戦国異伝
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第百三十二話 越前攻めその一
第百三十二話 越前攻め
信長自ら率いる織田家十万の大軍は徳川の一万の軍も加えさらに大きくなりそのうえで越前に迫っていた、その越前において。
義景は難しい顔でこう家臣達に問うていた。
「では大叔父上はか」
「はい、お身体が優れず」
「今のところは」
親族衆も含めた家臣達が義景の問いに苦い顔で答える。
「兵を指揮は出来ません」
「それは無理です」
「では織田家に対することが出来んではないか」
義景は今度は困った顔になって言った。
「困ったのう」
「殿、ここはです」
親族衆から朝倉景鏡が言って来た。
「殿御自ら」
「わしがか」
「はい、ご出陣なされば」
こう主に提案したのだ。
「兵達の士気も上がりますが」
「馬鹿を申せ、わしが出陣とな」
義景は景鏡のその提案に目を丸くさせ声を上ずらせて言い返した。
「出来る筈がなかろう」
「それは何故でございますか?」
「兵のことは大叔父上にお任せしておるのじゃ」
だからだというのだ。
「それで何故わしが兵を率いて出ねばならぬじゃ」
「しかし殿はです」
「わしが何じゃ」
「朝倉家の棟梁であります」
景鏡はこのことから更に言う。
「武門の家ならばこそ」
「だからそれは大叔父上の為さることじゃ」
「では」
「わしは出ぬ」
憮然としての返事だった。
「決してな」
「左様でありますか」
「大叔父上はお命には別状はないのじゃな」
「はい、ただ熱があるだけで」
「医者も休んでいれば治ると言っています」
「ならよい、後は大叔父上が戻られてからじゃ」
それからだというのだ。
「織田家を迎え撃つとしようぞ」
「我等は二万、二万で織田家の十万をですか」
「徳川の一万も加わっておりますが」
「大叔父上さえおられればどうということはない」
義景は他の者の見立て通りのことを言った、とはいっても彼がそのことに気付く筈もない。
「戻られてからじゃ」
「迎え撃つと」
「そうされますか」
「要はこの一乗谷を攻めさせねばよい」
それで済むというのだ。
「防いでおれば公方様なり浅井殿が話をしてくれるわ」
「それで我等は助かると」
「そうお考えですか」
「それに織田の兵は弱いではないか」
このことは天下に知られている、無論義景も知っている。
「尾張に伊勢に近畿の兵ばかりではないか」
「かつて三好の兵だった者も多いです」
義景は今度はこのことを言う。
「他には丹波や若狭の兵です」
「どの国の兵も弱いではないか」
北陸や甲信の兵と比べればだ、東海の西や近畿、四国の東の兵はというのだ。
「その様な兵がどれだけいようともな」
「造作もないと」
「所詮敵ではないわ」
「鉄砲や長槍が多くありますが」
「道具は道具に過ぎぬ」
やはり大したことはないというのだ。
「所詮な」
「では、ですか」
「二万の兵で充分じゃ」
これが義景の見立てだった、本当に何でもないといった感じだ。
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