| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

武で語るがよい!

作者:Mr,M
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

IF~魔法少女メディカルシャマル
  出会いは着信コール?

 
前書き

 

 


半月が綺麗な深夜のとある運動公園。
日中は多くの人々が運動をしたり、散歩したりと人気の場所だ。
その反面、夜になれば人通りはかなり少ない……外灯と呼ばれるものが少ないのが原因だ。

しかし、今日は違った。
この東京ドーム5個分はあろうかという広々とした運動公園に眩い光が、そして声がする。

「ぶっ飛びやがれぇ!!」

「きゃあぁ!」

ゴスロリの衣装を身に纏い、大きなハンマーを振り回した赤毛の三つ編みの少女。
この少女がフリルをあしらった、桃色の可愛らしい看護服を着た少女を吹き飛ばす。
看護服の少女は、数メートル先にあった木に背中を強打する。
そして、痛みのあまり自然と顔が苦痛の色に染まる。

「「シャマル先生!」」

吹き飛ばされた少女に二人の羽の生えた小さな天使が飛行して駆け寄る。
天使達の服装も、白色ではなく桃色を基調とした看護服を着ている。

「ハァーハハ!! やっぱ今までのやり方が間違ってたんだよ!
ザコ共に任せずに、あたしら3人で一気に出向けば良かったんだよ!」

赤毛の少女は高揚感が増し、高らかに笑う。
そして、その後ろから二人の影が近づいて行く。

「確かに。今回はヴィータの案が最善だったな。
これで我ら暗黒医療界の敵は消える……私的には1人で仕留めたかったがな」

「まぁ、良いではないか。
院長だって経営不振で困っているのだ、早急に解決する必要がある」

黒いスーツ姿で医療用のメスを片手に歩く女性は、少々残念そうな表情を溢す。
黒い整体士姿をした肉付きの良い男性は、指を”コキコキ”と鳴らしながら女性に言葉を掛ける。

「ザフィラーの言うとおりだぜ、シグナム。
コイツ等のせいで、うちは先月大赤字を記録しちまってんだ!
うちの経営毎回邪魔しやがって……オメーら3人ボッコボコにしてやる、覚悟しろよ!」

ヴィータはハンマーを翳し、語たりながら一歩また一歩と3人に近づく。
そんな彼女の進行に待ったを掛けるように、2人の天使が飛び出す。

「ふざけないで! あなた達のしてる事は間違ってる!」

「人を不幸にするのなんて医療じゃない!
あなた達は治療した人々を無理やり働かせて、人の自由を奪っるだけだ!」

茶髪、そして金髪の天使はヴィータの発言に抗議する。
暗黒医療界は治療費の請求はして来ない。
だが、その代わりに暗黒医療界で働く事を強要する……かなりの不遇条件で。
そのせいで過労死した人や、離婚して家族を失った人も多い。いわばブラック企業だ。

そして、そんな横暴に待ったを掛けているのが光の医療界。
治療した人々からお金は貰わず、人々を幸せにすることを目指している善良な医療機関だ。

「うるせぇ! こっちが見つけた患者を毎回横からかっさらいやが、って!」

ヴィータは横にハンマーを一閃し、風圧で妖精を吹き飛ばした。
飛ばされる天使たちの方角は、先ほど少女が吹き飛ばされた木の方角だ。

「くぅ……どうしよう、ナノハ。
このままじゃ、私達だけじゃなくてシャマル先生が……ゆずこちゃんが」

金髪の天使は焦りを隠せずにいた。
それも無理はない。自分達天使は補助はできるが、非力で戦うことはできない
現状の戦力はこちらがシャマル先生1人、そしてあちらは3人それも幹部クラス……。
しかも、もうシャマル先生は怪我をして戦えるかどうかも怪しい。……正直、詰みの状況だ。

「……あれを使おうよ、フェイトちゃん。
メディカルコール緊急番号1190652……これを使って一時的に逃げよう」

メディカルコール
これは光の医療会であるナノハ、フェイトが神楽井ゆずこ10歳に渡した医療アイテムだ。
形状は……どこからどう見てもスマフォ、ちなみに基本色はピンク。
機能としては電話やメールなどの基本機能に加え、神楽井ゆずこが光の医療少女メディカルシャマルに変身する機能など多岐にわたる。

先ほど会話にあった、緊急番号は緊急空間移動コール…
これを使うと使用者と看護天使を瞬時に転移させてくれる……どこに着くか不明だが。

「うん、もうそれしかないね。
シャマル先生! メディカルコールに番号を入力して―――あぐぅ!」

「余計な事はしないでもらおう」

フェイトが喋っている時、不意に体が掴まれ、握られる。
握っているのは、豪腕の持ち主でもあるザフィーラ。

「フェイ―――きゃあ!」

「逃げられては手間なのでな、ここで終らせてもらうぞ?」

フェイトの心配をした瞬間、今度はナノハがシグナムに掴まれる。

「ナノハちゃん! フェイトちゃん!」

今までぐったりと力なく木にもたれ掛かっていたメディカルシャマルが叫ぶ。
体が酷く痛む中、少女は立ち上がり駆け寄ろうとする……しかし―――

「テメーは自分の心配でもして、なァ!」

「かぁ!―――」

力なく立ち上がる少女にヴィータは容赦なくハンマーを一閃する。
その一撃をもろに受けたメディカルシャマルは空気、血、胃液を口から吐き出しながら
弾丸の如く飛ばされ、その身で木々を倒していく。
そして地面へとゴロゴロと転がり、止まる。
体はボロボロでピクピクと動かすことが限界なほどだ。

「ぐぅ……シャマル先s―――あぐぅ!」

「ゆずこちゃ――イッ!」

フェイト、ナノハが叫びそうになる度に掛かる圧力が増していく。
握っているのは自分達の何倍もの大きさの人間だ。体が”ミチミチ”と嫌な音を立てる。

「安心しろ、命までは取らん―――ただし」

「貴様等を瀕しに追い込み、治療した後我等の仲間にしてやる。
暗黒医療を常人よりも多く使用して、貴様等を暗黒医療に染めてやろう!」

もはや彼女らに勝機はなかった。いや、希望が無いと言った方がよいか。
自分達がこれからどうなるのか……ただその先を想像し絶望してしまう。
そんなのは嫌だと思っても、祈ってもこの状況は変えられない。

『プルル……プルル……』

そんな時だ。
この絶望的な状況下で似つかわしくない音が聞こえてくる。
その発信源はヴィータの足元に落ちていたメディカルコールだった
恐らく先ほどの攻撃で、メディカルシャマルが落したものだと推測できる。

「ん? これは……。
おーい、シグナム。これって壊した方がいいのか?」

ヴィータは音が鳴るそれを持ち、その手を振りながら自分の仲間に有無を聞く。
その画面には打ち込まれた番号が表示されている……。

1160685……。
ナノハが先ほど口にした言葉と似てるようで少し違う。
恐らく吹き飛ばされる前に入力をしたが、焦って打ち間違いをしたというところだろう。

「いや、それは光の医療界の最新の医療アイテムだ。
こいつ等も数時間後には我等の仲間になる。情報と戦力の事を考慮して壊すのはやめろ」

「は~ん、なるほど。
でも、こいつ等は一回壊してもいいんだよな?」

そう言ってヴィータは自分が吹き飛ばした相手の方角を見る。
その顔はこれから起こる事が楽しみで仕方ない、そんな笑みを溢す。

「あぁ、そうしないと治療できんしな。
私とザフィーラはこの看護天使の方を担当する……お前は――」

シグナムが言葉を発している間にコール音が切れる。
その事態に皆の視線はメデイカルコールへと注がれる。

『はい、神田で―――』

と、メディカルコールから音声が出た時だ。
桃色の綺麗な光が漏れ出し、メディカルコールを包み込み光は増していく。

「わ、わわ! 何だコレ!?」

ヴィータは不意の事態に焦り、手に持つその元凶をそこら辺に投げ込む。
メディカルコールの光はどんどんと巨大化していき、今やゆずこと同じぐらいだ。

「クゥ! 何だこれは!?」

「一体何が起ころうとしている!?」

シグナム、ザフィーラもその眩い光に困惑する。
しかし、それはナノハ達も一緒だった。

「(何……これ?)」

「(さっきのコール番号は一体?)」

体中が圧迫され、体が痛む中彼女達はその現象を見る。
願わくばこの状況が一変するような、ゆずこちゃんが救われる何かを。

「すけど……何……か……」

現れたのはビニール袋を片手に電話する一人の少年だった。
その姿にヴィータ達は安息の息を漏らす『ただの子供か……』と
代わってナノハ達は救いを願っていただけに、絶望という割合が増す…
さらに無関係の子供を巻き込むはめになった事で、罪悪感もかなりのものだ。

「何だテメーは?」

ヴィータは威嚇するかのように睨み、出てきた少年を脅す。
相手の最新医療アイテムから出てきたものだ、油断はしない。

恐らく、ヴィータの判断は正しいだろう。
なにせこの人物は六式を極め、覇気が使える超人なのだから―――





俺は買い物に出かけた……そのはずだ。
夜の9時にこっそり家を飛び出し、近くのコンビニへアイスを買いに行った。
そして、目的のバニラアイスを購入して意気揚々と帰っていた……まさにその時だ。
携帯電話から着信音が聞こえ、それに出たら……何か、桃色の魔力みたいのに包まれ
気が付いた時には目の前の風景は一変していた。

何より俺が驚いたのはここに居る3人の人物についてだ。
シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。ヴォルケンリッターの4騎士の内3騎士が居る
(何か、服装が騎士甲冑ではなく。ゴスロリやスーツ姿をしている事は一先ず置いておく)

「何だテメーは?」

……おかしい、俺は今高町さんとジュエル・シードの回収をしてるんだぞ?
ジュエル・シード事件の次にコイツ等が出てくる、ってのが原作の流れだろ?
なのにどうしてこんなに早くヴォルケンリッターが……。

「おい! 聞いてんのか!」

まさか、俺のせいとかじゃないよな?
イレギュラーの存在がここまで影響を与えるものなのか……いや、でも―――。

「無視してんじゃ……ねえぇ!!」

ふと、気が付けばヴィータが俺にハンマー振り下ろす姿が見える。

「……遅いな」

遅い……。
ハンマーの性質上仕方の無い事だが、口から自然とそう漏れる。
こんなもの、士郎さんの剣技の方が10倍速いわ。
俺はハンマーが振り下ろされる着弾点を予測し、その数センチ右へと移動する。

―――ドゴーン!
地面が陥没する音が辺りに響く。
土煙が立ち上り、辺りの視界を煙幕の如く奪いさってゆく。

「何!? 当たってねぇ!?」

手ごたえの無さにヴィータは焦る。
すぐさまハンマーを引き戻そうと腕に力を加える……だが、動かない!

「クッソ! どうしt―――」

獣厳(ジュゴン)

隙が出来たヴィータに、容赦のない攻撃が彼女の腹部を襲う。
ヴィータは10数メートルという距離を空中で浮遊し、数秒後に地面を転がる。
ゴロゴロと力なく転がった後、ヴィータは襲ってくる腹部の痛みに顔を歪ませ蹲る。

「い……て…ぇ……」

土煙がはれ、視界は冴え渡る。
その時シグナム達が見たのは、力なく蹲る仲間の姿だった。

「ヴィータァ!!」

シグナムは仲間の元へと駆け。

「貴様ァー!!」

ザフィーラは仲間を傷つけた元凶へと駆ける。
二人の意識は仲間と突然現れた少年へと移行し、手を握る行為をやめていた。
それにより、拘束されていたナノハ、フェイトが解放される。
二人は痛みで上手く飛べないながらも、ゆっくりと着実に相方の元へ近づく。

「イテテ……フェイトちゃん、大丈夫?」

「うん、平気だよナノハ。
それよりもあの子は一体……あのヴィータを簡単に…」

救いなど無く、無関係な子供を巻き込んでしまったと思っていた。
希望は無くなっていたと思った……でも、今は違う。
あの子なら…あの二人を引き付け、ゆずこちゃんの治療時間を稼いでくれるかもしれない。

光の医療界の看護天使として、この考えはダメだとは分っている。
いくら強くてもあの子は見た目は、まだゆずこちゃんと同じ位だ。
そんな子を巻き込み、一時的とはいえ見捨てる行為など……。

でも―――今だけは。

「ごめんなさい、必ず戻るから」

「早くしないとゆずこちゃんが危ないの……だから、ごめんなさい」

彼女達は自分のマスターの元へと急ぐ。
今はこの選択しかない事を、この決断をすることになった自分達の非力さが彼女達は悔しかった。そんな彼女達の舌先は鉄の味がジワリとしていた。




「うおぉぉ!!」

ザフィーラは神田の元へと拳を構えながら駆ける。
今ザフィーラにあるのは怒り……自分の仲間をあんな状態にした神田に怒りを抱いている。

そんなザフィーラを見つめ、神田は踏みつけていたハンマーから足を退ける
先ほどヴィータのハンマーが持ち上がらなくなったのは、踏みつけていたのが原因だ。

「怒りで我を忘れるとはなぁ……」

神田はただその場に佇み、ザフィーラを挑発するかのように”クイクイ”と手招きする。
この行為は更にザフィーラを刺激し、動きを単調にする。

「盾の守護獣ザフィーラの名が泣くぞ?」

「俺は豪腕整体科ザフィーラだぁ!!
お前の全てをこの豪腕で破壊してくれるわぁ!!」

ザフィーラはその豪腕を振りかぶり『ティウオォォ!!』と叫び振り下ろす。
並みの小学生があんなものを受ければ、破壊以前に即死だろう。

鉄塊(テッカイ)―――(ゴウ)!!」

神田は自らの体を硬化させ強度を高める。
鉄塊の上位交換といえる鉄塊剛によって。

―――グシャリ……
二つはぶつかり、嫌な音がこの空間に響き渡る。

「あ、あああぁぁ■■■!!!!」

ザフィーラは自らの右手を左で大事そうに抱える。
手首は完全に折れて曲がっている……恐らくだが、腕の方も逝ってるだろう。
そんなイタイタしい自分の状態に、ザフィーラは声にならない叫び声をあげる。

「ザフィーラァァ!!」

こちらに医療用のメスを投擲しながら、シグナムは駆け寄る。
迫り来るメスを俺はバックステップをして回避する。

そして…ザフィーラの元へと駆け寄ったシグナムは、ザフィーラを庇うように前へ出る
手に持っているのは医療用のメス……恐らくソレが得物なのだろう。

「興醒めだな……。
不意に攻撃し、怒りに我を忘れ、そしてその得物―――舐めてるのか? お前等?」

状況を完全には読み込めてはいない……だが。
一つ言えるのは今のこいつ等に騎士の称号は相応しくない。
ヴィータとシグナムは得物を使っているようだが……ただのハンマーにメス?
魔導士やベルカの騎士なんてのは、デバイスが無ければ一般人よりも少し強い位にしかならないはずだ。そんな状態で挑んでくるとは……舐めているとしか言えん。
今の俺は覇王色の覇気が漏れ出るぐらいにイライラしている。

「あ……あぁ…何なんだ…お前は……」

シグナムは一歩また一歩と後ずさる。
ザフィーラはその場から動かない、なぜならもう気絶しているからだ。

「―――去れ! 今の貴様等となど、語り合いたくもないわァ!!」

覇王色を込め、咆哮する。
そこら中に鳴いていた虫や鳥の声は一切無くなり、辺りは無音と化す。

「クゥ……」

シグナムはザフィーラを抱え、ヴィータの居る茂みへと移動する。
そして、黒いスマフォみたいのを操作してどこかに消えた。



―――はむ、はむ……
近くにあったベンチに座り込み、購入した『スゥパァーカップ(バニラ)』を味わう。
店員さんのサービスでドライアイスを貰っていたので溶けてはいなかった。
月明かりの下で食べるアイスは中々に乙だ。

「あ、そこの君~!!」

「ほら、ゆずこちゃん早く」

「待ってよ、二人共!」

誰かを呼ぶ声がする……いや、俺以外誰も居ないから俺が呼ばれているのか。
声の発信源を見て、目を凝らせば1人と…………ん? 何だあれ?
小さい何かが浮遊しているのが見える。
後、何か聞き覚えのある声だったけど……はて? 誰の声だっけ?

「さっきはありがとう! 御かげで助かったの!」

「ありがとう! 君の御かげだよ!」

「えっと…助けていただき、ありがとうございました!」

茶髪の何か、金髪の何か、そして金髪の少女が近寄り、お礼を言う。
そんな彼女達のうち、小さい妖精みたいな二人を見て唖然とし、言葉をなくす…
”ボトリ”と自分の手から『スゥパァーカップ(バニラ)』とスプーンが零れ落ちる。

「えぇぇ!? 何してんの高町さん!!」

顔の前でお礼をした高町さんを思わず”ガシ”と両手で掴む
何コレ? え? マジでなにこれ?

「にゃああ、ちょ、放して~!」

俺の両手の中で高町さんは暴れだし、そして叫ぶ。
その声に反応するかのように他の二人が”はッ”となって動き出す。

「こ、こらぁ! ナノハを放せ!」

「君、ナノハちゃんが嫌がってるよ!」

”ペシペシ”と金髪の妖精が頬を叩き、金髪の少女は腕を押さつける。
―――いや、ちょっと待て。

「おいぃ! フェイト・テスタロッサ! お前どっから沸いて出てきた!」

あまりの事態に思わずツッコンでしまう。
お前! 本編でまだ出てきてねぇーよ、まだ早いよ。

「ひゃう! た、助けてゆずこちゃん!」

テスタロッサは俺の声に怯え、ゆずこと呼ばれた少女の後ろへと逃げ込む。

「ちょ、フェイトちゃん!
私は!? 私も助けてよぉーー!」

高町さんはさっきよりも大きな声で叫ぶ。
何か……もの凄く悪いことをしてる気分になったので、手を放す事に。

「ゆずこちゃーん! フェイトちゃーん!」

「ナノハ、こっちこっち」

拘束から解かれた高町さんは、テスタロッサに導かれるように少女の背中へと避難する。
対してこの少女は体を大の字にして、高町さん達を守るかのように塞がる。

「ナノハちゃんをイジメないで!」

少女は俺に非難の目を向ける。
その瞳を見て、一気に頭が冷えていく……。

「ふぅ……すまないな…取り乱しすぎた」

ベンチに深く座り込み、右手を目元に当てて上を向く。
まずは情報が欲しい……もう、正直訳が分らん。
高町さんとテスタロッサが妖精化したり、ヴォルケンリッターが出たり。
夢落ちじゃないよな? ……痛ッ、夢じゃないな。

「えっと…君の名前は一体どこから?」

少女は俺の行動を見て、もう大丈夫だろうと警戒を緩める。
高町さん達は少女の肩からこちらを覗き見ている……警戒されてるな。

「俺の名前は神田誠。
海鳴市に住む、私立聖祥大学付属小学校3年生……そこの高町さんと一緒の学校だよ」

高町さんをふと見る……だが、すぐに頭を引っ込める。
どうやら、さっきので相当嫌だったらしいな。
まぁそれはさて置き。少女は俺の言葉を聞いて首を傾げる……何で?

「ねぇ? その高町さんって誰の事?」

「は? 君の後ろに居る茶髪の子だよ。
高町なのは。私立聖祥大学付属小学校3年生でクラスメート兼俺の友達だよ」

人差し指を少女の背中に隠れているだろう高町さんに向ける。
高町さんはオドオドしながらも、少女の肩から顔を出す。

「わ、私は光の医療界の看護天使、ナノハ。
君の言ってる……その、高町なのはさんとは別人だよ」

「……マジで?」

「マジなの」

見聞色の覇気―――
あ、本当だわ……嘘言ってないわ、この子。

「えっと…後、海鳴市ってどこにあるの?
私……結構地理に詳しいけど、そんな市聞いた事ないよ?」

またまた一体何を言ってるんだこの少女は……。
もう、高町さんの事で頭が一杯一杯なんだよ……フラグは帰れ。
そう思いつつも、俺は携帯電話で現在位置と地図を表示しようと操作する。

しかし―――

「おい、電波ゼロってどんなド田舎やねん!」

”パカリ”と携帯を閉じて悪態ずく。
そんな俺の姿を見て、少女は……スマフォ? を取り出す。

「えっと……海鳴市……海鳴市…。
あ、やっぱり海鳴市なんて市無いよ?」

その言葉を聞き、すぐさまスマフォを拝借(ごうだつ)する。
そして、もの凄い速さで画面をタップして日本地図を表示をして海鳴市だった場所を探す。

「ちょ、ちょっと! 返してよ!」

後ろで少女が背中を”ぽこぽこ”と叩くが気にしない。

―――ピピィ!
検索し終え、画面に表示された名前を呟く。

「は? 月島町? 何処そこ?」

と呟いた時、背中を叩く行動が止まる。
てか、海鳴市が本当に無いんだけど……。

「月島町は此処のことだよ?
君、本当に大丈夫? 治療してあげよっか?」

「治療? 君が? はッ、医療舐めんなし」

今の状況に頭が付いて行けなくなったのが原因だろう。
普段は口にしない、内面でしか言わないような暴言を吐く。
そんな俺の言葉を聞き、今まで少女の後ろで隠れていた二人が不意に飛び出す。

「ゆずこちゃんの悪口を言わないで!」

「ゆずこちゃんは今まで沢山の人を治療して、幸せにしてきた!
幾ら助けられたといっても、さっきの発言は許せないよ! ゆずこちゃんの夢を―――」

「な、なのはちゃん! フェイトちゃんも!
私の事はいいから、ね? だから落着いてよ」

今二人はかなり怒っている、そこ少女が静止を促しても止まる気配がない。
よほどさっきの発言が気に食わないのだろう……。
正直、俺も言い過ぎたと思う。いくら頭が混乱したからといって、あの発言はないよなぁ。
それにテスタロッサのあの発言……まさかとは思うが―――

「なぁ、君の夢は?」

唐突な質問に少女は「え?」と言葉を漏らす。
だが、すぐに真剣な眼差しをして口を開く。

「私の夢は……お医者さんになること。
お医者さんになって沢山の人を救いたい―――お母さんの病気を治したい!」

その瞳は純粋で、真直ぐな目をしていた。
聞見色の覇気を使わなくても分かる……この子の夢に偽りは無いと。

「俺の発言は最低だった……だから、謝らせて欲しい―――ごめんなさい」

姿勢を正し、腰を折って謝罪する。
俺がこのように謝るとは思っていなかったのだろう、3人はただ唖然とする
そんな状況下で最初に動いたのは……少女の方だった。

「い、いいよ、別に!
医療は難しいし、神田君がそう言うのも無理ないよ」

少女は俺の肩へと手を乗せ、語る。
医療が難しい……この歳でその発言ができるなら努力をしてきに違いない。

「いや……君は努力をしてきんだろ?
自分の夢の為に、人々を救う為に……母親の為に…
俺はさぁ……努力してきた事をバカにするようなヤツは大嫌いなんだ。
それを俺はやっちまった、だから謝らせて欲しい―――本当にごめんなさい」

頭を下げ続ける……。
そして、数秒後にそっと頭に手を置かれる……数は3つだ。

「いいよ、許してあげるね」

「にゃはは、私も許してあげるよ」

「わ、私も……」

頭を下げ、女の子3人に頭を撫でられる。
カッコ悪いな……だが、悪い気分じゃない。

「ありがとな、3人とも」

俺の顔は自然と笑顔になり、はにかむ。
それを機転に3人も笑顔となり、笑い声が漏れる。

やはりこういうのは……悪くないな―――





運動公園で笑い合った後、俺等4人は神楽井ゆずこの家へと向かう事に。
そして、その道中に色々と情報交換をおこなた。

まず、この世界は俺の居た世界とは違うという事が分かった。
そしてこの世界は光の医療界や闇黒医療界があるとのこと。
シグナム達、ヴォルケンリッターは闇黒医療界側の人間で悪人側らしい。
神楽井ゆずことナノハ、フェイトは光の医療界の人間、簡単にいうと正義の味方だ。
もうこの世界は【魔法少女リリカルなのは】ではない、別の何かだ…
何が原因でこうなったか……絶対あの着信だろって事になり、あの3人を問いただした。

『あ、あはは……』 『にゃ、にゃはは……』

フェイト、ナノハは露骨に目を逸らし、乾いた笑い声をあげた。
神楽井は『?』な状態だったので恐らく事情が分かっていないのだろう。
で、とりあえず今は事情を知ってそうなこの二人から、情報を取り出そうと奮闘中。

「で、誰のせいでこんな事になってんの?」

「にゃあぁ! 頭がぁー!」

「グリグリしないでぇー!」

彼女等を中指から小指を機用に使って拘束し、親指と人差し指で頭をグリグリする
若干涙目になってるが、気にせず続行する。

「ちょっと、神田君! もうやめてよ!
ナノハちゃんとフェイトちゃん、もう涙目になってるんだよ!?」

神楽井は俺の両手に自分の手を差し込み、二人をグリグリできないように奮闘している。
だが、力及ばずナノハとフェイトは未だ頭の痛みから解放されていない。

「いや、だってこの二人が話さないんだもん」

「わ、私達も、原因はよく分らないの!」

「そ、そうだよ。
だからもう、グリグリしないでぇ!」

二人は必死にそう訴える……けどな?
二人共、そう言うセリフは数秒前の自分の行動を考慮して言おうな?
お前等が何か知ってるのは分ってるんだよ、明白なんだよ。

……しかし、こんな調子では時間が掛かる。
―――なら、やることは一つだな

―――見聞色の覇気。

《ゆずこちゃんが呼び出した原因だなんて、口が裂けても言えないの》

《というか……神田を帰す方法が分らない……どうしよう》

「…………」

手の中に居る二人の天使は、冷や汗を掻きながら俺を見つめる。
俺はそんな二人の拘束を解き、解放する。
何で拘束を解いたか? 決まってるじゃないか……そうしないと拳がつくれないだろ?

「あ、もう~神田君! ナノハちゃんとフェイトちゃんをイジメないでよ!
神田君の気持ちを考えたら、イライラするのは分るけど! 人に当たったらダm―――」

「お前のせいじゃねぇーーかぁ!!」

―――ゴチーン。
と、繰り出したのはガープ中将の秘儀『愛の鉄拳』
ガープ中将がルフィーやエースの頭に拳骨をくらわせたアレだ。

「い……い……」

頭にクリーンヒットした場所を神楽井は両手でそーと押さえる。
そして…顔は痛みで歪み、目元には大粒の水溜りが出来ていく。

「いったぁぁぁーーーいぃぃ!!」

深夜だというのに神楽井は我慢できずに泣き叫ぶ。
そのボリームは防具スキル耳栓……いや、高級耳栓が必要なぐらいだ。

「大丈夫!? ゆずこちゃん!」

「確りして、ゆずこちゃん!」

痛みのあまり、その場に倒れ込んで”ゴロゴロ”と転がる神楽井に看護天使が駆け寄る。
神楽井……原因は俺かもしれんが、はしたないから転がるのはやめろ。 
何か……スカートが捲れて、可愛らしい逆三角形が見えてる……色は―――

「はッ! フェイトちゃん!」

「うん! ナノハ!」

神楽井の頭にかっとばんを貼り付けた後、二人は高速で俺の目の前へとやって来る。
もう、本当に目から2センチぐらいの距離だ。

「てりゃあぁ!」

「チェリオー!」

何か…可愛らしい声をあげているが、やっている事はグロイ。
何故なら…彼女達は俺の目ん玉に渾身の一撃を打ち込んでいるのだから。

「い、いってぇー!? め、目がぁ!!」

ムスカ大佐の如く、俺は吼える。
その場に倒れ込み神楽井と同様に”ごろごろ”と転がる。
あ……あいつ等…なんて事しやがる、一歩間違えれば失明ものだぞ!

「大丈夫! ゆずこちゃん!」

「もう、安心していいよ!」

看護天使達は神楽井の方へと駆け寄る。
どうやら俺を治療する気はないらしい……無責任な天使だ。

俺は目が痛む中、これまでの経緯を思い出す。
前世はコンビニでアイスを買おうとして死んだ。
今回はコンビニでアイスを購入して……異世界に来た。

―――なるほど。

「俺もうコンビニでアイス購入するのやめよ……」

神楽井達が”ギャーギャー”と騒ぐ中、俺は切実にそう思うのだった―――


 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧