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八条学園怪異譚

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第三十五話 座敷わらしその十一

「ファールでしょ」
「後毎日への主力の集団離脱は」
「あれねえ、別当さんねえ」
「本当によく知ってるわね、そこでその名前出すなんて」
「思うけれどね、あれがよくなかったのよ」
 二リーグ制になった発端の事件からの話だった、茉莉也はその頃のことを深い悲しみと憤りを以て語るのだった。
「あれからだったから」
「阪神が弱くなったのはっていうのね」
「そう、ダイナマイト打線も終わって」
 主力打者が大量に移籍したのだ、それでは打線が解体するのも当然だ。
「それからずっと伝統として打たないのよね」
「ピッチャーは抑えるのにね」
「小山、村山、バッキー、江夏、江本、小林っていってね」
「暗黒時代でもピッチャーはよかったわね」
「中継ぎ課なんか渋くてよかったじゃない」
「松井を完璧に抑える遠山とかね」
「ピッチャーはいいのよ」
 何の問題もないというのだ。
「安心出来るのよ」
「それでも打線が」
「うん、というかあんたの今の服って」
 茉莉也は座敷わらしが今着ているユニフォームの背番号から言った。
「掛布さんよね」
「三代目ミスタータイガースよ」
「そのままスラッガーじゃない」
 強肩で打球反応やグラブ捌きもよく守備でも秀でていたことは注目すべきであろう。
「そう言うあんたもなのね」
「職業野球を知ってからの阪神ファンよ」
「それで何で阪神には福が行かないのよ」
「甲子園には魔物がいるのよ」
 俗に言われていることだが実際にそうだというのだ。
「私なんかが相手にならない位ね」
「あっ、やっぱり甲子園には魔物がいるのね」
「噂は本当だったの」
 愛実と聖花は座敷わらしの今の言葉でそのことに気付いた。
「それも座敷わらしの福すら通用しないって」
「そこまで強烈な魔物なの」
「あそこはね、ケンタッキーの人も取り憑いたからね」
 魔物は一人だけではないというのだ。
「あの人がまた強力極まるのよ」
「ああ、カーネル=サンダース」
「道頓堀の」
「そう、強力なのよ」
 これもいるというのだ、しかも強力だというのだ。
「相手のフライをホームランにしてこっちのホームランは外野フライにしてしまうのよ」
「うわ、最悪」
「そんなことしてたのあの人」
「道頓堀の怨みを忘れていないのよ」
「ああ、あれ」
「八十五年の時に」
 二人もそれでわかった、阪神で道頓堀といえばだ。
「川に飛び込んでよね」
「ついでに放り込んだのよね」
「バースに似ているって言ってね」
 その年の阪神を優勝に導いた助っ人だ、オクラホマから来たスラッガーであり三冠王にペナントと日本シリーズのMVPを獲得している。
「それで入れたのよ」
「似てないわよね、バースには」
「どう見てもね」
 二人は座敷わらしの話を聞いてすぐにこう話した。
「ただ白人でお髭があるだけで」
「全然似てないけれど」
「白人でお髭があればバースなのよ」
 座敷わらしは極めて理不尽な設定を言った。 
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