトの2人は小さく頷き、
A分隊の向かい側にあるB分隊の待機室へと入る。

「お帰りなさい、ってハラオウン執務官?」

「すいませんルッツ曹長。 時間がありませんので至急全員を集めてください。
 全員が集合したら説明します」

「了解しました」

ルッツはゲオルグに向かって頷くと、分隊員全員に招集をかける。
5分後には全員が待機室に集合し、ゲオルグとフェイトの前に整列していた。

「出撃です。 これより1時間ほど前に管理局の管理下にある研究所の一つで
 爆発事故が発生し、研究員が取り残されていることが判りました。
 これより僕たちは彼らの救出に向かいます」

ゲオルグの言葉で分隊員たちが少しざわつく。

「この後すぐに出なくてはいけませんから、細かい説明は省きますが、
 後で各自のデバイスに作戦図を送信しておきますので確認を。
 それと、本作戦ではハラオウン執務官がB分隊と同行します」

さらに最後の一言で分隊員たちは歓声をあげる。
ルッツの一喝でざわめきが収まるのを待ってゲオルグは先を続ける。

「10分以内に転送装置室に集合してください。 以上です」

ゲオルグは話を終えると、他の分隊員に先んじて待機室を出た。
ゲオルグのあとにフェイトが続く。
フェイトは横に並ぶと、ゲオルグに話しかける。

「いいの? 先に行っちゃって」

「いいんだよ。 ルッツ曹長がしっかりまとめてくれるからね」

「信頼してるんだね、ルッツ曹長のこと」

「もちろん」

ゲオルグはそう言うと時計を見て先を急ぐ。
急にペースを上げたゲオルグに歩調を合わせてフェイトも続いた。





30分後・・・
次元航行艦シャングリラの魔導師隊に所属する面々は、研究所の前に立っていた。
とはいえ、A分隊とB分隊はそれぞれに離れた別々の入り口の前にいる。
ゲオルグのB分隊の目の前にある荷物搬入用のゲートは大きな金属製の扉で
閉ざされていたが、その隙間から黒い煙が漏れ出ていた。

(これは・・・ひどいな)

ゲオルグはそのさまを見てゴクリとつばを飲み込む。

『隊長より各分隊。 突入開始』

ミュンツァーからの通信を介した命令に、ゲオルグは了解と返すと
分隊員たちの方を振り返る。
分隊員たちも、研究所内部から漏れ出る黒煙を見て身を固くしていた。

「聞いての通りです。 これから突入を開始しますが、突入ルートについては
 各自、確認していますね?」

ゲオルグの言葉に全員が頷く。

「では突入します。 内部は視界が悪いと予想されますので慎重に進みましょう。
 先頭は僕とハラオウン執務官が務めます。最後尾はルッツ曹長にお願いします」

「了解しました」

ゲオルグはルッツの返答に頷き返すと、目を閉じ一度深呼吸する。
再び目を開いたとき、ゲオルグの表情はさらにに鋭さを増していた。

「では、行きますよ」

そう言って踵を返す。
隣にはフェイトが立っている。
ゲオルグはフェイトと一瞬目を合わせると、荷物搬入用ゲートの巨大な扉に向かって
歩き始めた。そのあとにB分隊の面々が2列縦隊で続く。

扉の目の前に着くと、ゲオルグはその脇にあるパネルを開けて事前に聞いていた
パスコードを入力しようと手を伸ばす。
が・・・

(あれ、反応しない?)

ゲオルグがパネルに触れても何の変化もなかった。
怪訝に思ったゲオルグは何度か指で押してみるものの、やはり反応はない。

「どうしたの、ゲオルグ?」

「扉を開閉するための装置が壊れてる」

フェイトに尋ねられゲオルグが渋い表情で答える。

「じゃあ、壊すしかないね。 バルディッシュ」

《Yes sir》

フェイトは平然とそう言うと、ハーケンフォームのバルディッシュを構える。

「ちょっ、フェイトさん!」

少し待って・・・とゲオルグが制止しようとするものの、フェイトは止める間もなく
扉に向かってバルディッシュを振りおろした。
直後、巨大な扉がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
背後から聞こえる分隊員たちのどよめきの中、ゲオルグは嘆息する。

「・・・行きましょう」

ゲオルグはほっと息を吐くと、小さくそう言って扉の残骸に向かって歩き出した。
こんもりと小さな山になった残骸を避けて、巨大なトンネルのような
研究所の荷物搬入用通路に足を踏み入れた。

そこはわずかな非常灯だけが光るうす暗い空間だった。
ゲオルグは焦げ臭いにおいに顔をしかめながら慎重に足を進める。
時折通路の両側に扉が現れると、分隊の何人かを見に走らせつつ、
ゲオルグを先頭にB分隊は奥へと進んでいく。

やがて、通路の奥にオレンジ色の光が見えてくる。
それが近づくに従って、周囲の空気の温度が少しずつ上昇する。

「暑くなってきたね」

「うん。 意外と火が大きいのかも」

フェイトとゲオルグが短い言葉をかわす。
2人の額には汗がにじみ始めていた。
さらに奥へと進むと、通路をふさぐほど大きな炎が2人の目に入った。

「これは・・・ダメだ」

「うん。 別の道を探す?」

ゲオルグが厳しい表情でそう言うと、フェイトが頷きながら尋ねる。
ゲオルグは腕組みをして炎を見つめていたが、しばらくして後ろに続く
分隊員たちの方を振り返ると一人の隊員に目を向けた。

「クリーグ士長。 確か水系の魔力変換が使えましたよね?
 この火を消せそうですか?」

ゲオルグが問いかけると、クリーグはそうですねと言ってから燃え盛る炎を
じっと見つめた後に首を横に振った。

「やってみないと判りませんね」

「ではお願いします。 別ルートを探すのも面倒ですから」

クリーグは了解ですと答えると、自身のデバイスを構える。
囁くような小さな声で言葉を発すると、クリーグの足元に水色の魔法陣が現れた。

「行きますよ!」

クリーグのデバイスから淡い青色の光があふれ、通路の先で燃える炎に向かって
飛んでいく。
クリーグの放った魔法が炎の直上で弾けると、水の塊となって炎に向かって
降り注いでいく。
ジュッという音とともに水蒸気が立ち上り、ゲオルグたちの視界を遮った。

「・・・うまくいった?」

「ように見えるけど・・・」

水蒸気が晴れてくると、先ほどまで広がっていた炎が消えていた。
ゲオルグはホッと息を吐く。

「ありがとうございます、クリーグ士長」

「いえ、きちんと消せてよかったです」

クリーグはそう言って笑う。
ゲオルグが頷いて先に進むべく踵を返す。
クリーグもそのあとに続こうと足を前に出したところで足元がおぼつかず、
ふらついてしまう。

「おっと・・・大丈夫か?」

肩に手を置かれる感覚でクリーグが後ろを振り返るとそこにはルッツが立っていた。

「あ、すいません曹長。 もう大丈夫ですから」

「気をつけろよ。 どうしても厳しいようなら言え」

心配そうに声をかけてくるルッツにクリーグは苦笑しながらはいと返した。
 
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