八条学園怪異譚
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第三十五話 座敷わらしその六
「ただ、スカートからぎりぎり見えないっていうのもね」
「それも萌えなんですか」
「何か挑発って感じですけれど」
「先輩本当に何ていいますか」
「かなり危ういですよ」
身体の危険という意味ではない、妖しいという意味である。
二人が茉莉也にそうしたことを言っているとだった。
保育園の校庭の鶏小屋のところに来て寝ている鶏を見ようとした三人にだ、後ろからこう声をかけてきた者がいた。
「あっ、久し振り」
「この声って」
茉莉也はその少女の声を聞いて瞬時に背筋を伸ばした。
そしてそのうえで振り向いてこう言ったのだった。
「座敷わらしちゃん?」
「聞こえるのね、私の声」
「ええ、久し振り」
茉莉也は愛実と聖花には見せたことのない純粋な子供の様な笑顔で彼女を見た、そこには赤と白の丈の短い着物を着たおかっぱの女の子がいた。その娘こそがだった。
茉莉也は二人にその笑みで顔を向けてうわずった声で言った。
「この娘がなのよ」
「座敷わらしちゃんですか」
「そうなんですね」
「そうなの、いや本当に会えたわ」
満面の笑みにもなった、そのうえで言うのだ。
「この眼鏡とヘッドホンって凄いわね」
「ううん、この娘が噂に聞いた」
「座敷わらしちゃんで」
「そうなのよ、いや本当に会えるなんてね」
本当に嬉しそうな言葉だった。
「凄いわよ」
「というか先輩本当に嬉しそうですね」
「もう信じられないって位に」
「実際にそうよ」
「そうですか」
「やっぱりお友達と再会出来たから」
「ええ、何年ぶりかしら」
もう飛び上がらんばかりにはしゃいでいる、本当に再会が嬉しい感じだ。
「小学校の時以来だから」
「私って人間の子には見えるけれどね」
その座敷わらしも言って来た、綺麗な子供の声だ。
「大人の人には見えないのよ」
「それで私もなのよ」
茉莉也は座敷わらしの小さな両肩を自分の手でぽんぽんと叩きながら言う、喜びの感情を露わにさせている。
「ずっとあんたに会えなくて」
「そうだったのね」
「それは皆よね」
「ええ、そうなのよ」
座敷わらしは茉莉也の言葉に顔を俯けさせた、そのうえで答えたのだ。
「皆昨日まで友達だったのにね」
「会えなくなるのよね」
「そう、それでなのよ」
こう言うのだ。
「私いつも寂しい思いしてるのよ」
「友達はずっと友達じゃない」
「人間の子はね、茉莉也ちゃんにしても」
「私もだったしね」
「因果よね、私って」
座敷わらしは寂しい笑顔も見せた、そのうえでの言葉だった。
「お友達と何時までも会える訳じゃないから」
「まあねえ」
「こんなこと言っても仕方ないけれどね」
寂しい笑顔のまま再び言った。
「人間も妖怪も何時か絶対に死ぬし。その時にお別れになるから」
「妖怪でも別れはあるのね」
愛実は座敷わらしと茉莉也の話からこのことを見た、それはあらためて気付いたと言ってもいいものである。
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