とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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幕間
Trick26_タチの悪い教師に捕まったんですよ
「ん~、ここだよね?」
幻想御手事件後
佐天涙子は休日にもかかわらず制服で学校を訪れていた。
しかも自分の中学校ではなく別の学校、高校に。
佐天がここを訪れた理由は特別講習。
しかも同じ学校の生徒だけではなく違う学校からも生徒を集めて行われる講習だ。
来たことのない場所で、特別講習の資料を見ながらどこに行ったらよいか迷っていると
「おーい、るいこ~!」
「? アケミ、むーちゃん、マコちん」
振り返ってみると、同じ学校のクラスメイトの友人3人がいた。
「一緒に行こう!」
「うん・・」
この3人は佐天と一緒に幻想御手使った。
いや、佐天が誘って一緒に使い昏睡状態にあった。
言いかえれば佐天が原因で倒れた被害者である。
初春たちに悪いのは幻想御手そのものだと言われても、自分の中ではこの気持ちは
整理できていなかった。
3人と一緒に特別講習のある教室へと向かい、扉を開けると制服や性別、年齢が
ばらばらな数人の人がいた。
そして意外な、佐天の知り合いがいた。
「なんで信乃さんが・・」
「あ、佐天さん、おはようございます」
佐天の声に気付き、こちらに向かってあいさつしてきた。
「そちらの方々はお友達ですか?」
「はい・・え、あれ、なんで? 今日の参加者って“あれ”を使ったからじゃ・・」
「そうだと思いますよ。私も資料で見た顔がたくさんいますし」
風紀委員に昏睡患者のリストが送られてきていた。
幻想御手の被害者たち。
「涙子、この人は?」
「自己紹介が遅れてすいません。風紀委員に所属してます、西折信乃です。
佐天さんとは初春さんを通してお友達になりました。よろしくおねがいします」
「「「あ、よろしくおねがいします」」」
「でも、なんで信乃さんが? 信乃さんはアレを使ってないですし・・」
「タチの悪い教師に捕まったんですよ」
「へ?」
「はいは~い、それじゃ講習を始めちゃうですよ。席についてください」
黒板の方を見ると小学生がいた。
「午前の授業を受け持つ"月詠 小萌"(つくよみ こもえ)です。
舐めた口をきくと講習時間伸ばしちゃいますよ?」
小学生、もとい教員が可愛い笑顔を浮かべて授業が開始された。
午前の講習は“自分だけの現実”(パーソナルリアリティ)について。
学園都市に来た学生であれば必ず受ける授業。
内容も聞き慣れたものだったので、ノートを取っているのは真面目な生徒だけだった。
ちなみに信乃は聞いているがノートは取っていない。
ノートを取っても無駄だろう。学者に永遠にレベル0と言われた信乃にとっては。
午後の講習は体力トレーニング
「こぉんの糞暑い中・・ったりな・・」
「つべこべ言ってんじゃないよ。文句言ったら涼しく何のか、ああぁん?」
「す、すみません!!」
講習を受けていたガラの悪い、スキルアウト集団が少し文句を言っていたが
リーダー格の女性の一言で止まった。
場所は午前の講習と同じ学校の校庭。天気は快晴で気温も高い。
佐天たちや信乃、他の講習生もグラウンドで着替えて待っていた。
「こわ・・」
文句を言う集団を横目に見て佐天が言った。
「私が風紀委員だってばれたら日頃の恨みとか言って殴られそうですね」
「あははは、あんまり笑えないです、その冗談」
「はい注目、体力トレーニング講習を受け持つ黄泉川だ。
よろしくじゃん」
スタイルも顔もいい美女が講習性の前に立った。
(ただし、服装は冴えない緑のジャージ)
警備員に所属している女性は美人であり、かなり気の強そうな
印象があった。
「よろしくおねがいしまーす」「あーす」「・・・」
生徒の反応は千差万別。
「おーし、さっそく、持久走に言ってみようか」
「えー・・・」「たりい」「うわ」
今度は全員が嫌な反応をした。
その反応に黄泉川は満足そうに
「はん、限界にチャレンジじゃん」
微笑んだ。
「よし、全員スタートラインに立て。
それから西折信乃! お前はこれをつけろ、私からの特別プレゼントじゃん」
「?」
黄泉川は肩にかけていたバックを信乃の前に降ろした。
信乃がカバンから開けると、そこにあったのはリストバンドのようなものが4つ。
その一つを持って信乃が渋い顔で見上げてきた。
「これを全部つけろと?」
「もちろん。言ったじゃん、限界にチャレンジだって」
「・・・・わかりました、はぁ」
ため息をつきながらも両手両足にその道具を着けた。
「大体、なんで私がこの講習に参加しないといけないんですか?」
「決まってるじゃん、警備員の忠告を無視して無茶して怪我して、この前まで入院した
バカな風紀委員にお灸をすえるためじゃん」
「入院?」
「風紀委員!?」
黄泉川の言葉に、佐天とスキルアウト達が反応した。
AIMバーストを倒すとき、黄泉川の停止を無視して戦いに行った。
入院の事を聞いた黄泉川は見舞いに来たが、その時も長時間の説教された。
「信乃さん入院してたんですか?」
「あ~、一応3、4日程ですけど軽い傷でしたよ。 ったく余計なことを(ボソ)」
「嘘つくな。本当は2週間の入院が必要で、本当だったら今頃が退院直後じゃん。
いい医者のおかげで早く治ったってカエル顔の医者に聞いたぞ」
「あのゲゴ太もどきも余計なことを」
「本当なんですか?」
「この話は走りながらしましょう」
講習生が全員こちらを向いている。講習の時間がなくなってしまうから信乃は急いで
持久走のスタートラインについた。
「・・・・というわけです」
「はぁ、はぁ、美雪さんの、おがげ、だったんですね」
走りながら数日前のことを説明。
美雪との仲直りは、信乃が拒否するのを諦めたとか適当なことを言ってごまかした。
佐天に合わせたペースで走っていたが、佐天の友達3人は周回遅れで前にいた。
「涙子、とばすと、しんどくなる、ぞ~」
「意味 わか、んない。 走れなく なるまで、とか」
そして信乃と佐天が3人を抜いていく。
「おらそこ、ダラダラ走るな」
「「「は~い!」」」
黄泉川に言われて、3人もペースを上げた。
「立て、立ち上がれ」
「もう、だめっす」
一人の男子生徒が座り込んだ。
一人脱落、これで残りは信乃と佐天を含めて3人だけになった。
そして
「もう・・ぁ はぁ もう、無理」
佐天も手を上げる。限界が来たら手を挙げてギブアップよう黄泉川に言われた。
「ギブアップか?」
「は、 い」
黄泉川が佐天と並走して機器に来た。息も絶え絶えで答える。
「よし、最後一周、ダッシュじゃん」
「ええ!?」
「ダッシュ!!」
「っ」
有無言わせない圧力に、佐天は残りの体力を振り絞って走る。
ダッシュとは言えない速さだが、それでも今の佐天にとっての全力で。
「よし、頑張れ。あと少しじゃん」
最後の一周を終えて、佐天はゴールラインで座り込んだ。
「いいじゃんいいじゃん。それじゃ、あと一周行ってみようか」
「はぁ はぁ 無理です」
「立て」
先程と同じ有無言わせない圧力。
「あと一周頑張れ」
真剣な顔で佐天を見る黄泉川。
「こんなのトレーニングじゃねぇ!」
2人をに割り込んできたのはスキルアウトのリーダー格の女。
「トレーニングじゃん」
「ただのシゴキだろうが、あぁん!!」
黄泉川の胸倉を掴みかかる。
「ほんとのこと言ったらどうなんだよ!
罰なんだろ! この講習はあたいらに罰を与えるためのもんなんだろ!!」
「勘違いじゃん。罰を与えるために読んだのは今走っている信乃だけ。
呼んだのは私個人で学園都市とは関係ないけど」
掴みかかられても何事もないように答える黄泉川。
「じゃあ、この持久走にどんな意味があるのか説明してみろよ!?」
「限界を超えることに意味があるんじゃん。ほら、あいつ」
黄泉川が顔を向けたのは今も走っている小太りの男。
必死に走っているようには見えるが、速度は歩いているのと大差ない。
「まっさきにギブアップして手を挙げたのに、まだ走っている。
もう無理だって諦めたらそこで終わる。
自分でも気付かない力がまだあるかもしれないのに」
「・・・・」
「こいつも、もうだめだって思ってから一周走ったじゃん」
今度は佐天を見ながら。
「その一周した力って何なんだろうな?
能力開発も同じことじゃん。自分で自分の限界を決めちまったらだめじゃんってこと」
「っ、屁理屈を言ってんじゃねえ!」
女は黄泉川に殴りかかってきたが、その拳を受け止めら足払いをして簡単に倒された。
「姐御!」 「だいじょうぶですか!?」「てめぇ、教師だからって容赦しねえぞ!!」
スキルアウトが黄泉川へと怒りを向ける。
「はぁ、講習は終了じゃん」
「逃げんのか!?」
女が黄泉川を睨みながら言う。
「時間なんだよ」
空を見上げる。太陽に雲がかかり始めていた。
「もうすぐ雨が降る、だから終わりじゃん。
おい! 信乃終わりだぞ!」
グラウンドの反対側を走っていた信乃に黄泉川は終了を叫んで知らせる。
「了解しました。ほら、もう終わりだそうですよ。一緒に戻りましょう」
「ぶ、ぶぁ」
信乃は、自分以外で唯一走り続けていた小太りの男と一緒に戻ってきた。
「なにが限界に挑戦だよ! そこの風紀委員は余裕そうじゃねぇか!!」
「八つ当たりはよせ、ジュンタ。こいつがあたいらより走ってんの見てただろ」
「けど、姐御・・・ !そうだ、あいつが付けているリストバンド、あれに秘密が
あるんだ。いくら風紀委員だからってあんなに余裕で走れるわけがねぇ!
インチキしてんだろ!?」
「リストバンド? 使いたいなら貸しますよ、ほら」
信乃は左手のリストバンドを外して男に投げ渡した。
男は落ちてくるそれを胸のあたりで両手で受け取ったが
「うぇ?」
受け取るために合わせた両手の隙間をこじ開けて、そのまま地面へ落ちる。
ドスン
リストバンドの、布が落ちた音ではなかった。
「重り!?」
リストバンドの内側には≪10Kg≫の文字がある。
「こいつは体力バカだからこれぐらいやらないと罰にならないと思ったじゃん。
だから追加で“重り”(これ)を用意したのに」
「どうです? これをつけて走ってみませんか?」
「ジュンタ、あんたの負けだ。行くぞ」
リーダーの女は校舎へと歩き始めた。ジュンタと呼ばれた男も信乃を睨みながら
着いて行った。
「信乃。合計40Kgを着けて軽く汗をかいただけじゃん、はぁ」
「体力バカですから。私には“この体”しかありませんし」
その言葉で佐天は思い出した。信乃が能力を使えないことを。
強くてすごい西折信乃。佐天が好きになったこの人は能力なしの努力だけでここまで来た。
そう考えると自分もじっとしてられない気持ちになった。
「私、もう一周だけ走ってきます」
「涙子、まだ走るの?」
すでにバテた友人の一人が驚いたかをして佐天を見る。
逆に黄泉川はそれを聞いてシニカルに笑っていた。
「いいじゃん、いってきな。ただし一周だけだぞ、雨が降るからな」
「はい!」
幻想御手の昏睡から目覚めて佐天は決意していた。
自分も諦めないで前へ進むと。
私の向上心、努力はスピネルが助けてくれる。信乃がくれたブレスレットが助けてくれる。
体力がなくてきついはずだがそれでも自然と笑顔が出てきた。
体力トレーニングの後、再び小萌による講習が行われた。
講習も最後に近づき、小萌が別の話を始めた。
「どうも勘違いしている人もいるようなので、ここで一言念押ししておきますね。
この講習は幻想御手使用者を罰するためのものではありません」
ノートを取っていた生徒も、雨が降っている外を見ていた生徒も一斉に小萌を見た。
「確かに、レベルを上げるために安易に幻想御手に手を出したのは褒められることでは
ないですよ。
ですが、それを必要以上に悔いたり、自分を攻める必要はありません。
罰ということであれば、皆さん意識不明の重体におちいるという辛い経験を
しています。すでに、その身をもって購っているのです。
だから今度はその経験を活かすべきだとは思いませんか?
皆さんは幻想御手を使用したことで一度は本来持っていた能力よりも上の力を
体験しましたね。
つまり黄泉川先生言うところの『自分の持っている限界を超えたぞ』ってやつです」
確かに彼らは自分の上の能力を体験した。
「さあ、それでは最後の講習に入ります。その感覚を思い出してください。
目を閉じて、出来るだけ集中して、できるだけ細かく力を使ったときのことを
思い出してください。
みなさん、それぞれの“自分だけの現実”(パーソナルリアリティ)を獲得、
あるいは強固にする足がかりになるはずです」
(私の、私だけの現実・・・・)
佐天は初めて見た、自分の風を、目を閉じて思い出す。
次の講習は、能力測定。
「ねぇ、テストの結果、どうだった?」
「わたし、ちょっとだけ数値が上がってた!」
「わたしも! まあ、レベルは相変わらずなんだけどね」
「あはははっ」
特別講習の全日程が終了。佐天とその友人3人は帰るために高校の校門へ歩いていた。
全員が前回の能力測定よりも結果が上がっていて上機嫌だ。
「あ、涙子、あの人ってすごい風紀委員の人でしょ?」
「本当だ、信乃さん!」
4人は校門へ歩いている信乃を見つけて駆け寄った。
「信乃さんも能力測定を受けたんですよね? 結果はどうでした? あ!?」
聞いた後で佐天は失言に気付いた。
自分が上機嫌だったとはいえ、信乃の地雷を踏んでしまった。
同じように佐天の友人たちも立て続けに聞いてきた。
「風紀委員って能力者じゃないと入れないんですよね。能力検査どうでした?」
「佐天から学校で聞いたことあるんですけど、確かすごい能力だったんですよね。
測定の結果は上がりました? 私達も全員上がったんですよ!」
「どんな能力なんですか? 興味あります!」
「私はですね、4年前に初めて能力測定した時と全く同じですよ」
測定の結果が描かれた紙を見ながら信乃は答えた。
佐天は地雷だと思ったようだが、信乃はそんなことをは気にせずに返してくる。
「ごめんなさい、わたし浮かれちゃって・・・」
「? どうしたの涙子?」
信乃の能力を知っている佐天は俯いて後悔した。
自分の能力値だけが上がっていることにぬか喜びしたことに。
「気にしないでください。私は最初の能力測定から気にしないように決めましたから。
代わりに勉強を頑張っていましたよ、当時はね」
「そうですね。わかりました」
佐天は少し無理に笑った。
「てめぇ、風紀委員だからって調子に乗ってんじゃねーぞ」
「・・・なんの前振りもなくからまれた私はどう反応したらいいんですかね?」
後ろから同じ講習を受けていたスキルアウトの集団がいた。
からんできたといっても、先程のジュンタただ一人だけだが。
「体力トレーニングだって、能力を使ってインチキしたんだろ!
風紀委員様なんだから、さぞかしすごい能力なんだろうな。
その能力を使えば俺らなんて屑だと思ってんだろ? ああん?
調子のって女とイチャつきやがって」
「逆切れでもない純度100%の言いがかりですね。
ん~、面白いの見せましょう」
信乃は持っていた紙をジュンタへ渡した。
それに書かれていたのは
本日行われた能力測定の結果
検体者:西折信乃
AIM拡散力場の計測量 0
評価レベル:0
「はぁ? こんなの嘘に決まってんだろ? ただのレベル0ならともかく
能力開発を受けてAIM拡散力場の測定量が0はありえねぇ!!」
「本当です。初めて受けたのが4年前ですけど、その時から全て0を検出してます。
学園都市側から見てもこれはかなり珍しいケースだそうです。
今後も変化する可能性も限りなく低い、永遠のレベル0だとも言われました」
ジュンタは絶句して何も言えなくなった。
「おら、もう気が済んだだろ。行くぞジュンタ。あんたも悪かったね」
リーダー格の姐御と呼ばれた女が信乃へと言ってきた。
「いえ、気にしてませんよ」
「・・・ちっ」
ジュンタは信乃に結果の紙を押しつけて仲間の元に行った。
「あ、私達用事があるから・・」
「そうだね。えっと、失礼します」
「喜んですいませんでした!!」
「え? アケミ、むーちゃん、マコちん」
自分たちが喜んでいたところを見せたことに罪悪感を感じて3人は逃げようとした。
「あ、私の結果なら気にしないでくださいよ。能力のことならすでに諦めてますし、
それに、罪悪感を感じるなら私に謝る代わりに自分の能力を上げてください。
私は能力以外の別の部分で頑張りますから心配ありませんよ」
信乃の笑顔。本音を隠しているわけでもなく、本当に3人を応援しているという笑顔。
それに見惚れ、4人は頬を赤くした。
「4人とも、顔が赤いですけど変なこと考えていないですよね?」
「「「「///////いえ、何でもありません!!/////////」」」」
「ならいいのですが」
「あの、わたしたち、頑張りますから! 信乃さんの分まで!!」
「「はい!!」」
「いえ、私の分までとかいらな「「「失礼します!!」」」 って最後まで聞いて下さい」
信乃が言い終わる前に3人は走り去って行った。
「佐天さんからも言っておいてくださいね」
「はい、わかり ました・・」
「なんで顔を赤くするのか理解できないですよ」
4人の顔が赤くなる理由は勘づいたが、それでも理解できなかったので
信乃は考えるのをやめた。
自分の顔が普通より上なことに自覚が無い。
「そういえば御坂さんから連絡があって近くで待っているそうですよ。行きましょうか」
「あ、待ってください。私も行きます!」
校門へと歩く信乃へ佐天は走って追いかけた。
つづく
後書き
補足説明しますと、信乃は鈍感ではありません。
4人の顔が赤くなる理由(自分の顔に見とれた、もしくはいいこと言ったから)は
勘づいたが、それでも(何故自分がモテるのかは)理解できなかった。
という感じです。
信乃は上条さんと違って真正のレベル0です。
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
皆様の生温かい感想をお待ちしています。一言だけでも私は大喜びします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
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