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後宮からの逃走

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第一幕その二


第一幕その二

「今度見かけたらぶん殴ってやる」
「殴るなんて。そんな物騒な」
「コーランに乗っ取れば鞭打ちだ」
 また随分過激になってきた。
「本音を言えば首を刎ねて縛り首にし」
 無茶苦茶なことを言い出した。
「お次は焼けた棒で串刺しにして鞭打ちにし」
 さらにその無茶な言葉を続けた。
「金縛りにして水責めにして最後は皮を剥いでやる」
「あの、そんな無茶苦茶を言わずにですね」
「それかあの頭に針の山を乗せてやろうか」
「あんないい奴をですか?」
「何処がだ」
 二人のそのペドリロへの見解は見事に違っていた。
「あんな悪党の何処がだ」
「そんな奴ではないですよ。よく気が効いて」
「悪知恵の塊だ」
「まだそんなことを仰るんですか!?」
「何度でも言うぞ。そのあんたにしろだ」
「僕が。何か」
「キリスト教徒だな」
 問うのはそこだった。
「このオスミン様の目は誤魔化せないぞ」
「貴方の名前はオスミンと仰るのですか」
「そうだ。いい名前だろう」
 その大きな胸をさらにふんぞり返らせての言葉だった。
「それが俺の名前だ」
「それはわかりました」
 それは受ける青年だった。
「ですが僕はペドリロをですね」
「どうせ御前もここで女を漁っているのだろう」
「女を!?」
「そうだ。あいつもそうだ」
 語るオスミンの口調がさらに忌々しげになる。
「ブロンデに言い寄ってな。ふざけやがって」
「ブロンデもいるのか」
 その名を聞いて真剣な顔で呟く青年だった。
「そうか。彼女も」
「そしてまた言うが」
「何ですか!?」
「キリスト教徒だな」
 凄むような目で青年に問うた。
「そうだな。貴様は」
「それが何か?」
「では消えろ」
 有無を言わせない口調になっていた。
「いいな。すぐに俺の前からだ」
「どうしてそんなことを仰るんですか、貴方は」
「あんなペドリロみたいな奴をもう一匹飼っておけるか」
「もう一匹!?」
「そう言われたくなければ改宗しろ」
 完全にムスリムとしての言葉であった。
「わかったな。ブロンデに言い寄り太守様を誤魔化し」
 さらに不機嫌な顔になっていくオスミンだった。
「忌々しい奴をこれ以上置いておけるかというのだ」
「ですからそれは誤解なんですけれど」
「誤解も六階もあるか」
 随分と苦しい駄洒落である。
「とにかくだ。駄目なものは駄目だ」
 オスミンが言い切ったその時に。丁度門が開いてそこからやや小柄のにこにことした顔の若い男が出て来た。イスラムの奴隷の服を着ているがその姿勢はいい。黒い目が明るく光り茶色の髪もターバンに巻いて収めている。その彼が出て来たのを見て青年は思わず声をあげそうになった。
(ペドリロ!?)
 だがその彼は青年に右目でウィンクをして口元に右の人差し指を当ててみせる。そのうえでオスミンに対しえ言うのであった。
「おやおやオスミンさんこちらでしたか」
「一体何の様だ、この悪党」
 オスミンは彼の姿を見てその不機嫌さをクライマックスにさせた。
「呼んだ覚えはないぞ」
「太守様は何処でしょうか」
「そんなもの知るか」
 不機嫌そのものの声で彼に返すオスミンだった。
 
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