後宮からの逃走
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第二幕その五
第二幕その五
「ですからこの通り」
「ふむ。確かにな」
ここでオスミンも酔いが回ってきた。顔が赤くなり上機嫌になって足元がふらふらしてきた。
「可愛い娘さんに栄光あれ」
ペドリロがまたオスミンを乗せる為に言ってきた。
「ブロンドも茶色も。どれもこれも」
「そうだな。それにしても」
「何ですか?」
「ワインは最高だ」
もう言う言葉が完全に変わっているオスミンだった。
「これを作ったバッカスという奴には感謝しないとな」
「そうでしょう?それでは」
「バッカス万歳か」
「はい、ではご一緒に」
「わかった。それでは」
互いに肩を組み合いもう一方の手にはそれぞれボトルを持って。そうして言うのだった。
「バッカス万歳!」
「このような偉大なものを作った奴に乾杯だ」
オスミンはにこにこしてふらふらしながら語る。
「ついでに可愛い娘さんにもな」
「もう一本どうですか?」
「おお、まだあるのか」
「ですが飲み過ぎにはご注意を」
一応こうは言っておくのだった。もうオスミンが完全にワインにやられているのがわかっていながら。つまり確信犯というわけである。
「後で頭が痛くなりますので」
「そんなの構うものか」
酒を知らないオスミンはこう答えるのだった。
「そんなことはな。だからだ」
「もう一本ですね」
「ああ、だからな」
「わかりました。それでは」
何だかんだで確信犯だからすぐにボトルを手渡すペドリロだった。オスミンはそれを受け取りまた飲みだした。その二本目を飲み終えると遂に倒れてしまった。ペドリロはその彼をとりあえず両手で肩の下から持ってそのまま彼の部屋に入れてしまったのであった。そこから庭に戻るとそこにベルモンテが待っていた。
「あっ、こちらに」
「コンスタンツェは?」
ベルモンテは怪訝な顔で彼に問うのであった。
「まだいないのかい?」
「いえ、こちらに」
「むっ!?」
「来られましたよ」
いいタイミングだった。ここでブロンデに連れられてそのコンスタンツェが庭に来たのであった。ベルモンテは彼女の姿を見て思わず声をあげた。
「無事だったんだね。ここまで来たかいがあったよ」
「御会いできるなんて」
コンスタンツェも彼の姿を見て喜びの声を漏らすのだった。
「これこそ神の御加護なのね」
「喜びの涙を流す時恋は愛する者の上に微笑む」
ベルモンテは歓喜と共に言うのだった。
「嬉し涙が頬にキスをするのは恋のもっとも尊い報酬なんだ」
「ええ、そうよ」
「コンスタンツェ、君に会えるなんて」
ここでお互い抱き締め合うのだった。その横ではペドリロとブロンデが暖かい目で二人を見ていた。
「君をこの胸に幸せと世転びに溢れて抱けるなんて。クロイソスの財宝にも勝る」
「ベルモンテ・・・・・・」
「だから今僕はわかるんだ」
「何をなの?」
「別れがもたらした苦しみを」
その彼女を抱き締めながらの言葉だった。
「こうしてまた会えたから。あらためて知るんだ」
「私も」
そしてそれはベルモンテも同じであった。
「こうして会えたからこそ」
「その通りだよ。コンスタンツェ」
「夢ではないかしら」
彼女はつい今の幸せを夢かとさえ思った。
「この幸せは」
「いや、夢じゃないよ」
ベルモンテはそのコンスタンツェに対して言う。
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