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SeventhWrite

作者:完徹
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一日目(5)

「よくやったな大樹、昼休みに二人っきりなんて予想以上だよ」

 二限目終了後に僕はトイレでのメールのやりとりについて報告していた。
 どうやら唐橋さんにメアドを教えたのは悠哉だった。
「にしても、ありがたいよ、もうなんと呼べば良いか分かんないね」
「だったら俺のことは愛の伝道師、ラブマスターと呼べ」
「それは断る、という呼ばれたいのか?」
「絶対嫌だ」
 即答だった。一体何が言いたかったんだよ?謎の多い奴め。……どうせなら呼んでやればよかったかな?機会があれば呼んでみよう。

「そんな事より今は昼休みの事が問題だろう」

 仕切り直すように悠哉が言う、そうだよな、でも何でコイツの方が僕より積極的なのだろう?
「なぁ悠哉、どうして僕の恋路にそこまで協力的なの?」
 すると悠哉はきょとんとし、数秒考えてから小さく頷いた。

「多分、上手くいきそうにないからお膳たてくらいはしっかりしてやろうかな、と思ってさ」

 なんだそりゃ、僕が玉砕する事前提なのか。とはいえ怒る気にはならない。それは僕のルックス、成績、経済力、全てにおいて一般並みかそれ以下なのだ(得意なのは体育くらい)。それに引き換え彼女は、美人で人徳もあり、成績も上の中といったところだ、さらにピアノまで弾ける。いわゆる上流階級の人で雲の上の存在なのだ。そんな彼女と一緒の高校に通っていられるのもこの学校は就職率が高く、母さんが無理して入れてくれたから。

「そっか、でもそうなっても僕は悠哉がしてくれた事は忘れないよ!」

「別にそんな感謝されてもな、こっちも楽しませてもらってるからそれでドッコイってことで」

「謙遜しないでよ、まるで悠哉が良い人みたいじゃないか」

 普段から人を戸惑わせて喜ぶ節がある彼には似合わない台詞だ。

「だったら今度パシって来てくれよ、アメリカまで」
「何を買いに行けばいいんだよ?」
「うーんホットドック?」
「駅前に売ってるよ!」

 そんな会話で二限と三限の間の休み時間が終了した。
 昼休みまで残り二時間。


  ~~~~~~~~~~~~


「移動教室だったのか」

 次の授業は地学だった、教室に遅くまで残っていた僕達は駆け足で実験室を目指す。
「すっかり忘れてたよ」
 チャイムは二十秒ほど前に鳴り止んでいて辺りには二人分の足音しかしない。
 思いっきり遅刻である。全く、今日だけで一体いくつ単位を落としているのだろうか?

「おい待てや、萩原と峰岸ぃ!」

 ………後ろから今朝お世話になった教頭先生が追いかけてきました。

「悠哉!」&「大樹!」

「「ここは任せた!!!」」

「はぁ?何言ってんだ悠哉、僕は今朝もお世話になってんだ、ここはお前が僕の盾になるとこだろ!?」

「ほざけっ、今こそ俺にさっきの恩を返す時だろうが!」

 なんてこった、悠哉がこんな奴だったとは……見損なったぜ!……ん?あれは………
 視界の隅でそろりそろりと動く同級生がいた。

「ってお前も遅刻かよ、善則!!」

 気付けば追いかけっこをしている僕たちの後ろで気付かれないように忍び足をしていた善則が全身で何バラしんてんだよ!とジェスチャーで訴えてくるが、とき既に遅し、教頭は振り返り、善則の存在に気付いた。

「小島、貴様もか……」 

「ちきしょう!大樹ぃ恨むぞぉ!!」&「でかした大樹ぃ!」

 僕達二人は教頭に捕まる善則を確認した後実験室へと駆け込んだ。
 そう僕たちは勝ったのだ、犠牲は出たが、それが戦いというもの、仕方のない事さ……

「おいそこの二人、教頭が呼んでるぞ」

 だけど辿り着いた実験室で待っていたのは残酷にも勝利の美酒ではなく携帯片手の担当の先生による容赦ない死刑宣告だった。

 マジかよ………


  ~~~~~~~~~~~~



 三人仲良く指導室に連行された僕たちは長時間にわたる説教を受けていた。
 くそう、遅刻しただけなのに何だこの仕打ちは、この教頭め、頭禿げてるし中身もスッカスカなんじゃないのか。

「そうか峰岸、反省文が書きたいのか」

 あれぇ何かご立腹だぞ?何でだろうか。

「お前の症状って絶叫するだけじゃなかったんだな」

 隣でムスッとしていた善則が呆れたように僕を見た。
 何の事だろう。

「それの事だよ大樹、お前は考えてるだけかと思っているみたいだけど口から駄々漏れだぞ、『この仕打ちは』のくだりから」

 え?考えが口から漏れてる?えっと、『この仕打ちは』の次に考えた内容は………

『この教頭め、頭禿げてるし中身もスッカスカなんじゃないのか。』

 ………………なるほどねぇ


「むぅおうしわけっっっありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 人生最初の土下座だった。


  キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン

 そしてタイミングよく三限目終了のチャイムが響く。
 運命の昼休みまで残り一時間を切った。

 ………なのにまだ開放される見込みは無い。


  ~~~~~~~~~~~~


「ぜぇぜぇ……よし、つい…ごほっごほっ…た……」

 あの後、四限目が始まるチャイムで僕たちは解放されて(僕だけ反省文)、やはり授業にも遅刻し、四限目終了後にもその担当の先生に呼ばれている内に時間は刻一刻と過ぎていった。
 そして校舎裏に辿り着いた時には昼休みになってから二十分が経過していた。いくらなんでも遅すぎだ、絶対唐橋さんの方が先に着いているだろう。
「峰岸君、どうしたの?そんな息を切らして」
 案の定、唐橋さんは校舎裏の木の木陰でメモ帳片手に立っていました。
 うぉう、彼女を待たせていた自分が憎い!
「ごめん、先生に呼び出しされてて遅れちゃったから急いできたんだ」
 なんて情けない事を言った端から後悔する、遅れてきて言い訳するなんて、最低じゃないか!しかも理由が先生に呼び出しくらってたなんて。
「賑やかで飽きないね、峰岸君は」
 なんて自己嫌悪になっていると彼女は笑って流してくれた。
 やっぱり天使だ!
「じゃあ本題なんだけど」
「は、はい!」

「今、お母さんの事で悩んでたりしない?」

「へ?」
 これから彼女が語る事は決してここに来るまでのようなウキウキ気分で聞けるような内容ではないという事を僕は心から嘆いた。
「お母さんの事で?別に特別気になる事は無いけど………何で?」
 唐橋さんはやっぱ知らないかと呟く。
 そんなミステリアスな所もやっぱり可愛い。
「あたしね、小学校の頃に二つ年下の友達がいたの……」
 ん?なんだろう、いきなり突拍子も無い事を話し出したぞ?新手のドッキリかな?
「その子がね、あたしが中学二年の時に遠くへ引っ越しちゃってね」
 唐橋さんは淀みなく語り続ける、どういう話なのかさっぱり読めてこないけど雰囲気から茶化していいような話ではないという事だけは分かる。
「その理由が両親の離婚だったの、元々その両親は仲が悪くていつ離婚してもおかしくなかったんだけど、その子がどうしてもここから離れたくないって、私に言ったんだ」
 それがどんな子だったか知らないけどなんとなく想像はつく、両親の仲が悪い家庭にいて学校や外でこんなに素敵な女の子と一緒にいたんだ。
 僕だったら一人暮らしをする覚悟がある。
 この時、僕は当初の相談事という名目は完璧に忘れていた。 
「それは私も同じでその子とは離れたくなかった、そして私は家が少しお金持ちでね、親も少し顔が広くてね、探偵とか雇えちゃったりするんだ」
 ん?何か一気にドラマチックになってきたぞ?
「それで調べてもらったの、その子の両親の不仲の理由をね、それが、夫が浮気していたの、結婚する前から」
「な、何それ?結婚する前から二股掛けてたの?」

「そう、しかも浮気相手には子供もいたの、”その子より二つ年上の男の子が”」

 え?
 さすがにこの流れで唐橋さんが言わんとしている事は分かる、でもそんなの証拠なんて……
「浮気相手の人も子供が出来てからその人と会うことを控えてずっと隠していたらしいの、でもそれが夫より先に妻にばれて離婚となった、その結果、夫はもう一人の子とは”一度も会わぬまま”この町を去った、そして変な噂になる事を恐れた妻とその子も結局都会の方へと引っ越しちゃったの」
「唐橋さん…なんなのその話、あんまり趣味良くないんじゃないかな………」
 何故だか今の彼女からは愛らしさが感じられなかった。それどころか不思議と足が震える。
 ドッキリなら速くプラカードを出してくれ!
 しかしそんな祈りもむなしく彼女は決定的な一言を告げた。


「峰岸君、あなたがその浮気相手の子供なの、その君にどうしてもお願いがあります」


 やっぱりそう言うの?僕の父親が二股かけて結婚して挙句の果てに僕を見捨てた男?
 ふざけた冗談だ。
 趣味が悪いにも程がある。
 笑う所なんてありゃしない。
 なのに・・・



「お願いって、何?」



 僕はこう答えていた。 
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