ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―
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Episode2 好きなおかずは?
PoHに切り飛ばされた俺の片足は10分程すると元に戻った。それを待ってひとまず最寄りの街、つまり最前線の街に戻ることにした俺達は、道すがらキリトに今回の事の成り行きを説明していた。
「《迷宮少女》か。あったな、そんな話。じゃあその子が噂の…」
「うん、アカリのことだったみたいなんだ。そんなこと言われるきっかけになったのはアカリが装備してたワンピースなんだけど」
「《隠蔽》にすごいボーナスのある装備アイテムか。羨ましいけど、ワンピースじゃなぁ…」
そう言いながら本当に悔しそうに顔をしかめるキリトを俺は苦笑しながら横目に見ていた。一通り説明を終えた俺にキリトが確認のような質問を投げ掛けている状況である。
「まぁ、だいたい事情は飲み込めたよ」
「あぁ。本当に助かったよ。俺だけじゃあの場でやられてただろうしな…」
自分で言いながら皮肉的に笑ってみる。
キリトと横並びで歩く俺の前をアカリが行っている。その後ろ姿を眺めていると漠然と、これからこの子はどうするのだろう?、と他人事めいた思考が頭を占拠していく。ハズキと仲直りはしたようだが彼とアカリがすぐに行動をともにすることはないような気がする――本当は俺がその状況を拒絶しているだけなのかもしれないが、その可能性はひとまず棚上げされていることに自分でも気付いていない――。
そうすると、キリトに任せることは出来ないだろうか?彼の性格なんかは分からないが、俺達を助けてくれた事から考えると悪くはないだろう…。
話を他人事にしている時点で完全に拗ねている。自分でも分かっているはずだが、これもまた無理に棚上げされている。
「ねぇ、カイトさん。カイトさんが好きなおかずは何ですか?」
「……うぇ?えと?」
「おかずですよっ!コロッケとか、ハンバーグとか!」
卑屈過ぎる思考を繰り広げていた俺は急に振り向いたアカリの問いを理解することが出来なかった。その俺に向かって楽しそうにアカリが説明を付け加えた。
「えと…なんだろう?…肉じゃがとか?」
「えっ?…えーっと、肉じゃが、ですかぁ…」
「あ、あれ?なんか悪かった?」
「…じゃがいもなんてあるのかなぁ……。あっ!悪くなんてっ!大丈夫です、頑張りますっ!」
会話のうちに表情を笑顔→悩み?→笑顔とコロコロ変えて見せたアカリは最後に一つガッツポーズを作って見せた。不思議をそのまま表現したような顔の俺に笑い掛けながら、アカリはキリトにも同じことを聞いた。キリトの答えは「俺はなんでも食べるけどなぁ」とかなり抽象的なものだった。
「分かりましたっ!」
「…?あぁ、カイト。そろそろ街に着くぞ」
そう言ったあと、しまった!というようにキリトは顔をしかめた。首を傾げるアカリにキリトが足を止めた。
苦いままの表情のキリトが俺をまっすぐ見た。
「悪い…。忘れてた…」
「何を?」
「オレンジプレイヤーは《圏内》に入れない…」
「あっ…」
俺自身、自分のカーソルの色が変わっていることを忘れていた。忘れるはずなんてないのに、別のことを考えすぎていた。…このなんでも棚上げする癖は治した方がいいかもしれない。
「そもそもさ、こうなっちゃったカーソルってどうやって治すんだ?俺知らないんだけど知ってる?」
「一応犯罪フラグをなかったことにするクエストはあるにはある。ただ、激ムズらしいけどな…」
「そりゃ簡単だったら困るし。…えっ?クリア出来ないレベル?」
俺の質問にキリトが答えあぐねたのか、後頭部を掻いた。
「…俺も実際にやった奴の話なんて聞いたことがないんだ。あるって話は聞いたことあるけど」
「うわー。じゃあ、探すところからかぁ。いやでも、あるって分かっただけで助かるよ」
礼を言った俺に苦笑を返しながらキリトは右手を振りウィンドウを呼び出した。
「俺の知り合いに情報屋がいるから、聞いたらわかると思うんだ。待ってもらっていいか?」
「待つのは全然いいけど…。そこまでしてもらうとなんだか悪いような……」
「今さらだ。気にするなよ」
いたずらっぽく笑うキリトに曖昧に笑顔を返した。と、その時キリトが急に俺から目を離し街の方を見た。それに続きアカリもそちらを見遣る。アカリは今にも首を傾げそうな表情だが、キリトの顔は眉根が寄せられ怪訝そのものだった。
遅れて俺もそちらを見ると、街からこちらに向かって数人が歩いて来るところだった。耳を澄ますと規則的にガチャガチャと金属が擦れるような音が聴こえる。
「まずいな。いったん隠れるぞ」
「なんでだ?それにあいつらは?ってか、隠れられそうな物がないんだけど」
「《隠蔽》でその辺の木に張り付け!」
「いや、悪いけど俺人をやり過ごせるほど《隠蔽》高くないんだけど」
「はぁ?…ダメだ、もう間に合わないか…」
朧だった一団が顔まではっきり見えるほど近付いてきた。ただ、先頭の一人以外全身の鎧と同種の金属ヘルメットを付けているために見分けは付かない。
先頭の一人はイガグリ頭をしている。大声で何かを話していたそいつがこちらに気付いたようで手で後ろに続いているもの達を止めた。…なんだか、軍隊みたいだ。
「よう!自分キリトやないか!」
声を掛けられたキリトの顔が露骨に歪められた。
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