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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第九章 双月の舞踏会
  第四話 自由騎士

 
前書き
 ......自由騎士ってフランス語でなんて呼ぶんだろ?

 ラ・リーベルテ・シュヴァリエかな?
 

 
 アニエスの下に届いた手紙には、士郎を迎えるための船がロサイスに来ると書かれていた。迎えは直ぐに向かわせると手紙に書かれていたことから、アニエスは陛下からの迎えを待たせていけないと主張。そのため、ウエストウッド村を出た士郎たちがまずしたことは、機動力の確保であった。森を出た士郎たちは、直ぐに近くの村で馬を人数分確保。手に入れた馬はお世辞にも良馬とはいえなかったが、使い潰す勢いで走らせたことから、日が落ちる前にはロサイスになんとか着くことは出来た。
 士郎たちがロサイスに入る頃には、空の上のどこを見ても太陽の姿はなく。代わりに双月の光が淡く世界を照らし始めていた。ルイズたちが士郎を探しに来た時と同じく、ロサイスは夜だというのに相変わらず混雑を極め。あちらこちらで開かれている露天からこぼれる明かりや、娼婦や酒屋が人を呼び込む声で喧噪に溢れていた。そんな中を士郎たちは、人混みをかき分けるように進み、迎えが来ると思われる桟橋に向かってみたはいいが、何隻もの船が停泊する中に、迎えと思しい船の姿はなかった。桟橋にいる者に話を聞いてみると、トリステインから来た船は今日は商船しか来ていないとのことで、どうやら迎えはまだ来ていないと分かり。今日のところはルイズたちが以前ここロサイスで一泊した元連合軍司令部の前での野宿となった。
 休みなく馬を走らせた強行軍により、ルイズたちの体力が限界を超えていたことから、恒例の士郎が何処で寝るかといった騒ぎは起こらず。士郎にとっては、ルイズと再会してから初めての安らかな夜となった。
 翌日、いつものように日が昇る前に目を覚ますと、人気のない所で日が昇るまでの鍛錬をし終えた士郎は、開き始めた露天商から朝食の材料を買いながらルイズたちの下へ帰る途中、何気なく空を見上げた先に、異様な風体の巨船を目にした。士郎の他にもその巨船に気付いた者たちが、空を指さしながら何やら騒ぎ始め出す。
 そんな中、騒ぎ立てる人の誰かが言った「何処の船だ?」と言う言葉を耳にした士郎は、夜明けの微かに赤みが残る空を飛ぶ巨船を目を細めながら見上げ、

「ーーーヴュセンタール号」

 小さく呟いた。





 ハルケギニア中から集まった商船や軍船など、様々な船が舳先を並べるロサイスの桟橋では、今、一隻の船を見ようと集まった人で溢れかえっていた。
 百人は越える見物人が見つめる先にある船で、まず目を引くのはその大きさ。
 鉄塔のような桟橋から伸びる橋げたに吊り下げられ、時折吹く風に揺られるそれは、周りに浮かぶ他の船の倍はあろうかという大さはあった。しかし、ただ大きいと言うわけでは、船の展覧会と言っても良いほど様々な船がハルケギニア中からやって来るロサイスでは、そう珍しいものではない。では、何がこんなにも人を呼んだのかというと、それは寄木細工のような船底に描かれた、まるで芸術品とも言える程緻密に描かれた幾何学模様であった。
 通常の倍はあろうかという船の底に隙間なく描かれた幾何学模様は、この船がただの船ではないことを一目で悟らせるには十分に余りあり。見物客からは、何処の王家のものだという声が上がっていた。
 そして、そんな騒がしい見物客の一番前にして、ヴュセンタール号の甲板から伸びたタラップの前に・・・・・・。
 ぽかんと口と目を丸く開いた姿のルイズたちの姿があった。





「・・・・・・迎えに船を寄越すとあったが、まさかヴュセンタール号が来るとは・・・・・・陛下も思い切ったことをする」

 ため息と同時にアニエスが呟くと、横に一列に並ぶように立った士郎たちの目が一斉に向けられた。

「う゛ゅ、ヴュセンタール号が迎えって、あ、有り得ないでしょ」
「は、はは・・・・・・確かにこれは凄いわね。でもまあ、シロウがやった功績を考えれば有り得なくはないじゃないかしら」

 焦った様子のルイズを笑うキュルケであったが、傍目から見てもその笑いは引きつったものであった。
 
「そうですよっ! シロウさんは七万の軍勢を打ち破ったんですよ! それなら、これぐらいは当たり前ですっ!」

 最初はルイズたちと同じく目を丸くして驚いていたシエスタだったが、これが士郎を迎えに来た船だと知ると、自分のことのようにはしゃぎ始めた。ルイズたちはそんなシエスタの姿を「よくはしゃげるものだ」と言うような、関心半分、呆れ半分の視線を向けていたが、

「ま、確かに」
「これぐらいは当たり前か」

 ふっと口元を緩めたルイズとキュルケは、士郎の手を取るとタラップを登り始めた。

「あっ、ずるいっ! 抜け駆けですっ!」
 
 士郎の手を取ったルイズたちを追いかけるように、シエスタが走り出す。笑いながらヴュセンタール号に向かうタラップを駆け上るルイズたちの姿を仰ぎ見ながら、

「まったく、緊張感のない奴らだ」

 不意に吹いた風に揺れる髪を手で押さえがら呆れた声で呟くアニエスの口の端は、しかし微かに弧を描いていた。





「ふむ、あなたがエーミヤ・シロウ殿ですかな?」

 タラップから甲板に降り立った士郎たちに向かって、数人の部下を背後に出迎えたヴュセンタール号の艦長がまず最初に口にしたのがそれであった。後ろ手に胸を張った姿で立つヴュセンタール号の艦長の無遠慮な視線は、まるで士郎を品定めしているようであり。貴族でもない平民を自分の船に迎えることの嫌悪感を隠そうともしていなかった。

「ちょっと、その態ーーー」
「ああ、衛宮士郎(・・・・)だ。よろしく頼む」
 
 あからさまな態度に食ってかかろうとするキュルケの前に出た士郎は、微妙に間違った呼び方を指摘することなく艦長に向かって手を差し出す―――が。

「了解しました。それでは陛下のご命令により、あなた方をラ・ロシェールまでお送りいたします」

 士郎の差し出した手に目を向けることなく船長は一つ敬礼をすると、後を後ろに立つ下士官に任せさっさと歩きだした。

「っ、一体何なのあの態度!? 全くむかつくわね!」
「そうですっ! シロウさんがいなければこの船だって無事じゃすまなかったっていうのにっ!」
「あの態度! まるで姫さまからの命令じゃなければ話もしたくないって様子で! あれ絶対舐めきってるわよシロウのこと! ねぇシロウ! 軽く締めてやりましょうよあれ!」
「いるんだよねぇ、ああいう奴。貴族以外は人間じゃないって考えを持つ奴。わたしはそういう奴が大っ嫌いでねぇ……船から落とそうか」

 行き場を失った手を身体に引き戻した士郎は、首だけぐるりと後ろに向けると、去っていった艦長の背中に向け口々に文句を言うルイズたちに対し口を開いた。

「ああいう奴らは気にするだけ疲れるもんだ。それよりもさっさと船の中に入ろう。そろそろ出発するだろうからな」

 士郎は近づいてくる荷物を預かろうとする下士官に対し、後ろにいるルイズたちの荷物を持つよう頼みながら、船に入るため歩きだす。先導する他の下士官の後をついて歩いていた士郎の耳に、後ろから駆け寄ってくるルイズたちの足音が聞こえてきた。

「ちょっとシロウっ待ちなさいよ!」

 ルイズの声が響き、士郎の足が止まる。
 その時、微かに足元の甲板が揺れた。
 遠くから何かを叫ぶ人の声が響き、船のそこかしこから鈍く重い音が響き始める。
 首を傾け後ろを見た士郎の目に、下士官に荷物を渡し手ぶらになったルイズが駆け寄ってくる姿と、段々と遠ざかっていく桟橋の姿が映った。
 鉄塔のような桟橋との結束がほどかれ、ヴュセンタール号がゆっくりと動き出す。
 船が動き出すと共に、風が強く吹き士郎の白い髪を大きく揺らした。突然の強風に目を閉じたルイズたちが、めくれかけるスカートの端を押さえている。 
 士郎はそんなルイズたちの後ろに映る、遠ざかるロサイスの街―――小さくなっていくアルビオンを目を細め見つめ。
 強く吹く風に紛れて消える程の小さな声で、

また(・・)・・・…な」

 再会を誓った。





 




 王宮のとある一室。
 そこでは、一人の少女が古ぼけたライカ欅の机に両手を置き、縋るように寄りかかっていた。
 一目で安物と分かる机の上に置いた手の人差し指が、少女の苛立ちを示すかのように机の上を何度も叩いている。
 コンコンと奇妙にくぐもった音が響くのは、叩かれている机が安物だからだろうか。
 鈍く響く机を叩く奇妙な音は、遮るものがない部屋の中に響き渡る。
 そう、少女が今いるこの部屋には、何もなかった。
 精々あるのは、少女が今座っている椅子と寄りかかり打楽器代わりにしている机、そして部屋の隅に置かれた古びた一個の書架。
 それだけであった。 
 他の家具の姿など何処にもない。
 元々この部屋にあった、部屋を飾り立てる様々な財宝も、美しい高価な家具も全て売り払ってしまったのだ。
 机と椅子しかないそんな奇妙な部屋が、トリステインの国王が仕事をする場である執務室だと分かる者は誰もいないだろう。
 そして、こんな部屋にただ一人いる少女こそ、この部屋の主でありこの国の女王―――アンリエッタ・ド・トリステインその人であった。
 実のところ、最初この部屋には、少女が座る椅子も机もなかった筈だったのだが、さすがに机がなければ仕事が出来ず、仕事に使う資料を置くための書架がなければ仕事に支障があるとのことで用意されたのだ。
 どこをどう見ても一国の主が使うようには見えない執務室の中で、唯一女王らしいものと言えば、アンリエッタが頭に被った王冠だけであった。

「もうそろそろ着く筈ですが……ラ・ロシェールからは竜籠で来るはずですし。予定ならもうそろそろ着く筈なのに……」

 アンリエッタの指先が机を叩く音が更に強まり。
 コンっ! と一際鈍く大きな音が執務室に響くと同時に、机を叩く音が消えた。
 
「まだですか?」

 机を叩く音の代わりに、入り口に控える衛士に向かってアンリエッタの声が向けられる。

「未だアニエスさまは戻られておりません」 

 アンリエッタの問いに、間髪入れず衛士からの返事が返ってくる。
 隠しきれない焦りや苛立ちが混じる女王からの質問を、ただの衛士が戸惑うことなく直ぐに答えることが出来たのは、先ほどから何度も同じ質問をされていたためであった。
 そして、同じように返ってくる返事に、アンリエッタは机に爪を立てる。
 ガリっ、という木が削れる音とともに、机に小さな傷が出来る。古い傷だらけの机に、見れば同じような傷が机にいくつも見えた。

「何かあったのかしら……」

 胸の奥に締め付けられるような痛みが走り、無意識に胸元を握りしめた時。

「銃士隊隊長アニエスさまご到着!」
「っ!!」

 衛士の呼び出しを告げる声を耳にしたアンリエッタは、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。反射的に直ぐに通すよう口を開きかけたアンリエッタだが、思いなおすように口を閉じると、窓に向かって小走りに駆け寄った。窓に駆け寄ったアンリエッタは、窓ガラスで自分の姿を確かめ髪を軽く撫でつけると、机に向かってゆっくりと歩き出す。机の前まで歩いたアンリエッタは、胸に手を当て一度大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐いた。

「お通しになってください」

 すっと背筋を伸ばした姿でアンリエッタが声を上げると、ドアが開き待ち望んだ人の到来を待った。
 
「失礼します」

 ドアが開き、まず最初に現われたのは、銃士隊隊長であるアニエスだった。執務室に入ってきたアニエスは、ドアの前でアンリエッタに向かって深く一礼すると部屋の中を進んでいく。続いてアニエスの後に控えていたルイズが士郎を伴って執務室の中に入ってきた。
  
「っ、姫さま」

 軽く顔を伏せた姿で執務室の中に入ったきたルイズが顔を上げると、口と目を見開き戸惑った声を上げた。
 焦った様子のルイズの声に、アンリエッタの身体がびくりと震える。
 ルイズの視線が自分の顔に向けられていることに気付いたアンリエッタは、導かれるように頬に手を伸ばすと、その白い指先に熱い雫が触れた。

「あっ、その、す、すいません」

 指先に頬を流れる涙が触れ、初めて自分が泣いていることに気付いたアンリエッタが、何処か困惑した様子で手の甲などで涙を拭い出す。誤魔化す様に慌てて涙をぬぐう姿は、何処か幼さを感じさせた。

「っ、お捜しになられていたミス・ヴァリエールの使い魔。エミヤシロウをお連れしました」

 涙を拭い終えたアンリエッタがアニエスに促すような視線を向けると、止まっていた時間が動き出した。

「はい、ご苦労様でした。では下がっていてください」
「……失礼します」

 報告を受けたアンリエッタが労をねぎらうような笑みを浮かべると、アニエスに退室を促す。アニエスは一瞬視線を士郎たちに向けた後、深くアンリエッタに頭を下げ執務室を後にした。
 アニエスの姿が執務室からいなくなり。
 パタン、とドアが閉まる音が部屋の中に響くと、それがスイッチであるかのようにルイズの首が動き出した。部屋の中をゆっくりと見回すルイズの顔には、戸惑いの色が濃く見える。
 その理由を察したアンリエッタは、軽く目を伏せながら自嘲の笑みを口元に浮かべた。

「あなたたちを迎える部屋が、こんなみすぼらしい部屋でごめんなさい」
「えっ!? あ、そ、そんなことありませんっ! ただちょっと、戸惑っていただけで……」

 わたわたと手と首を横に振るルイズに、口元に浮かぶ笑みが柔らかなものにしたアンリエッタが、首を傾け何もない執務室をチラリと一瞬視界におさめる。
 
「あの戦争で、国庫が空になってしまって、少しでも足しになればと売り払ってしまったの……焼け石に水だって分ってるんですけど、ね」
「……姫さま」

 顔を隠すように伏せたアンリエッタが悲しげに呟くと、同調するようにルイズの顔も傾き悲しげな声が漏れる。
 
「戦争は連合軍の勝利という形に終わりましたが、新たな領地とお金を得ただけで……代わりに失ったものは……多すぎて数えきれません」

 器を作るように広げた手のひらを見下ろしながら、アンリエッタは疲れた声を微かに開いた口から漏らすように呟く。

「その失ったものの中に、あなたが入っていたかもしれない。本当に……わたくしはなんと愚かだったのでしょうか」
「姫さ―――」

 顔を伏せたアンリエッタの目尻から涙が零れ落ち、床に小さな滲みを作るのを見たルイズが、反射的に上げた声を、

「―――ルイズ」

 顔を上げたアンリエッタのルイズの名を呼ぶ声が遮った。
 中途半端なところで遮られたためか、ルイズの口は半開きのままで。そんな顔のルイズの下まで、アンリエッタは歩いて行くと、その小さな身体を力一杯抱き締めた。

「ごめんなさいルイズ。本当に……ごめんなさい。戦後の処理が忙しかったなんて言い訳にならないけど、直ぐにあなたに謝らなければいけなかったのに……」
「え、あの、姫さま。そ、そんな姫さまが謝られるようなことなど、わたしには一つも覚えがありません」 

 アンリエッタの抱きつかれ、万歳するように上げた両手を左右に振りながらルイズが焦った様子を見せる。

「いえ、あります。アルビオン侵攻軍の指揮をとった者たちに聞きました。彼らは足止めのために、あなたを殿軍を命じたと」
「それは……しかし、それは将軍たちが命じたことで、姫さまがそれを命じたわけでは……」

 「殿軍を命じられた」という言葉に一瞬顔が強張ったが、直ぐに顔を小さく振って強張りをとると、ルイズはアンリエッタの肩に優しく手を置き囁きかける。

「そんなことはありません。将軍たちに、あなたの『虚無』を積極的に使用するよう命じていたのはわたくしです。彼らはわたくしの命令に従ってあなたに殿軍を命じたのです……ほんと、うに、すみません……あなた、になんといってわび、ればよい、のか……ごめん、なさい、るいず」

 弱々しく首を横に振りながら、縋りつくようにルイズを抱き締めるアンリエッタが何度も何度も謝罪を口にする。弱々しく首を振るたびに、アンリエッタの瞳から漏れ出る涙が雫となって零れ落ち。謝罪の言葉は涙で濡れて濁りだす。
 幼子のように抱きついてくるアンリエッタの姿に、ルイズはふっと柔らかな笑みを浮かべると、肩に置いていた手をずらし、
 
「大丈夫です。分っていますから」

 ぎゅっ、と力を込めてアンリエッタの体を抱きすくめた。
 強く強く。涙を流し震える身体を止めるように、アンリエッタの身体に回した腕に力を込める。
 いつの間にか自分の胸に顔をうずめる様に泣いているアンリエッタの頭に頬を寄せると、ルイズは赤子に言い聞かせるように優しく囁きかけた。

「わたしは姫さまを信じていますから。だから、嫌いになったりしません」
「る、いず?」

 何時からか床に膝をついた姿でルイズの胸に縋りついていたアンリエッタが、恐る恐ると涙に濡れる瞳を上に向ける。
 
「はい、何ですか」

 そこには優しく微笑むルイズの顔があった。
 まだ幼さが抜けきらない顔には、まるで慈母のような笑みが浮かんでいる。包み込むような柔らかさと暖かさに、知らず息を飲むアンリエッタ。

「ゆるし、て、くれるの?」

 アンリエッタの質問にルイズは小さな苦笑を浮かべる。縋るようなアンリエッタの言葉と視線を受けたルイズは、アンリエッタの頬に伝う涙を指先で拭うと首を傾げてみせた。

「許すも何も、わたしは何も怒っていませんので。本来ならその質問には応えられないのですが」

 いつの間にか、縋るようにルイズの身体に回されていたアンリエッタの腕は外れていた。
 ルイズは一歩後ろに下がると、床に膝をつくアンリエッタに手を伸ばす。

「姫さまが聞きたそうですから仕方ありません」

 差し出された手に反射的に手を出したアンリエッタは、ルイズの浮かべた悪戯っぽい笑みを見ると恥ずかしそうに顔を逸らした。

「もちろん許します」

 全く気負いのない様子でルイズは笑う。
 小さな失敗を謝る友人にそうするように、ルイズは何でもないことのように笑いながら許す。
 その全く含みも裏もない笑みを浮かべるルイズの顔を、アンリエッタは丸く大きく開いた目で見つめている。

「なん、で、そんな、かんたんに、だって、しんで、たかも、しれないの―――」

 震える声でルイズに問いかけるアンリエッタだったが、不意に息と共に続く言葉を飲み込んでしまう。


「そんなこと当たり前じゃないですか―――」


 それは仕方がないことだろう。


「―――わたしたち―――」 


 何故ならば、それほどその時ルイズが浮かべた表情は、


「―――友達でしょ」


 あまりにも綺麗な笑顔だったから。









「……ごめんなさい。もう大丈夫だから。ふふっ、なんだか久しぶりな気がするわ。あんなに泣いたのって」
「えっと、本当に大丈夫ですか?」
「もうっ、心配性ねルイズったら。本当に大丈夫よ。逆に調子がいいくらいなんだから」

 心配気に声をかけ来るルイズに、アンリエッタは笑いながら首を振る。

 先程、ルイズからの許しを受けたアンリエッタは、唐突に声を上げ泣きだしたのだが。
 突然泣き出したアンリエッタに、ルイズは動揺し慌て始め。そんなルイズの身体をきつく抱き締め泣き続けたアンリエッタが、数分間泣き続けた後、ゆっくりと涙を拭いながら立ち上がった時には、その顔には明るい笑みが浮かんでいた。

「そうですか。なら、一つお話をしなければならないことがあるのですが」

 笑いかけてくるアンリエッタの姿に、もう大丈夫だと確信したルイズは、背後に控えるように立つ士郎に一瞬横目で視線を投げかけた後、口を開いた。

「実は、わたしがシロウを探しにアルビオンに向かった時のことなんですが」

 アルビオンで士郎の捜索をしていた際、『虚無(ゼロ)の使い魔』を名乗る女から襲われたことを語り始めた。
 そしてその際、シェフィールドと名乗ったその女がワルドを連れていたことを……。

「そんな……彼が……いえ、それよりもそのシェフィールドと名乗った女性ですが、本当に虚無の使い魔なのですか?」
「まず間違いないかと……あの女は自分のことを『ミョズニルトン』と名乗っていました。全ての魔道具(マジック・アイテム)を操るとも、そしてそれを証明するように、無数のゴーレムを操って見せました……あんなことを出来る人がいるなど聞いたこともありません」

 しっかりとアンリエッタの瞳を見て答えたルイズは、厳しく引き締めた顔を横に振った。

「使い魔がいると言うのなら、使い手がいるということ……あなた以外にも虚無の使い手がいるなんて……」

 不安げに胸元にやった手を握りしめるアンリエッタに、ルイズは口元に手をやると、思案を巡らせるように微かに顔を俯かせた。

「多分……ですが、わたしを含めて虚無の使い手は四人いると思われます」
「? 何故そう思うのですか?」

 アンリエッタの問いかけに、顔を上げたルイズは答える。

「アルビオンからトリステインに戻る船の中でシロウたちとの話し合いの結果からです」
「話し合い、ですか。あれ? シロウさんたち(・・)ですか? あ、ああ。アニエスも加わったのですね」
「いえ、違います」

 納得したようにポンっ、と手を叩くアンリエッタに、ほんの微かに苦い顔を浮かべたルイズが顔を横に振った。

「ゲルマニアの貴族であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー及びトリステイン魔法学院学院長秘書ロングビル、それと……学院のメイドのシエスタです」
「ゲルマニアの貴族と学院長の秘書と……メイド? な、何だか混沌としていますね」

 首を傾げながらアンリエッタは戸惑った声を上げる。
 ルイズはそれに少し引きつった笑みを返すと、気を取り直すように一つ咳をした。

「っん。は、はい。おっしゃる通りですが、皆口が硬く信用のおける者たちです」
「そうですか。ルイズがそう言うのならそうなんでしょうね。分りました。と言うことは、その者たちはあなたの力のことを……」

 向けられる視線に含まれた言葉に、ルイズは小さくこくんと頷く。

「はい。知っています。どうやら薄々気付いていたみたいで、話した時全く驚かれず……変わらず接してくれます」
「……そうですか」

 照れくさそうに顔を伏せたルイズに、アンリエッタは微笑ましく思い口元を緩ませる。

「しかし、確かゲルマニアのツェルプストーと言えば、ヴァリエール家と犬猿の仲だと聞きましたが……」
「うっ、そ、それは……確かにそうですが、しかし―――」

 もごもごと口を動かし何やら小さな声でぶつぶつ呟くルイズに、アンリエッタは慌てて両手と首を横に振った。

「あ、ああっ! 別に無理して話さなくてもいいですから。……でも、事情を知っているのなら、一度話してみたいものですね。その方たちは今は何処に?」
「あ~……それは……」

 アンリエッタの何も知らない穢れのない瞳が痛いとでも言うように、ルイズの視線が逸らされる。逸らした先にあった士郎の目と視線が合うと、ルイズは覚悟を決めたかのような重いため息を吐くと、ゆっくりと錆付いたような口元を動かした。

「今頃は学院にいると思います」
「そうですか。それは残念で……どうかしたんですか?」

 突然疲れたように顔と肩を落としたルイズに、アンリエッタが戸惑いの声を上げる。
 ルイズは執務室のドアの向こうに視線を向けた後、引きつらせた顔をアンリエッタに向けた。

「実は三人ともわたしたちについて行きたがったんですが、それをアニエス隊長が無理やり学院行きの竜籠の中に押し込んでしまい……なので学院に戻った後が少し怖く……とばっちりがわたしに来そうで……」

 ハハハ……と乾いた笑いを浮かべるルイズに、アンリエッタも乾いた笑みを浮かべた。
 この話題は駄目だと判断したアンリエッタは、ルイズの後ろで同じように乾いた笑みを浮かべる人物に視線を向ける。
 自分に向けられる視線に気付いたのか、士郎が首を動かすとアンリエッタと目が合った。
 
「っ!」

 心臓が大きく脈打つのを感じたアンリエッタは、顔に血が上るのを自覚しながらもゆっくりと士郎に向かって歩き出す。
 震える身体が転ばないように、必要以上にゆっくりと足を動かしながら。

「っ、し、シロウさん。お、オヒサシブリデス」

 士郎の前に立ったアンリエッタは、異様に硬い声で話しかける。

「あ、ああ。久しぶりだ、な」
「は、はい」

 そこで話が途切れ沈黙が執務室に満ちる。
 いたたまれず、アンリエッタは咄嗟に顔を伏せてしまう。
 アンリエッタはますます顔に血が昇っていくのを感じながら、用意していた話をしようと必死に口を動かそうとするが、口からを何も言葉が出てこない。
 何か話さなければと気ばかりが逸り、せっかく準備していた話が出来ずにいると。

「大丈夫か?」
「はっ、ははいっ! 大丈夫です!」

 士郎に声を掛けられ、反射的に顔を上げたアンリエッタは、目の前にある士郎の顔に気付くと、一気に首まで顔を赤くした。
 突然真っ赤になったアンリエッタに、士郎は首を訝しげな顔をする。
 一瞬眉根に皺を寄せた士郎だったが、何かを思いつくと手を伸ばし、アンリエッタの赤くなった額に手のひらをぺたりとつけた。

「ッッッっ!!?」
「……熱はないか」

 アンリエッタの額に当てた手とは逆の手で自分の額に手を当てた士郎が、首を傾けると、

「な、なななな何でもありません!」

 アンリエッタは士郎の手を振り払うように背中を向け、逃げるように一歩、二歩と前に足を動かした。

「っ、ん、んんっ! と、ところで、ですね」

 わざとらしい程大きく咳払いを一つすると、アンリエッタはゆっくりと振り返り士郎と向き直った。視線を落としているためか、士郎が隣に隣に立つルイズから横腹を抓られていることに気付いていない。

「先の戦争でのシロウさんの功績は、トリステイン……いえ、ハルケギニアの歴史でも類がないものです。たった一人で七万の軍勢を敗走に追い込む……物語に歌われる英雄であっても不可能でしょう」

 ゆっくりと顔を持ち上げたアンリエッタは、潤んだ瞳で士郎を見つめ、

「本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げた。
 一国の王が平民に対し頭を下げる姿に、ルイズは息を飲む。
 頭上の王冠がずれ下がる程、大きく頭を下げるアンリエッタは、何も言わずただ頭を下げ続けるだけ。
 呆然と立ち尽くしていたルイズだったが、王冠がアンリエッタの頭から落ちそうになるのに気付くと、ハッと正気に戻り王冠を支えようと手を伸ばし、

「そんなに頭を下げなくても気持ちは十分に伝わっている。ほら、王冠が頭から落ちそうになっているぞ」

 たが、その手は空を切ることになった。
 ルイズよりも先に伸ばされた士郎の手が、アンリエッタの肩に置かれ、優しく起こしたからだ。 
 
「しかし、ルイズから聞いた話では、俺がアルビオン軍を止めたという話は、噂でも殆んど広まっていないと聞いたんだが?」

 顔を上げたアンリエッタに向かって、士郎は顎に手を当て顔を捻る。
 
「アルビオンのホーキンス将軍から直接話を聞きました。あなたが七万の軍を正面から打ち破り自分の右腕を切り飛ばしたと」
「そう、か……」
「シロウさん?」

 アンリエッタが訝しげに士郎の顔を覗き込む。
 一瞬、士郎の顔に安堵の色が浮かんだように見えたからだ。
 
「ん? 何だ?」
「……いえ、何でもありません。それでですが、シロウさんの他に類がない程の働きに対する報奨に関してですが」

 問いに反応する士郎に、聞いても詮無きことだと思い直したアンリエッタは小さく首を振ると、ルイズたちをここに呼び出した目的を口にしようとしたが。

「いや、気にすることはない。俺はルイズの使い魔で軍人ではないからな。報奨など払う必要などない」

 苦笑を浮かべた士郎の言葉により押し止められた。
 望めば、いや、望まなくとも一生遊べるだけの報奨は貰えるだろう戦功を手にしたと言うにも関わらず、それを誇りもしなければ、利用しようともしない。
 まるで荷物運びを手伝ったお礼を断るように気軽に首を振る士郎の姿に、利益や権利を得ようと日々擦り寄ってくる貴族たちの姿を知るアンリエッタの目が心地よさげに細まった。

「……やっぱり、あなたはそう言うのですね」

 口の中で誰にも聞かれないように小さく呟くアンリエッタ。

 報奨を断れたことに対し、アンリエッタに動揺はない。
 何となく予想が出来ていたからだ。
 士郎と話をしたことは、数える程しかなく、その人となりを理解するほどの付き合いがあるわけでもない。
 しかし、何故かアンリエッタは報奨を断られるだろうと予想は出来ていた。
 理由は……本当に分からない。
 ただ、本当に何となくそんな気がしていたのだ……。

 だから、

「いいえ、どうぞ受け取ってください。これは、きっとあなたの力になると思います」

 アンリエッタは、そんな士郎にだからこそこれ(・・)を渡そうと決めたのだ。

「力?」

 アンリエッタの言葉に疑問を浮かべた士郎は、つい差し出された紙を受け取ってしまう。
 受け取った紙に視線を落とした士郎の目が細まる。
 左上と、一番下に上半分だけのトリステイン王家の百合紋花押が鎮座したその羊皮紙は、近衛騎士隊隊長の任命状であった。

「うそ、近衛騎士隊の任命状って……シロウが貴族になるってこと?」

 士郎の横から紙を覗き込んだルイズの口から、呆然とした声が漏れる。

「はい。ただし、ただの近衛騎士ではありません」

 ルイズの言葉に頷いたアンリエッタが口にした言葉に、任命状に視線を落としていた士郎の顔が上がる。
 視線の先のアンリエッタは、何かを決意した強い目をしていた。

「ただの近衛騎士ではないとは?」

 士郎が問いかけると、アンリエッタは薄く笑みを浮かべると自身の胸に手を当てた。

「そう、ですね。一言で言うならば、『自由騎士』とでも言うのでしょうか」
「『自由騎士』?」

 アンリエッタの言葉に、ルイズが首を傾げる。

「はい。今後シロウさんが望めば、トリステインはあらゆる助勢を惜しみません。しかし、そのシロウさんに対し、わたくし、いえ、トリステインは何も命ずることは出来ません」
しない(・・・)ではなく、出来ない(・・・・)のか」

 士郎の探るような視線に、アンリエッタは強く頷く。

「はい。しない(・・・)ではなく、出来ない(・・・・)のです。これを」

 アンリエッタは執務室にある、数少ない家具の中の一つである机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出すと士郎に差し出した。
 受け取った羊皮紙の一番上には、下半分だけの百合紋花押が押されている。
 士郎は無言で最初に受け取った任命状と今受け取った羊皮紙を上下につなぎ合わせた。

「二枚で一組となっています」

 アンリエッタの言葉通り、任命状に押された上半分の百合紋花押と二枚目に押された下半分の百合紋花押がピタリと一致した。

「二枚目に書かれている通り。トリステインはシロウさんと、シロウさんが指揮する騎士団に対し、あらゆる援助を約束しますし、責任はわたくしが持ちますが、わたくしを含め誰もシロウさんたちに対しどんな命令もすることは出来ません。そして、シロウさんの『騎士(シュヴァリエ)』の取り消しや、騎士団の解散はわたくしにしか出来ません」
「ひ、姫さま、流石にこれはあまりにも……」

 あらゆる意味でとんでもない騎士と騎士団の誕生を目にしたルイズが、震える声で止めようと声を上げるが、アンリエッタの視線は士郎から外れることはない。
 アンリエッタの強い視線に晒されながら、士郎は大きすぎる報奨をどう断ろうかと考えていると、

「実を言えば、これは報酬などではないのです」
「え?」
「?」
 
 その思考をアンリエッタの一言が止めた。
 ポツリと呟くように口にしたアンリエッタの言葉に、ルイズと士郎の戸惑ったような声が上がる。
 どういうことだと疑問の視線を向けられたアンリエッタは、顔を僅かに落とすと、力ない声で話し始めた。 

「先の戦争で、ルイズが死が避けられない殿軍を任されたのは、わたくしの浅はかな考えが原因です。二度と同じようなことは起こさせないと決意はしていますが……絶対ということはありません。まだ、未熟すぎるわたくしです。ないとは言い切れません。そんな時、止めてくれる力が必要なのです。何にも束縛されない力が......」

 弱々しく顔を上げたアンリエッタの縋るような視線が士郎に向けられる。

「報奨と言いながら、こんなことを頼むのは本当に厚かましいのですが、どうか、お願いいたします。どうかっ……どうかこの弱い王を助けてください」

 祈るように組まれた手を胸に押し当て、アンリエッタは必死に士郎に言い募る。
 まるでそれは、どうしようもない状況に落ち入った幼い子供が助けを求めるかのようで。

「姫さま……」

 その余りにもか弱い姿に、ルイズの口から悲しげな声が漏れる。





「……頭を上げてくれ」

 小さな、囁きかけるような声にも関わらず、それは執務室に響き渡るように広がった。

「シロウ、さん?」

 声に誘われるように顔を上げたアンリエッタは、潤んだ瞳で前に立つ士郎を見上げる。
 視線の先の士郎は、微かに俯かせた顔を片手で覆っているため、どんな顔をしているか分からない。

「シロウさん?」

 不安に揺れる声で、再度士郎に問いかけるアンリエッタの目に、笑みをたたえた士郎の顔が映る。
 顔に置いた手を髪をかき上げるように動かした士郎は、顔を動かし横に立つルイズを見下ろす。  

「いいか?」
「っはぁ……分かったわよ。いいわよ好きにして」

 士郎の問いに、ルイズは何がと問うことなく疲れたような溜め息を一つすると、小さくコクリと頷いて見せた。
 ルイズからの了承を受け取った士郎は、所在無さげな様子で身体をもぞもぞと動かし、不安気な顔を見せるアンリエッタと向かい合う。

「あの、その、それで」
「報奨の件だが」
「ッ!」

 アンリエッタは自分の問を遮るように口を開いた士郎の言葉に息を飲む。
 ゴクリと喉を一つ動かしたアンリエッタは、士郎の次に続く言葉をじとりと汗が滲む身体で見つめる。

「受け取ろう」
「ッ!! あ、は、はい! ありがとうございます」

 士郎の言葉を受けたアンリエッタが勢いよく頭を下げる。
 
「報奨を受け取ってもらってお礼を言われるとは……しかし、本当にいいのか?」

 頭を下げる喜びを露わにするアンリエッタの姿に、苦笑いを浮かべた士郎だったが、直ぐにそれを消すと低い声で問いかける。
 国に害をなすかもしれないと、ただの男をそこまで信じてもいいのか、と。

「……構いません。シロウさんがいなければ、トリステインは無事ではなかったでしょう。救国の英雄に対する報酬にしては少ないと言っても過言ではないです。……それにあなたは約束(・・)を守ってくれました」
「約束?」

 首を傾げる士郎に向かって、アンリエッタは信頼しきった笑みを向け。

「だから、わたくしはあなたを最後まで信じます(・・・・)

 柔らかく囁いた。 










 日の光が窓から差し込み、殺風景な執務室の中を照らす。
 白を基調にした執務室の壁に光は反射し、執務室の中は明るい。
 そんな中に、差し込む陽の光を遮り生まれた三つの人影があった。

 三つのうち一つは、少し離れた位置で、残る二つの影を見つめているようであり。
 三つのうち二つは、片方から伸びた影が、低い影に橋のようにつながっていた。


「我、トリステイン女王アンリエッタ、この者に祝福と騎士たる資格を与えんとす」


 広い執務室の中に、朗々と若い女性の声が響き。 


「高潔なる魂の持ち主よ、比類なき勇を誇る者よ、並ぶものなき勲し者よ、汝の魂の在り処、その魂が欲するところに忠誠を誓いますか……」


 虚空に吸い込まれていくように消えていく。
 シンっと、静まり返る執務室の中、女の問いに、


「誓おう」


 強い意志を感じさせる低い男の声が答え。


「誓いを受け、今ここに始祖ブリミルの御名において、汝を騎士(シュヴァリエ)に叙する」


 ここに、これよりハルケギニアの歴史に深く名を残す騎士が生まれた。

 
 たった三人による簡素な叙勲式。


 騎士―――シロウ・シュヴァリエ・ド・エミヤ。


 救世の騎士。


 剣の王。


 赤き英雄。

 
 後に数多の名で謡われることになる―――伝説の始まりであった。





 

 
 

 
後書き
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 次でやっと学院に戻れる......。 
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