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ヘンゼルとグレーテル

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第二幕その二


第二幕その二

「うわあ、こりゃ凄いや」
 二人はそのお家を見て思わず声をあげました。
「チョコレートのレンガにタルトの屋根」
「ケーキの壁に水飴やお砂糖の窓」
「凄く美味しそうだね」
「それにとても奇麗。ほら見て」
 グレーテルはお家のある部分を指差しました。
「干し葡萄よ」
「うん」
「垣根はジンジャーブレッドで」
「キャンディーが散りばめられていて」
「お家全部がお菓子なのね」
「ねえグレーテル」
 ヘンゼルはもう我慢できなくなっていました。
「これだけの御馳走があるんだからさ」
「食べるの?」
「お菓子は食べる為にあるんだよ」
 それがヘンゼルの言葉でした。
「だから。さあ」
「けど兄さん」
 しかしグレーテルはもう食べることしか頭になくなっているヘンゼルに対して言いました。
「あれ、お家よ」
「うん」
「誰がいるかわからないし。それに」
「人のものだから駄目だっていうのかい?」
「そうよ。だから、ね」
「大丈夫だよ、グレーテル」
 ヘンゼルはあくまで心配する妹に対して言いました。
「大丈夫って!?」
「見なよ、お家が僕達に笑いかけてるじゃないか」
「お家が!?」
「そうさ」
 グレーテルにはそうは見えませんでしたがヘンゼルにはそう見えていたのです。彼はとにかく腹ペコでその前にお菓子の山があるのですからそれは当然でした。
「だから食べてもいいんだ。それにこれは」
「これは?」
「天使様達の贈り物かも知れないよ」
「天使様達の!?」
「そうさ」
 ヘンゼルはにこりと笑って言いました。
「夢の中に出て来て僕達を護ってくれた天使様達がね」
「天使様達が」
「そうだよ、だから安心していいさ」
「そうかしら」
「そんなこと言ってたらお菓子がなくなっちゃうよ」4
「お菓子が」
 あくなると聞いてはグレーテルも戸惑ってしまいます。彼女もまた食べたいのは事実ですから。
「なくなるよりは、さあ」
「そうね」
 そして遂にこくりと頷いてしまいました。
「ほんのちょっとだけね」
「ええ、ほんのちょっとだけ」
 お菓子の家に歩み寄っていきます。そしておもむろに取ってかじりはじめます。暫くカリカリと食べていると中から声が聞こえてきました。
「誰なんだい?」
 それは老婆の声でした。けれど二人は食べるのに夢中で聞こえません。
「私のお家を食べているのは誰なんだい?」
「このチョコレート美味しいね」
「うん」
 二人はチョコレートを食べていました」
「とても甘くて」
「それでいてほろ苦くて」
「もっと食べたくなるよ」
「チョコレート以外にもあるわよ」
 グレーテルはビスケットを取り出してきました。
「これもあるし」
 そして今度はクッキーを。
「これもあるわ。どんどん食べましょう」
「うん、お腹一杯ね」
「ええ」
 二人は食べ続けます。食べるのに夢中で他のことをすっかり忘れてしまう程でした。
 そう、すっかり。そのせいでチョコレートの戸口が開いてそこから黒い服と帽子を着た魔女が姿を現わすのにも気付いてはいなかったのです。
 見れば如何にも怪しげな魔女です。高い鼻は曲がり、皺だらけの顔に血走った赤い目をしています。薄い唇には血の気はなく、そして醜く歪んでいます。
 そんな不気味な魔女が姿を現わしてきました。そして二人を見ています。
 それでも二人は気付きません。相変わらず食べ続けています。
「ケーキも色々あるね」
「チョコレートケーキも生クリームのケーキも」
 二人は両方食べています。口の周りがチョコレートとクリームでべったりです。
「このジンジャーケーキだってね」
「とても美味しいね」
「うん、すっごく美味しい」
「甘くて生姜が利いてて」
「一度食べたら病みつきになるよ」
「そんなにいいのかい?」
 魔女が二人に後ろから声をかけてきました。
「うん、とても」
「こんな美味しいケーキ作ったのは誰なんだろう」
「私だよ」
 魔女は気味悪く笑いながらそれに答えました。
「えっ!?」
「私なんだよ、ヒッヒッヒッヒッヒ」
「うわっ!」
 そしていきなりヘンゼルを捕まえました。
「兄さん!」
「御前、一体誰なんだ!」
「私!?私はねえ」
 離れようともがくヘンゼルを捕らえながら言います。身体に似合わない凄い力です。
 
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