遊戯王GX ~Unknown・Our Heresy~
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第8話 規則の鬼と不良少女
前書き
今回の話はデュエルはあります。
ただフラグを立てる事を目的として書いた話しです。
さぁ、お相手は誰でしょう?
どうぞ!
side 三人称
鳥の囀りが聞こえる昼下がり。
太陽が燦々と輝くアカデミアの屋上は、日の光を直に浴びる事ができる絶好の日向ぼっこポイントだ。
この屋上には、多くの生徒が学年問わず温まりに来ている。
この男、剣崎直哉もまたその1人。
「気持ちいいな・・・・」
地上から少し高い屋上では、日の光が体を温め、吹き抜ける風が体温を適温に抑えてくれる。
夢見心地になれるこの場所で、直哉はゆっくりと瞼を閉じ眠りにつこうとした。
しかし、静かな屋上に不快な金属音が鳴り響き、静寂をぶち壊した。
「誰だよ」
夢見心地な雰囲気をぶち壊され、嫌悪感を顕わにして直哉は屋上の出入り口に目を向けた。
するとそこには、肩で大きく息をした女の子が鬼の様な形相でこちらを睨んでいた。
ダークグリーンの髪が太陽に照らされ、鮮やかな色彩を放っている。
そして、ここまで走って来たのだろうか、顔が紅潮している。
その女生徒は直哉の姿を視認すると、ずれた眼鏡をかけ直して身嗜みと息を整えた。
「見つけましたよ! 剣崎君!!」
彼女は直哉を勢いよく指さした。
その女生徒を視認して、直哉は大きく溜息を吐いた。
「なんですか! その溜息は!!」
直哉の溜息にムッとした彼女は、直哉を怒鳴りつけた。
疲労で熱を帯びた顔が更に赤くなっていく。
直哉はその場に立ち上がり、面倒臭そうに頭を掻いた。
「折角心地よかった雰囲気がアンタの所為で台無しだ。どこまで俺を追いまわせば気が済むんだ?」
直哉は腕を組み、息を荒げる彼女を呆れた表情で見つめた。
実は、彼女は以前にも直哉を追いかけ回した事が有った。
理由は、直哉がこの学園で数多くの女生徒と親しくしている事が原因だと言う。
しかし、それの何処が問題なのか直哉には理解できなかった。
そんな事を思い出し、直哉は再び大きく溜息を吐いた。
その溜息で彼女の怒りがさらに増して行った。
しかし、彼女は怒りにブレーキを掛け、心をクールダウンさせた。
「剣崎君、貴方は水瀬さんや影光さんだけではなく、天上院さんに枕田さん、浜口さん他大多数の女生徒を侍らせているそうですね」
彼女はネタが上がっているという刑事の様な眼差しで直哉を睨みつけた。
「ハァ? 待て、確かに俺は明日香たちと仲が良いけど、それはただの友愛だ。それに他の生徒とは日常会話しか交わしていないし顔も名前も覚えていない」
彼女の言葉に直哉は反論する。
このアカデミアに来てから早2週間が過ぎた。
その間に直哉は数多くの女生徒から声をかけられたり、食事を一緒にと誘われる事が多々あった。
しかし、いつも誘いは断り、雪鷹たちと食事をとっていたが、彼女たちは中々諦めず、直哉が寮から出てくる所を待ち伏せしたりと規則を無視した行動に出る事もあった。
そんな彼女たちをいつも雪鷹が“更生”させている。
どんな更生の仕方かはご想像にお任せします。
そんな直哉の言葉を聞いて、彼女の額の青筋が音を立てて切れた。
「ッ!? 遊ぶだけ遊んだら切り捨てるなんて、もう堪忍袋の緒が切れました!! 剣崎君!! デュエルです!!!」
そう言って彼女は何処からかデュエルディスクを取り出した。
「ちょっと待て! どうやったらそういう解釈になるんだ!?」
突然の事に直哉は慌てる。
しかし、今の彼女は聞く耳を持っていない。
「問答無用です!!」
直哉の反論を無視し、彼女はデュエルディスクを展開していく。
仕方ないと反抗を諦めた直哉もデュエルディスクを展開する。
「「デュエル!!」」
直哉 LP4000
手札5枚
フィールド0
女生徒 LP4000
手札5枚
フィールド0
ターンランプが直哉のディスクに点灯する。
「俺のターン! ドロー!! 俺は《マンジュ・ゴッド》を召喚する!」
直哉のフィールドに光が溢れ、その輝きの中から銀色の姿をして、万の腕を持つ深紅の瞳の仏が姿を現した。
マンジュ・ゴッド
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1400/守1000
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分のデッキから儀式モンスターまたは
儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
マンジュ・ゴッドの姿を見て、彼女は眼を見開いて驚愕した。
「マンジュ・ゴッド!? 貴方のデッキはHEROのはず」
どうやら直哉のデッキをHEROだと思い込んでいたらしい。
そんな彼女に構わず、直哉はプレイを続ける。
「マンジュ・ゴッドの効果発動! このカードの召喚に成功した時、デッキから儀式魔法1枚を
選択し、手札に加える! 俺は、《救世の儀式》を手札に加える!」
直哉はデッキをディスクから取り外し、扇のようにデッキを広げ、その中からカードを1枚抜き取り手札に加え、デッキを元に戻しディスクにセットし直した。
「俺はカードを2枚セットして、ターンエンド」
直哉 LP4000
手札4枚
モンスター 《マンジュ・ゴッド》
魔法・罠 セット2
「私のターン、ドロー!」
直哉のデッキの違いには彼女は驚きを見せたが直ぐに心を落ち着かせ、カードをドローした。
「私は、魔法カード《昼夜の大火事》を発動! 相手ライフに800ポイントのダメージを与えます!」
昼夜の大火事
通常魔法
相手ライフに800ポイントダメージを与える。
直哉の足元から火の手が上がる。
ボウボウとまるで生物の様に揺らめき、直哉を食らおうとしているように上へと灼熱の手を伸ばして行く。
「罠カード発動! 《ダメージ・ポラリライザー》!! このカードは、ダメージを与える効果が発動した時、その発動と効果を無効にし、その後お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする!」
ダメージ・ポラリライザー
カウンター罠
ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。
その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。
直哉の足元を蠢いていた炎を突風が吹き飛ばし掻き消した。
ダメージ・ポラリライザーの発動に、彼女の表情が再び驚愕に染まった。
「対効果ダメージ用カード!? どうして!?」
驚愕する彼女を見て、直哉は不敵な笑みを浮かべた。
「君のデッキは以前に聞いた事が有ってね。効果ダメージ対策として、一応入れておいたんだよ」
そんな直哉の言葉に、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて直哉を睨みつけた。
「なら、魔法カード《革命》発動! このカードは、相手の手札の枚数×200ポイントのダメージを相手ライフに与えます! 剣崎君の手札は現在5枚! よって、1000ポイントのダメージを与えます!」
革命
通常魔法
相手の手札の枚数×200ポイントダメージを相手ライフに与える。
直哉の手札に電流が走る。
バチバチと音を立て直哉に襲い掛かろうとしている。
その時、再び直哉のリバースカードが反転した。
「罠カード発動! 《エネルギー吸収板》!! このカードは、自分にダメージを与える魔法・罠・モンスター効果が発動した時に発動する事が出来る! 自分はダメージを受ける代わりに、その数値分ライフを回復する!」
エネルギー吸収板
通常罠
自分にダメージを与える魔法・罠・効果モンスターの
効果を相手が発動した時に発動できる。
自分はダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する。
走る電流が消え、直哉の身体を優しい光が包み込んだ。
直哉 LP4000→5000
またしても自分のバーンが交わされた事に、彼女の表情がドンドン険しくなっていく。
「私はモンスターをセットし、カードを2枚セットしてターンエンドです」
女生徒 LP4000
手札2枚
モンスター セット1
魔法・罠 セット2
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間! 罠カード発動! 《仕込みマシンガン》!!
「なに!?」
彼女の発動したカードを見て直哉が声を上げ驚愕した。
すると、彼女のフィールドに2機のマシンガン砲台が直哉に照準を合わせ現れた。
仕込みマシンガン
通常罠
相手フィールド上のカードと相手の手札を合計した数
×200ポイントダメージを相手ライフに与える。
「このカードは、相手のフィールド上と手札のカードの合計×200ポイントのダメージを相手プレイヤーに与えます。剣崎君のフィールドはマンジュ・ゴッド1体、手札の枚数は6枚。よって、1400ポイントのダメージを与えます!」
マシンガン砲台の銃口が一斉に火花を散らせた。
銃口から飛び出した何発もの弾丸が勢いよく直哉の身体を貫いた。
「うあぁぁ!!」
直哉 LP5000→3600
弾丸に撃たれ直哉の悲鳴が響き渡る。
しかし、彼女の火力はこれだけではなかった。
「そして、もう一枚の仕込みマシンガンを発動!」
「なッ!?」
表になった仕込みマシンガンのカードを見て、直哉は再び声を上げた驚愕した。
再び現れたマシンガン砲台の銃口から一斉に弾丸が発射された。
「がぁぁぁぁ!!」
直哉 LP3800→2400
マシンガン砲台の一斉射撃第2射に、直哉は地に片膝をついた。
さすがにソリッドヴィジョンでも1000ポイント台のダメージを受けては、伝わる衝撃が途轍もないようだ。
しかし、直哉は直ぐに立ち上がり、彼女の方に顔を向けた。
そんな直哉の表情を見て、彼女は眼を見開いた。
何故なら、直哉は笑っていた。
彼女は今までバーンデッキを使っていた事で蔑まれていた。
彼女自身もそれを十分理解していた。
だから反論をしなかった。
秩序を守るためだと自分に言い聞かせ、このバーンデッキを使用してきた。
しかし、今目の前に居る彼はどうだ。
今までの者たちとは違い、自分に笑顔を向けている。
彼女には直哉の心情が読み解けなかった。
そんな時。
「やっぱり、アンタすげぇよ」
「え?」
一瞬、彼が何を言ったのか彼女には理解できなかった。
「さっきの大火事と革命、それに加えて2枚の仕込みマシンガン。大火事と革命を防がなかったら、俺のライフは0になってた」
直哉は自分のライフカウンターを見下ろしてそう言った。
そして勢いよく顔を上げた。
「だから楽しいんだ! ワンショットキルをいとも簡単にやれるアンタと戦えて、俺は今メッチャ楽しい!!」
「ッ!?」
目を輝かせ今の状況を純粋に楽しんでいる直哉に、彼女は今日何度目かの驚愕を感じていた。
「行くぜ! デュエル再開! 俺は、《召喚僧サモンプリースト》を召喚!」
光を振り払いながら、紫の修道服を纏った赤い瞳と銀の長髪の召喚僧が直哉のフィールドに現れ、胡坐をかき彼女を見据えた。
召喚僧サモンプリースト
効果モンスター(準制限カード)
星4/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1600
このカードはリリースできない。
このカードは召喚・反転召喚に成功した時、守備表示になる。
1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てる事で、
デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、そのターン攻撃できない。
「サモンプリーストの効果発動! 手札の魔法カード1枚を捨てて、デッキからレベル4のモンスター1体を特殊召喚する! 俺は、手札の《救世の儀式》を捨てて、《終末の騎士》を特殊召喚する!」
サモンプリーストは修道服の袖から1枚の札を取り出し、その札に向かって呪文を唱え始めた。
呪文は文字となりサモンプリーストの周りをグルグルと回り出した。
その呪文は札に吸い込まれていき、やがて札は光輝き、その札に吸い込まれた呪文が浮き上がった。
そして、サモンプリーストはその札を自分の隣に投げつけた。
すると、投げられた札が再び光輝き、その輝きの中から、漆黒を纏った放浪の騎士が姿を現した。
「終末の騎士の効果発動! このカードの召喚に成功した時、デッキからモンスター1体を墓地に送る事が出来る! 俺は、《儀式魔人プレサイダー》を墓地に送る!」
そう言って直哉はディスクからデッキを取り外し、デッキを扇のように広げた。
そして、その中からカードを1枚取り出し、そのカードを墓地へと送った。
「そして、俺はフィールド魔法《魔法族の里》を発動!」
轟音を轟かせ、大地から勢いよく大木が2人を囲うように生えてきた。
木々の隙間から射し込む太陽の光に照らされ、小さな球体が輝きを放ちフワフワと宙を漂っていた。
「俺はカードを2枚セットしてターンエンド」
直哉 LP2600
手札 1枚
モンスター 3体 《マンジュ・ゴッド》《召喚僧サモンプリースト》《終末の騎士》
魔法・罠 《魔法族の里》 セット2枚
「私のターン、ドロー!」
彼女はデッキからカードを引きながら、自分たちを囲う木々について考えていた。
「(このフィールド魔法は一体・・・・・)私は、魔法カード《火炎地獄》を発動! 相手に1000ポイントのダメージを与え、その後私にも500ポイントのダメージを与えます!」
自分を襲う衝撃に供え、彼女は身構えた。
その時、漂う光が強烈な光を放ち輝いた。
「クッ!? 一体何が!」
突然の事に彼女は右腕で顔を庇い、光を遮った。
やがて輝きが落ち着き、彼女が腕を戻し直哉に視線を戻すと、彼女は愕然とした。
直哉のライフが減っていない。
まさかと思い、女生徒は自身のライフポイントを確認した。
案の定、自分のライフも減っていなかった。
何故?
その言葉が彼女の頭をグルグルと回る。
そして、彼女はハッと何かに気が付き、辺り一面を見渡した。
そんな彼女の考えを見透かしたように直哉は口元に不敵な笑みを浮かべた。
「ご名答。アンタの推測通り、火炎地獄が発動しなかったのは、このフィールド魔法の効果さ。この魔法族の里は、自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在するとき、相手は魔法カードを発動できない」
「魔法を封じるフィールド魔法・・・・・。これでは効果ダメージを与える魔法カードが使用できない」
直哉の言葉に彼女はハッと目を見開き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そんな彼女に、直哉は吉報を伝える。
「まぁ、こいつには制約が有って、魔法使い族がフィールドに居ないと俺が魔法を使用できなくなるんだよ。その代わり、魔法使い族がフィールドに居れば、アンタも魔法が使えるようになる」
魔法族の里
フィールド魔法
自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、
相手は魔法カードを発動できない。
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、
自分は魔法カードを発動できない。
魔法使い族という単語に、彼女は何かを思い出したように自身の手札に視線を落とした。
そして、フッと微笑を浮かべた。
「それは良い事を聞きました。では、私も魔法使い族を召喚させてもらいます! 私は、《連弾の魔術師》を攻撃表示で召喚します!」
大地から光が溢れ、その輝きの中から、漆黒の魔法衣に身を包み、薄紫の髪を風に靡かせ、両手に杖を携えた魔術師が姿を現した。
その魔術師の周りには、様々な色彩の球体が浮遊していた。
連弾の魔術師
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1600/守1200
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分が通常魔法を発動する度に、
相手ライフに400ポイントダメージを与える。
「何!?」
連弾の魔術師の登場に直哉は声を上げ驚いた。
彼女のデッキがバーンデッキである事は知っていたが、まさか魔法使い族を入れているとは思わなかったらしい。
その反応に、女生徒は再び微笑を浮かべた。
「どうやら私のデッキに魔法使い族が入っていないと思っていたようですね。その油断が貴方の敗因です! 私は《強欲な壺》を発動! デッキからカードを2枚ドローします!」
山札からカードを2枚引き、引いたカードを見て彼女は「よし!」と呟いた。
「通常魔法が発動した事で、連弾の魔術師の効果が発動します! 相手プレイヤーに400ポイントのダメージを与えます!」
魔術師は右手に持つ杖を振るい、宙に浮く緑色の球体を直哉に向かって放った。
球体は弾丸の様なスピードで直哉の腹に直撃した。
「グフッ!」
直哉 LP2400→2000
直撃した腹を押さえ、直哉は連弾の魔術師を睨んだ。
「そして私は、魔法カード《火炎地獄》を発動します!」
火炎地獄
通常魔法
相手ライフに1000ポイントダメージを与え、
自分は500ポイントダメージを受ける。
轟々と燃え盛る紅蓮の炎が、まるで竜の様にうねりながら直哉に向かって行く。
地獄の業火は大口を開け、直哉を炎の海へと呑みこんだ。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
直哉 LP2000→1000
「そして、私は500ポイントのダメージを受けます」
紅蓮の炎が彼女を包み込む。
「クッ!」
苦痛に彼女の表情が歪む。
女生徒 LP4000→3500
「さらに、通常魔法が発動した事で、連弾の魔術師の効果が発動します!」
炎を振り払い、彼女がそう叫ぶと、魔術師は左の杖を振るい、紫の球体を直哉に放った。
紫の球体は直哉に頬を殴るように直撃する。
「グファ!」
衝撃に押され直哉は一歩後ろに後退さる。
直哉 LP1000→600
遂に直哉のライフが百単位まで削られた。
「これで止めです! 《ステルスバード》を反転召喚! このカードの反転召喚に成功した時、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与えます!」
風を巻き起こし、セットされたモンスターがその姿を太陽に曝した。
蒼白の翼に血の様に真っ赤な瞳を持った巨大な蝙蝠は、耳障りな鳴き声をフィールドに響き渡らせた。
耳を劈くような鳴き声に、直哉は思わず耳を塞ぐ。
ステルスバード
効果モンスター
星3/闇属性/鳥獣族/攻 700/守1700
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
このカードが反転召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
そしてステルスバードは、翼を大きく羽撃かせて突風を巻き起こし、直哉に向けてその突風を放った。
放たれた突風はまるで飢えた獣の如く猛り狂い直哉に向かって行った。
このダメージが通れば、直哉のライフはゼロになってしまう。
しかし、こんな所で終わる直哉ではなかった。
「罠カード発動! 《ダメージ・ポラリライザー》!!」
「何ですって!?」
向かい来る突風の獣は、その勢いを弱められ、直哉の眼前でその姿を微風に変えて消えて行った。
自分の勝利を確信していた彼女にとっては予想外な出来事だった。
「効果は説明したよな? 効果ダメージを無効にし、お互いにデッキからカードをドローする」
吹き抜ける微風に頬を撫でられながら、2人はデッキからカードをドローした。
ドローカードを確認して彼女はまたしても苦悶の表情を浮かべる。
「私はステルスバードの効果でステルスバードをセットします。そしてカードを1枚セットしてターンエンドです」
女生徒 LP3500
手札 1枚
モンスター 《連弾の魔術師》 セット1
魔法・罠 セット3
「(このターンで仕留められなかったのはとても悔しい。でも、私が伏せているカードは《自業自得》と《盗賊の七つ道具》、そして3枚目の《仕込みマシンガン》! 貴方がカードを引いた瞬間、私の勝利が確定します!!)」
自業自得
通常罠
相手フィールド上に存在するモンスター1体につき、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。
盗賊の七つ道具
カウンター罠
罠カードが発動した時、1000ライフポイントを払って発動できる。
その罠カードの発動を無効にし破壊する。
万全の対策を用意し、直哉がどのような事をしても、直哉の敗北は免れない。
彼女はそう思っていた。
そんな彼女の思惑も知らず、直哉はゆっくりとデッキに指を置いた。
引け、引け、引けと、彼女の心がそう叫ぶ。
「俺のターン、ドロー!」
そして、彼女の思い通り直哉はカードを引いた。
それを見て彼女の顔に満面の笑みが浮かび上がった。
「罠カード発動!! 《自業自得》! 相手フィールド上に存在するモンスターの数×500ポイントのダメージを与えます! 貴方のフィールドにはモンスターが3体! よって1500ポイントのダメージを与えます!!」
表になったカードから、無数の半透明の手が伸び、モンスターたちの身体を通り抜け直哉へとその魔の手を伸ばしてきた。
女生徒は自身の勝利を確信した。
しかし、彼女は直哉が口元に笑みを浮かべているのに気付かなかった。
「手札から《ハネワタ》の効果発動!」
「え!?」
直哉を捉えようとした無数の腕の前に、今度は小さな翼を生やした小さな綿の様なモンスターが立ちはだかった。
そのモンスターを前にして、愚者の腕は安堵したかのように沈黙し、光に包まれ消えて行った。
「な、何故!?」
何が起こったのか分からず、彼女はうろたえる。
そんな彼女に、直哉が1枚のカードを見せて説明した。
「俺がさっき墓地に捨てたモンスター《ハネワタ》は、手札から捨てる事でこのターン自分が受ける効果ダメージを0にする!」
「そんな!?」
ハネワタの効果に彼女は愕然とした。
勝利を確信していただけに、ショックが大きかったようだ。
「(クッ! このターンで勝つ事が出来なかった。でも、彼のモンスターの攻撃力では私のモンスターを破壊できない。仮に、彼が上級モンスターを召喚したとしても、私のライフは必ず残る! 次のターンが、貴方の最後です!)」
彼女は直哉のフィールドと手札の状況を見て、そう考えていた。
しかし、彼女は知らなかった。
直哉の顔に笑みが浮かんでいる事に。
「やっぱり、アンタすげぇよ」
「え?」
突然の言葉に彼女は素っ頓狂な声を上げた。
「気を抜けば一発でやられちまう」
「それはどうも。貴方もすごいと私は思います。私の効果ダメージデッキと戦って、ここまで凌がれたのは貴方が初めてです」
直哉の言葉に、彼女は苦笑いを浮かべそう答えた。
「でも、このデュエル、俺が勝たせてもらう!」
直哉の底その言葉に、彼女の顔つきが変わる。
「やれるものなら」
力強い眼光が直哉を射ぬく。
その眼差しに直哉の心が弾む。
「いくぜ!」
直哉の右手にある裏を向いたドローカードを見つめながら、女生徒は思った。
直哉の手札にはカードが1枚。
さっきのターン、彼はそれを使用しなかった。
つまり、それは役に立たないカードだったから。
だから、そのドローカードが直哉の最後の希望。
でも、そう簡単と都合のいいカードを引けるわけがない。
彼女はそう高を括っていた。
そして、直哉はゆっくりと右手に持つカードを確認した。
一瞬の沈黙。
生唾を呑む音が聞こえた。
カードの絵柄を見て、直哉は目を見開いた。
その姿に、彼女の額を汗が流れて行った。
そして、その沈黙を破るように、直哉の口が弧を描いた。
「俺は魔法カード、《天よりの宝札》を発動!」
「なんですって!?」
まさかの事態に彼女は眼を見開き叫んだ。
直哉は希望をその手に掴む事が出来た。
しかも、最強の手札増強カードを。
「このカードの効果により、互いのプレイヤーは手札が6枚のなるようにカードをドローする」
互いの手札は1枚。
よって、互いにデッキからカードを5枚ドローした。
手札を確認して直哉はよし、と笑みを浮かべるのに対し、彼女は手札が増得たにもかかわらず表情が冴えない。
「いくぜ! 俺は魔法カード《儀式の準備」を発動! このカードは、デッキからレベル7以下の儀式モンスターを手札に加え、その後墓地から儀式魔法を1枚選んで手札に加える! 俺はデッキから《救世の美神ノースウェムコ》を手札に加え、墓地から《救世の儀式》をい手札に加える!」
儀式の準備
通常魔法
デッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。
その後、自分の墓地の儀式魔法カード1枚を選んで手札に加える事ができる。
聞いた事のないモンスター名に彼女は疑問符を浮かべる。
しかし、彼女のデュエリストとしての感が叫んだ。
この後、何かが起こると。
そんな彼女の予感を知らず、直哉はデッキと墓地からカードを2枚手札に加える。
「さらに、サモンプリーストの効果発動! 手札の儀式の準備を捨て、デッキからマンジュ・ゴットを特殊召喚する! そして、召喚されたマンジュ・ゴットの効果発動! デッキから儀式モンスターを手札に加える! 俺は、《破滅の女神ルイン》を手札に加える!」
またも聞き慣れるカードに、彼女の頭上に疑問符が浮かぶ。
しかし、破滅というその名に、自身の心に不安感が雪の様に積って行く。
そんな事を考える彼女を余所に、直哉の口元が三日月の様に弧を描いていた。
「準備は整った、行くぜ! 俺は、儀式魔法発動! 《救世の儀式》!! フィールドのマンジュ・ゴッドを墓地に送り、墓地のプレサイダーの効果発動! このカードをゲームから除外する事で、儀式に必要な生贄1体分にする事が出来る!」
「なんですって!?」
儀式魔人プレサイダー
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守1400
儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、
自分の墓地のこのカードをゲームから除外できる。
また、このカードを儀式召喚に使用した儀式モンスターが戦闘によってモンスターを破壊した場合、
その儀式モンスターのコントローラーはデッキからカードを1枚ドローする。
儀式召喚に必要な生贄を墓地から除外して代用するなんて、と、彼女は自分の知らない効果に驚愕した。
「墓地の儀式魔人プレサイダーをゲームから除外! そして、フィールドのマンジュ・ゴッドを生贄に、好降臨せよ!! 《救世の美神ノースウェムコ》!!」
天空より響きし美しい旋律に誘われ、銀色の天使と甲冑を纏ったゴブリンが天へと昇っていく。
すると、天空から螺旋を描くように光り輝く純白の階段が降りてきた。
螺旋の中央を通り、大地を太陽の光が照らし出す。
その時、フィールドに靴の音が響き渡る。
カツン
カツン
カツン
靴音は次第に大きくなっていく。
その音に誘われるように、彼女は階段の上部に視線を向けた。
そこで彼女は眼を見開いた。
天空より降り立つ純白の階段を一段一段、踏みしめるように降りてくる人の姿がその目に映り込んだ。
光に包まれてハッキリとその輪郭を捉える事が出来ない。
その光の人は、遂に大地へと降り立った。
大地に足をつけると同時に、天空より降りていた階段、大地を照らしている太陽の光、そしてその人を包み込んでいる光が消え去り、その姿が顕わになった。
消えゆく光の欠片に照らされ、キラキラと輝く銀色の髪。
太陽を模した錫杖を片手に、紺碧のドレスを纏いしその姿は、まさに女神。
そして、対峙する彼女を見て、女神は優しく微笑んだ。
名の通り、その頬笑みは全ての者を救済するようだ。
救世の美神ノースウェムコ
儀式・効果モンスター
星7/光属性/魔法使い族/攻2700/守1200
「救世の儀式」により降臨。
このカードが儀式召喚に成功した時、
このカードの儀式召喚に使用したモンスターの数まで、
このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードを選択して発動する。
選択したカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはカードの効果では破壊されない。
「クッ! しかし、そのモンスターたちの総攻撃を受けても、私のライフを削りきることはできませんよ!」
我に返った彼女は、直哉のフィールドに存在するモンスターの数と攻撃力を確認してそう叫んだ。
「それはどうかな?」
そう言って直哉は不敵に笑った。
その笑みに、女生徒は微かな不安を感じた
「ノースウェムコが儀式召喚された時、召喚時に生贄に捧げたモンスターの数だけ、フィールドのこのカード以外の表側表示で存在するカードを選択する。その選択したカードが存在する限り、ノースウェムコはカード効果では破壊されない」
その効果を聞いて女生徒の表情がさらに険しくなる。
しかし、彼女は思った。
破壊耐性が付いた所で、このデッキには無意味。
このターンさへ乗り切れば、仕込みマシンガンの弾丸が直哉を貫き、自分の勝利が確定する。
そう思い彼女はノースウェムコを強い眼差しで睨みつけ、フッと微笑を浮かべる。
その瞬間を直哉は見逃さなかった。
「更に儀式魔法発動! 《エンド・オブ・ザ・ワールド》!!」
「なっ!? そのカードは!」
藤原雪乃が使用した、終焉の王を呼ぶ儀式魔法。
彼女はあの時、雪乃が召喚した巨大な魔王の姿を思い出し、一瞬身体を震えに襲われた。
「(あのモンスターが召喚されては、全フィールドが一掃されて、私の場ががら空きになる! それに、ノースウェムコは一掃を行っても生き残る! これは、私の負けですね)」
防ぐカードが今の彼女にはない。
彼女は静かに己の敗北を確信した。
しかし、ここで驚きの出来事が起こった。
「俺は、2体目のマンジュ・ゴットと終末の騎士を生贄に、現れろ! 《破滅の女神ルイン》!!」
「え?」
自分の想像と違うモンスターの名に、彼女は素っ頓狂な声を上げた
太陽が黒く染まって行き、漆黒の光がフィールドに生い茂る木々の隙間から差し込む。
その光は闇を誘い、邪悪な瘴気が魔法族の里を漂う。
何処からか聞こえてくる滅びの歌声。
闇光が差し込む大地より、カツン、カツン、と靴の音が這い上がってくる。
そして、漂う瘴気を吹き飛ばし、邪悪な世界から破滅を齎す死の女神がフィールドに降臨した。
邪悪さを感じさせる赤と黒のドレスを身に纏い、緋色の矛をその手に携え、白銀の髪を靡かせて。
破滅の女神ルイン
儀式・効果モンスター
星8/光属性/天使族/攻2300/守2000
「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。
フィールドか手札から、レベルの合計が8になるよう
カードを生け贄に捧げなければならない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。
直哉のフィールドに希望と絶望の女神が立ち並ぶ。
優しげな頬笑みを浮かべるノースウェムコ。
邪悪で相手を嘲笑うかのような微笑みを浮かべるルイン。
2体の女神の眼光に射ぬかれ、女生徒は1歩後ろに後退さった。
「クッ! しかし、その2体では私のライフは削りきれませんよ!」
デミスを召喚すると思っていた彼女は、直哉が召喚したルインを見て自分にまだ勝機があると思い、そう言った。
ノースウェムコの攻撃力は2700。
ルインの攻撃力は2300。
自分のフィールドにはモンスターが2体。
セットされたステルスバードと、攻撃表示の連弾の魔術師の2体。
自分にダメージを与える方法はただ一つ。
攻撃表示の連弾の魔術師を攻撃する事。
しかし、直哉の2体の女神のどちらで攻撃しても、自分に与えられるダメージは700か1100。
どちらで攻撃しても、自分のライフを削りきることはできない。
そう考える彼女は、自分の勝機に微笑を浮かべた。
だが、彼女はミスを犯した。
エンド・オブ・ザ・ワールドで召喚されたルインの効果を・・・・・・。
「バトル! ルインでステルスバードを攻撃! ジ・エンド・オブ・ルイン!!」
ルインは緋色の矛を天高く掲げ、闇を呼ぶ。
その闇は、再び太陽を黒く染め、辺りを闇へと誘った。
掲げる矛に闇が集まって行き、緋色の矛が深紅に妖しく輝きだす。
その光を見て、ルインは意味有り気な微笑を浮かべた。
そして、その邪悪な輝きを放つ矛を振り上げ、彼女の場に隠れているステルスバード目掛けて、その矛を振り下ろした。
『フン!』
斬!!
『キシャァァァァ!!』
悲痛な叫びを轟かせ、ステルスバードは爆発した。
その爆風が女生徒を襲う。
「クッ!(これで残ったノースウェムコで連弾の魔術師を攻撃するはず。それで貴方の攻撃モンスターはいなくなり、私へとターンが移る。それが貴方の本当の最後です!)」
爆風を受けながら、彼女はそう思った。
しかし、そう簡単にはいかないのがデュエルである。
「この瞬間、ルインの効果発動!」
「え?」
その言葉に、彼女は素っ頓狂な声を上げた。
「ルインが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃する事が出来る!」
「なっ!?」
直哉の言葉に彼女は驚愕した。
そんな彼女を尻目に、ルインは微笑を浮かべ、再び矛を振りかざした。
そして、漆黒の太陽に照らされ、ルインは矛を振り下ろした。
『グアァァァァァァ!!』
緋色の矛に裂かれ、連弾の魔術師の悲痛な叫びが轟く。
その悲鳴に、ルインは恍惚の表情を浮かべていた。
「クッ!」
女生徒 LP2500→1800
「ッ!?」
彼女は愕然とした。
自分の想定した結果がいとも簡単に崩れて行った事に。
自身の目の前に佇む美神の微笑みが、その時ほど痛いと思った事はないと、彼女は思った。
「(あぁ~、結局、結果は私の負けか)」
何処かスッキリした気持ちで、彼女は苦笑いを浮かべながらそう思った。
「楽しかったぜ! これで終わりだ! ノースウェムコでダイレクトアタック! ジャッジメント・オブ・レイ!!」
ノースウェムコは錫杖を天に掲げ、その美しい声で呪文を囁くように唱える。
呪文は文字となり美神の周りをグルグルと回る。
そして、美神は呪文を唱え終えると同時に、閉じていた瞼を開き、錫杖を両手で持ち、太陽の光に照らす。
すると、錫杖に太陽の光が集まって行き、錫杖の太陽が光り輝く。
ノースウェムコはその錫杖を勢いよく振り下ろした。
それと同時に錫杖の太陽に集まっていた太陽の光が一気に解放され、巨大な光線が女生徒目掛けて放たれた。
「フッ」
女生徒 LP1800→0
彼女は微笑を浮かべ、向かい来る光線をその身で受けきった。
そして、ソリッドビジョンが消えて行き、デュエルは直哉の勝利で幕を閉じた。
そのまま彼女はその場に座り込んだ。
そんな彼女に直哉は歩み寄って行った。
「完敗です」
自分の目の前まで近づいてきた直哉を見ず、彼女はそう言った。
「とってもいいデュエルでした。ありがとうございます」
ゆっくりと立ち上がり、彼女は直哉にそう言って握手を求めた。
彼女の表情は、デュエルを始める前と今とでは、見違えるほどスッキリした表情をしていた。
そんな彼女の表情を見て、直哉はフッと微笑みその握手に応じた。
「こちらこそ、いいデュエルだった」
2人は握手を交わし、互いに微笑みを浮かべた。
「でも、女生徒を弄んだ事は見過ごせません。剣崎君、貴方がやっている事は最低な事なんですよ?」
握手を終えた彼女はそう言って鋭い眼差しで直哉を睨んだ。
その言葉に直哉はガクッとずっこけた。
「だから! それは誤解なんだって!」
直哉は彼女に事の顛末を事細かに説明した。
その説明を聞いた女生徒の顔がみるみる青ざめていった。
「す、す、すみませんでした!! 早とちりしてしまい、剣崎君に迷惑を掛けてしまって、本当にすみませんでした!!!」
彼女は大量の汗を流しながら、青ざめた顔で直哉に何度も頭を下げ、謝罪した。
「いや、別に構わないよ。日向ぼっこを邪魔されたのにはイラっときたけど、怒ってはいないさ」
「しかし・・・・・・」
「それに、さっきのアンタとのデュエル。すごく楽しかったから、それでチャラだよ」
「剣崎君・・・・」
彼女の謝罪を直哉はあっけらかんとした態度で快く許した。
「じゃ、俺はもう行くよ。またデュエルしようぜ。“原麗華”委員長」
「ッ!?」
直哉はそれだけ言うと出入り口に向かって歩いて行った。
女生徒、原麗華は直哉が去っていった出入り口を茫然と見続けていた。
「剣崎君、私の名前を知ってたんですね」
出入り口を見つめ、彼女は吹き抜ける風に靡く髪を左手で押さえる。
「またデュエルしよう、ですか・・・・・・。その時の為に、デッキを組み直さなければなりませんね」
直哉の言った言葉を呟きながら、彼女は温かい日差しに照らされながら楽しげな表情を浮かべ、屋上を後にした。
side out
side 雪鷹
直哉が見当たらない。
食事にしようと思い、直哉の部屋を訊ねたが、部屋の主はいなかった。
校内を探し歩いてかれこれ数分は経過した。
そろそろ腹の虫が騒ぎ出しそうだ。
そう思い俺は直哉探しを諦め、購買へと向かった。
さすがにお昼時だけあって購買には食事を求めて生徒たちが群がっていた。
「これは、待つしかないかな?」
目の前で蠢く人の波を見つめ、俺は誰に言うでもなくそう呟いた。
さすがにあの人波に入って行く勇気はない。
そんな事を考えていると。
「おや、雪鷹さん。どうしたんですか?」
「あの、こんにちは」
後ろから名を呼ばれ振り返ると、俺の許へと近寄ってくる水瀬とアヤメの姿が目に入った。
「おう、こんにちは。2人は食事か?」
「えぇ、そういう雪鷹さんも、食事ですか?」
「嗚呼。でも、暫くは我慢が続きそうだ」
俺の言葉に2人は疑問符を浮かべた。
そんな2人から視線を外し、俺は未だに蠢いている生徒たちに視線を向けた。
そんな俺の視線を追って2人もその人の波を見つけ、俺の言った意味を理解したようにあぁと呟いた。
不図、この2人なら直哉の居場所を知っているのではと、俺は唐突にそう思った。
「なぁ、水瀬。直哉知らないか?」
「直哉さんですか? 直哉さんなら、先程屋上に行かれるのを見かけましたよ」
日向ぼっこか。
なら、腹を空かして直ぐにこっちに来るだろうな。
俺はそう思い直哉の許へと向かわなかった。
「あの、雪鷹さん」
「ん? どうした?」
そんな事を考えているとアヤメが話しかけてきた。
よく見ると顔が少し赤い。
「良ければ、あの、一緒に、お食事しませんか?」
ぎこちない喋り方で一言一句途切れながらそう言ってきた。
俺を誘おうと必死だったのがすごく伝わってくる。
すごい言えたという雰囲気を醸し出していた。
まぁ、断る理由もないし、と思い、俺はその誘いを受ける事にした。
「分かった。一緒に食べようか」
俺がそう言うとアヤメの顔がパァっと明るくなった。
分かりやすいな。
「は、はい!」
「フフッ、良かったですね」
「はい、有難う御座います!」
どうやら水瀬が入れ知恵したらしい。
そうと決まればと移動を始めようとした時、購買に怒号が響き渡った。
「テメェ!! 女のくせに生意気なんだよ!!」
「そこを退きやがれ!!」
「うるせぇな・・・・、退いてやるからテメェが奪ったカードを返せって言ってんだろうが」
怒鳴り声の方へ顔を向けると、そこには2人のブルー男子が1人のブルー女子を怒鳴りつけている光景が視界に飛び込んできた。
喧嘩か?
そう思っていると、その女生徒の後ろで、不安げな面持ちのレッド生徒の姿が視界に入った。
大体の状況は分かった。
彼のカードをあの2人が奪い、それを目撃した彼女が取り返そうとしていると言ったところだろうか。
そんな事を考えながら、俺は女生徒の姿を見つめていた。
静寂を連想させる青い制服には不釣り合いな情熱を連想する赤いキャップ。
それを逆に被り、キャップの隙間から刺々しい灰色の髪が飛び出している。
その所為でブルーの女子制服が似合っていない。
そんな事を考える最中、俺はそれよりも別の事に意識がいっていた。
俺は足を一歩踏み出し、険悪な雰囲気の中へと向かって行った。
「雪鷹さん?」
俺の行動にアヤメが訊ねるように俺の名を呟いた。
しかし、そんなアヤメの声は俺の耳には届いていなかった。
俺は未だに睨み合いを続けている3人に一歩一歩近づいて行く。
「ん? なんだ、お前」
不意に自分たちに近づいてくる俺の存在に気が付いた男が俺を睨みつけてそう言った。
その言葉をきっかけに視線が俺へと集まる。
しかし、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。
「綺麗だ・・・・」
「「「「!?」」」」
不意に呟いた言葉に、全員が目を見開く。
「あ、あの、雪鷹さん?」
「そこの帽子の子」
「!?」
アヤメが後ろで声を微かに震わせて何かを言っているが、今の俺には聞こえていなかった。
俺は帽子を被っているブルーの女生徒を指差した。
いきなり指を差され彼女は困惑の表情を浮かべていた。
「「プッ、ハハハハハハ!!」」
そんな時、俺の言葉を聞いたブルーの2人が大声を上げて笑った。
「こいつが綺麗? お前、頭おかしいんじゃないか?」
「そうだそうだ。こんな奴の何処が綺麗なんだよ? 汚いの間違いじゃないのか?」
その言葉に女生徒の目つきが更に鋭くなる。
その2人の言葉を聞いていたアヤメと水瀬から殺気が放たれるのが背中で感じられた。
「切れ長の目。艶のある肌。一見刺々しく見えるが、艶のある髪。そして、整った顔立ち。どれをとっても、美しい」
「///な、な、な!?」
そう言いながら俺は彼女の髪をゆっくりと撫でる。
余り長くない、ショートヘアの髪を優しく撫で、引っかかりの無さにまた俺の意識が持っていかれる。
突然の事の彼女は戸惑い顔を紅潮させている。
その表情を俺は可愛く思えた。
「こんなに綺麗な人を見れないなんて、君たちの目、腐ってるね。あ~やだやだ。美的センスのない奴は」
俺は女生徒から離れ、向かい合う2人を哀れむような眼差しで見つめた。
そんな俺の言葉を聞いて、2人の額に青筋が浮かんだ。
「「ッ!? テメェ!!」」
そんな激昂する2人を見て、俺は単純と心で罵り、嘲笑うかのような笑みを浮かべた。
「デュエルするか?」
「上等だ!!」
「負けたらテメェのカード全部よこしな!!」
俺の安い挑発に2人はいとも簡単に乗って来た。
そして、小物臭を漂わせる安い言葉を口走った。
「良いけど、俺が勝ったらアンタが奪ったカードと何くれるんだ?」
俺はそんな2人に失望したような感情を抱き、呆れたような表情を浮かべそう訊ねた。
すると、2人は怪訝な表情を浮かべ、俺をからかう様に言った。
「ハァ? 俺らブルーが半端者のイエローに負けると思ってんのか?」
「ありえねぇよ」
その言葉に、俺の眉がピクっと微かに動いた。
ウザいと言う言葉が俺の中で渦巻く。
「別にいいよ? 俺、お前らブルーの生徒、3人に勝っているし」
『何!?』
その言葉に食堂にいる生徒全員がざわめく。
この学園ではブルー生徒はイエロー、レッドの生徒には負けない事が常識になってしまっている。
その常識を覆す俺の言葉。
信じられないと言う声があちこちから聞こえる。
その言葉を聞いてブルーの1人が瞬時に顔つきを変えた。
そこまで愚かではないようだ。
「で、出鱈目言うな!!」
片方のブルー生徒が怒鳴る。
こっちは格上の相手を見定める目がないようだ。
俺はそう思いながら怒鳴ったブルー生徒に視線を向けた。
その瞬間、そのブルー生徒の肩がビクッと跳ね上がった。
そんな怯えた姿を見て、俺はターゲットをロックオンした。
「決定。まずお前から相手してやるよ」
そう言って俺は口を歪ませた。
それを見て、ブルー男子は一歩後退さった。
「い、良いだろう!! ブルーの強さを思い知らせてやる!!」
威勢を作り、怯えを悟られないように必死に牙をむくブルー男子。
そんな狼の皮を被った羊を俺は舌舐めずりをして見つめた。
「「デュエル!!」」
俺 LP4000
手札5枚
フィールド0
ブルー生徒 LP4000
手札5枚
フィールド0
ターンランプが相手に点灯した。
その瞬間、そいつは手札を急いで確認し、口元に下品な笑みを浮かべた。
「俺のターン! ドロー!! 俺は《ゴブリンエリート部隊》を召喚!! ゴブリンエリート部隊に《デーモンの斧》を装備!! 俺はこれでターンエンドだ! どうだ!! 降参するなら今のうちだぞ?」
《ゴブリンエリート部隊》
効果モンスター
星4/地属性/悪魔族/攻2200/守1500
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
《デーモンの斧》
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
リリースする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。
ブルー男子 LP4000
手札4枚
モンスター 《ゴブリンエリート部隊》
魔法・罠 《デーモンの斧》
相手のフィールドに銀の甲冑を纏った緑色の肌を持つ亜人種が整列して現れた。
そしてその亜人騎士たちの腕から剣が消え、その手には格好とは不釣り合いな禍々しい斧が握られていた。
攻撃力3200のモンスターがいる事で、奴は天狗になって俺を侮っていた。
そんな奴の態度に、俺は溜息を吐いた。
速攻で終わらせよう、そう俺は心で呟いた。
「俺のターン! ドロー!」
俺は相手の言葉を無視してカードをドローする。
その行動に相手は忌々しげな眼つきで俺の事を睨んできた。
そんな奴を無視して、俺は引いたカードと手札を確認する。
上々な手札だ。
「俺は、魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする。俺の手札は5枚。よってカードを5枚ドローする」
手札抹殺
通常魔法(制限カード)
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。
手札抹殺の発動に周りが再びざわつきだす。
相手もいきなり手札交換かと俺のプレイングを馬鹿にする。
しかし、俺はそんな周りの声を無視してプレイングを続けた。
「チッ」
そんな俺の態度に相手が面白くないと言いたげに舌打ちをした。
手札を交換し終え、新たな手札を見て俺は思わず笑みを零した。
「俺は《ダーク・グレファー》を召喚する!」
光が大地から溢れ、漆黒に身を染めた堕剣士が、血の眼を見開き下劣に笑った。
ダーク・グレファー
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1700/守1600
このカードは手札からレベル5以上の闇属性モンスター1体を捨てて、
手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、手札から闇属性モンスター1体を捨てる事で、
自分のデッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。
「ダーク・グレファーの効果発動! 手札の闇属性モンスターを墓地に送り、デッキから闇属性モンスターを墓地に送る。俺は、手札の《ワイト》を墓地に送り、デッキから《馬頭鬼》を墓地に送る!」
「ワイト!?」
俺の捨てたカードの名を聞いて食堂が騒然とした。
そして、辺りから笑い声が巻き起こった。
「やっぱりアイツがブルーに勝ったなんて嘘だな」
「ワイトなんか入れてる奴が、ブルーに勝てるわけねぇよ」
食堂のあちこちから聞こえる侮蔑の数々。
いつの間にか奴の表情から不安が消え、俺の事を見下したような表情を浮かべた。
「ワイトなんか使ってる奴がなんでイエローに居るんだ?」
「コネじゃないのか?」
ピク。
「あぁ、実力がないからあんな嘘ついて虚影張ってんだぜ」
ピク。
「じゃ、アイツ、このデュエル負けるな」
「あぁ。きっとアイツ、“雑魚”だぜ」
ブチ。
周りから聞こえてくる陰口を聞いて、俺の中の何かが弾けた。
「ねぇ」
「ん? なんだよ」
俺の言葉に相手が嘲笑うように笑みを浮かべ返事を返した。
俺は俯く顔をゆっくりと上げた。
周りでざわつく生徒たちが一斉に俺に視線を向けた。
食堂にいる全生徒が、俺がサレンダーを申し出て惨めに慈悲を求めるだろうと、クスクスと笑っていた。
しかし、今の俺には周りの声など一切聞こえていなかった。
「ワンターン・キル。してもいい?」
「ハァ? やれるもんならやってみろよ!」
俺の言葉に再び食堂に笑いが巻き起こる。
相手も安い挑発で俺をからかう。
しかし、後ろにいるもう一方のブルーは、焦った顔で奴を見ていた。
やっぱり、こいつは無能だな。
「“僕”は、墓地に送った《馬頭鬼》の効果発動!」
その瞬間、後ろで水瀬とアヤメの身体が大きく跳ねたのが横目で見えた。
このキャラは完全にトラウマになってしまったみたいだね。
そんな事は気にせず、俺はプレイングを続けた。
「このカードをゲームから除外して、墓地からアンデット族モンスター1体を特殊召喚する! おいで! 《ワイトキング》!!」
大地から黒い煙が湧き上がり、黄泉への扉が開いた。
カツ、カツ、カツと、乾いた足音が下から昇ってくる。
亡者の歌声が響き、復活を祝福する死者の歓声が轟く。
骸の身体を持ち、紫の衣を纏いし、死者の王がこの世に黄泉帰った。
ワイトキング
効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 ?/守 0
このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」
「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体を
ゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。
蘇った骸の王、ワイトキングの放つ覇気に、食堂の全員が固唾を呑みこんだ。
「ふ、フン! たかがワイトだ。そいつに何が出来る!」
ワイトキングの登場に驚いた相手だが、すぐに態度を戻し挑発してきた。
「この瞬間! 魔法カード発動! 《地獄の暴走召喚》!! 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時、そのモンスターと同名モンスターを手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する! 集え! 骸の王たちよ!」
地獄の暴走召喚
速攻魔法
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に
攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から
全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。
ワイトキングの雄叫びがフィールドに轟き、大地に再び黄泉への入り口が現れた。
邪気が溢れだす中、そのゲートから2体の骸の王が現れた。
フィールドに降臨した3体の骸の王。
その姿に全員が言葉を無くす。
相手のブルー男子も3体の眼光に貫かれ、言葉を発する事が出来ないでいた。
「地獄の暴走召喚の効果で、君もエリート部隊を全て召喚しなよ」
僕のその言葉でやっと言葉を発する事が出来た相手は、曖昧な返事を返してデッキからエリート部隊を2体召喚した。
剣を構える純白の鎧を纏いし亜人種たちが死者の王と対峙する。
「し、所詮! ワイトが何体現れようと、俺のモンスターを倒す事は出来ない!」
その事でやっと我に返った相手は、再び安い挑発を俺にしてくる。
自分の破滅の音が聞こえずに。
「さらに、手札から魔法カード《天使の施し》を発動。デッキからカードを3枚ドローして、その後手札を2枚捨てる」
俺はデッキからカードを3枚引き、そのカードを見て、再び笑みを浮かべた。
そして、俺は手札にあったカード1枚と、手札に加えたカード1枚を墓地に送った。
「さらに魔法カード《おろかな埋葬》を発動。デッキからワイトを墓地に送る。フフフ」
「ッ! な、何だよ」
俺の突然の笑みに相手は怯えたように身構える。
周りの生徒たちも俺から漂う異様な空気に漸く気付き始めたようだ。
「舞台は、整った。さぁ、ワンターン・キルの始まりだ!」
その言葉と同時にワイトキングたちが咆哮を上げた。
突然の咆哮に全員が目を見開き、咆哮の振動に身を震わせてた。
「な、何言ってるんだ! ワイト如きの攻撃力で、俺のエリート部隊を倒せるわけがないだろ!」
なんとか持ちこたえた相手が叫ぶ。
しかし、その言葉に俺の口が弧を描いた。
「言い忘れてたね。ワイトキングの元々の攻撃力は、墓地に居るワイトとワイトキングの数×1000ポイントになるんだよ」
「なっ!?」
俺の言葉に生徒たちが驚愕した。
その表情を見て俺は恍惚な笑みを浮かべて微笑んだ。
本当に誰かが驚愕し、怯える様は楽しい。
「因みに、俺の墓地にはワイトが3体いる。ワイト夫人が2体存在する」
俺の最後の言葉に、相手と周りの生徒たちが疑問符を浮かべた。
ワイトキングとワイト夫人、そしてデッキに眠るワイトメアの三種はこの世界には存在しないカード。
首を傾げて当然だと僕は思った。
「ワイト夫人は、墓地に存在する時だけ、ワイトとして扱う事が出来る」
「何!?」
その言葉に生徒たちが再び驚愕する。
ワイトキングの攻撃力は墓地に存在するワイトの数×1000ポイント。
そして、僕の墓地にはワイトとして数えるモンスターが5体存在する。
全員の額に嫌な汗が流れる。
それは、今デュエルしている相手もカウントされていた。
答えを導き出した全員の顔が蒼白に染まる。
その表情に僕の口がニヤッと弧を描いた。
「お察しの通り。現在のワイトキングの攻撃力は5000!!」
ワイトキングの身体から黒いオーラが噴火の様に噴き出し、攻撃力のゲージをグングン上昇させていく。
対峙するゴブリン騎士たちもその眼光にブルブルと震え、怯えていた。
僕の前に立つ相手も、その攻撃力は一歩後ろに後退さった。
「あ、あぁ、あぁぁ」
声にならない悲鳴が彼の口から零れ出す。
周りの生徒たちも、言葉を零す。
「誰だよ、雑魚って言ったの・・・・」
そう、僕は雑魚じゃない。
だから見せつけるんだ。
僕は歯茎を剥き出しにした笑みを浮かべ、右手をゆっくりと上げる。
さぁ、ready・・・・・・。
“action!!”
「ワイトキングでデーモンの斧を装備したゴブリンエリート部隊を攻撃! 死者の慟哭!!」
ワイトキングは右手を掲げ、黄泉から死者の骸と魂を呼び寄せる。
黄泉から多くの死者が現れ、生者への怨嗟の声が木霊する。
集いし死者たちの怨嗟を聞き、ワイトキングは掲げた右腕を勢いよく振り下ろした。
それを合図に死者たちの怨嗟と慟哭が衝撃波となってゴブリン騎士に襲い掛かる。
『グワァァァァァ!!』
守る術もなく、ただ無情に強大な力に薙ぎ払われ、ゴブリンエリート部隊は爆発と共に散って行った。
「ぐぅ!!」
ブルー男子 LP4000→2200
爆発とワイトキングの攻撃の衝撃が相手を襲う。
しかし、これで終わりではない。
「第2のワイトキングでプレイヤーにダイレクトアタック!! 死者の慟哭!!」
フィールドに蠢く死者たちが再び歌い出す。
死への無念、苦しみ、嘆き。
生者への恨み、憎しみ、殺意。
怨嗟と慟哭が再び衝撃波となり、今度はプレイヤーに襲い掛かった。
自分を守る者の無いがら空きのフィールドを通り過ぎ、何者にも阻まれること無く衝撃はプレイヤーを襲った。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ブルー男子 LP2200→0
彼のライフは0になった。
力なく彼はその場に膝から崩れ落ちていった。
その表情は圧倒的な力に葬られた恐怖と、恐怖から解放された事に対する安堵の色が窺えた。
でも、僕にはまだ攻撃するモンスターが残っている。
「最後のワイトキングでダイレクトアタック!!」
「・・・・え?」
俺の言葉に彼は耳を疑ったような表情を浮かべてこちらを見た。
その素っ頓狂な表情はこれから絶望に染められる。
「死者の慟哭!!」
集いし亡者たちの最後の慟哭がフィールドに轟く。
怨嗟と慟哭の衝撃が崩落寸前の彼の身体に襲い掛かった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
衝撃に吹き飛ばされ、彼はその場から数メートル後ろへ転がって行った。
ライフは既に0.
もう削る必要はなかった。
でも、僕はそれじゃ気が済まない。
本当なら、僕を雑魚と呼んだ奴も葬ってあげるのだが、その必要は無くなったようだ。
先程のワイトキング3体の攻撃を見ていた生徒たちは、恐怖しその場から動く事が出来ず、震えが全身を襲ってしゃがみ込んだりしていた。
これ以上の追撃は必要ない。
「次、やる?」
観戦していた生徒たちから視線を外し、吹き飛んだブルー生徒の片方に視線を向けた。
しかし、彼は既に戦意喪失しており、その場に座り込んで硬直していた。
それも見て、“俺”はやる気をなくした。
硬直している奴の制服から奪ったカードを取り出し、周り同様に怯えているレッド生徒にそのカードを投げ返した。
突然の事に彼は反応が遅れたが、少し怯えを含んだ笑みを浮かべ、ぎこちない口調でありがとうと告げ、早々と購買から逃げて行った。
取り返してやったのに、失礼な奴。
まぁ、そういう態度には慣れたけどな。
そんな事を考えながら俺は面倒臭そうに溜息を吐き、頭を掻いた。
デュエルを終えた俺を心配そうな面持ちで見つめるアヤメたちの方へと歩いて行った。
「悪い、食欲が失せた。食事はまた今度な」
「え!?」
アヤメの前に立つと、俺はそう告げた。
さっきの事で、すっかり食欲を無くしてしまった。
俺の突然の言葉にアヤメは驚きの声を上げた。
しかし、先程の事を見ていたアヤメは直ぐに分かってくれた。
「分かりました。では、明日、明日一緒に食事をしませんか?」
必死の形相でアヤメはそう言った。
俺は出口へと向かって歩きながら、おうと承諾の言葉を返した。
後ろでアヤメが喜んでいる声が聞こえる。
少しは1人で出来たと、喜んでいた。
そんなアヤメの嬉々とした声を聞きながら、俺は微笑みを浮かべ購買を後にした。
「おい! 待てよ!!」
「ん?」
購買を後にして、人影のない廊下を歩いていると、後ろから呼び止める声が聞こえてきた。
何かと思い振り返ると、そこには息を切らせて肩で息をする帽子を被った女生徒が立っていた。
「ハァ、ハァ、サンキューな? アタシの代わりに戦ってくれて。正直、2人相手はさすがにきつかったんだ」
「別に構わないよ。ウザかったしね」
「だよね! あぁ言うのって、本当にウザいよな」
俺の言葉に彼女は賛同するように頷く。
その行動は何処か余所余所しい感じが窺える。
「そうだよな。そろそろ自己紹介するか、俺は相原雪鷹。よろしく」
「ああ、アタシはジャッカル岬だ。よろしくな! 雪鷹!」
そう言って岬は差し出した手を強く握った。
「怖くないの? 俺の事」
「ッ!?」
突然の言葉に岬は目を見開いた。
やはり隠していた。
デュエルを終えた時、彼女にも視線を向けたが、周り同様に怯えていた。
怖いのに何故自ら俺の許へ来たのか、俺はそれが知りたかった。
「確かに、お前の事は怖いよ。でも、アイツのカードを取り返してくれた奴を、怖がってどうするんだよ!」
そう言って岬は強い眼差しで俺の事を見た。
その瞳には、余計な感情は一切混じっていなかった。
本当に面白い子だ。
俺はそう思いクスリと微笑んだ。
その事に岬は怪訝な表情を浮かべる。
「悪い悪い。そう言った奴は初めてでな。驚いただけなんだよ」
俺は苦笑いを浮かべながら岬に謝った。
「そうなのか? まぁ、それならいいけど。それより!」
突然岬は顔を紅潮させ、俺の事を睨みつけてきた。
「お前! 人前であんな、き、綺麗とか言うな!!」
人気のない廊下に岬の怒鳴り声が響き渡った。
どうやら言われ慣れてない女性への褒め言葉を、人前で言われて恥ずかしかったらしい。
「人前で言うのは不味かったか。でも、本当に綺麗だと思うぜ? お前」
「なっ!?」
からかうように俺は岬にそう言った。
言われた岬は顔を真っ赤に紅潮させ、大口を開いて固まった。
「ハハハ!! じゃな、岬! 自分が綺麗だって自覚しろよ?」
「ッ!? うるせぇ!!」
廊下に岬の怒号が轟く。
その怒号を背中に受けながら、俺は速足でイエロー寮へと向かって行った。
岬の姿が見えなくなるまで走った俺は、方で小さく息を吐き、窓の外を見つめた。
「・・・・・・」
購買での生徒たちの俺を見る目。
それは既に慣れていて、どうという事はない。
でも、後者は違う。
俺の事をいい奴と言った岬の言葉。
明日一緒に食事をしようと約束を交わし喜ぶアヤメの笑顔。
人に嫌われるキャラ、人に理解されないキャラを好む俺を、その1つ1つが苛む。
「俺の本当の性格って・・・・・・どんなだろう?」
答えの返ってこない問いを空に問いかけ、無言の回答を受け、俺はモヤモヤとした気持ちを抱きイエロー寮に戻って行った。
to be continued
後書き
いかがでしたか?
今回の作品も友人からダメ出しが来ていました。
相変わらず辛辣です(-_-;)
でも、皆様からの感想は辛辣でも構いませんので!
お待ちしておりま~す!
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