戦国異伝
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第百三十二話 越前攻めその五
「それならばじゃ」
「戦をされてですか」
「宗滴殿とな、しかしじゃ」
「しかしですか」
「無駄な犠牲は出すつもりはない」
先祖代々因縁がある家である、双方の確執は有名なものだ。
「降ればよしじゃ」
「義景殿次第ですか」
「そういうことじゃ、金ヶ崎をどう陥とすかじゃが」
「あの城は楽に陥ちるでしょう」
そうなるとだ、明智はその城のことについては素っ気ない。
「特に何もなく」
「そう思うか」
「はい、十一万の兵で囲みますな」
「先陣だけで一万五千じゃ」
柴田が率いるのはそれだけである、その一万五千の兵で越前に入りそのうえで金ヶ崎に向かっているのだ。
「まずはその一万五千の兵だけで攻めるが」
「金ヶ崎の兵は五千です」
明智はまた言う。
「既に三倍です」
「攻められるな」
「柴田殿は城攻めも得意だったと思いますが」
「織田家で攻めるのならまずあ奴じゃ」
信長も彼については全面的な信頼を以て言い切る。
「何の問題もないわ」
「確実に、ですな」
「攻め落とせるわ」
「それがしもそう思います、しかも」
「しかもか」
「おそらく少し刃を交えただけか交えるまでもなく終わるでしょう」
それで終わるだろうというのだ。
「特に激しい戦になることなく」
「何故そう言えるのじゃ?」
「はい、それはです」
明智は信長に問われてすぐに答えた。
「数が違いますし朝倉家は今は戦意に乏しいです」
「だからじゃな」
「宗滴殿が出て来られるまでは」
彼もこう言うのだった。
「やはり」
「宗滴殿あっての朝倉家か」
信長もこのことを思い目を遠くになった。
そのうえで前を見たまま明智に述べた。
「悲しいのう」
「既にかなりのご高齢であります」
「形あるものは全て滅ぶがあの家もな」
近いうちに滅ぶ運命にあったというのだ、いずれにしても。
「わしが何かをするより前にな」
「ですが右大臣様は」
「うむ、朝倉家を滅ぼすつもりはない」
「越前から退いてもらうだけですか」
その八十万石は召し上げてもだというのだ。
「それでも」
「十万石位でよいだろうか」
これまでの八分の一だがそれでだというのだ。
「家は残しておきたい」
「ですか。それでは」
「まずは金ヶ崎を抜く」
城を陥とすというのだ、軍の動きは信長にとっても極めて順調に進んでいた、そして実際に柴田が率いる先陣は金ヶ崎城を囲んだのだ。
険しい城だがその城を囲み柴田は言うのだった。
「では皆の者これからじゃ」
「はい、これからですな」
「いよいよですな」
「そうじゃ、攻める」
それをはじめるというのだ。
「鉄砲を用意せよ」
「鉄砲ですか」
「まずはそれですか」
「城を完全に囲んだうえで一斉射撃を行え」
「ではそれからですか」
「堀や壁に近付くのは」
「そうじゃ、そうせよ」
まさにそうしろというのだ、そして。
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